第68話


ドガァアアアン!!!

バゴォオオオンン!!

ズガァアアアアン!!


「すごい威力だな…」


ダンジョンを立て続けに轟音が蹂躙する。


前方から俺に向かって飛来してくる斬撃が、ダンジョンの壁や天井にあたり、粉砕し、グラグラとダンジョン全体を揺らす。


リザードマンとの戦闘を終えた俺は……その直後に、立て続けに戦闘へと入っていた。



“何が起きてんの!?”

“なんか飛んできてね…!?”

“何これ、大砲!?”

”斬撃みたいなのが飛んできてね!?“

”何これモンスターからの攻撃!?“

”斬撃じゃね!?神木が出すみたいな…“

”モンスターが出す斬撃ってことか!?“

“他の探索者とかかな?”

“他の探索者が間違えて遠距離から神木狙ってんの…?”

“どちらにしても斬撃出せるってやべぇよ…神木と同じことできるやつが他にもいるのか…”

“明らかに神木を狙ってる攻撃ではあるな”



「斬撃が飛んできてますね。おそらくモンスターだと思うけど…」



俺は次々に飛来する斬撃を交わしながらそういった。


モンスターの姿はいまだに見えない。


しかしダンジョンの通路の向こうから、ひたすら俺に対して斬撃による攻撃が行われている。


何かがいる。


かなり大きな存在を俺は感じ取っていた。


コメント欄では、他の探索者による誤った攻撃かという推測も飛び交っていたが、俺はなんとなくこの斬撃の主がモンスターであると確信していた。



「まぁ斬撃自体は手を少しひゅって早く動かすだけで出来ますからね……それほど驚きではないです」



“いや出来ねぇよw”

“なんだよひゅって早く動かすってw”

“こいつの中の常識どうなってんだw”

”マジで一回科学者たちはこいつの肉体解剖して、どういう仕組みで動いてんのか調べたほうがいい“

”神木を解剖したらなんか人類が次のステージに進みそうw“

”でも、今回の敵ってこんな埒外な神木と同じことができるやつってことだよな…?“

”確かに。地味にやばくね…?“

”まだ相手がモンスターって決まったわけじゃないけどな“

“もし斬撃出してんのがモンスターだったらやばい…”

“やっぱ深層って魔境って呼ばれるだけはあるな”

“いきなり暗闇の向こうから斬撃が飛んでくるの頭おかしいし、それに反応して全部かわしてる神木はもっとやばい”

“大将頑張って;;応援してます;;”



斬撃を出すこと自体はそれほど難しいことじゃない。


でも今までそんなモンスターはいなかった。


やはり魔境と呼ばれる深層なだけある。


モンスターの攻撃パターンも本当にさまざまだ。



「さて…そろそろ反撃しますか…」



いつまでも向こうから飛来してくる斬撃を避けているだけではつまらない。


そろそろ攻勢に出るとしよう。



「そっちがその気なら……俺だって同じことさせてもらうぜ?」



ドガァアアアン!!!

バゴォオオオンン!!

ズガァアアアアン!!



飛来する斬撃を避けた俺は、お返しとばかりに自分も暗闇の向こう側に姿を隠している気配に向かって斬撃を繰り出す。



「はぁ!」



斬ッ!!



空気を切り裂く音と主に斬撃が暗闇の向こう側に消えていく。



ギィイイン!!



やがてダンジョンの壁や、天井ではなく、明らかにそれ以外の何かに斬撃が当たったと思われる衝突音が聞こえてきた。


どうやらこの一撃で仕留めることは叶わなかったようだ。


しかし、まだ姿の見えないモンスターを捉えることはできた。



“斬撃飛ばしたw”

“いいぞ神木!!やられたらやり返せ!倍返しにしてやれ!!”

”まさかの斬撃の撃ち合いw“

”なんだこの異次元バトルw“

”まだお互いに姿も見えてませんw“

”いいね神木。手数出してけ?“

”大将やっちゃってください“



「そっちが姿を見せる気がないんなら……俺だってお前と同じことするだけだ」



どうやら暗闇の向こうに潜んでいるそいつは、俺が斬撃を避けながら距離を詰めようとすると、同じ分だけ後退し、頑なに姿を見せようとしない。


どうやらひたすら遠距離攻撃を繰り返して俺を仕留めるつもりらしい。


だが、その程度で仕留めらるつもりは毛頭ない。


距離を詰めさせてもらえないのなら、こっちだって遠距離攻撃を使うまでだ。



ドガァアアアン!!!

バゴォオオオンン!!

ズガァアアアアン!!



「ほいっよいっはいっ……からの……おらおらおらおらおらおら!!」



飛来する斬撃を交わし、俺は連続して斬撃を放ちまくる。



ギギギン!!



ザシュッ!!!



敵の姿を目視できないため、百発百中とはいかない。


だが暗闇の向こうに感じ取れる存在に向かってはなった俺の斬撃は、大部分が外れたり防がれたりしたものの、その中の一撃が、しっかりと本体を捉えたようだ。



『ギィェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?』



暗闇の向こうからつんざくような悲鳴が聞こえてくる。



”当たった!“

”効いたw“

”効いてるw“

“効きすぎw w w”

“効いてる効いてるw”

”えー、効いてますw“

“あれ?効いちゃったのかな?w”

“効いてら^^”

“効きまくってて草なんよw”

”効きすぎてて見てられんw“

“いいぞ神木。そのまま押せ押せ”

”もうそのまま斬撃撃ちまくったらええやん“

”ぶっちゃけ遠くから斬撃放つの最強じゃね?“

”これ必勝法だろ。神木にしかできないけど“

”なんで普段これやらないの?“

”↑そりゃ配信の見栄え気にしてるからだろ“

”そりゃ大将は配信者で撮れ高常に狙ってるからな。神木が見えないところから斬撃を飛ばして、惨殺されたモンスターの死体を後から確認しに行くだけの配信が楽しいかって話よ“

”そりゃそうか“

“今日は深層で、流石に撮れ高とか行ってられないから、神木も普段セーブしてる力を解放してるんやろな”




確かな手応えを感じた。


どうやら俺の斬撃は当たればしっかりと効いているらしい。


キングスライムみたいな、どこに核があるのかわからないタイプのモンスターではないと俺は判断した。


これならこのまま斬撃の密度をさらに上げれば仕留められそうだな。



ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュォオオン!!


「お、向こうさんも本気になったな」



俺の攻撃が当たって怒り狂っているのだろうか。


まだ姿を見せぬモンスターが、連続してさらに威力の強い斬撃を放ってくる。



ドガガガガガガガガガガ!!!!



ダンジョンの通路を埋め尽くさんばかりの斬撃。


俺は体を捻り、跳躍し、上半身を逸らし、ステップを踏み、回転し、時には宙返りをしたりして、その弾幕のような斬撃攻撃を交わしていく。



“すげぇw”

“洋画で千回見た動きw”

“こんだけ飛んできてんのに全然当たらねぇw”

“完全に主人公補正やんw”

“CGに見えるw”

“人間の動きじゃないんよw”

“相手も本気になったかw”

“これだけ攻撃したら流石に仕留めたと思ってるやろなぁw”

”めっちゃ視点変わって楽しいw”

“目がまわるw w w”

“画面酔いしそうw w w”



「なかなかしぶといな…」



これだけの濃密な斬撃。


流石にずっと保つのは無理だと思っていたのだが、なかなかどうして攻撃は終わらない。


「面倒だなぁ…」


これだけの数の斬撃だと、避け切るのに精一杯で、なかなか攻撃に転じられない。


「もういいや。攻撃は回避してカッコよく行こうと思ってたけど…」


配信映えを気にして華麗な戦いを心がけていたのだが、俺はだんだんと億劫になってきたので、ゴリゴリのパワープレイに切り替えることにした。



「避けるのやめますね」



そう宣言すると同時に、斬撃を交わすのをやめて、自分に当たりそうな斬撃だけを同じように斬撃で相殺することにした。



「おらおらおらおら!!!」



飛来する数だけ斬撃を飛ばす。


ギギギギギギギギン!!!


