第52話
地面を蹴ってジャイアントスパイダーとの距離を詰める。
「悪いな」
『フシッ!?』
ジャイアントスパイダーは俺の動きについてくることはできない。
突然目の前に現れた俺に、体の中心部に固まっていくつもついている赤い目が大きく見開かれた。
斬ッ!!!
縦一閃の斬撃がジャイアントスパイダーの巨体を引き裂いた。
左右に二つに分かれたジャイアントスパイダーが地面に倒れふす。
やがてその死体はダンジョンの地面に吸収されていった。
「大丈夫だったか、桐谷…?」
「か、神木くん…!」
桐谷が助かったというように俺をみた。
「ほっ…よかった…」
アシスタントさんも思わず胸を撫で下ろしている。
「待ってろ、今助けるから」
「ご、ごめん…1人じゃ抜け出せなくて…」
ジャイアントスパイダーの粘着質の糸に苦戦している桐谷に俺は手を貸す。
「これでどうだ…?」
「あ、ありがと……きゃっ!?」
バリバリと無理やりジャイアントスパイダーの糸を引き裂き、剥がそうとすると、粘着質な糸に引っ付いた形で一緒に何かがついてきた。
「え…?」
「きゃああっ!?」
桐谷が甲高い悲鳴をあげて、自分の体を手で覆う。
「あっ!」
何が起こったのか一瞬理解できなかった俺だが、なんと粘着質な糸と一緒に桐谷の制服の上着まではぎ取ってしまったようだ。
可愛らしいピンク色の下着があらわになってしまった桐谷が、真っ赤な顔と共にしゃがむ。
「すすすす、すまん桐谷!?」
俺は慌てて糸から桐谷の制服の上着を剥がして渡し、背後を向いた。
“きたぁああああああああああああ!!!”
”うぉおおおおおおおおおおおお!!!“
”ラッキーすけべだぁあああああああ!!!“
”うひょおおおおおおおおお!!!“
”可愛いいいいいいいいいい!!!“
”サービスシーンきたぁあああああああ!!!“
”エッロ“
”えっど“
“えっど”
“えっろ”
”えっろ“
「やっちまった…」
一気に盛り上がるコメント欄。
俺の視聴者の「えっろ」「えっど」などといったコメントがコメント欄に溢れかえる。
なぜか桐谷の視聴者っぽいコメントは何かにかかりきりであるかのように、ほとんど見受けられなかった。
「も、もういいよ…神木くん…」
やがて後ろからそんな声が聞こえた。
俺は恐る恐る振り返る。
「もうっ…び、びっくりしたんだから…」
「…っ」
そこには元通り服を着て、恥ずかしそうに頬を赤らめている桐谷がいた。
俺は速攻で土下座を敢行した。
「本当にすみませんでしたっ…わざとじゃないんですっ…」
「か、神木くん!?」
「本当にすみません…!」
桐谷を助けようとしてとんでもないことをやらかしてしまった。
これはどう詫びていいか…
「べ、別に大丈夫だよ!?わ、わざとじゃないのはわかるし…私を助けようとしてくれたんだし…」
「…許して、くれるのか…?」
恐る恐る聞くと桐谷が頷いた。
「あ、ありがとう…!」
この子は天使かな?
