第74話
一瞬、俺が薙いだ片手剣の軌道に沿って世界がずれたように感じたのは気のせいだっただろうか。
わからないが、しかし今までにない渾身の、『最強の斬撃』を放てたという感覚が俺の手の中にはあった。
『『『……』』』
ドラゴン三匹は沈黙していた。
大口を開けて、炎のブレスを吐く体勢になったまま、時が止まってしまったかのように動かない。
「…?」
俺が首を傾げていると、ずりっとドラゴン三匹の首がズレた。
そのまま胴体からあっけなくずり落ちて地面に転がり、綺麗な切断面が三つさらされる。
やがて遅れて胴体の方も地面に次々に倒れ伏していき、ダンジョンがグラグラと揺れて土煙が舞った。
「倒せたな」
流石に首を切り落としてなお再生するということはないだろう。
俺は念の為、ドラゴン三匹の死体から離れて様子を窺っていたが、やがてダンジョンの地面による死体の回収が始まった。
俺はドラゴン三匹の討伐に成功したと確信し、ほっと一息ついた。
“はああああああああああああ!?!?”
“ファーーーーーw w w w w”
“えぇえええええええええええ!?!?”
“いやいやいやいやいやいや!?”
“ファッ!?”
”どういうことだってばよ…“
“斬ったw w w”
”なんだ今のw“
“いや、意味がわからないんだがw w w”
“もうめちゃくちゃw w w”
“三匹同時に斬ったw w w”
“今何が起きた!?斬撃!?”
“一瞬なんか画面が二つにずれたような気がしたんだけど、気のせいか…?”
“なんかこいつ、空間ごと斬ってなかった?俺の錯覚か?”
“世界ごと斬ってますやんw w w”
“いや今のやばいやろw w w”
“音が一切なかったしw w w”
“新技きたぁああああああああああああああ”
“どりゃぁあああああああああああああ”
固定していたスマホを手に取ってコメント欄を見る。
どうやら軒並み俺がドラゴンを討伐したことに驚いているコメントで埋め尽くされているようだ。
同接は先ほどの100万人からさらに増えて現在120万人。
うん、もうちょっとした都市人口のような人数にまで到達してしまっている。
ここまでくるとよくわからん。
実感とかまるでわかない。
なんだか白昼夢を見せられているような気分になるので、俺は同接に関してはもう考えないことにした。
“マジでやばすぎw”
“まさか深層のドラゴンを倒すとはw w w”
“え、この人今何したの…?”
“え、何これCG映像ですか?”
“よくできた特撮かな?”
”何これ現実?何が起こってるの?“
“神木…お前何者なんだ…?”
”大将…あなたは本当に人間ですか?“
”マジでどうやったの今の“
”斬撃出したの?“
”もう空でも飛ばない限りお前では驚かないと思ってたが……マジで開いた口が塞がらないよ“
”今のどうやった?“
”今の斬撃…?”
”どうやって硬いドラゴンを倒したの?解説求む“
”大将;;何が起こったのか全然わかんないので解説お願いします”
「え、ちゃんと映像は映ってましたよね?」
コメント欄では、何が起きたのかわからなかったから解説を求むという声が多かった。
もしかして映像が乱れてちゃんとドラゴンを倒したところを配信できなかったのかと不安になったがどうもそうではないらしい。
“ちゃんと写ってたけどわかんなかった”
“全部を見た上で、それでもわからん”
”マジで何したんだよお前w w w“
”今ならお前が魔法使いだって言われても信じるぞw w w“
”ちゃんと見てたけど、何も理解でいなかったお^^“
”もう俺はお前が怖いよ神木“
”ちゃんと見てたけどちゃんと理解できませんでした^^“
「映ってはいたんですねよかった…ええと、解説すると、今のは新技というか……まぁ大したことやってないんですけど、今までで一番強い斬撃を放ってみました」
”は?“
”ん?“
”なんて?“
”斬撃?“
”やっぱり斬撃だったのか“
”それだけ?“
「ドラゴンの鱗が硬いことはわかってたので……いつもみたいなヒュッ!って手を動かしてやる軽い斬撃や、ビュッ!って素早く腕を振るちょっと強めの斬撃じゃ仕留めきれないじゃないですか……だから、こう…ゥン!みたいな音が鳴らないぐらいの速い斬撃を放ったら倒せないかなーってそんな感じで考えたんですよね」
”いや意味わかんねーよ“
”なんだよヒュッってw“
”相変わらずだなw w w“
”うーん、このw“
“ヒュッだのビュッだのw”
“相変わらずアバウトすぎるw”
“説明の才能だけはない男”
”感覚はすぎるやろw w w“
”えー、120万人がみていたとしても神木は神木ですw“
”大将;;全然わかんないお;;“
“なんかよくわかんねぇけどすげえや^^”
“全然わかんないけどさすが大将だ^^”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
「えーっと……あの、うん…なんかとりあえず、一番強い斬撃って解釈してもらって大丈夫です…俺も結構行き当たりばったりで出した技なので……先に進みますね…」
俺が自らの技を説明した時の、いつもの呆れるような空気がコメント欄に漂い出した。
俺の少ない語彙ではこれ以上上手く説明できないと判断し、俺は先に進むことにした。
¥10,000
ドラゴン討伐おめでとう。もうなんかうん、お前すごいよw
¥30,000
どこのSNSも大将の話題ばっかりです。多分今日本でいちばんの注目度だと思うっす。さすがっす大将!
