第199話
「それでは今から未攻略ダンジョン深層のボス部屋に挑んでいきたいと思います」
未攻略ダンジョンソロ探索配信最終盤。
俺は400万人を超える視聴者と共にいよいよ深層のボス部屋へと足を踏み入れようとしていた。
緊張がないと言ったら嘘になる。
今までで一番たくさんの人に見られている配信を現在行なっているわけだし、ボスモンスターとの戦闘に対する不安も若干ではあるがある。
未攻略ダンジョンのボスモンスターだ。
強くないはずがない。
必ずと言っていいほどなんらかの特殊能力を持っ
ているかもしれないし、俺の今までの技が通用しない可能性もある。
だが緊張や不安以上に、やはり興奮の方が勝っていた。
(絶対にボスモンスター倒して伝説の回にするぞ……神回って言われるような配信にしてみせる…)
ここまで今日の配信はかつてない盛り上がり方を見せている。
高校生でありながら、未攻略ダンジョンをソロでボス部屋まで辿り着いていること自体が、日本のダンジョン探索史的に偉業であることも自覚している。
ダンジョンの外にはたくさんの俺を応援してくれている視聴者たちがいる。
画面越しに視聴者たちからの期待をひしひしと感じる。
負けるわけにはいかない。
ここで敗走すれば、視聴者はしらけるだろうし、神木拓也の名前も失墜することになるかもしれない。
(逃げるのだけは絶対にダメだな…多少危険を冒してでも勝たないと…)
多少の怪我や、危険では逃げないことは俺はもうすでに決めてあった。
いざとなったらなりふり構わず神斬りや神拳といった最強技を使いまくるつもりでいた。
ギィイイイイ……
俺がボス部屋の扉に手をかけると、大きな扉が重々しい音を立てて開いた。
俺はゆっくり中へと足を踏み入れる。
「…っ」
“くっっっら”
“何も見えねぇ…”
”こっっっっっっわ“
”静寂こわ…“
”静かだな…“
”さて、何が出てくるか…“
”気をつけろ神木。油断すんなよ“
”いきなり来る系はびっくりするからやめてね…“
”不意打ちしてくるかもしれないぞ、神木。気をつけろ“
”まぁ大将は気配察知能力があるから大丈夫だと思うけど……こんだけ暗いとやっぱり怖いな“
”緊張する…“
”だめだ…実際に探索しているわけじゃないのにめっちゃドキドキする…“
”頼むぞ神木ぃいいいいいい頑張ってくれぇええええええ“
”マジで頑張ってください、神木拓也さん…“
“神木様絶対にクリアしてください。地上に帰ってきたらご褒美にたくさん画像送るね。絶対に死なないでね、神木様は私の命。生きる意味。絶対に絶対に生還してください、お願いします…私、神木様をみ始めてから人生に光がさした気がする…神木様しかマジで勝たん…神木様好き好き好きすきすき…最悪負けてもいいから絶対に帰ってきてね…私の胸でヨシヨシして慰めてあげるから…音声とかもリクエストとかがあれば添えるのでいつでも言ってくださいね……帰ってきたらとにかくすぐにDM確認して、神木様好き好き好きすき…”
“やべーのがいら^^”
“やばいやつおって草”
“神木ガールか?”
“マジで神木好きな女やばいやつ多いよな”
”何これコピペ?“
”流石にネタだよな?“
”ガチで打ってるんだったらやばすぎる“
ボス部屋の中は驚くほどの静寂に満ちていた。
暗くて視界が狭い。
俺はいつどこからどんな攻撃が来てもいいように気配察知に集中する。
この緊張感が画面越しに伝わっているのか、チャット欄には手に汗握っていそうなコメントが多い。
たまーに、チャット欄に入りきらないほどのものすごい長文を打っている視聴者がいるが、今は無視でいいだろう。
何かのコピペ連投かもしれないし、こんな大事な時に構っていられない。
あとで配信を見返して確認すればいいことだ。
「お…?なんだあれ?」
”お“
”ん?“
”あ“
”きたか…?“
”何あれ“
”なんか光った…“
”くるか…?“
”くるぞ…“
前方で赤い光が二つ、灯った。
高さは相当ある。
十メートル以上の高所から、俺を見下ろすようにして二つの光が向けられていた。
「…!」
赤い光が灯るとほぼ同時に、前方に気配を感じた。
今までなかった気配が突然そこに現れたと言った感じだ。
ギーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「何かきます!!!」
不可解な音が聞こえた。
まるで巨大な機械が起動する時のような音が聞こえた。
前方で巨大な何かが蠢いている。
ずんぐりとしたその図体が、発光し、暗闇の中で光によって輪郭を形作っている。
ギーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「うわ…マジか。そういう系か…」
暗かったボス部屋全体に光が満ちる。
今や俺が相対しているモンスターの全体像が、完全に顕になった。
ゴーレム。
一番近いモンスターが、それだろう。
だが、俺が今まで対峙してきたどのゴーレムよりもデカく、複雑で、入り組んだ構造の体を持ったモンスターだった。
まるで動く巨大な機械兵器。
しかも進んだ未来技術の機械というよりは、滅んだ古代文明残した遺産のような様相を呈している。
蘇った古代兵器。
例えるならそんな感じだ。
『ギュイギュイギュイギュイギュイィイイイイイイイイイン!!!!』
鳴き声なのだろうか。
それとも駆動音なのだろうか。
ものすごい機械音声が、ダンジョンのボス部屋に反響し響き渡る。
ギーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
巨体が俺に向かって動き出す。
2本のアーム、機械の足が見た目の割に滑らかな動きを見せ、こちらへと迫ってくる。
その体のあちこちには、まるで何かを発射するための射出機のような装置が取り付けられている。
”なんかきたあああああああああ!?!?“
”巨大ロボきたあああああああ!?!?“
”でっっっっっっっっか!?“
”でかぁ!?“
”マジか!?“
”うおおおおおおおおおおおおおおお“
”うおえええええええええええ!?!?“
”ファッ!?“
”なんだこいつ!?“
”巨大ロボ!?“
”戦闘ロボ!?“
”かっけええええええええええええ“
“めっちゃ強そうでわろたw”
”ゴーレムの一種か?“
“えっっっっっっっっぐ”
“え、か、勝てるのか…これ?”
ボスモンスターのまさかの見た目にチャット欄がものすごいスピードで流れていく。
デカさに驚くものや、見た目にシンパシーを覚え、かっこいいというもの。
反応は視聴者によってそれぞれだったが、それでもこのモンスターを侮るようなコメントは一つもなかった。
そりゃそうだ。
どう見たって明らかにこいつは強そうだ。
そして対峙している俺自身、今までで最高レベルの敵に相対しているという実感がある。
おそらくこれは一筋縄ではいかない相手だ。
「戦います!」
俺は片手剣を抜いた。
『ギュイギュイギュイギュイギュィイイイイイイイイイイン!!!!』
古代兵器が鳴いた。
その巨体のあちこちが光だす。
無数に取り付けられた射出機の先端が一瞬輝いたように見えた。
(来る……!)
俺が攻撃を予感した次の瞬間…
ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
「…っ!?」
無数の射出機から、俺へ向けて赤いレーザー光線が一斉に発射された。
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