第95話



“ファーーーーw w w w w”

“いやいやいやいやいやw”

“何した今w”

“やばすぎやw w w”

“やっぱ大丈夫だったじゃんw”

”うーん、これは神木拓也最強!w“

”未来予知しても神木拓也には勝てませんw“

”流石大将“

”やっぱ俺たちの大将がナンバーワンよ“

”どりゃぁあああああああああああ“

”鳥人間ざまぁあああああああああ“

”うぉおおおおおおおおおおお“

”すげぇええええええええええええええ“



無数の斬撃が鳥人間を切り裂いた。


鳥人間は、自分が死ぬ未来を予知したのか、その場から動かなかった。


斬撃はあまり防御力の高くなかったらしい鳥人間の体をズタズタに切り裂いた。


致命傷を負った鳥人間は地面に倒れ、ビクビクと痙攣していたがやがて動かなくなった。


絶命した鳥人間の死体を、ダンジョンの床が回収し始める。


鳥人間を討伐した俺に、コメント欄が一気に沸き立つ。



「少し手間取りましたが、倒しました」



俺は視聴者に討伐報告を行う。


未来視の能力を持った鳥人間。


おそらく数秒先の未来が見える能力だったのだろう。


なかなかに厄介だったが、攻撃力と防御力がそこまで高くなかったのは幸いだった。


個人的にはレイスよりも厄介な相手だ。


一発まともな攻撃ももらってしまったことだし、反省点は大いにある。


だが、まぁ、今は無事に討伐できたことを喜ぶとしよう。



”いやまじでどうやったんだよw”

“あの、よく見えなかったんですけど何したんですか…?w”

“大将流石っっすw”

”何となく何したかはわかったんですけど…一応もう一回大将の口から教えてもらえませんか?“

”今の戦闘の間に同接一気に十万人増えて80万人w w w神木がもしかしたら死ぬかもしれないと思って見に来たやつもおるやろwお疲れ様w w w“

”ちょっと危ないかなと思ったけど杞憂だったわw w w“

”透明になってもダメ、未来を読んでもダメ……マジでモンスター視点、どうやったらこの化け物倒せるんだ?“



「あ、一応解説するとですね…」



俺は鳥人間を討伐した方法を改めて視聴者に解説する。



「あの鳥人間は未来視の能力を持ってました…多分見れるのは数秒先の未来です。なので普通に攻撃しても絶対に当たりません……だから……避けられないほどの密度で斬撃を放ちました」



”あっ、はい“

“そう…ですか…”

“うーん、このw”

“w w w”

“当たり前のように解説するなw w w“

”確かに俺も一瞬その発想したけどさぁ……出来るとは思わないじゃん…?“

”イカれてるw w w“

”今日も神木拓也は平常運転っとw“

”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“

”大将!今の所しっかり切り抜いておきました!!!“

“もう何でもありやん定期”

“強すぎて草なんよw”



コメント欄が神木拓也最強!の文字で埋まる。


どうやらしっかりと討伐方法を説明できたようだ。


気づけば、同接も80万人を超えている。


やはり新種のモンスターとの戦いは何が起きるかわからないため同接が伸びるな。


このペースだと今回の配信でも100万人到達は達成できそうではある。


…最近同接数が青天井で感覚が麻痺しつつあるが、改めて100万人に自分の配信が見られてるってとんでもないことだよな。



「先に進みますね…」



俺は半分回収されつつある鳥人間の死体を踏み越えてさらにその先の深層へと進んだ。




『キシェェエエエエエエ!!!』


「ほい」


深層のモンスター、リザードマンと切り結ぶ。


未来視の力を持った鳥人間のモンスターを倒した後、俺は足を止めることなく深層探索を続けていた。


深層探索開始からもう直ぐで90分ほどが経過する。


そろそろ第一層の終わりが見えてきてもいい頃である。


ちなみにあれから新種のモンスターには出会っていない。


同接はじわじわと伸びて現在85万人を突破していた。


『キシェェエエエエエエ!!!』


「はいはい」


『キシェ!?』


ズガァアアン!!!


ドゴォオオオン!!!


近接戦闘では勝てないと見込んで、中距離か

ら長い舌による攻撃を行うリザードマン。


向こうにとっては不意打ちのつもりだったんだろうが、前回の戦いでも戦ったリザードマンの挙動はほとんど把握している。


俺は難なくリザードマンの舌をキャッチして、振り回した。


リザードマンは、自らの頑丈な舌に振り回され、壁や地面に激突し、どんどんひしゃげていく。


ズガァアアアアン!!


