第129話


「地上波生放送デビューおめでとう!いやぁ、今回も大いに楽しませてもらったよ!」


例の如く生徒達に校門のところでもみくちゃにされ、逃げるように校舎の中へ入ったらそこでも寄ってたかって握手やサインを求められ、そしてやっとの思いでクラスにたどり着いた途端、今度はクラスメイト達から色々と質問を受ける羽目になった。


生放送どうだったとか、ギャラはいくらとか、芸能人とあったか、とかクラスメイト達の矢継ぎ早の質問を捌いてやっとのことで自分の席に座ったところ、今度は悪友の風間祐介に意気揚々と話しかけられた。


「…そうかい」


ニヤニヤしながらこっちをみてくる祐介だったが、もはや俺に何か気の利いた受け答えをする余力は残っていない。


曖昧に笑って誤魔化して、ぐったりと机に突っ伏した。


ちなみに現在クラスの外では、動物園のパンダでもみにきているが如く、他クラス他学年の生徒達が詰めかけて俺を指差して何かを話したりヒソヒソ噂をしていたりする。


「人気者だなぁ。ははは。友人として誇らしいぜ」


そんな様子を見て祐介は心にもないことを言っている。


こいつのことだからこの状況を、他人事だと思って心底楽しんでいるのだろう。


「いやー、神木くんよ。君ももうすっかり芸能人って感じだなぁ。これからも頻繁にテレビには出演するのかい?」


「どうだろうな」


曖昧に答えて誤魔化す。


実を言うと、番組が終わってからすぐに次回も是非という提案がきた。


また他のテレビ局からも、今度はうちのテレビでぜひ、というオファーがあったりしたのだが、流石に保留にさせてもらっている。


俺自身の精神の磨耗もあるし、単純に俺はネット配信者だから。


テレビ出演は、あくまでネットでの人気を得るための手段であって、本文はそこではない。


たまにネットを踏み台にしてテレビで人気を得る人たちもいることにはいるのだが、別に俺はそこを目指しているわけではない。


俺の目的は今も変わらず、より多くの人に俺のダンジョン配信を見てもらうことである。


「マジで面白かったぜ。久々にテレビみてワクワクしたよ。早苗ちゃんの可愛いところもいっぱい見れたし……マジでグッジョブだったぜ。ははは」


「早苗ちゃん…?」


「お前の探索を実況してた女子アナ。橋本早苗アナウンサー」


「あぁ…あの人か…」


「な、なぁ、神木……つかぬことを聞くが…お前、早苗ちゃんと連絡先交換したりしてないよな?」


「…」


「お、おい…?まさかお前…早苗ちゃんの連絡先を…」


「なわけあるか。スタッフだけで、出演者とは連絡先を交換してねーよ」


俺がそういうと、ギラついた目をしていた祐介がガックリと肩を落とした。


「なんだ…そうだよな…はぁ」


「なんだお前。女子アナ追っかける趣味あったのか?」


「まぁ、な。あの子はあの局のネットのモーニングニュースでおじさん達に媚びる売り方させられてた頃から追いかけてるんだ……ようやくテレビでも見かけることになった時は自分の子供のように嬉しかったというか……同時に人気になっていく彼女を見て、手塩にかけて育てた子供が自分の手から離れていくのににた寂しさを感じたり…」


「なんかお前セリフがおっさんくさいな」


何が子離れだよ。


親になれるような歳でもないくせに。


…しかし、こいつアナウンサーの追っかけとかまでやってたのか。


本当に多趣味というか、ネットのことなら何にでも精通している男だな。


「まぁいいさ…早苗ちゃんが幸せになってくれればそれで……それよりも、お前、本当に配信者として持ってる奴だよなぁ…」


落ち込んだ表情から一転、また俺をいじるモードになる祐介。


「何が?」


「イレギュラーだよ。まさか桐谷の時と全く似たような状況でイレギュラーが起こるなんてな。お前にとってお膳立てもいいところだ」


「ああ…不死竜のことか…確かにあれは俺も驚いたぞ」


番組最終盤で突然前方からきこえてきた悲鳴。


もしかしたら人が襲われているかもしれないと思い、俺は番組をほっぽりだして駆けつけた。


勘違いだったらスタッフに怒られていただろうが、結果的にそこには、イレギュラーの深層モンスター、不死竜に襲われている女性の探索者がいた。


俺はそんな彼女を不死竜から助けて、そこでちょうど番組は終了となった。


まさに台本があるかのような展開だったが、全て偶然の産物である。


そしてその状況は、俺が伸びるきっかけになった桐谷を助けたあの時と非常に酷似していた。


まさか人生で二度もこんなことがあるなんてな。


「あの仮面の人にとっては恐怖だったろうけど……俺にとってはラッキーだったかもな。見せ場作れたし」


「本当、お前配信やっててよかったな。普通の探索者だったら、不運なんてレベルじゃないぞ?イレギュラーで現れたドラゴンに二度も遭遇するなんて」


「まぁ、そうだな」


俺は祐介とそんな話をしながら、ひたすら教室の外から送られてくる生徒達の好奇心の視線を無視し続けた。



ピンポンパンポーン……



「「…?」」


不意に校内放送のアナウンスが流れた。


“呼び出しです。2年の神木拓也くん、神木拓也くん。澤村恵美先生がお呼びです。至急職員室までお願いします…繰り返します……2年の神木拓也くん、澤村恵美先生からの呼び出しです。至急職員室まできてください”


校内放送で俺の名前が呼ばれて、ドキリとしてしまう。


クラスメイトや、廊下にいた生徒達も一度俺を見て、それから校内放送の放送口に視線を移す。


祐介がポンと俺の肩を叩いた。


「お疲れ。何やらかしたのか知らんが行ってこい」


「え…これ叱られるやつかな…」


校内放送で呼び出しなんて滅多にない。


俺は何かやらかしただろうかと色々心当たりを探ってみるが、しかし何も思い浮かばない。


「恵美ちゃんからの呼び出しか。おおかたこの間の小テストか……お前英語苦手だもんな。それとも何か宿題の不提出か?」


「いや…プリントとかは提出してるぞ…?マジで心当たりがないんだが…確かにこの間の小テストはボロボロだったが…」


俺を呼び出したのは、恵美ちゃんという愛称で呼ばれている英語教師だった。


性格は温厚で、美人でスタイルもいいため、生徒から好かれている。


祐介のいう通り、確かに俺はこの間行われた英語の小テストの出来は良くなかったが、恵美ちゃんは小テストの点数が低い生徒をわざわざ呼び出して説教するような先生ではない。


「とりあえず行ってこい」


「お、おう…」


俺は祐介に背中を押され、廊下に詰めかけていた生徒達の間を縫うようにして職員室へと向かったのだった。


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