第117話


「こんにちはー……今日は雑談配信やっていこうと思いまーす」


放課後。


特に寄り道することもなく帰宅した俺は、早速配信を始める。


土日の深層ソロ攻略配信から二日後。


今日はダンジョン配信ではなく雑談配信である。


視聴者と、この間の深層配信について振り返りながら、色々と今後の予定などについても話していくつもりだった。



“やああああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおおお”

“きたああああああああああああ”

“やあ”

“やあ”

“やああああああああああ”

“待ってた”

”どりゃあああああああああ“

”やあ“

”やあ“

”にょっす!“

”おいっす“



配信を始めてすぐに「やあ」の挨拶と共に視聴者が傾れ込んでくる。


200万人越えの同接を記録した深層配信の後とあって、配信開始からたった数秒で二万人以上の視聴者がやってきていた。



“仕事終わりの電車で見てます”

“大将;;ずっと待ってました!!”

“ちゃんと休めた?”

“フォロワーめっちゃ増えたなお前”

“大将この間は新たな伝説おめでとう”

”学校帰り?だよね。お疲れ”

“大将やあ”

“待ってたぞ神木”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”



「お仕事にお疲れ様です……ええと、とりあえずこの間の深層配信お疲れ様でした。きてくれた方はありがとうございます。おかげさまでチャンネル登録者もかなり増えました。一応自分的には大成功だったと思ってます。皆さんはどうでしょうか?楽しめましたか?」



十時間以上にわたった前回の深層配信。


同接はボス討伐のピーク時で230万人を記録して、前回の初深層配信の時の記録を大幅に塗り替えた。


チャンネル登録者もSNSアカウントのフォロワーもそれぞれ現在までに100万人近く伸びている。


とにかく数字が伸びたということで配信者の俺としては大成功だったのだが、視聴者はどうだっただろうか。


俺は深層配信の感想を視聴者に求めた。



”マジでやばかった“

”感情ぐちゃぐちゃになった“

“凄すぎて逆によくわかんなかった^^”

”めっちゃハラハラした“

”大将が死んじゃうんじゃないかと心配だった“

“神木拓也が最強だった”

“文句なしの神回だったぞ”

“神枠定期”

”普通に前回の深層配信よりも面白かった“

”えぐかった“

”マジで神回すぎて何回も見返してる“

”アーカイブの再生数二千万回で草。えぐすぎやろw w w“

”アーカイブの再生回数いかれてるわw“

”十時間以上のアーカイブがこんなに再生されているの見たことねぇよw“



「配信見返してくれてる方もいるみたいですね、ありがとうございます」



視聴者の反応は、上々と言ったところだった。


ハラハラした、心配だったという声もあったが、しかし大部分の視聴者が深層配信を楽しんでくれたようだった。



「アーカイブの再生、2000万回もありがとうございます」



視聴者に言われてチラリと確認したところ、深層配信のアーカイブの再生数がすでに二千万回を突破していた。


動画投稿サイトであるつーべは、長時間のアーカイブの再生回数は伸びにくい傾向にあるが、それでも数日間でこれだけ再生されているということは、配信を何度も見返している視聴者がたくさんいるということだ。


どうやら視聴者にとっても、この間の深層配信はかなり面白かったようだ。



「切り抜きやクリップの拡散もありがとうございます」


深層配信が終わって一夜明けてから、俺はエゴサして評判を調べたりしたのだが、切り抜きやクリップがえらい速度で拡散されたりしていた。


今回戦った深層モンスターは、あの女の巨人のモンスターをはじめ、なかなかに見た目がグロテスクなものも多く、閲覧注意という警告とともに拡散されているクリップも多かったのだが、そのコメント欄には「深層ってこんな感じなのか」「始めて深層モンスターを見た」と新鮮さを楽しんでいる反応が多かった。


もちろん毎度のことながら、CGや創作動画を疑う俺を知らないネット民のコメントもあったのだが、まぁ事実は俺のチャンネルにきてアーカイブを確認すればわかることだ。


とりあえずきっかけはなんでもいいから興味を持ってもらえることがネットでは大事だからな。




”民間にまだ踏破されたことのないダンジョンをソロで攻略するの冷静に考えてやばい“

”お前まじでどんどん大きな存在になっていくな“

”大将!自分、桐谷奏を助けた時から見てるんですけどそろそろ古参名乗ってもいいでしょうか?“

”神木。純粋に気になるんだが、お前こんな短期間でえぐい偉業達成しまくって、学校での反応はどんな感じなんだ?“

“桐谷奏はもう抱きましたか?”

