第155話
ダンジョン深層ソロ攻略配信をした翌日は大体俺の実家にマスコミの取材陣が押し寄せて大騒ぎになるのはもはや恒例行事になりつつあったが、今回のミステリーダンジョン攻略後の翌日も,いつもの如く朝からマスコミ関係者たちが俺の自宅の前に張り込んで、誰かが出てくるのを今か今かと待っているといういつも通りの光景がそこにはあった。
「はぁ…どうすっかなぁ、これ…」
カーテンの隙間から家の周りをガッツリ囲んでいる記者たちを見て、俺はため息を吐く。
こうなることをあらかじめ予想していた家族たちはすでに朝から出掛けていない。
今夜は昼夜を外食で済ませた後、そのままホテルで一晩を明かして家には帰らない予定らしい。
理解のある家族で助かると感謝すると同時に、迷惑をかけてしまって申し訳なくも思ってしまう。
一応家族は、「もう行けるところまで行け」
「こんなに金稼いでたくさんの人の注目を集めているのだからやめるべきではない」「私たちのことは気にしなくていい」なんて言ってくれたりしているのだが、やっぱりいつまでも迷惑はかけられない。
俺は引っ越しの段取りをさっさと整えようと心に誓いながら、着替えて身だしなみを整えた。
さっさと外に出てインタビューに答えないと、記者たちはいつまでも家の前に張り込むつもりだからな。
過去の経験からそのことを理解している俺は、うんざりしながらインタビューを受ける準備を整えるのだった。
そしてそのまた翌日。
「神木先輩だ!!!」
「うおおおおお神木先輩!!!」
「やりましたね神木先輩!!!」
「きゃあああああああ神木先輩よぉおおおおおおおお!?!?」
「嘘やだ神木先輩!?」
「神木さんミステリーダンジョンの攻略おめでとうございます!!!」
「神木拓也さん握手してください!!!」
「すげぇ!!マジで神木拓也だ!!マジでこの高校に通ってるんだな!!!」
「俺も南高じゃなくてこっちにすればよかった!!!」
「神木拓也さんサインください!!!」
「神着先輩弟子にしてください!!!」
「神木先輩俺を舎弟にしてください!!」
「神木先輩!!俺神木先輩のアシスタントがやりたいです!!俺を雇ってください!!」
「神木先輩雑用係でもなんでもやるので、一緒に仕事させてください!!!」
平日なので、配信外ではごくごく普通の高校生の俺は、学校に登校しないといけないわけなのだが…
「ですよねー…」
そこにはまたしてもいつもの光景が広がっていた。
校門の前に詰めかける生徒たち。
やってきた俺の姿を認めると、口々に「神木拓也!」「神木先輩!」と俺の名前を呼んで駆けつけてくる。
(い、いつもより人が多い…)
俺はもう毎度お馴染みのことなので、適度に笑ったり受け答えをしながら人混みの中を少しずつ校舎に向けて進んでいくのだが……
なんだか今日は人の数が多い。
いつもは学校の生徒や、マスコミの記者たちぐらいなのだが、今日は他の制服を身につけた生徒たちの姿も確認できる。
どうやら周りの高校の生徒たちが、噂を聞きつけてわざわざここまで俺の様子を見にきたらしい。
俺を見るやいなや、あちこちから「本当にここに
通ってたんだ!」「俺もここにすればよかった!」「桐谷奏もここに通っているし、マジで俺もここに通いたかった!」とそんな声が聞こえてくる。
「弟子にしてください!!マジでなんでもするんで!!!」
「料理に自信があります!!俺を側近として雇ってください!!!」
「神木先輩!!いつも配信見てます!!アシスタントとして一緒に活動していきたいです!!」
また目的は不明だが、たくさんの生徒たち(主に男子生徒)が、やたらと弟子にしてくれ、アシスタントをやらせてくれと詰め寄ってくる。
一体何が目的なのかわからない。
純粋な俺のファンなのか、それとも売名目的なのか。
彼らの目的がなんなのかは知らないが、俺には弟子取る気もアシスタントをつける予定もない。
「すみません…弟子は募集してません…アシスタントも雇うつもりはありません…すみません通してください…」
俺は今後弟子にしてくれ、コラボさせてくれ、アシスタントやらせてくれ、雑用係でもなんでもいい、なんて輩に絡まれないようにはっきりと自分の意思を伝えながら人ごみの中を進んでいく。
俺の言葉を聞いて何人かは諦めたように去って行ったが、執拗に「弟子にしてくれ」「連絡先だけでも交換したい」と言って迫ってくる生徒が多数いる。
人混みの中をすり抜ける際に、体中をベタベタと触られ、もうやりたい放題だ。
(頑張って朝早起きして登校時間、二時間ぐらい早めようかな…)
俺はそんなことを思いながら、無我夢中で人混み
をかき分けて、校舎を目指したのだった。
「やっと辿り着いた…俺のオアシス…」
たくさんの人混みにもみくちゃにされ、ようやっと教室にたどり着いた時にはなんだか涙が出てきそうだった。
クラスの連中は、もう俺がいる状況に慣れているのか、それとも別段今じゃなくても話を聞く機会なんていくらでもあるからなのか、校門にいた連中のように俺に詰め寄ってきたりはしない。
俺はそんな彼らの無関心さをありがたく思いながら、自分の席に座りぐったりと机に突っ伏した。
「よう、脳筋大将!!!」
「…」
そんな俺に、馬鹿みたいに明るい声で話しかけてくる人物が今更誰かなんて解説する必要もないだろう。
「お前がミステリーダンジョンに潜るなんて言い出した時から大体どんなことが起こるかなんて俺は予想してたぞ!!初の未攻略ダンジョン踏破おめでとう!!!脳筋大将!!」
「…それやめろや……ありがとう」
脳筋大将脳筋大将と連呼しながら、祝いの言葉と共に俺の肩をポンポンと叩いてくるのはもちろん我らが悪友、祐介だ。
今日もこいつで遊ぶのが楽しくて仕方がない、なんて書いてありそうな笑みを浮かべながら、俺のことを見ている。
「流石だな脳筋大将!配信は全部見させてもらった!!!謎を一つも解かずにミステリーダンジョンをクリアするとは……あ、いや、厳密には一つは説いたんだっけか?スフィンクスの定番のやつ」
「二つ、な。第二層で一問解いて扉を突破した。
間違えるな」
「いや、あれはお前の視聴者の大学教授のおかげだろうが!!!」
「その視聴者を集めたのは俺だから実質俺が解いたも同然だ」
「草」
「草ってなんだ。俺の視聴者みたいなコメントはやめろ」
「神木拓也最強!脳筋大将最強!」
「おい友達やめるぞ」
「嘘ですすみません」
友達やめるぞと脅すと慌てて謝ってくる祐介。
友達としての俺を失うのが怖い……とかじゃなくて多分俺をおもちゃに出来なくなるのは楽しくないからとかそう言う理由だと思う。
「いやあ神木は打てば響くからからかい甲斐があるなぁ」
「うぜぇ」
ぽんぽんと肩を叩いてくる祐介の手を俺は払いのける。
「とにかくミステリーダンジョンクリアおめでとう。初の未攻略ダンジョン踏破だな。今朝のニュースでも紹介されてたぞ。ネット記事もお前一色だ。おめでとう」
「ありがとよ」
一応かけらほどの祝う気持ちはあるらしい祐介の言葉に、俺はお礼を言っておいた。
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