斬撃と斬撃が衝突し、相殺され、金属音のような音がダンジョンを満たす。



“すげぇw斬撃に斬撃当て始めたw”

“なんだその対処法w”

“そんなことできんのかよw”

“銃弾を銃弾で弾き返すみたいなことやり出したw w w漫画じゃないんだからw w w”

“頭おかしいw”

”最初っからそれやれやw“

”えー、この男、深層攻略ですら配信映え気にしてましたw“

”深層でもカッコつけて戦ってやろうとか考えてたのかwどんだけ配信者なんだよお前w“

“いくらなんでもサービス精神が旺盛すぎるw w w”



「避けられるなら避けてみろよ…ぉおおおおおおおおおお!!!」



俺は気迫の声と共に斬撃の数をどんどん増やしていく。


俺の斬撃は一部はこちらへ向かってくる斬撃に衝突し相殺され、残った大部分が、相手を仕留めるために暗闇の向こうへと向かって飛来していった。



ザザザザザザシュ!!!!



『ギシェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?』



思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえてきた。


いくつもの手応えを感じた。


あれだけ飛んできていた斬撃がぴたりと止まった。



“うるせぇw”

“音割れしてるやんw”

“うるせぇえええええ”

“鼓膜ないなった;;”

“高音質ヘッドフォン勢ワイの鼓膜、無事逝く”

“攻撃やんだ?”

“これ勝ったやろw w w”

“仕留めたんじゃね?”

“様子見に行こうぜw”



「手応えたり…多分倒せたかな…?」



俺は一応死体を確認しにいくために、動かなくなった存在へと向かって進んでいく。



「っていや、お前だったのかい」



そこに倒れ伏していた死体を見て、俺は思わずそう突っ込んだ。



“でかいバージョンw”

“でっかw”

”こいつかw“

”なるほどね“

”お前かいw“



コメント欄も俺と同様の反応を示す。


そこに血だらけになって倒れていたのは、全身鱗のトカゲ人間……リザードマンだった。


ただし、先ほど倒した3匹とは大きさがまるで違う。



「上位種か」



キングリザードマン、と言ったところだろうか。


どうやら遠距離から斬撃を飛ばしてきていたのは、先ほど倒したリザードマンの上位種だったようだ。



「近接戦闘で仲間がやられたから遠距離での戦いに徹した…とかだったら頭いいな」



もしこいつが仲間の死から学び、遠距離戦を仕掛けたのだとしたら、なかなかの知能だと言える。


俺はこのリザードマンの上位種の知恵の高さと、なかなかの手強さに感心してしまった。



「で…いつになったら死んだふり止めるの?」



『ギシェ!?』



俺はいつまでも死んだふりをして寝っ転がっているリザードマンの上位種にそういった。

ダンジョンがまだお前の死体を回収し始めてないの気づいてるからな。



『シュルルルルルッ!!!』



即座に起き上がったリザードマンの上位種が、俺に向かって舌を伸ばしてくる。


だがすでに心構えをしていた俺は、その舌を容易く片手剣の腹で受け止めた。


パァン!!


リザードマンの上位種の舌が、剣の腹に弾かれて乾いた音を鳴らす。


『ギシェ!?』


作戦がばれていたことに、リザードマンの上位種が爬虫類の目を驚愕に見開いた。


「油断ならないやつだなぁ」


俺はそう呟きながら、剣を無造作に振った。


斬ッ!!!


斬撃が飛び、リザードマンの首が胴体から離れた。


今度こそ、リザードマンの上位種は死に絶え、ダンジョンの床が死体の回収を始める。



”こいつ死んだふりしてやがったのかw“

”俺普通に騙されてたわw“

”神木よく気づいたなw“

”やっぱ下馬評どおおり、油断ならないというか、知能高いなリザードマンw“

“神木賢いw”

“神木普通に頭良くてわろたw”

“脳筋だけじゃないのがいいねw”

“そうか。死体がダンジョンに回収されてないからそれで気づいたのか”

“なるほどね”

“大将流石っす”

“神木さん今の所ばっちり切り抜いておきましたw”

“ナイス討伐w”

”うーんw深層に潜り始めてそろそろ一時間だけど、全然大丈夫そうだなw“

”未だ怪我なし、とw“

”やっぱこいつ化け物やw“

”これ、マジで深層ソロ攻略ありますw“



「どんどん行きます……そろそろこの階層は攻略できそうですね」


リザードマンの賢さに舌を巻いたり、死んだふりを見破った俺に感心したりするコメント欄を見ながら、俺はさらに深層の奥へと向かって歩みを進めたのだった。

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