第121話


集団の先頭になりながら俺はダンジョンの上層を奥へと進んでいく。


少し後ろからは、マイクを握りしめたアナウンサーと、テレビカメラを構えたスタッフたちがついてくる。


「ふぅ…」


俺は緊張で上がってきた動悸を、息を吐きながら整える。


人生で二度目のテレビ出演。


ダンジョンを攻略している様子をテレビの視聴者に見られるのはこれが初めてだ。


一応深層配信で200万人以上に見られた経験はあるものの、この映像を見る視聴者層は、いつも俺が相手にしている視聴者とはまた別の人たちだ。


人生経験豊富なお年寄りもいるだろうし、普段あまりダンジョン配信を見ない子供達も目にするかもしれない。


そう考えると、本当に俺のダンジョン配信をテレビなんかで流して楽しんでもらえるのかどうか心配になってくる。


(落ち着け…今はダンジョン攻略に専念するんだ…)


いつもの配信とは違い、番組を本当に面白くする役目はテレビ局のスタッフやアナウンサーにある。


俺はとにかく目の前のダンジョン探索…モンスターの戦闘に集中するとしよう。



『グゲゲ…』



「あ、見てください…!モンスターです!!モンスターが出てきました!!!」



そんなことを考えていると、前方から一匹のモンスターが出てきた。


醜悪な緑の小鬼、ゴブリンである。


アナウンサーが興奮したように近づいてくるゴブリンの方を指さして実況している。


「なんと醜い見た目なんでしょう……私、モンスターを実際に見たのはこれが初めてなので少し怖くなってきました…」


盛り上げるためだろうか、ゴブリン一体に対して大袈裟にそんなことを言う橋本アナウンサー。


俺はこちらに近づいてくるゴブリンに剣を構えながら、橋本アナウンサーやカメラを構えたスタッフたちのことを見た。


「……(これ、どうします?)」


「「「……(やっちゃってください神木さん!!!)」」」


スタッフが倒してもいいぞ!と目配せを送ってくる。


「……(了解です!)」


俺は彼らに向かって「了解だ」と頷くと、地面を蹴ってゴブリンに肉薄し、無数に切り刻み、また元の位置に戻ってきた。



「……(倒しましたよ!)」


俺は剣を鞘に収めて、スタッフたちに戦闘が終了したぞと目配せをする。


だが、橋本アナウンサーもスタッフの人たちも怪訝そうに俺を見ている。



「…?」


なんだこの間は。


ゴブリンを倒していいというから倒したんだが…


何か俺まずいことしただろうか。



俺が首を傾げていると、橋本アナウンサーが俺に慌てたように耳打ちしてくる。



「か、神木さんっ、何してるんですか!?」


こそこそとゴブリンと俺を交互に見て焦ったようにそう言ってくる。


「早く倒してもらわないと困りますよっ…た、倒せますよね?」


橋本アナウンサーが、ブルブル震えながらゴブリンをチラチラ見る。


演技には見えない。


彼女は本当にモンスターを直で見たのが初めてなのかもしれない。


「は、早く倒しちゃってくださいっ…私、見ているだけでもう気持ち悪くてっ……まさかとは思いますが、ひ、一人でも倒せますよね…?お、お願いします本当にっ」


「いや、お願いしますと言われても」


「…?」


「もう倒してますよ?」


「え…」



俺がそう言った瞬間……



『グ……グゲェ……』


ぴたりと止まっていたゴブリンが唐突に苦し

げな呻き声をあげた。


その小さな体躯に、無数の切れ込みが入る。



「ふぇ?」


「「「えええっ!?」」」



橋本アナウンサーとテレビ局のスタッフたちの驚きの声が上がる。


ゴブリンは無数の肉片となって地面に転がり、すでにダンジョンの床による吸収が始まっていた。


スタッフたちが慌ててカメラを回収されていくゴブリンの死体に向ける。



「いいいい、今何したんですか!?」


橋本アナウンサーが焦ったように聞いてきた。


俺はなんでいちいちそんなこと聞くんだと疑問に思いながらも答えた。


「いや…ゴブリンに近づいて…剣で斬って……戻ってきただけですけど…?」


「嘘……全然見えなかった…」


橋本アナウンサーが呆然と呟いた。



= = = = = = = = = = 



#神木拓也テレビ出演実況スレpart34


0344 名無し

きたああああああああああああ


0345 名無し

でたああああああああああああ


0346 名無し

大将の今日初めての「え?俺何かやっちゃいました」きたあああああああ


0347 名無し

アナウンサーの人戸惑ってて草


0348 名無し

早苗ちゃん呆然としてて草


0349 名無し

なんだろう。

この実家のような安心感


0350 名無し

このパターンまじで懐かしいなw

神木がバズった後の初めてのダンジョン配信思い出すわ


0351 名無し

何これ。

デジャブ?


0352 名無し

桐谷奏助けた後の初めてのダンジョン配信の最初の戦闘シーンまんまやんw


0353 名無し

何これ再放送?


0354 名無し

そういや神木って桐谷奏助けてバズったんだったなw

すっかり忘れてたわw w w


0355 名無し

>>354 わかる

俺もここ最近まじで色々ありすぎて大将元々過疎配信者で、桐谷奏の配信に映り込んでバズったの完全に忘れてたわ


0356 名無し

まじで懐かしいなぁ。

俺らも神木の配信見て今の早苗ちゃんみたいになっちゃってた時期があったんやなって


0357 名無し

早苗ちゃんダンジョン配信とか普段見なさそうやからなぁ。

神木の配信も多分一回も見たことないんやろ。


0358 名無し

早苗ちゃん前になんかの番組で趣味は読書って言ってたからまじでダンジョン配信とは無縁の生活送ってきたんやろな。

そら驚くわ。


0359 名無し

>>358いや、ちょっとは神木とかダンジョン配信に知識あるやつ採用しろよ。

テレビ局ばかすぎやろ


0360 名無し

>>359 いや、むしろだからこそやろ。

全くダンジョン配信に関して知識ないやつ採用した方が反応が面白いやん。

実際今の早苗ちゃんの驚いた表情、テレビ的にめっちゃ絵になってるやろ。


0361 名無し

>>360

まぁそれは一理ある。


0362 名無し

>>360これやろなぁ

その証拠に、早苗ちゃんの驚愕の表情、ドアップにしてるしw


0363 名無し

早苗ちゃんめちゃくちゃ驚いてて草。


0364 名無し

こんなのでそんなに驚いてたらこの先持たんやろw w w


0365 名無し

冒頭見てなかったんやけど、この番組、神木にどこまで行かせるの?

深層までいく?


0366 名無し

>>365 流石に深層までは行かない。

公式の番組説明では下層までってなってる。


0367 名無し

>>366 はえー。

ってことは結構な尺使うんやな。


0368 名無し

こら、えらいことになるな。


0369 名無し

いいねぇ。

神木見せつけてやれよ。

くだらない旅番組だのグルメ番組だの見て頭ぼんやりしてるテレビ視聴者共に本当のエンターテイメントってやつをさ。


0370 名無し

ちょw w w

こんなん刺激が強すぎてジジババどもの心臓止まるってw w w

神木手加減してやれよw w w

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る