第119話
「えー…つ、次の深層モンスターとの戦いのシーンに移ります…」
ショート動画のキッズコメントを見た視聴者の一部が怒り、コメント欄が荒れ始めた。
「キッズ」「ガキ」「にわか」と言ったコメ
ントがチャット欄に溢れ出し、俺は慌てて次の戦いのところまでアーカイブを進める。
「次は……あ、こいつか」
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……
画面から聞こえてくる不気味な奇声。
あの女の巨人のモンスターが、暗闇の中から出てきてこちら側に迫ってきていた。
“きたああああああああ”
“こいつか”
“八十尺様きたあああああああああああ”
“こいつ怖すぎ”
”間違いなく最恐のモンスター“
“個人的に今回の探索で一番怖かったのはこいつだわ”
“でた”
“こっっっっっわ”
“デカすぎ”
”こいつはインパクトデカかったわ“
この女の巨人のモンスターは、後から調べたところによると、八十尺様、なんて言われているらしい。
正式名称かどうかはわからないが、体長が80尺ぐらいありそうだから、と言うのが名前の由来らしい。
視聴者は「最恐のモンスターだった」「一番怖かった」とこの八十尺様との戦闘を振り返っている。
確かに俺自身でも、今回の深層探索配信で一番インパクトに残ったモンスターはと言われたら、間違いなく真っ先にこいつを挙げるだろう。
デカさも去ることながら、その見た目や挙動、鳴き声もどこか妖怪じみていて間違いなく「最恐」のモンスターだといえた。
「神斬」
八十尺様には、食べたモンスターの特性をその体に取り込む能力があった。
神木サーで追い詰められた八十尺様は、その皮膚をドラゴンの鱗で強化して再び襲いかかってくる。
最後には俺は神斬を使って、八十尺様の巨体を真っ二つにして仕留めていた。
”世界割ってて草“
”やっぱ世界割れてるよな、これ“
”うーん、w最強w“
”強すぎて草なんよw“
”正直霊体になったり回復力がやばいやつ以外に対しては神斬が最強だよな“
「第二層の終盤で出会ったから良かったですけど……初っ端からこいつが出てきたら少し厄介でしたね」
あの時は現在地がほとんど第二層の終盤だったからこそ、神斬を使うことが出来た。
他の探索者に誤って神斬を当ててしまう危険がほとんどなかったからだ。
しかしこいつがもし第二層の序盤で出てきたら、この時の俺からしたらかなり厄介だったはずだ。
深層に潜る探索者は探索者全体のほんの一部だが、それでも同じ階層に居合わせる確率はゼロではない。
第二層の序盤でこの八十尺様が出てきた場合、俺は神斬を使えず、倒すために他の手段を考え出す必要があっただろう。
“まぁ確かにな”
“この時の神木にとっては確かに階層序盤に出てきたら面倒だな”
”神斬縛りプレイしないといけないもんなぁ“
”あくまで“この時の神木“だけどな”
“今は神拳があるからw”
“今の神木ならこんなん神拳で一発よ”
“神拳最強すぎる。神斬と違って使い勝手がいいし、回復能力持ちキラーでもあるからな”
“タイマン最強技やねw”
しかし、厄介だと言うのはあくまで“この時の神木拓也”にとってだ。
チャット欄でも言われている通り、今の俺には白竜との戦いで生み出された“神拳”と言う技がある。
神拳はその威力を目の前の敵に集中させる技であり,他の探索者を傷つけてしまう心配もない。
もしこの先もう一度八十尺様に出会うことがあれば、俺は迷わず神拳を使うだろう。
“神拳最強!”
