第120話


その後、俺はあの格闘系のモンスター(後から調べるとキョンシーという名前がついているらしい)や、白竜、そしてボス戦の様子を視聴者とともに振り返っていった。


特に盛り上がったのは、白竜との戦いだった。


回復力が異様に強かった白竜との戦いで、俺は神拳という技を生み出した。


目の前の倒す事に特化した技で、神斬より使い勝手もいいことから視聴者たちからも評判がいい。


白竜戦が終わった後、なぜかチャット欄には「白竜ナイス」「こいつぐう有能」「神拳を大将に生み出させたこいつはマジでナイス」「よくやった」と白竜を称賛するようなコメントがたくさん流れた。


と、まぁそんな感じで俺は深層配信を視聴者と共に振り返り終えて、配信を終えた。


ちなみに配信の最後らへんに桐谷から



¥50,000

深層踏破おめでとう\\\٩(๑`^´๑)۶////

さすが神木くんだね!これからも一視聴者として応援してます!!




というスパチャが届いてちょっと盛り上がった。


おそらく配信の邪魔にならないように最後の方にスパチャを送ってくれたのだろう。


雑談配信は最終的に同接30万人に到達していた。



「ふぅ…」


配信を終えた俺は、パソコンの電源を落とし

て一息つく。


しばらくスマホでエゴサをして自分の配信の評判などを確認した後、シャワーでも浴びようと立ち上がった、その時だった。


スマホに電話がかかってきた。


「えっと……誰だっけこれ」


見たことがあるような名前が画面に表示されていた。


「あ、そうか…この間のテレビ局の…」


俺はしばらく考えてから、その名前がこの間のテレビ出演の時に番号を交換したテレビ局のスタッフのうちの一人のものだったと思い出す。


「はい、もしもし、神木です」


「あっ、神木さんですか!?夜分遅くに申し訳ございません…実はですね…」


電話に出るとテレビ局のスタッフの人は、夜遅くにかけてしまったことを謝りながら、すぐさま本題へと入った。


「え…そんな……いいんですか?」


テレビスタッフからの驚きの提案に、俺はしばしその場で固まってしまうのだった。




それから二週間後の週末。


「みなさんこんにちは!!フリーアナウンサーの橋本早苗です!私が今どこにいるかわかるでしょうか……?なんと……私は今、ダンジョンの中にいます!!!」


有名な美人アナウンサーがダンジョンの上層の入り口付近でカメラの前でマイク片手にそんなことを喋っている。


隣に装備を身につけた状態で立っている俺は、緊張にごくりと唾を飲んだ。


「ダンジョンといえばモンスター。モンスターといえばダンジョン!ダンジョンには危険なモンスターがいっぱいいると同時に、今の私たちの生活には欠かせない資源がたくさん眠っています!!」


アナウンサーの人が、最初から決められたのであろう口上をスラスラと口にする。


カメラの後ろに控えた監督やスタッフたちがこちらを見てうんうん、いい感じだぞと頷いている。


「今日はそんな危険なダンジョンを日頃、開拓している探索者の実態に迫ろうという番組です!!!」


そういったアナウンサーが、横にいる俺を見た。


カメラも俺を正面に映す。


「そしてなんと今日は……今話題の高校生探索者、神木拓也さんに番組に来てもらっています!!!今日は大人気配信者でもある神木拓也さんに、ダンジョン探索の極意を教わりたいと思います!神木さん…!」


「は、はい…!」


アナウンサーにマイクを渡され、俺は緊張しながらもカメラの前で自己紹介をする。


テレビに映るのはこれで二度目なのだが、相変わらず慣れない。


俺は噛まないように暗記した自己紹介を口にしながら、こうなった経緯について思い出していた。



『え、俺のダンジョン配信をテレビで…?』

『はい…!』


きっかけはテレビ局のスタッフからの一本の電話だった。


前回の俺の出演したあの番組。


聞けば、若者からお年寄りまで,かなり広い世代において高視聴率を記録したらしい。


これはテレビ局によっては嬉しい誤算で、もう一度ダンジョン配信者関連の番組を放送しようという事になった。


そこで白羽の矢が立ったのが俺である。


『神木さんの普段ネットで放送しているダンジョン配信…ぜひテレビでやらせてもらえないでしょうか?』


『逆にいいんですか…?』


『はい、もちろんです!』


なんでも、あの番組において一番視聴率が高かったのが俺が出演していたシーンらしい。


なのでこの番組に一番適役なのは俺しかいな

いという話になったらしい。


『わかりました…じゃあ、この話、受けさせてもらいます』


『ありがとうございます!では詳しい日程や番組内容について今から資料を……』


俺としては願ってもない話だった。


テレビで自分の配信を流してもらえるなんて、配信者としてこんなにありがたいことはない。


自分のチャンネルの宣伝にもなるし、断る理由はなかった。


俺は電話がかかってきたその日に、特に迷うことなく即決した。




……そして、現在。


アナウンサーの番組の前口上も終わり、いよいよ番組本編へと入ろうとしていた。



「それでは、これから神木拓也さんと一緒にこの東京の×××ダンジョンを攻略していきます…!それでは神木さん!よろしくお願いします!」


「は、はい…!」


俺は頷いて、武器を片手にダンジョンの中を進み出す。


アナウンサーやテレビ局のスタッフたちが、先頭の俺の後についてくる。


緊張する。


いつもは自分に視聴者に向けだが、今回は全

く見ている視聴者層が違う。


中にはダンジョン配信を全く見たことがないという人たちもたくさんいるんじゃないだろうか。


そんな人たちに本当に自分の探索の様子を楽しんでもらえるのか、正直いってあまり確信がなかった。



(いや…ネガティブになるな…いつも通り配信している感じでいいって言われてるし……俺はへんなことはせずにモンスターを倒せばいいんだ)



俺は心の中で自分にそう言い聞かせる。


これがテレビだろうとネットだろうと変わらない。


俺はダンジョン配信者。


であればやることは一つ。


ただひたすら、目の前のモンスターを倒すのである。



「頑張りましょう、神木さんっ」


「は、はい」


俺が緊張していると見たのか、アナウンサーが小声でそんなことを言ってくる。


俺ははいと頷いて、深呼吸をし、少し上がっていた動悸を整える。


この番組、絶対に成功させなければならない。


失敗したらオワコン……成功したら同接激増……


そんなことを自分に言い聞かせながら、俺は

武器を握り、ダンジョンの奥へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る