ドゴォオオオオン!!!!


歩きながらリザードマンを振り回していた俺は、ふとリザードマンがすでに原型を留めておらず、動かなくなっていることに気づいて手を離した。


死体が地面に回収されていくが、最後までみとどけずに先に進む。



“鬼畜すぎるw w w“

”もはや足を止める必要すらないとw w w“

”こんなん配信の片手間やんw“

”片手間でやられるリザードマン可哀想;;“

”一応リザードマンって深層モンスターだろw w wこんな扱いでいいのかw w w“

”こいつの配信見てるとマジで感覚麻痺するけど、ここに出てくるモンスター全部が、そこらの探索者が束になっても勝てない化け物ばっかりだからなw w w“

“さっきの鳥人間…ハーピーとの戦闘拡散されまくってるw w w”

“すげぇ…深層に潜り始めてからまたどのSNSも神木一色になり始めたw w w”

“おい神木!日本最強の桐生帝がお前のことフォローしてるぞw”

”桐生帝に唯一フォローされている男こと神木拓也の配信はここですか?“

”まーた俺たちは伝説の生き証人になっちゃうわけです、か“



リザードマンを倒し終えた俺はコメント欄を見る。


視聴者たちは今の所かなり楽しんでくれているようだが、せっかく見にきてくれたのだから、そろそろ見どころを提供したい。


贅沢を言えば、そろそろ新種のモンスターに出てきてもらいたい。


先ほどからリザードマンや、レイスと言ったすでに倒したことのある深層のモンスターばかりで盛り上がりに欠ける気がする。



(新種の深層モンスター……そろそろ出てこないかなぁ…)



そんなことを考えながら、俺が深層の通路を進んでいると…




『キシェェエエエエエエ!!!』



「またリザードマンかよ…」


前方に気配を感じた。


単体で通路のど真ん中に仁王立ちしているのはリザードマンだ。


立て続けのリザードマンとのエンカウントに俺は少しうんざりする。


さっさと自分から倒して次に行こう。


そう思い、距離を詰めようと地面を蹴ろうとしたところで………



ぽっ



「…っ!?」



ぞわあああああああ、と悪寒が俺の背筋を撫でた。


俺は咄嗟に後ろに飛ぶ。



”え“

“なに?”

“どしたん?“

”なぜ逃げる?“

”リザードマン一匹だけでは…“



「なんだ…?これ…」


リザードマンの背後に、何か巨大な気配を感じる。


今までに感じたことのないような不気味な存在感。


俺が警戒する中、突如としてリザードマンの背後の暗闇の中から、信じられないほどに大きな人の手が現れた。



ぽぽぽっ



『キシェェエエエエエエ!?!?』



その巨大な手はリザードマンを鷲掴みにし、バキバキバキと握りつぶした。


リザードマンは断末魔の悲鳴をあげて絶命する。


暗闇から現れた巨大な手が、リザードマンの潰れた死体を握ったまま暗闇の中に引っ込んだ。


そして暗闇の向こうから、ボリボリ、バリバリと何かを噛み砕くような音が聞こえてくる。



”え、なになに?“

”なんかやばくね!?“

”でっかい手が見えた…“

”なにあれ、巨人の手…?“

”トロール系の何か…?“

“リザードマン持ってったw w w”

“リザードマン握りつぶしたw w w”

“やばいでしょどういうこと!?”

“仲間割れ…?”

“なんかやばい予感が…”

“神木が下がったの、あいつの気配を感じたからか…”

“トロールの手ってあんなにデカかったっけ…?”

“これ、またとんでもない化け物が出てくるんじゃ…”



今までにない異様な雰囲気にコメント欄もざわつき始める。


暗闇の向こうからぼりぼりと聞こえてきた咀嚼音のような音がやがて止んだ。


そして暗闇の中から、巨大な手の正体が現れる。



『ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ』



「…っ!?」



奇妙な鳴き声と共に姿を現したのは、超巨大な女の顔面だった。


焦点のあってない目は直径が数メートル。


ダンジョンの通路を埋めるほどに大きな頭部は、全体的に青白く生気を感じない。


長い髪は逆立って天井に触れている。


口裂け女のように大きく裂けた口からは、鼻をつまみたくなるような腐臭が漂っており、長い牙の間から、リザードマンの上半身がのぞいていた。



『ぽぽぽぽぽぽぽ』



「な、なんだこいつ…」



俺は間違いなく今までで最恐の見た目のモンスターに絶句する。


女の巨人。


そんな表現が一番当てはまるかのようなそのモンスターは、あまりに巨大すぎるが故に、ダンジョンの中で立つことができず、横になる状態でダンジョン深層に存在していた。


巨大な顔面の向こう側のわずかな隙間から、横になった胴体や、蠢く巨大な手が見える。



“はぁあああああああああ!?!?”

