第118話
「と、とりあえずこの間の深層配信についてみんなで振り返りません?」
コメント欄で恋愛事情について聞かれまくり、どうしようもなくなった俺は苦しげにそう切り出した。
チャットはとにかく俺の色恋を探るようなピンク色の質問で埋め尽くされていた。
”誰に告白されたの?“
”おい神木。隠すな。マジで教えろ“
”桐谷奏が相手だったら普通に応援する“
”同じクラス?同じ学年?“
”大将ー?^^なんで隠そうとするのー?^^“
”神木はなんだかんだ非リアだと思ったのに……“
”神木は俺たちと同類でそういう話には縁がないタイプだと思ったのに…“
”いや、なんかショック受けてる奴らいるけど、こんだけ知名度あって影響力もあって女いない方がおかしいだろ“
”今の大将に女がいなかったら俺は大将不能説を唱えたい“
“今の神木ならぶっちゃけファンの可愛い子とか食い放題やろな”
“ぶっちゃけ何人彼女いますか?”
“狙っている芸能人いますか?”
“大将なら芸能人とかグラビアアイドルいけますよ。狙っていきましょう!”
神木なら有名女優と付き合ってても違和感ないわ“
”マジで大将の恋愛話聞きたいっす“
(えぇ…なんでみんな俺の恋愛事情とかに興味あるんだ…?)
この話題になってからなぜか同接も増えて現在は25万人。
こんな人数の前で自分の最近の恋愛事情について根掘り葉掘り吐かされるとかはっきり言って地獄だ。
というかなぜ皆こんなに俺に彼女がいるのかどうか知りたがるのだろうか。
一応俺のチャンネル、ダンジョン配信専門のチャンネルなんだが。
俺にはとにかくダンジョンで潜ってモンスターで戦うことを求められていると思ったが、なぜか日常のことにまで視聴者に興味を持たれてしまっている。
そういうマーケティングで運用しているチャンネルならいざ知らず、俺がここまでしてきたことといえば、ひたすらダンジョン攻略する配信とその合間の雑談配信ぐらいである。
動画投稿者や配信者がやりがちなモーニーングルーティンとか、料理動画とか、ペットの紹介とか、そんな日常系の動画や配信は一回も公開していない。
にも関わらず、なぜ俺のパーソナルな部分までこんなに興味を持たれてしまうんだ。
「い、一応今日のこの配信はこの間の深層ソロ配信を振り返るつもりでとった枠なので……というわけで、みんなで深層配信見ていきますよ…!」
俺は無理やりこの話題を打ち切って、すでに二千万回も再生数が回っている自分のアーカイブを再生した。
“あ”
“あ”
“おい”
“逃げるな”
“おい”
“あ?”
“逃げんじゃねぇ”
“逃げた”
“大将かっこ悪いぞ”
“往生際が悪いぞ”
“すべて曝け出せ”
“大将何逃げようとしてんすか?”
“おい神木。逃げるんじゃねぇよ”
”逃げた^^”
”お前らなんでそんなに神木の恋愛事情に興味あるんだよw w wほっといてやれよw w w“
”女視聴者です。神木くんの恋愛話、聞きたいです。割と率直に“
”神木様……もし彼女とかいたらショックだけど……私…本命じゃなくてもいいから……都合のいい女でいいから……神木様のそばに置いてほしい…;;とりあえず新作送っときます;;使ってくれると嬉しいな;;“
チャット欄に「逃げた」だの「かっこ悪い」だの散々書かれるがすべて無視して、俺はアーカイブ振り返り配信を強行する。
「し、深層攻略のところまで飛ばしますねー?下層までの攻略は他のアーカイブでも観れると思うので…」
俺は下層までの部分を飛ばし,深層攻略開始の部分からアーカイブを振り返っていく。
『ァアアアアアアアアア!!!』
聞こえてくるモンスターの鳴き声。
普段自分のアーカイブを見返すことがあまりない俺は、少し新鮮な気持ちで当時のことを振り返っていく。
「最初に出会った新種の深層モンスターハーピーでしたね。攻撃を当てられた時は正直びっくりしました…」
ハーピー。
未来視の能力を持ったモンスターだ。
地上に帰還してから調べたところ、このハーピーには弱点があり、それは二人以上の対象に対して未来視の能力を使えないというものだった。
だが、初見だった俺はもちろんそんな情報は知らない。
結果的に未来視の能力にまんまと絡め取られ、俺は一発攻撃をもらうことになってしまった。
幸いだったのはハーピーの攻撃力があまり高くなかったことか。
”まぁ、今日はこのぐらいで勘弁してやるか“
”ハーピー普通に強かったよな“
”ちっ…うまく逃げられたか…“
”次は逃がさないですからね?大将?“
”未来視の能力はぶっちゃけずるい“
“こいつ一対一の戦いでは最強格のモンスターなんやろ?むしろ簡単に倒しすぎやろ”
”自分の死を悟ってしまったハーピーくん“
”もう今日までに何回も見返したけどまたこうやってみんなで見るのもええな“
”話逸らしやがって…覚えとけよ?“
“ハーピーは普通に強かった”
“こいつ初見で倒すのなかなかむずいやろ”
まだ俺の恋愛事情を問い詰められなかったことを悔しがっているコメントがあるものの、大部分の視聴者が、ハーピー戦に関する感想を書き始めた。
