第128話


シーン……


静寂がダンジョンを支配していた。


「ふぅ」


神拳によって不死竜を葬った俺は額の汗を拭う。


悲鳴を聞いた時はまさかと思ったが、確認しに来てみて良かった。


イレギュラーモンスターに人が襲われているところに出くわすなんて……それこそ桐谷の時以来かもしれない。


「大丈夫ですか?」


俺は振り返って、尻餅をついている仮面の女性に手を差し伸べる。


「あ、ありがとうございます…」


仮面の女性は徐に俺の手をとって立ち上がった。


「あの…怪我はありませんか?」


「…はい」


「大丈夫ですか?」


「…はい。おかげさまで」


「…?あの、なんでこっちみてくれないんですか」


「!?」


仮面の女性は、なぜかとても小さい、押し殺したような声で返事をする。


まるで何か気まずいことでもあるように、俺の方へ顔を向けようとしない。


「ほほほ、本当に助かりました…で、では私はこれで…」


疑問に思った俺が尋ねた瞬間、仮面の女性はあたふたとしてすぐにこの場を立ち去ろうとした。


俺は挙動不審な仮面の女性に首を傾げる。


「嘘…そんな…い、一体何が…?」


「ん?」


そんな声が仮面の女性の背後から聞こえてきた。


橋本アナウンサーが、口をぽかんと開けて呆然と立ち尽くしている。


そのすぐ近くではテレビ局のスタッフ達も、大体彼女と似たような表情で呆気に取られていた。


ガタン…!!!


すごい音を立てて機材が地面に落ちた。


「あっ」


「まずいっ」


呆然としていたテレビ局のスタッフ達が、取り落としたカメラ機材を慌てて拾おうとあたふたとする。


「そっちも大丈夫でしたか?」


俺は橋本アナウンサーとテレビ局のスタッフ達の元まで歩く。


仮面の女性だけでなく、こちらの無事も確認しておきたかった。


「毒ガスとか、こっちに来ませんでした?」


「へ?ど、毒ガス…?」


橋本アナウンサーがなんのことか理解できていないような声を出す。


「いやほら……ドラゴンの全身から紫色の霧みたいなの出てたじゃないですか。あれ、毒ガスですよ。こっちに来ませんでした?一応全部吹き飛ばしたつもりだったんですけど」


「あっ…あ、そ、そうでしたね…」


「…?もしかして戦い見てませんでした?」


あんまり要領を得ない橋本アナウンサーの返事に、俺はそう尋ねた。


橋本アナウンサーが、またしても曖昧な答えをする。


「見ていた…はずなんです…あれ、おかしいな…げ、現実ですよね…私が見ていたのは…白昼夢とか…そんなんじゃないですよね?」


「大丈夫ですか?」


俺は橋本アナウンサーの目の前で手を振ってみる。


橋本アナウンサーはなんだかぼんやりとした表情で、左右に揺れる俺の手を眺めている。


とても反応が鈍い。


疲れているのだろうか。


まぁともかく無事ならそれでいい。


「そっちも大丈夫ですか?」


俺は今度は彼女の後ろにいるスタッフ達に無事を問う。


スタッフ達が一斉にガクガクと頷いた。


「だ、大丈夫です」


「さ、流石です、神木さん…」


「すごいものが撮れてしまった…」


「我々は夢を見ていたのか…」


「ドラゴンが一瞬で……」


「現実なのかこれは…」


何やらスタッフ達はぶつぶつと呟いているが、全員無事そうだった。


俺と不死竜の戦いも無事に撮れていたらしい。


(よし…!)


俺は密かに心の中でガッツポーズする。


イレギュラーで出てきた深層モンスターをテレビの視聴者の前で拳一本で倒すことができた。


多分これは大きな宣伝になったと思う。


あの仮面の女性にとってはもう勘弁してほしいハプニングだっただろうが、俺にとっては嬉しい誤算だったな。


結果誰も死んでないし、俺は自分の名前を得ることができた。


俺はそんなことを考えながら、上機嫌でスタッフ達に尋ねる。


「どうします?まだまだいっちゃいます?」


「いや、それはちょっと…」


「流石に引き返しましょう…」


「ば、化け物…」


「イかれてる…」


「本当に人間なの…?」


俺の意気揚々の提案に、スタッフ達はぶんぶんと首を振った。


残念ながら、その日の俺の探索生中継はそこで打ち切りとなったのだった。



= = = = = = = = = = 



#神木拓也テレビ出演実況スレpart105


0239 名無し

終わったかあああああああああ


0240 名無し

楽しかったああああああああああああ


0241 名無し

すげえええええええええええええ


0242 名無し

神木今回もしっかり爪痕残したな


0243 名無し

イレギュラーで深層のドラゴン登場(二回目)って……大将どんだけ運悪いんだよ…いや、逆に運がいいのか…?


