第156話


「いや、茶化しているように聞こえるかもしれんが、俺はマジでお前に感心してるんだぜ?なんてったってミステリーダンジョンは未攻略ダンジョンだからな。これまでクリアしてきた深層ダンジョンとは訳が違う。お前はいつもみたいにサラッとやってのけたかもしれんが、側から見たらとんでもない偉業だぜ」


「ありがとよ……なんかお前に素直に褒められると寒気がしてくるよ」


「なんでだよ。俺だって素直に人を褒めることぐらいあるわ」


祐介がそんなふうに突っ込んでくるが、そう思われるのはこいつの普段の行いが悪いからであり、自業自得だろう。


「今まで誰もクリアできなかったミステリーダンジョンを高校生がたった一人で踏破しちまったわけだからな。こりゃ界隈も大騒ぎだろう」


「まぁ……ミステリーダンジョンは旨みがないから一線級の探索者たちが今まで挑んでこなかったっていうのもあるけどな」


未攻略ダンジョンを一人で踏破した俺を気持ち悪いぐらいに持ち上げる祐介だが、俺自身は別にそこまですごいことをしたとは思っていない。


もちろん未攻略ダンジョンの踏破が世間的にすごいことであるというのは認識している。だがミステリーダンジョンの場合は、ちょっと事情が特殊で、あそこがいまだに未攻略だった理由は、探索自体に旨みがないからだ。


ダンジョン探索者の収入源は、モンスターを倒し、得られるドロップ品の換金料だ。


だがミステリーダンジョンは一切モンスターが出てこないため、探索をしても金にならず、基本赤字を覚悟しなければならない。


おまけに、先に進むには、数々の謎を解き明かす必要があり、強さというよりも賢さが求められる。


ゆえに他の未攻略ダンジョンに比べて、ミステリーダンジョンは、攻略に挑んだことのある有名クランや深層クランが圧倒的に少なかったし、競合が全くと言っていいほど存在しなかった。


ある意味俺にとって穴場だった。


だから俺が史上初めての攻略者になれたという側面もあるだろう。


きっとこれまで他の一線級の探索者やクランが全力でミステリーダンジョンの攻略に乗り出していれば、俺が潜るよりも先にクリアされていたことだろう。


「謎も解いてないし……正攻法でのクリアでもない……まぁ色々話題にしてもらってるのは嬉しいけど…」


「謙虚だなぁ、お前も」


祐介が珍しいものを見るような目で俺を見る。


「もっと威張ったり自慢したりしてもいいと思うぞ。謙虚すぎても逆に気持ち悪い」


「いや……そこまでして自己顕示しなくてもよくないか…?配信でたくさんの人に見てもらってるわけだし…」


「無欲だねぇ…それとも持てるものの余裕か……今回の配信でもたくさん稼いだんだろ?」


「…」


「うわ、その黙り方。マジでめっちゃ稼いでるやつの反応じゃん」


「いや…うん。まぁ、正直不相応だとは思ってるよ…」


連日の配信で、俺の懐にはとんでもない額のスパチャ金が入ってきている。


引っ越し費用を貯めている現在、お金はあればあるほどいいのだが、しかしそれにしてもとても高校生が稼いでいいような額じゃないほどのお金が、つーべ運営会社から俺の口座に毎月振り込まれている。


想像して見てほしい。


記帳するたびに、口座残高の桁が2桁ずつぐらい増えていくのを。


なんというかあまりに金額が凄すぎて現実味がないというのが正直なところだ。


「勝ち組だな……まぁ2年間音沙汰なくても配信やめなかったお前の努力の賜物だ」


「ありがとよ。一応お前にも感謝してるんだぜ」


配信を始めてから約2年近く。


俺は同接二桁にすら届かない、長い長い下積み期間を経験した。


色々工夫して見たのだが、俺の配信がネットの底から浮かび上がることはなかった。


何度配信を止めようと思ったことか、わからない。


だが、祐介が「続ければいつか伸びると思うんだけどなぁ」なんてことあるごとに俺に言っていたために、俺もなんとか頑張って配信を続けられた。


あの時の俺は、気まぐれだったかもしれない祐介の言葉に縋っているようなところがあった。


もしかしたら祐介がいなければ、配信を止めていたかもしれず、現在の成功がなかったかもしれない。


そう考えると、やはり祐介には少なからず感謝の念を抱いてしまうというのが正直なところだ。


「お前がいなかったらワンチャン配信やめてたかもしれないからな。そこだけはマジで感謝してる」


「ふふふ……俺の先見の明に狂いはなかったってことだ」


「あんま調子には乗るなよ?」


「はいはい。というかぶっちゃけ、お前の探索者の実力で、いずれ伸びない方が無理があるけどな。はっきり言って、俺がいようがいなかろうが、時間の問題…」


「…?祐介?」


祐介が途中で言葉を止めた。


そしてある方向を見てニヤニヤし始める。


「どうかし……あ」


祐介の視線の先を追うと、こちらに近づいてくる人物の姿を認める。


桐谷だ。


俺と目が合うとちょっと照れくさそうに微笑みながら、近づいてくる。


「よかったな」


ポンと祐介が謎に俺の肩を叩いた。


「俺はちょっとトイレに行ってくるから……頑張れよ」


「何をだよ」


そんな俺のツッコミを無視して、祐介は教室を出て行った。


入れ替わるようにして桐谷が俺の元へとやってきた。


「あれ?風間くんは?」


「トイレだとさ」


「そっか……えっと、あの、神木くん!」


「おう?」


「おめでとう、ミステリーダンジョンクリア…」


「ありがとう」


「配信見てたよ。すごかったね……謎は全然解けてなかったけど、神木くんらしい探索だった」


「それは褒めてるのか?」


「ほ、褒めてるんだよ!……えっと、ここ座っていいかな?」


桐谷が祐介の開けた席を指差した。


「いんじゃね?」


トイレに行った祐介はしばらく帰ってくる気配がない。


俺が頷くと、桐谷は嬉しげに祐介の席に腰を下ろした。

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