第65話
“なんか心配してた俺らがバカみたいだ…”
”獅子王の二の舞って……今考えると馬鹿馬鹿しいな。神木は獅子王とは次元が違う“
”獅子王も強かったが……神木はもう強いなんて言葉に収まるレベルじゃねぇな“
”まぁ元々こいつ、ソロでリトルドラゴン倒してるし、これくらいは予想できたっちゃ予想できた“
”問題は深層のモンスターが群れで出てきた時だな“
”レイス倒せたんだから、もう大丈夫でしょ“
”相性の悪いレイス倒せたし、もう余裕な気がする“
”いやいや、深層は魔境だぞ。マジでどんな化け物が出てくるかわからん。まだ深層探索始まったばかりなんだし、様子見ようぜ“
“つか同接多いなw25万人だぞ!?”
“神木拓也チャンネル史上最高記録更新やね”
”そりゃこうなるわなぁ“
”このまま行くとマジで同接どこまで行くんだろうな?“
”何かの間違いでこいつがこのダンジョンソロで深層の最奥まで攻略するようなことがあったら同接100万人とか行きそうじゃね?“
”ありそう“
”いや流石にそれは…“
“やっぱ俺らの大将が最強なわけよ”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
「次はどんなモンスターが出てくるんでしょうね?」
謎の姿の見えないモンスターを倒した俺は、深層の薄暗い通路を進んでいく。
チラリとスマホの配信画面に目を落とせば、なんと同接が25万人を突破していた。
これでこの間の桐谷とのコラボで叩き出した同接数すら超えて、堂々の俺史上最高同接を更新した。
まさかここまでの勢いで増えるなんて思ってなかった。
素直に感謝、というかめっちゃ嬉しい。
数字はそのままモチベーションにもつながるので普通にありがたい。
深層のモンスターを1匹倒して緊張もいい感じにほぐれたし、気合い入れて深層探索に励むとしよう。
「お…何かいる…」
そんなことを考えていたら、前方に気配を感じた。
巨大な何かが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「何か来るみたいです……さっきのやつではなさそう…」
気配が消えたり現れたりしていないので、さっきの幽霊みたいなモンスターではなさそうである。
これが中層や下層なら俺は気配に向かって迷わず突っ込んでいくのだが、流石に深層なので出方を待つことにした。
気配は、まるで這うようなスピードでゆっくりとこちらに近づいてきて、やがて暗がりからその姿を現した。
「うお、なんだこれ!?でっかいスライム!?」
思わずそんな声を漏らしていた。
果たして、暗闇の向こう側から姿を現したのは、ダンジョンの通路を埋め尽くさんばかりの巨大なスライムのような何かだった。
スライム…?なんだろうか。
こんなにでかいのは見たことがない。
一瞬たくさんのスライムの集合体かと思ったが、どうやらそいつは一個体のようだった。
”うわでっか!?“
”なんだこいつ!?“
”巨大スライムきたぁあああああああ!!!“
”何これ!?スライムの集合体!?“
”こいつ知ってる!!!キングスライムだ!!“
”スライムの王様か…!!“
”こいつ知ってる!割と有名なやつな…!“
”深層のモンスターで竜種に次いで有名なやつな…!確か体液で色々溶かすやつだろ?“
”キングスライムか…!やっぱ深層だとこいつが出てくるんだな…”
“体液で色々溶かすって……まさか服を溶かすってこと…!?神木くんのヌードが拝めるってこと!?”
“えっ…神木様の裸……みたい…”
“なんか勘違いしてるやついるが、キングスライムはエロ漫画みたいに都合よくないぞ。普通に人間の骨まで溶かすからな”
“なんかヤベェ奴いない…?これ、女?それともホモ…?”
“神木のチャンネルって女少ないけど、その数少ない女は全員やべー奴らしい”
“いや、お前らそんな話してる場合か!?これ動きは遅いけど地味にやばくね!?どうやって倒すんだよ!?”
