第201話
「え…ん?」
次の1秒を数十秒に引き延ばす。
そのために集中状態からさらに集中して超集中状態に入った俺は、果たして、周囲で起こった異変に戸惑っていた。
時が静止した。
そう感じるかのように音も、動きも世界から喪失してしまった。
視線を落とし、端末のチャット欄を見る。
あれだけ勢いよく流れていたコメントが、ほとんど止まっていた。
俺に向かって射出されようとしていたレーザー光
線も、空中で動きを止めている。
いや、全く動いていないわけではない。
わずかに動いてはいるが、しかし意識しなければ気付かないほどの酷く緩慢な動きだった。
音は、一切ない。
先ほどまでボス部屋を支配していたレーザー光線の射出音や、空気を焼く音、岩が砕け溶けていく音などが一切消えて、静寂が周囲に満ちていた。
「成功、したのか…?」
どうやら俺は、自分の試みが成功したらしいこと
を理解した。
集中し、世界の時間が遅くなったように感じる状態で、さらに集中状態に入る。
そうすれば世界の時間はほとんど止まったかのように遅く感じるようになり、1秒間が数十秒どころか1分にも2分にも拡張されたように感じる。
「すごいなこれ…」
新たな技、と言えるのではないだろうか。
俺はほぼ止まった世界の中で腕を組み、レーザー光線を避けることにリソースを割かれない状態で思う存分次に打つ手を考える。
「いや、というかこの状態で普通に接近したらよくね…?」
ほとんど静止した世界の中で、俺は眼前の古代兵器を見つめた。
別段打つ手を考えるまでもなく、俺の行手を阻んでいたレーザー光線は、ほとんど動きを止めているのだから、今距離を詰めて仕舞えばいいのではないだろうか。
距離を積めれば、神拳が全てを解決してくれる。
わざわざ次の手なんて考えるまでもなく、この状態のまま接近して神拳を打てば、それで解決だ。
「よし、やるか」
攻略方法が見つかったにも関わらず、実行しないのはナンセンスだ。
俺はそこらじゅうにあるレーザー光線の線に触れないように、潜ったり、半身になったり、小ジャンプしたりしながら、ほぼ止まった世界の中で古代兵器に向かって距離を詰めていった。
「よし、もういいかな」
十分に距離を詰めたことで俺は超集中状態を解除する。
バシュゥウウウウウウウウウウウウ!!!
ビュォオオオオオオオオオオオ………
「うおっ!?」
超集中状態を解除すると、まるで今まで止まっていた世界が元に戻ったかのように、周囲の動きも、音も戻った。
そして凄まじい豪風が吹き荒れ、轟音が周囲を蹂躙する。
俺がレーザー光線を避けながら移動してきた軌跡に、ないか歪みのようなものが発生し、そこから強烈な風が吹き出していた。
「なるほど…あの世界の中で動くとそうなるのか…」
どうやら超集中状態の世界の中で動くと、こういうことになるらしい。
確かにほぼ止まった世界の中で俺が動けば、現実ではものすごく早いスピードで動いたということになる。
俺の体感としては普通に歩いただけなのだが、結果が現実に反映されると、俺はものすごい速さで……ほぼ瞬間移動的に空間を移動したということになり、その軌跡に歪みのようなものが発生するらしい。
「勉強になるなぁ…」
『ギュイイイイ!?!?』
俺がいきなり発生した歪みと豪風について冷静に分析していると、古代兵器が驚いたような鳴き声を上げた。
『ギュイ!?ギュイギュイ!?!?』
俺を見てその首を傾げたり、赤く光る眼球を点滅させたりしている。
どうやらいきなりレーザー光線の網を掻い潜って接近してきた俺に衝撃を受けているらしい。
“は?”
“え?”
“ん?“
”はい!?“
”ファッ!?“
”ええっ!?“
”なんで!?“
”はぁ…?“
”うお!?“
”おん!?“
”ラグ…?“
”どういうこと…?“
”回線おかしくなった…?“
”瞬間移動…?“
”え……どういうこと?“
”一瞬で移動した…?“
”ファッ!?レーザーどうやって避けたの!?“
”どゆこと…?“
“え、回線の問題…?気づいたら神木がボスに接近してんだけど…?”
“配信飛んだ…?”
“何が起こった…?”
“誰か解説求む”
“意味がわからん…”
“なんだこれ…?”
“回線が悪いのか…?”
“なんか気づいたらめっちゃ移動してるってラグいオンラインゲームみたいになってんな”
”らっっっっぐ“
”ラグなのか?“
”いくら神木でも流石にこんなに早く移動することは不可能だよね…?“
超集中状態を解除したことで、チャット欄の動きも元に戻っている。
たくさんの混乱したような視聴者のコメントが投下されている。
そうか。
超集中状態の時、ほとんどチャット欄も止まっていたもんな。
おそらくだが、これを見ていた視聴者の目にはいきなり画面が切り替わって俺がこの古代兵器の前に移動したように見えたのではないか。
これは後で何をしたのか、説明する必要がありそうだな。
『ギュイギュイギュイギュイギュイィイイイイイイイイン!!!』
「よう、ここまできたぜ。接近戦の備えはあるか?」
とにもかくにも、古代兵器のすぐ近くまで接近した俺は一応古代兵器の出方を見た。
古代兵器は、一際大きな鳴き声をあげ、ガコガコと何かが変形するような駆動音を体内から発し始めた。
ガコッ!!!
ガチャンッ!!!
『ギュイギュイギュイギュイギュイィイイイイイイイイン!!!』
古代兵器の体の中心にいきなり穴が空いた。
と思ったら中から巨大な大砲のような射出機出てきた。
『ギュイギュイギュイギュイギュイ!!』
キュイィイイイイイイイイイイン……
まるでエネルギーをチャージするかのように、古代兵器の全身から中心点へ、光が集めっていく。
どうやら接近してきた俺に対して特大の一発を放つつもりらしい。
”ファッ!?“
”変形した!?“
“第二形態!?”
“必殺技!?”
”わあ!?“
“わあ!?”
“やばいやばいやばいやばい!!!”
“大砲!?”
“爆発系!?”
”大将逃げて!!!!“
”なんか画面飛んでよくわかんないけどそれ食らったらまずい気がする!!!“
”最終兵器きたあああああああああ“
”最終兵器俺たちけーすけ!?“
”【悲報】けーすけ、破水“
“大将逃げてぇえええええ!?!?”
“神木逃げろぉおおおおお!?!?”
あれほどのレーザー光線を同時に放てるだけのエネルギーが一点に集中したらどれほどの威力か見てみた気もしたが、大惨事になった後では遅いため、俺はさっさとこの戦いを終わらせることにした。
「先手必勝、悪いな」
『ギュイィイイイイ!?!?』
俺は今にも何かが発射されようとしている大砲のような射出機もろとも、神拳で古代兵器を消し飛ばした。
ブゥウウウウウウウウンン!!!!
『ギュォオオオオオ………』
神拳が生み出した大きな虚空が、古代兵器の巨体の中心をゴッソリと抉り取った。
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