0244 名無し

>>243

探索者としてなら凶運。

配信者としてなら強運。


0245 名無し

>>244

上手いこと言うなぁ。


0246 名無し

仮面の剣姫ちゃん助かって良かったね


0247 名無し

神木が間に合わなかったら危うく全国にグロ映像が配信されるところだったな


0248 名無し

結局神拳お披露目されててわろたw w w


0249 名無し

早苗ちゃんもう何が起こったのか理解すら出来てなくて草


0250 名無し

これでまた神木拓也の株が上がったな


0251 名無し

これ視聴率相当えっぐいことなってるやろ


0252 名無し

テレビの生放送で見る神木は新鮮だったな。またやってほしいわ


0253 名無し

もうテレビはこの路線で行けよw w w

そしたら毎日見るぞw w w


0254 名無し

くだらない旅番組もグルメ番組も全部終わらせてこの路線で行ったらテレビ人気復活するやろw w w


0255 名無し

そら、こんな面白いコンテンツが無料でゴロゴロ転がってるんだったらネットに行くわなw


0256 名無し

>>255

今日でテレビの視聴者も気づいちゃったやろなw

テレビは神木拓也使って視聴率稼げてほくほくかもしれんけど、長い目で見たら視聴者どんどんネットに流れていって自分の首絞めてるやろw w w


0257 名無し

おいお前ら大変だ!!!

神木のチャンネルとアカウントが大変なことになってるぞ!!!


0258 名無し

お?


0259 名無し

ん?


0260 名無し

どうした?


0261 名無し

テレビ効果やばい!!!

フォロワーがえっぐい伸び方してる!!!

更新するたびに一万人ずつ増えていくんだがw w w


0262 名無し

ほんとだすっっっっっげw w w


0263 名無し

>>261

別にそんなに驚くことか?


0264 名無し

いつものことじゃね?


0265 名無し

神木の深層配信の後は大体そんな感じやぞ。

別に神木にとっては珍しくもないやろ


0266 名無し

>>265 だよなw


0267 名無し

神木拓也にのめり込みすぎて数字感覚バグってる奴いら^^


0268 名無し

お、仮面の剣姫ちゃんが配信開始したぞ。

お礼&謝罪配信だって。


0269 名無し

チャンネル登録者50万人!?

なんかこいつめっちゃ伸びてね…?

さっきまで30万人ぐらいじゃなかった…?


0270 名無し

>>269神木効果やろなぁ…


0271 名無し

こいつの配信、不死竜に襲われてからもずっとついてて、最後らへん神木の視聴者が傾れ込んで同接えぐいことになってた。

完全に神木のおかげ。


0272 名無し

神木拓也効果えぐすぎw w w

ちょっと関わっただけで一気に二十万人登録者増えるとかえぐいやろw w w


0273 名無し

>>272

神木で売名しようとする奴らが増えるやろなぁ…


0274 名無し

神木に関わればこんだけ伸びること証明されたからな。

凸者とか増えるやろな。


0275 名無し

>>274

間違いない


0276 名無し

面倒臭い奴に絡まれる大将可哀想;;


0277 名無し

>>276

有名人の宿命やなぁ…


0278 名無し

つか謝罪ってどう言うこと?

お礼は神木へってことだよね?


0279 名無し

>>273

ちゃんと命救ってもらったお礼言えなくてごめんなさい、だって。


0280 名無し

確かにこいつ、神木に話しかけられた時、まともに顔見れてなかったよな。

あれ、なんでなん?

熱狂的なファンだったとか?


0281 名無し

気が動転してたとか言い訳してるけど絶対に違うよな。

なんか気まずそうな雰囲気漂ってたし。


0282 名無し

よくわかんないけどまぁ、死人も出なかったし、神木は名前売れたし大団円やろ。


0278 名無し

また私の神木様に近づく邪魔な女が一人……









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る