第94話


「ほう…ハーピーとの戦闘か…」


スマホで神木拓也の配信を見ていた桐生帝は面白いというように頬を歪めた。


例のテレビ番組で神木拓也に興味を持ってから、桐生帝はすぐにインターネットで神木拓也の情報を調べた。


そしてすぐに神木拓也のチャンネルとSNSに行き着いた。


神木拓也はもしかしたら自分のライバルたり得る存在かもしれない。


そんな期待から、桐生は神木拓也のSNSをフォローし、チャンネル登録もした。


ちなみに今までフォロワーは百万人を超えていても、フォローがゼロだった桐生帝のアカウントが唐突に神木拓也をフォローしたものだから、ネット上では「桐生帝が神木拓也を認めた」「唯一桐生帝にフォローされた男」として盛り上がっていたのだが、桐生帝本人はもちろんそんなことは知らなかった。


「さて…どう戦う?神木拓也。あんまり僕を失望させないでくれよ」


桐生帝は神木拓也の実力を見極めようと、集中してハーピーとの戦闘を見る。


神木拓也は現在、深層にソロで潜る配信を行っており、同接は60万人を超えていた。


常人なら高校生で深層にソロで潜り、深層モンスターたちと渡り合っていることにまず驚くのだが、桐生帝は、自分のライバル足り得る存在ならそれぐらい当然だとしてさして驚かなかった。


むしろ、深層モンスターの群れならまだしも一匹如きに負けるようでは到底自分のライバル足り得ないと思っていた。


「ハーピーの能力は未来視……単純な力量のみでは倒すのは難しいぞ…神木拓也。わかってるのか?」


深層モンスター……鳥人間のハーピーの能力は未来視。


数秒先の未来を見て自分に対する攻撃をあらかじめ知ることが出来る力であり、単純に早い攻撃を繰り出すだけでは永遠にハーピーに一撃を喰らわせることはできない。


神木拓也はハーピーとの戦闘が始まると、最初相手の出方を見て自分からは仕掛けなかった。


戦闘の口火を切ったのはハーピーで、鳥の脚による攻撃を神木拓也に対して繰り出した。


それに対して、神木拓也はハーピーの攻撃を

片手剣で弾こうとした。


その結果……自分の攻撃が防がれる未来を予知して直前で攻撃軌道を変えたハーピーの攻撃をまんまと喰らっていた。


吹き飛ばされる神木拓也。


桐生帝は目を細める。


「今のは…?ハーピーの能力を知らなかった…?」


神木拓也は配信上でつい先ほど、事前情報なしで深層探索に挑んでいると宣言していた。


あれは配信を盛り上げるためのハッタリかと思ったが、どうやら本当のことだったようだ。


桐生帝は頬を歪める。


「面白い…本当に初見で深層探索に挑むとは…」


ほぼ全てと言っていい深層探索者が、深層に潜る前に情報を買うなりして収集してから挑むものだ。


化け物じみたモンスターが多数存在する深層において、事前情報もなしに攻略に挑むのは自殺行為に等しい……というのが深層探索者の間での一般常識だ。


桐生帝も、普段はパーティーメンバーの命のために最低限の情報を収集し、深層探索に挑むようにしていた。


だが、この神木拓也はソロで、全くの事前情報なしに深層探索に挑んでいるらしい。


そしてそんな危険極まりない深層探索を、『楽しむ』余裕すら見せていた。


「本当に面白い男だね…神木拓也…さあ、ハーピーを攻略し、倒して見せろ。もっと僕を楽しませろ」


事前情報がない以上、ハーピーを倒すハードルはぐんと上がる。


神木拓也には、この場でハーピーの能力を突き止め、攻略し、倒すことが求められている。


能力がなんなのか突き止められなければ、神木拓也はただいたずらにハーピーに対して無駄な攻撃を行い、そのうち体力を消耗して死んでしまうことになるだろう。


「君なら出来る…なぜなら君はこの日本で唯一、僕のライバルになれるかもしれない逸材なのだからね…」


桐生帝は期待を込めて、神木拓也のハーピーとの戦闘を見守るのだった。





この鳥人間には何らかの特殊能力がある。


俺は早々にそのことを看破していた。


単純な力比べ、速さ比べでは俺の方が圧倒的に優っている。


しかし俺の攻撃はこの鳥人間には当たらない。


それはおそらくこの鳥人間が何らかの特殊能力を持っているからだ。


レイスの霊体になる力のような、何らかの特殊な力を持って俺の攻撃を避けているのだろう。


「ふんっ!!」


『ァアアアアアアアア!!!』


俺は鳥人間に対して距離を保ちながら、斬撃を飛ばす。


明らかに鳥人間の反応速度を超えて放ったと思われた斬撃は、いとも簡単に鳥人間に避けられてしまう。

 