“神斬より神拳の方がすこw”
“マジで白竜様様だろ”
“つか大将こんなに強いのにまだ成長の余地残してんのやばすぎw”
“こいつはじめっから化け物だったのに、どんどん強くなっていくのやばいわ”
”この速度で強くなっていったら一年後には人間辞めてるだろ“
”いや、人間自体はすでに辞めてる。多分一年後、神木は神になっていると思う“
“一年後の神木、敵を睨みつけただけで殺してそう”
“一年後の神木、何もせずともモンスターを呪い殺す技とか使ってそうw”
”↑あり得ない、と言いたいけど神木ならマジでありそうなんだよなw“
(配信者としてだけじゃなく、探索者としても成長してるのはいいことだな)
俺は探索者としての自分の成長を実感できて、達成感で満たされていた。
その間、コメント欄では、一年後の俺はモンスターを呪い殺してそうとか無茶苦茶なコメントが書かれまくる。
「いや、流石に呪い殺すとかそんなのは無理ですから。俺をなんだと思ってるんですか?」
”見られてたw“
”ちゃんとコメント見てら^^“
“いや、少なくとも人間ではないと思ってますが?”
“何って……神?もしくは悪魔?”
“死神。モンスターにとっての”
“人外”
“冗談抜きでお前ならやりそう”
“世界斬ったりブラックホール生み出してる人外探索者がなんか言ってる…”
”これだけのことをしておいて人間扱いしてもらえると思うなよ“
”大将。自分の今までの行動、振り返ってみてください“
「えぇ…」
なぜかコメント欄で逆ギレされまくる俺。
人間扱いしてもらえると思うなよとか今までの行動を振り返ってくださいとか散々言われている。
俺はそんなにおかしいことをしただろうか。
ただ深層モンスターをソロでも倒せるように、『適合』してきただけだと思ったんだが。
「まぁいいです。次にいきましょう、次…」
俺はため息を吐いて、アーカイブを次のモンスターとの戦闘まで飛ばす。
「お…デュラハンか。そうだ。そうだった」
次の新種の深層モンスターとの戦闘はデュラハンだった。
首なし騎士が馬に乗っている奇怪な見た目。
確かその能力は、相手の力を減衰させるものだったはず。
”デュラハンきたw w w“
”逃亡したデュラハンさんw w w“
”こいつ一番弱かった“
”一番雑魚なやつ“
”こいつはマジで弱い“
”いや、弱い弱いって言われてるけど弱いわけあるか。深層モンスターだぞ“
”お前ら勘違いするなよ?弱く見えただけな?神木が強すぎるだけ“
”こいつは果てしなく神木と相性が悪かった。以前に有名深層クランを半壊させて敗走に追い込んでるし絶対に弱くはない“
”まぁ神木からいくら力を引いたところでそこにあるのは神木だから“
”神木−力=神木“
”↑神木無限で草“
”神木=♾️。ゆえに、神木−力=神木。以上QED”
”なんかチャット欄で証明問題始まってて草“
後から戦闘を振り返ってみると、このデュラハンと呼ばれているモンスターのデバフ能力には効果範囲があった。
おそらく正しい攻略方法は、そのデバフ能力の範囲からでた上での遠距離攻撃だろう。
こいつもハーピー同様本体の能力はそこまで高くない。
だから遠くから斬撃を放つだけで何は仕留められたはずだ。
しかし俺は配信の都合もあって敵の出方を見た。
結果として俺はまんまとデュラハンのデバフ能力を受け……その上で難なく勝利を収めた。
「なんか……水の中にいるみたいで多少体が重いなぁ…程度だったんですよね」
“草”
“わろたw”
“うーん、これは無限”
“神木=♾️”
“これは神ですわ”
“天国でデュラハンが泣いてます;;”
“世界は残酷だなぁ…”
“大将って無限の存在だったんですね…”
“深層モンスターの渾身のデバフが、多少体が重いなぁ程度で草”
確かにデバフの効果は感じだのだが、戦闘に支障がある程度ではなかった。
結果的に俺はデバフ攻撃を受けながら難なくデュラハンと切り結び、最後は背を向けて逃げようとしたところを呆気なく仕留めてしまった。
ハーピーと八十尺様との戦闘がそれなりに見
応えがあったのに対し、このデュラハンとの戦闘はかなり物足りなかったと記憶している。
まぁ相性の問題もあるのだろう。
「デバフ系の能力はもしかしたら俺、得意かもしれないです。それじゃあ…次にいきましょう」
俺はデュラハンとの戦闘の振り返りを早めに切り上げて、次の戦闘へと移っていくのだった。
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