第200話
「うおっ!?」
視界が真っ赤に染まる。
古代兵器(仮)の巨体のあちこちに取り付けられた発射機のような装置から、赤いレーザー光線が一気に発射された。
当たれば人体などひとたまりもないことは直感で分かった。
「……ッ!!」
俺は反射的にグッと集中モードに入った。
途端に周囲の動きが遅くなる。
俺は遅くなった世界でなんとか体を捻り、俺の頭部を狙って向かってきていた幾重ものレーザー光線を避けた。
ジュゥウウウウウウウウ……
回避に成功した俺は、その場から飛び退いて距離
を取った。
レーザー光線が、俺がいた場所を通り過ぎてその後ろのダンジョンの壁を焼いた。
硬い岩が溶けてドロドロになる。
「ふぅ…」
間一髪で避けることに成功した俺は、安堵の息を吐いた。
まさかいきなりレーザーを打ってくるとは思っていなかった。
まあ射出機を見た時点で遠距離攻撃手段を持っていることはなんとなく察してたけど、まさかレーザーによる攻撃とは。
危なかった。
もう少し反応が遅れていたら、俺は頭部をレーザーで焼かれていたかもしれない。
“うおおおおおおおおおお!?!?”
“危ねぇええええええええ!?!?”
“ギリギリすぎる!?”
“ファーーーーーーーーw w w w w”
“こっっっっっっわ”
“ファッ!?”
“今の何!?”
“レーザー!?”
”威力えっっっっっっぐ“
“岩溶けてら^^”
”えー、ちょっとでもくらったら終わりの威力です^^“
”よく反応したな…“
”動きが一瞬加速チートみたいに早くなったな。また時間遅くするやつ使ったか“
”グッと集中するやつおそらく使ったな大将“
”避けれてよかったぁああああああああ“
チラリとチャット欄を見ると、視聴者たちがいきなりのレーザー光線による攻撃に驚くとともに、俺がなんとか攻撃を回避したことに安心しているものも多い。
中には、俺がグッと集中して時間を遅らせる技を使ったことを察している視聴者もいた。
ギーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
『ギュイ……ギュイギュイギュイ…』
古代兵器の頭部がピカピカと光り、体がわずかに回って再び俺を正面に捉える。
その赤い目がピカピカと光り、まるで何か計算を行なっているかのような駆動音が機械の体の中から聞こえてくる。
キュインキュインキュインキュイィイイイイイイイイイン……
「き、来ます…今度は多分もっと…」
やがて古代兵器が再び攻撃モーションのような動きに入り始めた。
体のあちこちから光り、まるでエネルギーをチャージしているような音が響き渡る。
俺は攻撃の予兆を感じて、身構える。
(今度は先ほどよりももっとやばいのがくる……)
俺が最初の攻撃を避けたことで、次はもっとやばい攻撃がくる。
俺の中にはそんな直感があった。
『ギュイギュイギュイギュイギュィイイイイイイイイイイン!!!!』
またしても古代兵器が、耳障りな機械音で鳴いた。
その直後、全身の射出機が一気に俺の方を向き、再びレーザー光線が発射される。
「……ッ!」
俺はグッと集中して時間を遅くする。
ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
発射された無数のレーザー光線が、一気に俺へと迫ってくる。
俺は左右にステップしてレーザー光線をかわす。
ジュゥウウウウウウ……
俺に当たらずに背後に逸れたレーザー光線は、先ほどと同じようにダンジョンの壁を焼いたが、今度はそれだけじゃなかった。
射出機が俺の動きに合わせて回転し、一度空を切
ったレーザーが俺を追いかけて迫ってきた。
ギュイィイイイイイイイン!!!