「おっとと」


『ァアアアアアアアア!!!!』


鳥人間は俺の攻撃を避けた後、攻撃を仕掛けるべく接近を試みてくるが、俺は背後へと飛び去り、常に一定の距離を保ち続ける。


この鳥人間の力が未だ判明しない以上、接近を許せば、先ほどのようにまた攻撃を喰らってしまう危険性があった。


だから能力がなんなのか、完全に理解するまでは、接近を許すわけには行かない。


いくら攻撃力があまり高くないとはいえ、攻撃をもらっていいことなど何一つないのだ。



“やべぇ…こっちまで緊張する…“

”あんま強そうに見えないのに…こいつ普通に強くね…?“

”なんでこんなに簡単に神木の斬撃避けられるんだ…?“

”見た目きんもいのに異常に強いな…“

”頑張れ大将!“

“大将ならやれる”

“俺は神木を信じるぞ”

“神木なら大丈夫やろ”

“大将なら大丈夫だと信じたいけど……さっき初めて攻撃まともにもらったからちょっと心配になってしまっている自分がいる…”

“こいつなんでこんなに反射神経いいの…?今までのモンスター、大体が神木の速度について来れてなかったのに…”

“スピード特化型なのか?”

“レイスみたいに何かの能力があんじゃねーの?”

“能力って?”

“深層のモンスターだからあり得るよな。純粋な身体能力だったら明らかに神木が勝ってるから、攻撃を避けられているのには何かカラクリがありそう”



チラリとコメント欄に目を移すと、視聴者たちも鳥人間に何らかの能力があるのではと考察し、その能力を突き止めようとしていた。


『ァアアアアアアアア!!!』


俺は耳を塞ぎたくなるような鳴き声をあげる鳥人間のモンスターを見据え、その能力が一体なんなのか、おおよその当たりをつける。


「たとえば未来予知…とかか?」


もしあの鳥人間が何らかの方法で俺の攻撃の軌道をあらかじめ知っているとしたら……今まで俺の攻撃が一切当たらなかったことにも説明がつく。


突拍子もないような想像だが、しかし透明になり、物理攻撃無効の状態になれるモンスターがいるのだ。


未来視ぐらいできるモンスターがいたっておかしくはない。


「試してみるか…」


俺は鳥人間に対して、斬撃を連続で繰り出した。


鳥人間の回避行動をあらかじめ予測して、先回りした斬撃を鳥人間の周囲にはなつ。


『ァアアアアアアアアア!!!』


すると鳥人間は、まるで俺の飛ばす斬撃の全てを予知したかのように、最初から全ての斬撃が当たらない場所へと跳躍した。


鳥人間の下を、空を切った斬撃が通過していく。


「やっぱり……お前見えてるだろ」


『ァアアアアアア!!!』


今のは反射神経とかそういう問題ではない。


明らかに俺の攻撃軌道をあらかじめ知っていたとしか思えないような動きだった。


「これならどうだ?」


俺は斬撃を全て回避した鳥人間に対して距離を詰めて、鳥人間に対して立て続けに直接攻撃を行う。


「ぉおおおおおおお!!!」


『ァアアアアアアアアア!!!!』


ギギギギギギギギギン!!!


俺は至近距離から、片手剣、腕、足、全てを使って、鳥人間に対し連続攻撃を行う。


その際、俺は多数のフェイントを織り交ぜて、変則的な攻撃を行った。


横に薙ぐと見せかけて、刺突。


蹴ると見せかけて殴る。


下がると見せかけて、身を翻した回し蹴り。


それらを全て、できる限りの速度と精度で行ったのだが、鳥人間は硬い鉤爪のついた腕で全ての攻撃を弾いてきた。


鳥人間は、一度も俺のフェイントに反応することはなく、全て当てることを狙った本命攻撃のみに反応してきた。


「確定だな。やっぱお前、見えてるだろ」


『ァアアアアアアアア!!!!』


俺はこの鳥人間に、全て攻撃があらかじめ読まれていると確信し、背後に飛び去った。


鳥人間は、奇声をあげて背後に飛び去った俺に突進してくる。



“やっば!?全部防がれたんだが!?”

