第100話


“え…?”

“終わり…?“

”はぁ…?“

”まじ…?“

”なんだったんだこいつ…?“

”死んだ…?“

”よっっっっっっっわw“

”大したことなかったな“

”楽勝で草なんよw“

”今までで最弱の深層モンスターだろw“

”よくわからんかったな。結局能力は負荷攻撃のみだったか“

“微妙だったな”

”他の深層モンスターと比べてかなり見劣りするな、こいつ“



あまりに呆気なく死んでしまった首無し騎士にコメント欄も困惑気味だ。


俺も、まさか本当にこんなに簡単に深層モンスターを倒せてしまうとは思わなかった。


結局こいつの能力は負荷攻撃だけだったのだろうか。


本体の攻撃も遅く、弱かったし、他の深層モンスターと比べて一段見劣りするように感じだ。


30分戦闘なしの後のエンカウントだったので期待したのだが、結局首無し騎士は期待外れに終わってしまった。


「すみませんなんか……30分も待たせてしまったのに…」


俺は思わず視聴者にそう謝っていた。


新種の深層モンスターとの激戦を配信で流せると思ったのだが、まさかの結果に終わってしまった。


これは完全に予想外だった。


視聴者はさぞかし退屈していることだろう。



”いや、別に謝らなくていいよw w w“

”なんで謝罪してるんだw w w深層モンスター相手に無双しているだけで死ぬほど面白い配信だぞww w“

“大将にとっては弱そうに見えても、多分俺らとかそこら辺の探索者なら瞬殺だろうし”

“神木が強すぎて逆にやってることの凄さがイマイチ伝わらないパターン”

”神木を楽しませられない深層モンスターが悪い“

”負荷攻撃は神木に対しては相性が悪すぎたな。神木は素の能力が高すぎるから、多少負荷をかけたところで意味はない。もしかしたら他の深層探索者とかには有効だったかもな“

”いつぞやの佐々木竜司とか多分普通にこいつに勝てなかったやろ“

“冷静に考えたら深層モンスターが弱すぎて謝るって状況いかれてるだろ…”



コメント欄の反応を見る限り、普通にここまでの配信を楽しめている視聴者も多いようだ。


同接も意外が意外、順調に推移して現在100万人を超えている。


一歩間違えば命取りになるギリギリの戦いを届けなければというプレッシャーをあまりにも感じすぎていたのだろうか。


ただ深層モンスターを倒しながら進んでく深層配信に、視聴者たちは意外に満足している様子である。


「次はもっと強いモンスターが出てくるといいんですが…」


俺がそう言いながら、探索を再開しようとした矢先のことだった。



¥50,000

“大将!!デュラハンの討伐お疲れ様です!!!デュラハンは雑魚じゃないですよ。多分大将以外の深層探索者が単独で戦ったら、普通に負けます。過去にはデュラハンが、二十人以上の大型深層クランを壊滅寸前にまで追い込んだ事件もありました。ご参照ください↓リンク“



「あ、スーパーチャットありがとうございます……こいつの名前、デュラハンっていうんですね」



上限額のスーパーチャットが飛んできた。


どうやらこの首無し騎士のモンスターの名前はデュラハンというらしい。


俺は、スーパーチャットのお礼を言いつつ、貼られたリンクを踏んでみる。



「え、なんだこれ…?」



”ファッ!?“

“デュラハン相手に危うく全滅…!?”

”ガチやん!!!“

”マジかよ!!“

“すっっっっっっっご”

“えっっっっっぐ”

“やっぱ雑魚じゃなかったやん”

“十人以上殺されたの!?深層探索者が!?”



リンクを踏んで飛ばされた先は、探索者関連の事件をまとめた大手新聞社のネット記事だった。


そこでは過去に、今俺が倒した首無し騎士……デュラハンが起こした重大事件について記されていた。


曰く、今から10年近く前、『灰色の駆除人』と呼ばれる第一線で活躍する超大型深層クランが初めてこのダンジョンに潜り、デュラハンに挑んだらしい。


その結果、総勢23名の深層探索者たちがまんまと先ほどの負荷攻撃の罠にかかり、結果的に十人の死傷者を出して敗走したらしい。


負傷しながらもなんとか生き残った『灰色の駆除人』たちの証言によれば、デュラハンの負荷攻撃は深層探索者を中層探索者レベルまで落とすほどに威力が強いということだ。


『灰色の駆除人』たちの生き残りは、口々に体が鉛でも入ったように重く、立っているのもやっとだったと証言している。


結局その事件をきっかけに『灰色の駆除人」はクランを立て直すことが出来ずに解散している。


たった一匹の深層モンスターに、当時第一線で活躍していた大型深層クランが壊滅に近い打撃を受け、解散したという事件は、当時の探索者界隈を大いに揺るがしたらしい。


「そんなことが…」


俺は思わず背後を振り返った。


もう首無し騎士……デュラハンの死体はすっかりダンジョンの床に回収されてしまってない。


あいつ……弱いと思ってたけど、別段そこまでの雑魚じゃなかったってことか?



