第152話


『ォオオオオオオ!?!?』 


我慢ができなくなった俺は内なる感情を発散するように、気がつけば神拳を放っていた。


眼前に黒の奔流が出現。


スフィンクスの体のど真ん中に命中し、全てを飲み込んでいく。


スフィンクスは呻き声をあげながら、その巨体を震わせていた。


「あ、しまった……ついやってしまった…」


しばらくして黒の奔流が完全に消えた後、俺は我に帰って反省する。


スフィンクスに騙されて、むかついた勢いでついやってしまった。


もう少しちゃんと話を聞くべきだっただろうか。



“ざまぁああああああああああ”

“どりゃあああああああああああ”

“よっしゃあああああああああああああ”

“逝ったぁあああああああああああ”

“うぉおおおおおおおおおおおおお”

“きたぁあああああああああああああ”

“4ねええええええええええええええ”

“ざまぁw”

“気持ちぃいいいいいいいいいいいいい”

“脳汁すげぇえええええええええええ”

“わからせ最高ぉおおおおおおおおおお”



チラリとチャット欄を見れば、視聴者たちは信じられないほどの喜びの雄叫びをあげていた。


どうやら性格の悪いスフィンクスが酷い目にあって喜んでいるらしい。


「ざまぁ」「最高」「気持ちいい」といったコメントが怒涛の如く流れている。


ボス部屋に入った当初からさっさと戦おう、わからせよう、というコメントがあったからな。


いつまで戦いが始まらず、ぐずぐず謎解きをしている状況に相当フラストレーションを溜めていたのだろう。


それが、スフィンクスが俺を騙していたということを知って、限界に達した感じか。



『ォオオオオ…人間如きに…この私がぁあああああああ……』



「ん…?」



俺の放った神拳は、スフィンクスの体の中心部分

にごっそりと穴を開けた。


てっきり致命傷になるかと思ったが、驚いたことに、スフィンクスは体の三分の一ほどを消し飛ばされた状態から徐々に再生を始めていた。



『死んでたまるかぁああああ…人間如きにこと私がぁあああああ…殺されることなどあってはならないぃいいいい…』



「すごいなぁ…あそこから回復するのか。再生速度は遅いけど」



スフィンクスは徐々にではあるが、傷を修復し、再生していた。


驚異の再生能力だ。


あの不死竜をも一発で仕留める神拳にまさか耐えるとは。


(どうしよう…少し様子見をするか…)


とはいえ、再生速度自体は大したことないため、もう二、三発神拳を打てば仕留められそうではあるのだが、俺はちょっと面白い展開になってきたため、一旦スフィンクスが再生するのを待つ。



“まだ生きてる!?”

“死んだぁああああああ……あれ?”

“再生してら^^”

“再生能力持ちかよw w w”

“すげぇえええええ神拳に耐えたぁああああ”

“耐えたぁああああああああああ”

“うおおおおおおおお再生能力持ちだぁああああああああ”

“面白くなってきたぁああああああああ”

“再生すんのおっっそwおっせぇw w w”

“遅すぎやろ。この間に殺そうぜ”

“もう一発打てば死ぬくね?”

“どっかに核を持ってるパターンか?”

”図体が大きいのに助けられたな。しかし神拳に耐えるとは“

“まぁこの速度の再生力なら連続で神拳打てば殺せるけど、面白いから一旦全回復するの待つべ^^”

“閃いた!!大将が神拳を一発打ってスフィンクスが回復してまた大将が神拳をうってスフィンクスが回復して……永久機関の完成だぁあああああああ!!!”