“神木様が無事に帰ってきてくれてよかった。どエロい新作が撮れたからDMに送っとくね?”

“こんだけすごいことしてたらクランから勧誘とかあるやろ”

“深層探索者が歩いていど強くなると一度政府から電話がかかってくるって聞いたけど、お前のところにはきた?”

“スパチャいくら稼いだ?”

“おい、お前の配信を別サイトでミラーしてるゴミがいるぞ!!”

”この間の深層配信ですっかりファンになってしまいました!すごい人を見つけてしまった!と過去のアーカイブ遡ってみたりしてました!これから神木さんを推していきたいと思います!“



「そうですね……あの後調べたんですけど、あのダンジョンは本当に民間には攻略されたことなかったみたいです……なので無事に攻略できてよかったです……ええと…古参を名乗るのはまだ早いんじゃないでしょうか…?言っても俺はまだ人が来るようになって半年も経ってないので……あー、学校での俺は……そうですね、結構みんな驚いたり、学校の誇りだって言ったりしてくれます。元々桐谷もいたりしたので、腫れ物みたいにはなってないです。ちゃんと受け入れられている……と信じたいです……クランからの勧誘は……えっと、ちょっとノーコメントでお願いします。ただ、これだけ言っておきたいのは、しばらくはどこにも所属せずに一人でやっていくつもりです……スパチャの金額は言えません……新規の方は見にきてくれてありがとうございます。これからよろしくお願いします」



バズった配信の後ということで、視聴者からいろんな質問コメントが書かれる。


俺はそれらを拾いながら、前回の配信などを振り返ったりする。


気づけば、配信の同接は20万人を突破。


まだまだ伸びは衰えず、どんどん増え続けている。


前回230万人を集めた余波で、ただの雑談配信なのに驚異的な同接数となっているようだ。



”大将ちゃんとクラスで受け入れられてるのかwよかったw“

”いや、こんな化け物がクラスにいたら普通に怖いやろw“

”芸能人みたいな感じなんやろか?“

”桐谷がいてくれるのは確かにでかそう“

”桐谷奏と神木拓也がいるクラス冷静に考えてやばいわw“

”絶対モテるやろなぁ。こんだけのフォロワー抱えてて、テレビにも出てるんだもんなぁ“



¥10,000

”この間の深層配信お疲れ様です大将。最後まで楽しませてもらえました。神木拓也最強!

ところでなんですけど、ぶっちゃけ大将って学校でモテてますよね?これだけ視聴者抱えてて、テレビにも出てるわけなんで。告白とかされたりしないんですか?“



「あ、スーパーチャットありがとうございます……ええと、配信楽しんでくれたようでよかったです……学校でモテて……告白……え、えっと…いや…そういうのは…な、ないかな…?うん。そ、そんなにモテないですよ?俺…意外と…」



”あ“

”あ“

”あ”

“あ”

“これは…”

“ざわ…ざわ…”

“ざわ…”

“あ”

“あ^^”

“んー?^^”

”これは…“

”へったw“

”誤魔化すの下手すぎ大将“

”わかりやす“

”これはされてるな“

“まさかハーレム築いてるのか?大将?”

”神木ハーレムすでに出来上がってたり?“

”正直に全部言えよ神木。俺たちに隠し事はなしだろ?“

“え…神木様?嘘だよね…?神木様は私と結ばれるんだもんね…?”



スパチャの文章を読んで一瞬今日の昼休みの池田のことが頭に浮かんで動揺してしまった。


目敏い視聴者が見逃してくれるはずは当然なく、俺はその後30分以上に渡って、俺の最近の恋愛事情について根掘り葉掘り聞かれることになったのだった。


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