¥15,000
マジで一生お前についていくぞ神木。このまま深層踏破まで駆け抜けてくれ
¥5,000
初めてみたけどなんなんですかあなた。なんか今まで自分が見てきたダンジョン配信が全部子供のおままごとに見えてきたんですけど…
¥2,000
同じ人間なのかが疑わしい…とりあえず凄すぎるのでお金投げとく…
¥8,000
大将!すでに海外での拡散も始まってるみたいっす!!!これからは世界の神木拓也です!!!
¥20,000
おい神木wお前あと10万ぐらいで、現在の世界の同接一位狙えるぞw w wお前は今二位で、一位は謎のインド人やw w w
“マジかよ世界同接二位かよ”
“すっげw w w”
“神木に勝ってる謎のインド人って誰なんだw”
“そのインド人は神木より強いんか?”
“インドは人口が多いからなぁ”
“人口の母数が日本とは違う”
“インドの人口日本の10倍以上だからな。どう考えても神木の方がすごいことやってる”
「うわ…スパチャありがとうございます……同接も……世界一位取れそうなんですね……本当にありがとうございます。よければチャンネル登録お願いします…」
画面が真っ赤っかだ。
スパチャが飛びまくっている。
現在日本の様々なSNSで俺のことが拡散されまくっているらしい。
また海外でもすでにこの配信のことが広まりつつあるらしい。
そういや、コメント欄にもチラチラ英語やスペイン語が見えるようになってきた。
なんかもう色々と手に負えない感じではある。
俺は一旦同接やスパチャのことは脇に置いておくとして配信に集中することにした。
なんかもう当初の目的を忘れつつあるが、今日の深層の第一目標は、同接100万人達成でも日本記録更新でもなく、深層ソロ攻略にある。
気づけばダンジョンに潜り始めて四時間以上の時間が経過していた。
帰る時間も考えると、深層攻略するために残された時間はそう多くない。
「どんどん攻略していきますよ」
俺は地面に吸収されつつあるドラゴンの死体を乗り越えて、足早に先に進む。
「ん?なんだこれ」
深層第三層を足早に進んでいくのだが、なかなかモンスターとのエンカウントはない。
前方に敵の気配はなく、あの幽霊のような霊体のモンスターも出てこない。
だがたまーによくわからん形をした異形が、地面にしたいとなって転がっており、ダンジョンの地面に吸収されかけていた。
「死んでる…?」
道ゆく先々で転がっているモンスターたちはどうやら死んでいるようだ。
どのモンスターも、一撃の元に綺麗に真っ二つになって死んでいる。
「あれ、これってもしかして…」
一瞬、俺の前に先行している他の探索者がいるのかと思ったが、どうも違う。
少し足を止めて考えた末に、俺はある結論に辿り着く。
「俺の斬撃が……こんなところまで飛んで…?」
“多分それやw w w”
“それしかないやろw w w”
“やばすぎるw w w”
“やっぱ一瞬世界がずれたように感じたの、気のせいじゃなかったんじゃ…”
“お前深層第三層の空間を半分に切ってるやんw w w”
“こんな距離でも仕留められるとかどんな威力やねんw w w”
“神木の存在を認知もしてないのに、いきなり上下二つに分かれて死んでいったモンスターたちが不憫でならん”
“せめて姿ぐらいは映してあげて;;”
”地味にこの技いちばんやばくね?“
”もうこれ連打するだけでいいやんw”
”チートとかそういう次元ですらもはやない“
どうやら俺がドラゴンを仕留めるために放った斬撃が、ここまで届いていたらしいのだ。
もうずいぶんドラゴンと戦闘した地点から距離はあるのだが、斬撃はドラゴン三匹を仕留めただけでなく、その奥にいる深層のモンスターたちの元にまで届いて、一撃の元に切り伏せ、絶命させてしまったらしい。
「マジかぁ」
結構本気で放った斬撃だったけど、まさかこんな遠いところまで影響を及ぼせるとは思ってなかった。
「こ、これあんまり気軽に使えないな…」
モンスターが死ぬ分には構わないけど、人……具体的には同じ階層にいる探索者とかに当たったら……
「えー、この技はなるべく使わないようにします……」
俺はこの現時点での『最強の斬撃』は、周りに絶対に人がいないと確証が持てる時以外は使わないようにしようと心に誓ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます