第116話
「か、神木先輩…す、好きです!私と付き合ってくださいっ!!」
「え、俺…?」
思わず自分を指さしていた。
昼休みの校舎の屋上。
話があると言われ、名前も知らない話したことすらない後輩の女子に呼び出された俺は果たして、生まれて初めての告白なるものを体験していた。
(これって、告白…なんだよな?)
初めての経験なので確信が持てない。
まだ名前も知らない謎の後輩女子は、俺をチ
ラチラと見て恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「は、はい…神木先輩です…私、神木先輩が好きなんです…最近ずっと先輩のこと考えてて…」
「えっと…これはつまり、告白ってことか?男女交際の、申し込み?」
思わずそう尋ねてしまった。
名も知らぬ後輩女子は恥ずかしそうに両手で口元を覆ってこくこくと頷いている。
「……なんでだ?俺、まだ君の名前も知らないんだけど」
嬉しいと思う反面、何かのドッキリなんじゃないかとも思った。
なぜなら俺はこの後輩女子とは本当の本当に初対面。
名前も知らなければ、話したこともなく、顔を合わせたことすらないのだ。
俺の記憶違いでなければ、だが。
なので告白される理由がわからなかった。
「わ、私……池田澪って言います。神木先輩とは今日初めて話すんですけど……私、最近ずっと神木先輩の配信見てて…テレビに出たのも見て…すごく強くてかっこいいって思って……それでお、想いを伝えなきゃって…」
「なるほど…」
どうやら俺の視聴者だったらしい。
とするとこれがいわゆるガチ恋勢、というやつに当たるんだろうか。
まさか自分にそんな層の視聴者がいるとは思わなかった。
いや、そりゃあ普通に考えて同接数的にそういう視聴者がいてもおかしくはないんだろうけど、まさかこうして対面で会うことになろうとは…
「お返事…もらえますか?」
後輩女子……池田澪は期待するような目を俺に向けてきた。
俺は再度、池田澪を真正面から見据える。
正直言って、池田はかなり可愛かった。
桐谷ほどではないにしろ顔はとても整っていて胸もそこそこある。
背も低からず高からずと言ったところで、声も可愛らしい。
性格はまだわからないものの、正直言って外見だけで判断するならばかなり魅力的な異性と言えるだろう。
「悪いけど…」
だから、付き合いたいという気持ちが全くないわけじゃない。
「告白してくれたのは嬉しい…でも…」
けれど、俺の答えは………
「池田さんとは付き合えない。俺は今は誰とも付き合う気がない」
ノーだ。
「あ…そ、そうですか…」
池田がしゅんとなった。
期待するような表情が、一転、一気に落ち込んで暗くなる。
「理由…聞いてもいいですか?」
「理由?」
「私が初対面だからですか…?後輩だから…?それとも視聴者だから…?私は先輩にとって魅力的じゃないですか?可愛くないですか…?ブスですか?それとも他に好きな人がいるとか…」
「ええと…」
泣きそうになっている池田に俺は多少なり罪悪感を感じながらも正直に答えた。
「別に可愛くないからとかそういうんじゃない。むしろ池田は可愛いと思う。付き合いたい気持ちがないわけじゃない。でも……俺は今は配信に専念したいんだ。だから誰とも付き合う予定はない」
「…そう、ですか」
「ああ」
俺の偽らざる本心を聞いた池田は、顔を伏せたままくるりと踵を返し、そのまま走って屋上を後にした。
「う…」
屋上から教室へと帰ってきた俺を出迎えたのは、クラスメイトたちの好奇心に満ちた視線だった。
皆が、一体屋上で何があったのか、聞きたくてうずうずしているのが窺える。
失敗した。
これなら昼休みが終わるまでは屋上にいるべきだっただろうか。
そんなことを考えながら自分の席についた俺に、ニヤニヤしながら話しかけてくるやつがいた。
言わずもがな、風間祐介である。
「で、どうだったんだ?」
「何がだ?」
「惚けんなよ。告白、受けたのか?それとも断ったのか?」
一回惚けて見ようとしたが無駄だった。
風間の詰め寄りかたには、逃がさないぞという固い意志が感じられた。
俺はチラリと周りを見る。
クラスメイトたちは明らかに俺たちの会話に聞き耳を立てていた。
ある意味で風間が彼らを代表して俺に疑問をぶつけた形だ。
俺はこの後他の連中からもしつこく問いただされるのは面倒だなと思い、わざと少し大きな声でありのままを話した。
「断った」
「ほう?それはどうして?」
「どうしてって……初対面だったし、今は配信頑張りたいしな」
「なるほど。いかにもお前らしい理由だな。この配信モンスターめ」
「言われて悪い気はしないな」
風間がやれやれというようにため息を吐いた。
「勿体無いなぁ。俺だったら絶対に断らなか
ったのに」
「そうかい。というか、なんで告白ってわかったんだよ」
「そりゃわかるだろ。いきなりクラスに押しかけてきて、か、神木先輩っ、だ、大事な話がありますっ…今から…屋上で話せませんか…?ふ、二人きりで…!……だぜ?これが告白でなくてなんなんだ」
「まぁ、そうだよな」
風間の裏声による池田のモノマネに寒気を催しながらも俺は納得してしまった。
まぁあの状況ならやっぱり告白と考えるのが妥当か。
「しっかしお前は欲がないなぁ。相手はあの池田澪だろ?何が不満なんだよ」
「あの?あいつ有名人なのか?」
「そこそこな。一つ下の学年で3本の指に入るほどに可愛いって言われてる」
「へぇ」
そう言われても確かに納得のできる可愛さではあったな。
「俺なら絶対に付き合うのに……はぁ……羨ましいぜ。マジでお前ってバカだよなぁ」
「いや、普通付き合わないだろ」
「は?どうしてだ?」
「だってあまりにいきなりすぎるし、互いにまだ何も知らないわけだし……本当に池田が俺のことを好きかどうかもわからないしな」
「いや、本当に好きだったんだろ、あの感じは」
「一度も喋ったことないのに?」
「はぁ……お前はまだ自分がどれほどの存在になったのか自覚がないんだな」
救いようがない、というように首を振る祐介。
「日本記録を持つ最強の高校生ダンジョン探索者兼大人気配信者。登録者は500万人越え。テレビ出演もしてて、配信界及び探索界隈に多大な影響力を持つ人物。容姿も別に悪くない。異性から見て、超有望株だろ」
「……おい、そんなに褒めても何も出ないぞ」
真正面から祐介にベタ褒めされてちょっと薄気味悪くなってきた。
思わずブルリと身震いしてしまう。
「事実だからな。ったく……別に配信やりながらでも付き合えただろ。本当に勿体無い」
「いや…無理だろ。俺、基本放課後も土日も配信だし……付き合ったとしても多分何もしてやれないぞ」
「それでも向こうはいいかもしれないぞ?」
「いや、俺の気持ちがそれじゃあダメなんだよ。申し訳なさすぎる」
「真面目だなぁ」
「そうか?普通の感覚だと思うが」
「お前の普通は世間にとっての普通じゃないんだよ。お前の連日のダンジョン配信見てて特にそう思うね」
「…?」
「はぁ…まぁいいや。とりあえず桐谷に告白断ったこと早めに伝えてやれよ」
「…?桐谷に?どうしてだ?」
「どうしてもだよ、この鈍感野郎」
「いて!?」
なぜかはわからんが、祐介に思いっきり頭を叩かれてしまった。
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