「…ッ!」
一度レーザーを躱して安心していた俺は、再び集中状態に入り、時間を遅くしてレーザー光線を避ける。
無数の射出機から発射される無数のレーザー光線は、ただ単に俺を追いかけてくるだけじゃない。
俺の逃げ道を防ぐように、あちこちからいろんな角度をつけて襲ってくる。
「…ッ…ッ…ッ!!!」
俺は体を逸らし、しゃがみ、跳躍し、回転し、宙返りし、まるでバレエダンサーのように踊りながらあちこちから迫ってくるレーザー光線を避ける。
”うおおおおおおおおおおおお“
”すげええええええええええ“
”かっけえええええええええええ“
”こんだけ狙われてるのに全然当たらねぇえええええええ!?!?“
”大将すげえええええええ!?!?“
”動きもクソ速いぞ!?“
”さすが俺らの大将だ!!!“
”華麗なダンスで避けていくぅ!!!“
”主人公補正やんw“
”うーん。神木拓也最強w“
”どりゃああああああああああああああ“
”でりゃあああああああああああああ“
”踊る余裕もあります、と“
チャット欄は、踊りながらレーザー光線を避ける俺を見て大いに盛り上がっているが、実際に当たれば終わりの無数のあらゆる角度からのレーザー攻撃を避けている俺本人は、内心かなりヒヤヒヤする。
ずっと集中モードに入って周囲の時間を遅くしているため、レーザー光線の動きは緩慢に見える。
しかし、とにかく射出機の数が多いため、レーザーは網目のようにほとんど隙間なく俺を襲ってくるため、俺は避けられる体勢を探すのにかなりの苦労を要した。
側から見たら俺が華麗にステップを踏み、ダンスしながらレーザー光線の合間を潜っているように見えるかもしれないが、俺としてはむしろこの動きを強いられている感覚だった。
(エネルギーは無尽蔵なのか?)
俺はずっと集中状態に入りながらレーザーを避けていたが、なかなか終わりが見えてこない。
これだけたくさんの射出機から一気にレーザー光線を発射すれば、エネルギーがすぐに尽きてしまいそうなものだが、そんな気配が全くない。
俺はレーザー光線を避けながらなんとか接近を試みようとするが、どうやら古代兵器は決して俺に接近を許さないような攻撃の仕方をしているらしかった。
(神拳の射程圏内に近づけさせてくれない、か……さて、どうするか…)
接近できさえすれば、神拳で仕留めることができる。
だが古代兵器が接近を許してくれない。
かといって、レーザー光線を避けながらそれなりに力を入れることが必要な神斬りを放つのも難しい。
(さて、どうするか…)
俺の胸の位置を横断するレーザー光線を上体を逸らすことによって避け、さらに右腕を切り落とすような位置を通るレーザー光線を腕を曲げることによって回避し、続いてやってきた縦一閃のレーザー光線を起き起き上がって半身になることで交わし、横から足元を掬うように襲ってくるレーザー光線を跳躍して避ける。
いろんな角度から、いろんなタイミングで、不意をつくように、決して距離を詰めさせないようにして襲いかかってくるレーザー光線をひたすら避けながら、俺は反撃の手口を考える。
(神拳も神斬りも今の状態だと使えない……一体どうすれば…)
遅くなった時間の中で俺は反撃の方法を考える。
避けることにある程度脳のリソースを割かなければならないため、なかなか思考がまとまらなかったが、俺の周りの地面がほとんどレーザー光線によって溶かされ、ほとんど液状化しそうになってしまった頃にようやく俺は一つの具体案を思いついた。
(待てよ……思ったんだが、この集中状態の中でさらに集中してみてはどうだろう…)
それは、脳のリソースを避けることに割かなければならず、苛立ちを募らせていたことから得た着想だった。
この集中した周りの世界がスローモーションになっている状態の中で、さらにグッと集中してみる。
そうすれば、さらに周りの世界が遅くなり、十分に考える時間も取れるのではないだろうか。
(やってみる価値はありそうだな…)
考えてみれば単純な話だった。
思考をまとめるための時間が欲しいんだったら、次の1秒を世界を遅くすることによって引き伸ばし、10秒にも20秒にも感じるようにしてやればいいのだ。
そうすれば、1秒で数十秒分の思考が行えることになる。
どうして今までこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。
「……ッッッ!!!!!!」
俺は世界をスローに感じている現状の中で、さらに思いっきりぐっっっと集中状態に入ってみる。
次の瞬間…
「お?」
シン……
音が消え、世界が静止した。
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