『き、貴様ぁああああああ!!!』



俺がしばらく何もせずに観察していると、やがてスフィンクスは傷を全て癒して、俺を憎しみのこもった視線で睨みつけてくる。



『よくもやりやがったなぁあああああ!!!この私に…!!!傷を負わせるなどぉおおおおおおおおお!!!』



「いや、あんたが俺を騙すからだろ」


俺は冷静に突っ込んだ。


確かに衝動に駆られていきなり神拳を打ったのは悪かったと思ってるけど、でも原因はこいつにある。


問題を解けばここから出してやると言ってせっかく正解したのに、問題は一問ではないとか言い出した。


おそらく元々俺をここから出す気などないのだろう。


だったら別に力ずくで出ようとしても文句は言われないんじゃないだろうか。



『騙してなどいないっ…貴様が勝手に勘違いをしたのだっ……私は問題の数には一言も言及していないぃいいいい』



「じゃあ、何問解けば出られるんだよ」



『そ、それは……』



「やっぱり問題を解いてもここから出られないじゃん。だったら……俺はどんな手段でもここを出る」



俺は右拳を再度固める。



『ヒィ!?』



それを見たスフィンクスが引き攣った悲鳴をあげた。



『マママ、マツノダ…!!!待てぇ!』



「…?」



『問題は二問だ!!二問正解すればここから出られるんだ!!!』



「二問?」



スフィンクスが焦ったようにそういった。


俺はまた嘘なんじゃないかとスフィンクスを睨みつける。



”焦ってらw“

”本当かよw“

”今考えたやろw“

”絶対に嘘w“

”こいつ絶対に問題正解しても出す気無かったやろw“

”だっっっさw神木の強さ見て今更問題数減らしてら^^“

”こいつ小物すぎるやろw“

”スフィンクスさぁ…それはないんじゃないかい?“

”はよ殺すべ^^“

”問題とかもうどうでもいいから早く殺すべ^^“

”ここまで焦ってるってことは、遅すぎる再生能力以外はこいつ特に特殊能力は持ってないっぽいな“



『ほ、本当だ!!二問だ!つまり…お前はあと一問正解すればここを出られるんだ!!嘘じゃないぞ!!!』



「本当か?」



『ほ、本当だ!!私は約束を守る!!』




「じゃあ、問題出して」


俺は一応一旦スフィンクスのいうことを信じることにして、問題を出題させる。



『に、二問目の問題を出題するぞ……ぱ、パンはパンでもものすごく硬いパンはなーんだ……さあ,答えろ!』



「は…?」



なんだその問題。


俺を馬鹿にしているのだろうか。



『ま、まさかわからないのか…?』


スフィンクスがブルブルと震え出す。


いや、わからないはずがないだろう。


俺は即答する。


「フライパン」



『せ、正解だ!!!くそっ…正解されてしまったっ!!!なんという賢さだ!!!さすがここまでの道のりを一人で歩んできただけのことはある…まさかこれほどまでに賢い人間がいようとは……』



「…」



わざとらしくそんなことをいうスフィンクス。


今のってそこまで難しい問題だっただろうか。


俺は首を傾げつつも、しかしこれで謎解きをしてミステリーダンジョンを攻略したことに出来るならまぁいいかと気を取り直し、スフィンクスに尋ねた。



「これで出られるんですよね?出口はどこ?」


『で、出口はここです…』


いつの間にか敬語になっているスフィンクス。


その巨体が動くと、背後に隠されていた扉が姿を現した。


どうやらスフィンクスが体でずっと守っていたあそこが、ボス部屋の出口らしい。


『も、問題を正解されたからには仕方がない…悔しいが…通っていいぞ…』



スフィンクスがそんなことを言いながら、頭を振って俺に出口へ向かうよう示す。


なんだかあっけないような気もするが、ともかくこれでミステリーダンジョン踏破かと俺は出口へ向かって歩き出す。


それは俺が出口へと近づき、スフィンクスに背を向けた次の瞬間だった。



『なわけないだろ死ねぇえええええええええええええええ!!!!』



スフィンクスが突然背後で動き、俺に向かって襲いかかってきた。



「そんな気がしてたよ」



俺は手元のカメラを見ながらそう言った。


なんとなくこのスフィンクスならまた不意打ちをしてくるんじゃないかと思って、カメラを内カメにしておいたのだ。


現在俺の手元にある配信画面には、背を向けた俺に襲い掛かろうと予備動作に入っていたスフィンクスの姿がばっちりと映っていた。



「神拳・三連撃」


今度こそ、倒されても文句が言えない状況だろう。


俺はスフィンクスの前足が俺を踏み潰そうと迫る寸前でくるりと振り返り、神拳を一気に三発、巨体のスフィンクスに打ち込んだ。



『ナニイイイイイ!?!?!?……ォオオオオ……』



黒の奔流が三つ出現し、今度こそスフィンクスは跡形もなくこの世から消失した。

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