「そ、その…見た…?」
俺が安堵しながら立ち上がっていると、桐谷がもじもじしながら赤い顔で聞いてきた。
「い、いや…それは…」
「しょ、正直に言って欲しい…」
「ぴ、ピンクの色は見えたけど…は、はっきりとは…」
「うぅ…」
桐谷が恥ずかしそうに俯いた。
俺は再び膝をついて半分土下座をしながら桐谷に謝った。
「ほ、本当にすまん…多分配信にも映って…」
「…っ」
「せ、責任は取るから…そ、損害賠償とか払ったほうがいいか…?め、名誉毀損で俺のことを訴えてもいいぞ…お金ならいくらでも払う…借金してでも…」
「う、訴えるなんて…そんなことしないよ!?」
「ほ、本当か…?」
「うん……ただ…」
「ただ…?」
「お、お嫁に行けなくなったら……貰ってくれますか?」
「え…?」
「貰って、くれますか?」
「あ、はい」
なにやら圧を感じて、俺は思わず頷いた。
「な、ならいいです。許します」
「お、おう…」
なんか知らんが許された。
その後俺たちは2人して、互いの視聴者にさっきのシーンを拡散したり、切り抜いたりすることはやめるようにお願いした。
もし拡散すれば、訴えることも視野に入れて対応すると釘を刺しておいた。
俺も自身の切り抜き班たちに、さっきのシーンを切り抜いたりしたら、その切り抜きチャンネルを通報して垢BANにすると脅しておいた。
これで悪ふざけで拡散する人間は、余程のことがない限り出てこないだろう。
「桐谷さん、先ほどのシーンはアーカイブからもしっかり消しておくので…」
「お,お願いします…」
アシスタントさんのそんな言葉に、桐谷が恥ずかしそうに頷いた。
「ほ、本当にごめんな…」
桐谷に俺は再三の謝罪を行う。
「べ、別に大丈夫……は、恥ずかしかったけど、下着だし……は、裸が映っちゃったわけじゃないから…」
「…っ」
「お、お見苦しいものをお見せしました」
「い、いや…見苦しくなんてなかったぞ!?むしろ最高というか男の夢というか」
「神木くんやっぱりがっつり見たよね!?」
「今のは失言だ聞かなかったことにしてくれ」
桐谷って着痩せするタイプだったんやなって。
「もー……信じられない。神木くんのすけべ」
「…ぐ」
「ほ、ほら…!探索再開するよ!?」
「は、はいぃ…」
プリプリと起こりながら歩く桐谷に、俺は項垂れながらついていくのだった。
“よかったな”
“運のいいやつめ…”
“めっちゃデカかった……”
”神木先輩マジでナイスです“
“きっさん普通に可愛い下着つけてて草なんよw‘
”つか同接めっちゃ増えた…w w w“
”この数分で一気に2万人増えたぞ…w“
”同接18万人すげぇ…w増えたの絶対男だろw正直すぎるw’
“つかさっきからきっさんの視聴者のコメ少なくね?こいつら何してんの?”
“ユニコーンどこいった…?神木に文句の一つでもいうと思ったけど…”
“こいつらまさか…”
“むっつりユニコーンさんたち必死で保存してて草なんよw”
“ユニコーンども全力でスクショとかクリップしてるだろw自分用にw w w”
“そんなことしないです。勝手な憶測やめてください”
“言いがかりです。勝手なこと言わないで”
“指摘された瞬間、思い出したようにコメントしてて草なんよw”
“こいつらわかりやすw w w”
「す、すごい…同接19万人!!あとちょっとで20万人だよ!?」
探索を再開して20分ほどが経過した頃。
先ほどのジャイアントスパイダーとの戦闘で体力を使った桐谷を休ませるため、しばらく俺が戦闘を担当する。
下層のモンスターをいつも通り倒していき、その様子を後ろから桐谷のアシスタントさんに撮ってもらう。
そんな感じでダンジョンを攻略していっている間に、いつの間にか同接が19万人を突破していたようだ。
「す、すごいな…まさかここまで人が来るなんて思わなかったぞ…」
「私も!!コラボは大成功だね!!」
桐谷が健気に喜んでいるが、俺はちょっと気まずかった。
実はさっきのハプニングがあってからの数分で、一気に二万人ぐらい視聴者が増えてたんだよな…
でもそんな素直に喜んでいる桐谷に水をさすようなこと口が裂けても言えない…
「や、やっぱり私たち、相性がいいのかな?配信者として…」
「そ、そうかもしれないな…」
「えへへ…」
「…っ」
にへらと笑う桐谷。
す、すまん…真実を言えないで…
マジで何かあったら責任は取るから…
『オガァ…』
「へ?」
「ん?」
桐谷とそんな会話をしていると、暗闇の向こうからモンスターが接近してきた。
俺たちは慌てて戦闘体制に入る。
「あ、あれは…!」
桐谷が通路の奥から姿を現したモンスターを見て、目を見開く。
『オガァアアアアアアアアア!!!!』
見上げるほどの体長。
筋骨隆々の体躯。
生え揃った牙に、額にはえた頑丈そうなツノ。
「オーガ…っ」
突如現れた下層最強格のそいつの名を、桐谷が緊張した面持ちで口にした。
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