“こいつ強すぎだろ!?”

“大将の攻撃が全然当たらねぇ!?”

“あれ…こいつ、わしより強くね…?”

“あれ…?大将?嘘だよな…?”

“マジでなんなんだこいつ…?”

“これ、神木が本気出してないってオチ…?”

“舐めプとかじゃないよな?普通に戦ってるよな…?”

“マジで攻撃全部読まれてるやん…”

“こいつ今までで最強じゃね…?”

“大将頑張って;;”

”お前ら焦るのはまだ早い。神木はまだ怪我もしてないんだから、信じて応援しろ“

”神木マジで負けないでくれ;;“



あまりに攻撃が防がれるので、コメント欄も俺の実力に対して疑心暗鬼になっている視聴者まで出始めた。


そろそろ本気で倒さないと視聴者の信用を損ねてしまうよな。


…大体この鳥人間の能力のからくりもわかった。


俺はいよいよ本気で、この鳥人間を攻略し、

倒すことにした。



「多分なんですけど…」



俺は跳躍し、鳥人間を軽々飛び超えながら視聴者に対して言った。



「こいつ、俺の攻撃が見えてます。今まで俺の攻撃が当たらなかったのは、単にスピードで負けてるとか反射神経がずば抜けていいとかそういうことではなく、あらかじめ俺の攻撃がどこにくるのか、予知しているからだと思います」



”ファッ!?なんだそれ!?“

”未来予知ってこと…?“

”そんなのありかよ“

”確かにそれなら説明がつくけども…“

”確かにそれはありそうだな。普通に避けてるとはどうしても思えん。なんかあらかじめ神木の攻撃がどこにくるのか知ってるみたいな動きだもん“

”なるほど…“

”ずっる“

”ずるじゃね?“

”未来予知とかチーターじゃん…“

”え、未来が見えるとか無理ゲーじゃね…?どうやって倒すの…?“



鳥人間の能力のが未来予知であること知り、絶望する視聴者たち。


確かにこの鳥人間の未来予知能力は強い。


しかし、攻略方法がないといえば、そういうことはない。


簡単な話だ。


こいつが未来を予知し、俺の攻撃軌道をあらかじめ知って回避しているというのなら……



「未来を予知したところで回避不可能な攻撃をすればいいだけだ」



“え?”

“は?”

“あ?”

“ん?”

”なんて?“

‘w w w“

”大将?“

“今なんて…?”

“なんかやばい予感…”



「ふぅうううううううう…」



俺は長く息を吐き出した。


そして呼吸を整えて、鳥人間を見据える。


『ァアアアアアアアアア…』


相変わらず鳥人間のその顔に表情はないが、どこか余裕めいた雰囲気を感じる。


未来を予知する力がある異常、俺の攻撃は当たらないと思っているらしい。



「当たらないなら…当てるようにするまでだ…」



俺はグッと体に力を込めて、筋肉を収縮させる。


鳥人間には未来予知能力がある。


単発、もしくは数発の攻撃を放った程度では、攻撃軌道を読まれて回避される。


ではどうすればいいか。


簡単な話だ。


攻撃軌道を読んでも避けられないぐらいの密度で、攻撃を放てばいい。


ただそれだけだ。



「この通路全体を埋めるほどの攻撃……今の俺にならできる…」



ドラゴン三体を斬った神斬。


あのエネルギーを分散させるイメージで、このダンジョンの通路全体を埋めるような斬撃を放つ。


そうすればいくら未来を読んだとて、鳥人間に逃げ場はない。


俺は貯めたエネルギーを一気に発散するように、力を解放した。




「ぉおおおおおおおおおおお!!!!!」



今までにない速度、密度で斬撃を放つ。



ズバババババババババババババ!!!!!


ダンジョンの通路を埋めるほどの無数の斬撃が、鳥人間に襲いかかった。


『ァア……』



斬撃が飛来する直前、自分が死ぬ未来を予知してしまったのか、回避行動も取らずに絶望したような表情で突っ立っている鳥人間の姿を見たような気がした。





〜あとがき〜


角川ホラー文庫デスゲームコンテストに出ます。


作者が初めて書いたデスゲームモノ


https://kakuyomu.jp/works/16817330656244320554



この作品の更新も変わらず続けていくのでご安心ください。


どちらの応援よろしくお願いします。











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