第196話


アンデットドラゴンを討伐した俺は、深層第四層の攻略を進めていく。


(同接330万人か…)


チラリと配信画面に目を移すと、同接は330万人に

到達していた。


アンデットドラゴンとの戦闘でさらに増えたようだった。


この時点で俺の配信史上最高同接記録はとっくに更新している。


後はどこまでこの数字を伸ばせるかだ。


(コメントも本当に早いな……新規も相当きているんだろう…)


チャット欄の勢いも、もう一度チャット欄を止めなければコメントを読めないぐらいのスピードで流れていっている。


コメントの質も、いつもの俺の視聴者の定型文のようなコメントは三分の一にも満たなく、明らかに新規視聴者のそれだと分かるようなコメントがたくさん投下されていた。 


つまりこの配信は、既存の俺の視聴者以外の部分にしっかりリーチしているということだ。


(いける…このままいけば500万人の大台も…)


俺は自らの配信にかつてない勢いを感じて、このままさらに同接を伸ばすぞと気合を入れる。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「お…?」


配信のことばかりを気にかけていたら、いきなりダンジョンの奥から低い音が聞こえてきた。


まるで壁を削りながらこちらに迫ってくるかのような、そんな音だ。


巨大な何かが、こちらに向かってきている。


俺はそんな気配を察知して、視聴者に報告する。 


「何かきます。おそらくモンスターです」



深層で他の探索者に出くわすなんてことはほとんどない。


何より存在感の大きさから、俺は気配の主がモンスターであることを確信する。



(頼むから新種であってくれ…)



即出のモンスターでもいいっちゃいいんだが、今アンデットドラゴンという新種の竜種の討伐で配信の盛り上がりがかなり凄いことになっている。


この勢いを止めたくない俺は、さらなる新種の深層モンスターの出現を心の中で出会った。



“お?”

“なんかくる?”

“くるか…?”

“くるぞ…”

“新種か…?”

“足音でかいな…”

“やべーやつがくる予感”

“大将頑張れ”

“同接えっっっっっっっっっぐ”

”なんだこのダンジョン配信!?同接おかしくね!?“

”同接バグですか…?“

”なんだこのバグみてぇな同接…“

”Twitterから来たんですけど……同接の表記おかしくないですか?“

”同接バグとか言ってるやつ新参か?神木の深層配信はいつもこんな感じだわ“

“新参ども同接同接うるせぇよ。黙って配信見ろ”

“新参は3ヶ月間ロムれや”

“新参くんたちとりあえず3ヶ月黙って神木の配信見てそれからコメントしよっか^^”



チャット欄では、新規視聴者と古参?の視聴者の喧嘩が繰り広げられる中、俺はどんどん近づいてくる巨大な気配に、片手剣を抜いて身構える。



「あれ…?なんだこれ…?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!


まるで岩を削って進むようなそんな音はもう俺の近くまでやってきていた。


気配もかなり接近されているように感じるのに、なぜかモンスターはまだ姿を表さない。


「霊体化しているのか?」



一瞬レイスのように霊体になって接近してきているのかと疑ったが、しかしどうもそんな感じでもない。



ゴゴゴゴゴ……



「止まった?」



やがて音が止まった。


だが気配は感じる。


ものすごく近くから。


霊体化ではない。


これは一体どういうことだろう。


俺がどこから攻撃が来てもいいように神経を研ぎ澄ませていると…



ドガァアアアアアアン!!!!



「うおっ!?」



突如として俺の立っている真上のダンジョンの天井が崩落した。


と思ったら出来た穴からいきなり牙の生え揃った怪物の頭が出てきて、俺の頭上に迫ってくる。


「うおっと!?」



俺は咄嗟に反応し、横に飛んだ。



ドガァアアアアン!!!



俺が先ほどまで立っていた場所へ、化け物がそのまま頭から突っ込んだ。



ゴソゴソゴソゴソ!!!



「は…?」


俺が呆気に取られていると、化け物はそのまま地面に開いた穴に頭を潜らせ、地面を掘り始めた。


まるで蠍のように幾つもの足が生えた長い胴体がダンジョンの天井から地面まで垂れ下がり、どんどん地中の中へと入っていく。 



「なるほど、そういうことか…」



音や気配はあったのに姿が見えない理由がわかった。


こいつはダンジョンの中を移動しながらこっちに近づいてきていたんだ。


ダンジョンの空洞ではなく、壁や地面、そして天井に穴を掘ってそこを移動していたんだ。


だからまるで壁を削るような音がどんどん近づいてきているように錯覚したのだ。



“ファッ!?!?”

