第67話
「おらおらおらおら!」
キンキンキンキンキンキン!
俺は三体同時に迫ってきたリザードマンたちと斬り結ぶ。
「お前らオーガの完全上位互換なんだろ?その程度か?」
キンキンキンキンキンキン!
リザードマンたちは三方向から素早い攻撃を連続して繰り出してくる。
確かにコメント欄で視聴者が言っていた通り、リザードマンの力はオーガ以上だった。
一見すると弱そうに見えるその小さな体に、下層最強格のオーガ以上の膂力とスピードが備わっている。
おまけに知恵も回るらしく、戦いの中で自分たちの攻撃パターンや陣形を素早く変えたりしてくる。
だが…それでもリザードマンたちが俺に攻撃をとどかせることは無い。
早さに圧倒的な差があるからだ。
“はっや!?”
“何が起きてるんだ!?”
“全然見えねぇ…”
“リザードマン早すぎだろw w w”
“リザードマン早すぎw w wそしてそんなリザードマンを3匹同時に相手どる安定の神木w w w”
“これはオーガの完全上位互換ですわw w w”
“確かに下層のモンスターとは一線を画しているな。けど神木の相手じゃない”
”深層のモンスターを3体同時に相手するとか普通にやばいけど、神木だからなぁ…この程度で驚きはない“
”大将!雑魚のトカゲ人間はさっさと倒して次に行きましょう!!!“
”神木油断はするなよー?リザードマンは知恵が回るから、奥の手を隠し持ってる可能性もあるぞー?“
キンキンキンキンキンキン!
「そんなんじゃいつまで立っても俺に攻撃は届かねぇぞ?」
『『『キシェェエエエエエエ!!!』』』
知能が高い分なんとなく俺の言葉のニュアンスも理解しているのだろう。
リザードマンたちは、俺が煽ると逆上し、さらに攻撃の速度を早めてくる。
だが……それでも俺の剣の速度には遠く及ばない。
俺はリザードマンたちの剣戟を全て危なげなく片手剣一本で防ぎ切った。
『『『ハァ…ハァ…ハァ…』』』
やがて体力に限界が来たのか、リザードマンたちが一斉に動きを止めて胸を上下し始めた。
その爬虫類の顔には、明らかに動揺が浮かんでいた。
牙の生え揃った口を開けて、荒い息を吐き出しながら、恨めしげに俺を睨みつけている。
”スタミナ切れ起こしてるやんw“
“やっぱリザードマン弱かったな”
“誰だよ油断してる時が危ないとか言ってたやつ”
“楽勝やん”
“うーん…確かに強いんだろうけどレイスやキングスライムの後だと見劣りするなぁ…”
“大将〜。もう飽きたんでそいつ殺して次行きましょう〜?”
「そろそろ終わりにしてるか」
俺は疲れ切って余力の残っていなさそうなリザードマンたちにトドメを刺そうと、片手剣を持ち上げた。
次の瞬間…
『シュルッ!!!』
『フシュルッ!!!』
『フシルルルルルッ!!!』
「お…?」
リザードマン3匹が、同時に動いた。
垂れていた首を一瞬であげて、その口から何かを吐き出し……いや、伸ばしてきた。
『フシィイイイイ!!!』
『フシャァアアアアアアア!!』
『シュルルルルルルル!!!!!』
かかったな!!
そう言いたげな表情をリザードマン3匹が浮かべる。
3匹が不意打ちで俺に向かって口から飛ばしてきたのは、ざらざらとした感触の長い舌だった。
俺の腕、腰、足に3匹の長い舌が巻き付いて、拘束している。
どうやら体力が切れたふりをして俺を油断させ、不意打ちで舌を伸ばして俺の動きを拘束する作戦だったようだ。
“あ”
“まずい…”
“ひん”
“あ”
“あ…”
“え…”
“やばい…
“あっ”
“大将…!?”
“言ってる側から…”
“あーあ”
”これどうすんの?“
「なるほど。やられたよ」
見事に作戦に引っかかった俺は、リザードマンたちに賞賛の意味を込めてそんな言葉を送った。
リザードマンたちの口元がニヤリと歪む。
さて、この探索者をどうしてやろうか。
そんな表情を浮かべている3匹に対して、俺は謝った。
「だが、すまん。こうさせてもらうぞ」
直後、俺は容赦なく腕を振り回した。
『『『キシェッ!?』』』
俺を拘束したと勘違いし、油断し切ったリザードマンたちは、長い舌を回収することも叶わず、俺の動きに引っ張られて体を宙に浮かせる。
「ほい、捕まえた」
俺は3匹の舌を回収できないように掴み、思いっきり振り回しまくった。
ドガァアアン!!
バゴォオオン!!
ズガァアアン!!