“普通に攻撃したら武器溶けるしな……通路を埋めてるから避けて通ることもできない…”
“これまた厄介なモンスター来たねぇ^^”
“まぁでも神木ならなんとかするやろw”
”大将頑張って;;“
シュゥウウウウウウ…
「うわ…溶けてるし…酸性?触れたらやばそうだな…」
見れば、巨大スライムが進んだダンジョンの壁や地面が音を立てて溶けている。
どうやらこの巨大スライムの体液には、物を溶かす力があるようだった。
シュゥウウウウウウ…
「倒すしかないかぁ…さて、どうするか…」
巨大スライムはダンジョンの通路を埋め尽くしており、避けて通ることはできない。
どうやらなんらかの手段で倒す以外に方法はなさそうである。
「とりあえず二、三発打ち込んでみますね」
俺はそう言って、片手剣を三回ほど振った。
ズバズバズバッ!!
空気を切り裂く音が三度響き渡り、巨大なスライムの体がいくつかに引き裂かれた。
シュウゥウウウウウウウ…
巨大なスライムは動きを止めて、ぐにゃりぐにゃりと変形し始めた。
「お…?戻った…?」
そして数十秒後には、俺の刻んだ斬撃の後はすっかり無くなり、元の大きさになって、またゆっくりと進撃を開始し出した。
”やべぇ効いてなくね!?“
”再生した!?“
”大将の攻撃が全然効いてないっぽいんだけど…!?“
”なんだこいつ…無敵やん…“
”これどうやって倒すの…?“
”見た感じ斬る系の攻撃は効かないみたいだね“
”じゃあ燃やすとかすれば倒せるのか…?“
”確かキングスライムに有効な攻撃は燃やす、だったはず。深層クランは深層に潜る時は、キングスライムに道を塞がれた時ように燃料を持参すると聞いたことが“
”ファッ!?やばくね…!?神木装備片手剣しか持ってないやん!?“
”終わった“
”ひん“
”まずい“
“逃げべ“
“だから下調べが必要だったんだぁあああああああああああ”
“やっぱ下調べなしで深層は無理だったんだ;;いくら神木でも;;”
“大将逃げてください;;”
「うーん……ちょっと斬ったぐらいではダメかぁ…まぁそうだよなぁ」
そんなに簡単に深層のモンスターが倒せるとは俺も思っていない。
これはまた何かしらの攻略方法を考える必要がありそうだ。
幸いなことにこいつは動きは鈍いからな。
俺はちょっとずつ後退しながら、この巨大スライムの攻略方法を模索する。
¥30,000
”大将!そいつはキングスライムと言ってスライムの王様のモンスターです!!!巨大な体のどこかに核があるんですけど特定が難しく、そこを壊さないと永遠に斬っても斬っても再生するっぽいです!!燃やす以外に倒す方法はないそうなので、一旦逃げたほうが…“
「お、スパチャありがとうございます……なになに……へぇええ、そうなんですね。情報提供感謝です」
どうやらこの巨大スライム、名前をキングスライムと言って、かなり有名な深層のモンス
ターらしい。
スパチャで教えてくれた人によると、こいつには巨大な体のどこかに核があり、そこを破壊しない限りは、再生し続けるのだとか。
スパチャ以外にも、コメント欄でもキングスライムについて色々と情報を書き込んでくれている視聴者がいる。
それによると、こいつは何かの燃料で火攻めにするのが一番効果的で、それ以外の方法で倒すのはほぼ無理らしい。
深層クランは、深層に潜る際はこいつに対処するために必ず燃える燃料を持参するとのことだった。
「なるほどねぇ…これが下調べの大切さか…」
俺は事前の情報収集の大切さをここへきて実感する。
確かにこのキングスライム、初見では非常に対応が難しいモンスターだ。
けれど燃やすという攻略法を知っていれば、動きも鈍いし、そこまで厄介でもないのだろう。
”大将;;今回は諦めて引き返しましょう;;“
”神木。しゃーない。キングスライムは初見では無理だ“
”レイス倒しただけでも上出来だろ。別に負けたわけじゃないし、ここは戦略的撤退をだな“
“次燃料持ってくればいいやん。お前の実力は深層でも十分通用することがわかったし、それだけでも収穫だろ”
“大将;;今日は逃げてください;;”
「いや、なんか撤退の雰囲気になってますけど、逃げませんよ?」
コメント欄では俺がキングスライムを倒せないと見たのか、撤退を促すコメントがたくさん流れる。
だが俺はもちろんこの程度で諦めて引き返すつもりはない。
確かに燃料というわかりやすい攻略方法はないにしても、何かやりようはあるはずだ。
今、この場で攻略方法を考えればいい。
「この体のどこかに核があるんですよね?」
俺はダンジョンの通路を埋め尽くすキングスライムの巨体を見回した。
”おう“
”そうだな“
”そう“
”そういうこと“
“どっかにある”
“どこかはわからない”
「じゃあ、そこに当たるまで無限に攻撃すれば良くないですか?」
“は?”