“うおおおおおおおお”

“危ねぇ!?”

“上から!?”

“でっっっっっか”

“きめぇ!?”

“なんだこいつ!?”

“ダンジョンの天井から!?”

“ダンジョンの中を掘って移動してたのか!”

“今のよく反応したな!!!”

“新種か!?”

”新種きたぁあああああああああ“

”霊体化かと思ったがそういうことか!“

”新種だぁあああああああああああ“

”新種の深層モンスターきたぁああああああ“

”立て続けに新種登場。盛り上がってきましたぁああああああ“

”神木頑張れ“

”また新種きたぁああああああ“



チャット欄が新種の深層モンスターの登場に枠中、俺は一度地中に戻った気配が再び俺に接近してきていることに気がついた。



(来る…!)



そう思った瞬間、俺は今度は真下に気配を感じた。



ボゴォ!!!!



「ほいっ」



唐突に俺の足元の地面から針のようなものが突き出てきた。


気配を察知していた俺は、針のようなものが地中から出てきたのを見て反応し、跳躍する。


その針は、先ほどこの謎のモンスターが天井から地面へと移動する際に体の尾部についていたもので容易に人間二、三人を串刺しにできるほどの大きさがある。


鋭く尖っており、紫の毒々しい色をしている。


擦りでもしたら、毒の強さによっては死んでしまうかもしれない。



ボゴォ!!


ボゴォオオ!!!!



「おっ、よっ、ほっ」



尾部の毒針による最初の攻撃を跳躍して避けたのも束の間で、地面から突き出た針は、着地した俺をピンポイントで追撃してくる。


俺は着地した瞬間に再び跳躍し、俺を追って次々に地面から襲いかかってくる毒針を避けまくった。



”うおおおおおおおおおお“

”危ねぇえええええええええ!?!?“

”こっっっっっっわ“

”避けろ神木ぃ“

”反応すっっっっっっっご“

”えっっっっっっっっっっっぐ“

”避けてる避けてるw“

”相変わらずの反射神経やね“

”神木のちょうど真下に本体がいるのか“

“もぐら叩きかな?”

“このタイプの敵初めてだな“

”地中とか天井から攻撃してくるモンスター、何気に初めてだな“

“当たったらやばそう”

“相変わらず挙動がチート使ってるゲームキャラのそれで草w”

“避けきれ神木ぃぃいいいいい”

 

「よっ、ほいっ、おりゃっ」


地面から突き出てくる針を次々に避けながら、俺は反撃の方法を考える。


(地面の中だから姿が見えない……本体がどんな形で存在しているのかわからない……神斬りを打ってもいいが一発で仕留め切れるかな…)



次に針が突き出てきた瞬間を狙って避けた後に、地面に神斬りを打つことを最初に考えたのだが、地中に本体がどのようにして存在ているかわからないため、俺は神斬りの使用を躊躇っていた。


一発で仕留められればいいが、何発もかみぎりを地面に対して使うと、十中八九地面が崩壊して崩落してしまう。


何か先ほどアンデットドラゴンを倒した時みたいに、上手い攻略方法はないものだろうか。



ボゴォオオ!!!



「そろそろうぜぇな」



何度も何度を狙って地面から突き出してくる針に、俺はだんだんイラついてきた。


すでに周囲は穴だらけであり、足場も無くなってきた。


本体を仕留める方法はまだ思いつかないが、俺はとりあえずこの鬱陶し尾部の針を先に消しておくことにした。



ボゴォオオ!!



「捻りがないんだよ」



斬ッ!!!



地面から突き出てきた毒針を、俺は跳躍すること

なく最小限の左右の動きだけで避けた。


そしてそのまま、すぐ近くにある地面から突き出たままの毒針を、地面に戻る前に片手剣で切り落とした。



『ギェエエエエエエエエエ!!!!!』



地面のあちこちに開いた穴から、悲痛な悲鳴が聞こえてきた。

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