“深層探索者十人壊滅とかデュラハン強すぎやろw w w”

“デュラハンすげぇえええええええええ”

“時代が時代とはいえ、深層探索者十人を殺すのは普通に強モンスター”

“普通にデュラハン深層でも強い部類やん”

“やっぱ大将が強すぎただけかw w w”

“あの負荷攻撃、深層探索者を中層探索者に落とすレベルに強力だったのかよw w w”

“それだけの負荷をかけられて全然普段と変わりなく動ける神木っていったい…”

“大将が最強すぎただけで草”

”そらデュラハンもびっくりやわw深層探索者を中層探索者にするぐらいの負荷をかけたのに全く効かない探索者が現れたらな“

“デュラハン「な、なに…?これまで数多の探索者を陥れてきた私の負荷攻撃が全く効いていないだと…?」←こんな感じか”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”



¥30,000

”強すぎてごめんなさいしろ神木拓也!“



¥10,000

”ちゅっ、強すぎてごwめwんw w wデュラハン、瞬殺でごwめ wんw w w”



「スパチャセンキュー……え、強すぎてごめん…?俺強すぎて謝らないといけないの…?ちゅっ、強すぎてごめん…デュラハン瞬殺でごめん……なんですかこれ……?」



“あ”

“あ”

“あw w w”

“今流行りのやつね”

“草”

“大将になに読ませてんだw”

“素材”

“ここ素材”

”素材ありがとネイー“



デュラハンが雑魚ではなかったことが判明して、視聴者が驚いている。


「なんだ神木が強すぎただけか」「神木が埒外すぎただけ」とそんなコメントが溢れている。


またスパチャが怒涛のように飛んできて、強すぎて謝れとそんなことが書かれまくる。


何かの歌詞のようなわけのわからないスパチャもあり、俺が無警戒にそのコメントを読んだせいで後日それがMAD動画(公開三日で300万再生)の素材になってしまうというちょっとした事件もあったのだが、また別の話である。



「とにかくあの首無し騎士……デュラハンはそれなりに強かったということで…」


俺はそういうふうに話を締め括った。


倒したモンスターがかなり強かったという事

実は俺にとって悪いことじゃないからな。


……あんなふうな倒され方をしたデュラハンが本当に視聴者の目に強く映るかは別問題として。



「先に進みます」


俺はデュラハンのことに関してなんやかんやと言い合っているコメント欄を一旦閉じて、先に進むのだった。



= = = = = = = = = = 



「はっはっはっ。さすがだなぁ、神木拓也!!!それでこそ俺の見込んだ男というものだ」



鬼頭玄武は今日も今日とて神木拓也の配信を視聴し、満足そうな笑みを浮かべていた。


仲間に教えられて神木拓也を知ってから今日の日まで、彼はすっかり神木拓也とその配信の虜になり、こうして毎日、たとえ雑談配信であろうが神木拓也の配信に齧り付いていた。


神木拓也の実力は未だ底知れず、ダンジョン配信をみるたびに玄武は驚かされてばかりだった。


おそらく将来日本の探索者界を背負ってたつであろう逸材の背中を少しでも押してやろうと玄武は神木にスパチャをしまくり、結果として1ヶ月で数100万円以上を費やしてしまった。


本人の知らないところでそのことがちょっとしたニュースにもなり、引退した功労者鬼頭玄武が神木拓也にご執心という記事が出回ったりもした。


その記事を見た彼の妻がその月のクレジットカードの引き落とし額を見て悲鳴を上げ、玄武からクレジットカードを取り上げたために、今玄武は神木拓也にスパチャすることが出来ないもどかしさを感じていた。


「くそっ…スパちゃで祝ってやりたいっ……お、おい、お前…一万円だけで良いから…神木拓也にスパチャを…」


「ダメです」


隣で赤ん坊の世話をしてやっている妻がピシャリといった。


「た、頼む…」


「絶対にダメです」


「ぐ…」


玄武は妻に懇願するが取り合ってもらえない。


「あなたがお金を投げなくても、この人は十分稼いでるんじゃないですか」


スパチャで赤く染まった配信画面を妻が顎でしゃくって見せる。


「ち、違うのだ……儲かってるとか儲かってないとか関係ない……俺の今のこの気持ちをスパチャという形で神木拓也に伝えたいだけで……」


「四十超えたおじさんが何を言っているんですか。気持ち悪いですよ」


「ぐ…」


「その人はあなたの応援がなくても立派にやっていけるのは分かりきっていることじゃないですか」


「し、しかし……推しは推せる時におせという言葉がだな…」


「またいんたーねっと用語というやつですか。ネットはあなたにとって悪影響でしかないみたいですね。回線契約解除して良いですか?」


「そ、それだけは勘弁してくれ!!」


玄武は悲鳴のような声をあげる。


彼がまた神木拓也に貢ぐことができるようになるのは、しばらく先の話になりそうだ。




===================



ガチャ……



「失礼します。桐生様。次の深層探索の対策会議がこの後……



「神木くぅん!!!神木くん神木くん神木くん神木くん神木くぅうううううん!!!!」



「え……」



「いいよぉすごいよぉ最高だよぉそれでこそ僕のライバルだ!!!僕の見初めた男だぁあああああああああ」



「…」



「負荷攻撃を受けた状態でデュラハンを倒し切るなんてぇ!!!!もはや弱点の情報なんて君には必要ないねぇそうだねぇ!?強いよぉおお!!!ああっ、本当に君は最高だっ!!!」



「…」



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…神木くぅん……君はどうして僕をこんなに昂らせてくれるんだい…?君みたいな男は初めてだっ……ぼ、僕のものにしたいっ…僕だけのものにしたいっ…!!」



「…」



「誰も邪魔の入らない空間で!!!君と全力で戦いたい!!永遠に殺し合いたい!!!」



「…」



「君なら僕の気持ちをわかってくれるはずだ…!!世界で唯一僕の理解者になれる男だ君は!!!はぁ、はぁ、はぁ…早く君と会いたいよ神木くぅん…こんな切なさを感じたのは人生で初めてだ…フフフ…」



すー…



ガチャ。



「ん?今誰かいたような…?気のせいか?」



それから数日後、日本一の深層クラン『黄金の軌跡』のかねてより予定されていた深層探索の日程が少々ずれ込むという記事が出回ったのだが、その原因については言及されることはなかった。

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