なんとか話を逸らすことに成功し、俺は内心ほっとため息を吐く。
「で、俺ってこいつどうやって倒したんでしたっけ……あ、そうか」
未来視の力を持ったハーピーをどうやって倒したのか思い出そうとしていると、すぐに画面から答えが得られた。
未来視の力で俺に攻撃を当て、斬撃を簡単に避けていたハーピーが不意に動きを止めた。
次の瞬間、俺の繰り出した無数の斬撃が、ハーピーに飛来して、ズタズタに切り裂いていた。
“えっっっっっっぐ”
“やっぱこれおかしいわw”
”ハーピー;;“
”自分の死を悟るの可哀想すぎるw w w“
”何回見てもやばいわw ww“
“すげーw w w”
”うーん、未来を読まれて攻撃避けられるなぁ……せや!未来を読んでも避けられないぐらいの弾幕を張ればいいんや!←脳筋すぎるやろw w w“
”未来視使っても避けられないほどの手数を繰り出せばいいんだ!っていう発想もおかしいし、それを実際に実行できるのもイカれてるw w w“
¥10,000
”大将!今日も配信お疲れ様です!この間は大将がすぎすぎてスパチャ忘れてたのでこの枠で投げます。ところで、ハーピー戦のショート動画がかなりの再生数回ってて、にわかキッズどもの意味不明なコメントにめっちゃいいねついてたのが許せないです。その動画だけ著作権侵害で通報で消しませんか?大将が過小評価されるのが許せないです“
「あ、スパチャありがとうございます……えっと……ショート動画で意味不明なコメント……?どういうことですか?」
“やべぇ、狂信者きたw w w”
“やばいファンきたw w w”
“過激なやつやんw”
”一万円スパチャできる財力を持ちながらこのいかれ具合w正直好きw“
”別にショートと動画とかほっといてやれよw w wあそこはキッズどもの巣窟なんだからw w w“
”こっっっっっわ”
“なんか最近カロ藤糸屯一視聴者よりも神木視聴者の方が怒らせると怖いんじゃないかって思ってるわ”
“あー、あれな。俺も見たわ。ダンジョン配信見たことなさそうなにわかどもが色々偉そうにコメントしてたわw”
「えーっと…ちょっと調べてみますね…」
一万円という大金をもらった手前スルーするわけにもいかない。
俺はショート動画で検索をかけて、俺のハーピー戦の動画とやらを確認する。
「これかな?」
ハーピー戦のショート動画は、さまざまな投稿者がいろんなBGMや編集で投稿していたのだが、一番再生数が回っているものがこの視聴者が言っている動画らしい。
俺はそのショート動画を再生して、コメント欄を確認してみる。
このハーピーとかいうモンスター、普通に弱くね? いいね5000
なんでこいつ最後動き止めたの?馬鹿なの?ゴブリンでもこんなことねぇぞ?
いいね3000
最近この神木拓也って人のショート動画ばっかり流れてきててうざい。ダンジョン配信のことよくわからないけど、深層ってこんなに雑魚そうなモンスターばっかりなんですね
いいね1000
「な、なるほど……確かに結構荒れてますね…」
コメント欄にはおそらく普段ダンジョン配信をあまりみていないであろう層の、ハーピートの駆け引きを全く理解していないコメントがたくさん書かれていて結構いいねがついていた。
普通の長さの動画に比べて、いわゆるショート動画を見ている年齢層はかなり低いと言われている。
おそらくメイン視聴者は中学生や小学生の子供たちだ。
その中にはダンジョン配信を一度も見たことのないという子も多いだろうから、この反応もまぁ理解できなくはない。
それと、コメント欄には結構流れみたいなのがあって、最初についたコメントが動画に肯定的なものなのか否定的なものなのかによってコメント欄の流れが一気に変わったりするのだ。
最近は動画はコメント欄とセットで楽しむものという文化がすでに出来上がっており、視聴者は動画に対する評価において、コメント欄の影響を大きく受けてしまう。
…何が言いたいのかというと、こういうのをいちいち気にしていてもあまり仕方がないということだ。
”にわかキッズどもさぁ…“”
“ガキどもw w w”
“何もわかってないガキどもが知ったかぶりしてら^^”
“母親のスマホで見てそうw”
“クソガキども”
“キッズどもさぁ…”
“マジでチックトックとかつーべのショート動画とか見てるガキどもの民度終わってるよな”
“明らかにキッズで草”
“このユーザー名『優斗』とかいうやつわんちゃん本名だろ”
“クソガキ444444444”
「ま、まぁこういう意見もありますよね……放っておきましょう。荒らしちゃダメですからね?俺は全然気にしてないですから」
チャット欄が一気に「ガキ」「キッズ」というコメントで溢れかえる。
俺は視聴者に荒らしたり通報したりしたらダメだと釘を刺した上で、そのショート動画を閉じて振り返り配信に戻ったのだった。
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