ダンジョンを轟音が蹂躙する。
思ったよりも頑丈な自らの舌に振り回されることになったリザードマンたちは、ダンジョンの岩の地面、壁、天井に次々に衝突し、段々とひしゃげて原型を崩していった。
「ん?動かなくなった…」
気がつけば手から伝わってくる抵抗がなくなっていた。
俺が右手に掴んだ3匹の舌を引っ張ると、ひしゃげ、潰れ、破裂してダンジョンの壁や地面や天井にこびりついていたリザードマンだったものが三つ、ずるっと引きずられてついてきた。
「壊れちゃったか…」
俺は掴んでいた舌を離した。
3匹の死体が、ゆっくりとダンジョンの地面に飲み込まれていく。
”ですよねーw”
“知ってたw”
“知ってましたw“
”まぁ、そうなるよね“
”俺はわかってたぞ“
“壊れちゃった^^”
“また一つ、おもちゃが壊れました^^”
“もうそいつじゃ遊べないお;;”
“神木。お前が壊した”
”一瞬本気で心配したやつおったやろw“
“焦ったぁ…普通にピンチかと思った…”
”マジでやばいかと思った…“
”いやいや、この程度で神木がやられるわけないだろw w wジャイアントスパイダーの糸吐き攻撃の時に何も学ばなかったのか?“
”↑嘘乙。お前の一個前のコメント、“ひん”やんけ“
“嘘松がいるねぇ…”
“コメント遡られて嘘松バレてるやついて草”
“こんだけコメント流れてりゃバレないと思ってたんやろなぁw”
“俺はちゃんとみんなのコメントも見てるからねー^^”
“神木拓也信者こっわw”
“神木のこと心配してて可愛い^^”
「とりあえずリザードマン3匹討伐完了です」
リザードマンの死体が回収されたのを見届け
てから、俺は小休憩も兼ねてコメントを見る。
「おぉ…同接35万人…本当にありがとうございます…!」
リザードマンを倒すまでは三十万人だったと記憶してるんだが…
この短時間で五万人も増えたのか。
もともとダンジョンの最も危険な地域である深層での配信は、どんなパーティーやクラン、探索者であろうと同接が上がりやすいって聞いてたけど…
…なんだか見る人の数がこれまでとは桁違いだな。
登録者も鰻登りに増えていっている。
深層配信恐るべし…
“同接35万人おめ”
“やべーなマジで。どんどん増えるやんw”
“日本中神木拓也信者だらけになっちまうw”
“このまま60万人ぐらいまでいってカロ藤にダブルスコアつけて勝とうぜw”
”これまじで神木拓也が配信回の帝王、カロ藤超えの配信者になる世界線あるかもな“
”このまま深層にソロで潜り続ける配信を続ければ、マジであるかもな”
”いや、毎日深層に潜り続けるのは流石にきちーだろ“
”上層から距離もあるからな。まぁ、毎日は無理だわな“
“焦ることは無いだろ。神木にはポテンシャルがあるんだから、いきなりトップ取ろうとしなくてもコツコツ積み重ねたらええ”
“カロ藤はニッコニコ時代から第一線の配信者だからなぁ…”
“あいつ配信歴十年以上だろ?いきなり超えるのは無理だべ”
”まぁ俺たち視聴者が同接で競ってても何の意味もないわな“
¥30,000 (桐谷奏)
神木くん!同接30万人超えおめでとう!!すごいね!!!応援してます!!
「お、桐谷…見てくれてたんだな」
俺が同接の多さに驚いていると、桐谷からスパチャが飛んでいた。
どうやら俺の配信を見て応援してくれていたようだ。
”きっさん来たw“
”きっさんもようみとる”
“きっさんいるやん”
“よお、桐谷”
“3万円スパちゃw太っ腹w”
“さすが稼いでる配信者は違うな”
“きっさんも見てます”
“きっさんやあ^^”
「3万円もありがとう。深層攻略頑張るから見ておいてくれ」
¥50,000 (桐谷奏)
深層にソロで潜るって聞いて心配だったけど、神木君やっぱり強いね。神木拓也最強!神木拓也最強!これでいいのかな?笑
「い、いや、お前までそのノリやる必要はないぞ!?ご、五万円ありがとう…」
”草“
”わろたw“
”きっさん可愛くて草“
“きっさん可愛いw”
“モエー”
“きっさんモエー”
”きっさんもこっち側やんw“
“つか五万円スパチャwすげぇw”
“金持ってるねぇ”
“よかったな神木。美少女に見守ってもらえ”
“きっさん大人気やんw”
桐谷が突如としてコメント欄に現れ、視聴者たちが盛り上がる。
この間のコラボの一件以来、桐谷はうちの視聴者たちにも受け入れられるようになった。
まだ桐谷のところのユニコーンたちとの確執は多少あれど、俺たちの関係性は以前のように違いの視聴者がいつ喧嘩し出すかもわからないようなギスギスしたものではなくなっていた。
俺とのコラボで俺も桐谷もお互いに同接が伸びたし、結果から見るとやはりあのコラボは大成功だったわけだ。
¥20,000(桐谷奏)
神木君ファイト!!無理はしないでね!!これ以上は邪魔になるので黙って配信見て神木君を応援します!地上に帰ってきたらまたコラボよろしくお願いします<(_ _*)>神木君の視聴者さんたち、お邪魔しました<(_ _*)>
「あ、ありがとうな桐谷…頑張るから応援頼んだぞ〜…」
桐谷は最後に二万円のスパチャを投げてからコメントをしなくなった。
あまりやりすぎると配信の邪魔になると判断してのことだろう。
“きっさんそれはフラグなんよw”
”きっさんばいばい”
“きっさん行かないで;;”
“きっさん、帰ってから〜は完全にフラグで草なんよw”
“この短時間で十万円スパチャwやっぱ桐谷奏すげぇな”
“あんなこと言われたら深層攻略するしかねぇよなぁ!?神木ぃ!?”
桐谷の退場を惜しむ自らの視聴者のコメントに俺は苦笑いを漏らす。
ここまで俺の視聴者に手の平返させた桐谷は、やっぱり配信者として別格ということなのだろう。
「さて、行きますか」
この深層探索を決断するきっかけになった桐谷からの応援もあった。
男として情けないところも見せられないし、なんとしてもこのダンジョンの深層の最奥に辿り着かないとな。
「深層攻略、続けます」
俺はスマホを固定器具に装着し、気合いを入れ直して、深層のさらに奥へと向かって進んでいった。
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