“はい?”
“ん?”
“へ…?”
”おん?“
”今なんて?“
”何言ってんだこいつ“
“w w w”
至ってシンプルだ。
このキングスライムの巨体のどこかに、破壊すればいい核がある存在する。
ならその核に当たるまで攻撃を続ければいい。
それだけのことだ。
“いやいや無理だろ何考えてんだ?”
“バカなのか!?”
”流石に無理があるわw“
”こんな巨体の中から大して大きくもない核を斬って探し当てるとか不可能だから!“
”日が暮れるわ“
”流石に脳筋すぎます大将w w w“
”大将がおかしくなっちゃったよ;;“
”もう諦めろ神木。今回は運が悪かったと思って、引き返そう“
「それではご覧ください。かミキサー・改」
そういうと同時に俺は回転する。
回転し、その勢いを利用して、片手剣から全方位に向かって無数の斬撃を放つ。
そう。
普通のかミキサーでは、キングスライムの体液によって俺の片手剣が溶かされてしまう。
なので俺はかミキサーの発想をさらに進化させて、全方位に向かって斬撃を飛ばしながら進むというかミキサー・改を生み出したのだ。
これなら武器が溶かされることなく、どこかにあるキングスライムの核を壊すことができるかもしれない。
ズバババババババババババババババババババババババババ………
ダンジョンの通路に無数の斬撃音が響き渡る。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ………
ダンジョンの壁が、地面が、天井が、俺の繰り出す無数の斬撃によって削れ、まるで掘削機で掘られているかのような音が周囲を蹂躙する。
「ッッッッッッッ!!!』
俺は全方位に向かって斬撃を放ちながら、少しずつ進んでく。
どこにあるかわからないキングスライムの核を確実に破壊するため、穴がないように、とにかく満遍なく周囲に対して斬撃攻撃を放っていった。
「…?」
やがて、俺の周囲からモンスターの気配が消えた。
「終わった…か?」
俺は動きを止めて背後を振り返る。
「あれ?居なくなってる?」
いつの間にか、キングスライムは跡形もなく消失していた。
俺がかミキサー・改で通った後のダンジョンの壁や地面や、天井には無数の斬撃痕があり、削られまくっていた。
そしてあちこちに、キングスライムの残骸と思しき、液体が付着している。
だがその液体が、集まってまた一個体となって再生する……なんてことは起きなかった。
どうやら無事にキングスライムの核は破壊され、討伐に成功したらいい。
「なんとか倒せました」
なせばなる。
事前情報がなくとも、その場で攻略方法を考えれば意外といけるものだ。
「ちょっと無理やりな倒し方でスマートではなかったんですけど、どうだったでしょうか?……あれ?」
”……………“
”……“
”……………………“
”………“
”……………………………“
”…“
”…………“
”……“
”………………………………“
「ん?配信止まった?」
なぜか配信のコメント欄がフリーズしていた。
さっきまで怒涛のように流れていたコメントが、ぴたりと止まっている。
一体どうしたのだろうか。
ひょっとして回線が悪い?
「おーい?みなさん?ちゃんと見えてますー?」
深層の暗い通路で、俺は動きの止まったコメント欄に対してそう呼びかけるのだった。
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