“なんだこいつ!?”

“でっっっっっっっか”

“やばいやばいやばいやばい!!!”

“今までで一番の化け物きたw w w”

“女の巨人!?流石にでかすぎるだろw w w”

“こっっっっっっっわ”

“大将逃げて!!”

“おしっこちびるかと思った…”

“なんだこいつ怖すぎる…”

”勝てる気がしない“



女の巨人の醜悪な見た目に、コメント欄は阿鼻叫喚となる。



「これは…」


新種のモンスターが出てきて欲しいと願ったのは自分だが、まさかこんな化け物が出てくるとは思わなかった。



『ぽぽぽぽぽぽぽぽ』



本能的に逃げたくなる衝動に駆られるが、しかしそうもいかない。


女の超巨人のモンスターは、奇妙な鳴き声と共に顔の向こう側にある巨大な手をこちら側に伸ばしてきた。



「かミキサー」



俺は迷わずかミキサーを使う。



ドガガガガガガガガガガ!!!!!!



『ぽげぇええええええええええ!?!?』



巨大な腕が削れていき、女の超巨人が悲鳴をあげた。








「素晴らしい!!神木くん、やっぱり君は僕の見込んだ通りの男だったよ!!」


感情の昂った桐生帝は、思わず立ち上がってそう叫んでいた。


神木拓也の深層ソロ探索配信をスマホで見ていた桐生帝は、神木拓也のハーピーとの戦いに満足していた。


未来視の力を持つ深層モンスター、ハーピー。


その能力をあらかじめ知っていなければ、倒すのは非常に困難なモンスターだが、神木拓也は初見で、全く事前情報がない状態でハーピーを倒してのけた。


未来視の能力を持つハーピーの攻略方法は、二人以上のパーティーで挑み、倒すというもの。


ハーピーの未来視の力は実は一度に一人に対してしか使えず、二人以上の未来を同時に予知することが出来ない。


ゆえに、普通パーティーで行動する深層探索者にとってハーピーはそこまで厄介な相手ではないのだ。


しかしソロの探索者との戦いにおいてはハーピーはほとんど無類の強さを発揮する。


だからこそ、桐生帝は神木拓也がどのようにしてハーピーを倒すかにとても興味があったのだ。


「そうかそうか…攻撃を読まれるなら…それを加味した上で、未来を読んでも、避けられないほどの攻撃をすればいい…か……くくく、なかなか面白い発想じゃないか…」


独自の発想と攻撃手段でハーピーを討伐してみせた神木拓也。


全て神木拓也という探索者の圧倒的な基本スペックがあるが故の勝利だった。


「いいぞぉ…神木くぅん…君は最高だぁ……君ほどの探索者を…僕は僕以外に知らないよぉ…」


恍惚とした表情を浮かべる桐生帝。


それもそのはず、神木拓也は彼がずっと待ち望んでいた、ライバルとなれる力のある存在。


ライバルは強ければ強いほどいい。


神木拓也が化け物じみた能力を知らしめるたびに、桐生帝は昂りを感じていくのだった。


「さあ…次はどんな戦闘を見せてくれるんだい…?」


ハーピーを初見で攻略してみせた神木拓也は、その後どんどん深層の奥深くへと潜っていく。


しばらくは取るに足らないモンスターとのエンカウントが続いたが、やがて神木拓也が、何かの気配を感じたのか、いきなり背後に飛び去った。


「ん?なんだ…?」


画面越しに気配を感じることはできない。


桐生帝は、おそらく神木拓也が何かの気配を感じたのであろう奥の暗闇を見つめる。



『ぽぽぽぽぽぽ』



聞こえてきたのは、桐生帝が何度か相対したことのあるとある厄介なモンスターの鳴き声だった。


巨大な手が暗闇より現れ、神木拓也と対峙していたリザードマンを掴み、握りつぶす。


そしてその死体をそのまま攫っていき、ぼりぼり、ばりばりと何かを咀嚼するような音が聞こえてきた。


にやりと、桐生帝の相貌が歪む。


「今度は八十尺様かぁ…」



ハーピーと同等か、それ以上に厄介なモンスターの登場に、桐生帝は嬉しくなってくるのだった。

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