第122話


「信じられない…」


バラバラに切り刻まれてダンジョンの地面に回収されていくゴブリンを呆然と眺めているアナウンサーの橋本さん。


スタッフが徐に彼女に近づき、その背中を叩く。


「は、橋本さん…っ…カメラ回ってますっ」


「はっ!!!」


我に帰る橋本さん。


「す、すみません…」


慌てたように謝って、ううんと咳払いをしてから元の表情を取り戻す。


「し、失礼しました…す、すごいですね神木さん…!私うっかり見惚れちゃいました…」


「はぁ」


「本当に見えない間に倒されたんですね……噂には聞いていたんですけど…とんでもない腕前です…!」


「ど、どうも」


「それでは先に進みましょうか!」


「わ、わかりました!」


橋本さんがなんとか失態を取り戻そうとするかのように明るい声を出す。


俺は頷いて剣を握り、再びダンジョン探索を再開する。



ズル…ズル…

ズルッズルッ……

ズルズル……ズルズル……



「わっ!?なんですかあれ!?」


「スライムです」


ゴブリンの次に出てきたモンスターはスライムだった。


地面を這いながら三匹ほどがこちらに向かってゆっくりと近づいてくる。


「き、気持ち悪い……ぶ、ブヨブヨです

ね……」


橋本さんが表情を引き攣らせる。


「か、神木さんお願いします」


「わかりました」


俺は頷き、剣を握ったままの右拳を振り抜いた。



ドガアアアアアアアアン!!!!



「きゃああっ!?」


橋本さんが悲鳴をあげる。


衝撃波によって地面がえぐれ、スライム三体が跡形もなく吹き飛んだ。



「ぇええええええええ!?!?」



土煙が晴れて大きくえぐれた地面を見て、橋本さんが目を剥いた。



「ななな、何をしたんですかぁ!?」


「え…普通に倒しただけですけど…」


「だ、ダイナマイトでも持ってきたんですか!?武器は片手剣だけって言ったじゃないですか!?」


「いや、ダイナマイトとか爆薬は使ってないですよ。普通に殴っただけです」


「普通に殴っただけでこんなになるんですか!?……ほ、本当に人間?」


番組用のオーバーリアクション、というわけではないらしい。


橋本さんは、言葉通り心底驚いた表情でまじまじを俺を見てきた。


「う、腕…そんなに鍛えてるようには見えないですけど…」


「触ってみます?」


「…っ…は、はい」


ごくりと唾を飲んだ橋本さんが、何か神聖なものにでも触れるかのような手つきで俺の腕を触りだす。


「か、硬い…石のように…な、何かが凝縮されたような…何この手触り……癖になる…」


「あの、そろそろいいですか?」


「はっ!?」


我に帰った橋本さん。


「す、すみませんっ、私ったらつい…」


慌てたように謝って、誤魔化すような笑みを浮かべた。


「ちょ、ちょっとすみません…」


俺は一旦断りを入れてからカメラの画角から外れた。


そして「やっぱりすごいな…」「配信で見るのとはまた違う…」「噂通りのパワーだな…」「同じ人間とは思えない…」などと、何やらぶつぶつ呟いているスタッフの元まで歩いた。


「あ、あの…すみません…」


「は、はい…!?」


「どうされました神木さん!?」


「は、橋本さんなんですけど……もしかしてダンジョン配信に全く知識がない感じですか…?」


モンスターを見た時のリアクションや、俺の戦い方を見た時の驚き方から、俺はもしやと思った。


この番組の実況に抜擢されたぐらいだから、多少なり知識があって、俺の配信も一度ぐらいは目にしたことがあるだろうと思っていたのだが、どうやら違うようだ。


それとも今までのリアクションは全て彼女の演技なのだろうか。


そのことを問いただすために、俺はスタッフに尋ねた。


スタッフが、カメラに音声の入らないところまで俺を連れて行って耳打ちする。


「実は橋本さんは、全くダンジョン配信や探索者に関して知識がなくて……だからこそ抜擢されたというか…」


「…?どういうことですか?」


「その方が新鮮な反応が見られると……制作監督が…」


「な、なるほど…」


「あくまで彼女は一般人の立場に立ってアナウンスしているという体で……だからああいう反応になってしまうんです。素であれなんですよ」


「わ、わかりました…」


どうやら演技ではなくあれが橋本アナウンサーの素らしい。


彼女はダンジョンやモンスター、探索者に関して全く知識がなく、だからこそ、何も知らない素人の新鮮な反応を引き出せる……というのがこの番組の狙いのようだ。


「まぁ、あなたのやってることは知ってる人から見てもやばいんですけどね…」


「え、何か言いました?」


「なんでもないですよ?神木さん?」


スタッフが今何か小声で言ったような気がしたが、声が小さすぎてわからなかった。


ともかく、橋本さんのリアクションに関してはこれがこの番組の狙いらしい。


俺は何も気にせずそのままダンジョン探索に専念していいと言われた。


「ち、ちなみになんですけど神木さん…」


「はい?」


「で、出来ればでいいんですが……もーちょい、時間をかけてモンスターを倒すことは出来ないでしょうか?」


「時間をかけて…?」


スタッフが気まずそうにしながら言ってきた。


「神木さん、動きが早すぎてカメラに全然映ってないというか……フレームレートが間に合ってないというか……その、も、もうちょい、戦ってます!感が欲しいんですよ」


「なるほど……善処してみます」


もっと力を抜け、ということか?


上層の雑魚相手にこれ以上どう力を抜けばいいのかわからなかったが、俺はとりあえず頷いておいた。



= = = = = = = = = = 




#神木拓也テレビ出演実況スレpart39


0221 名無し

スライム消し飛んだw w w


0222 名無し


0223 名無し

やりすぎw w w


0224 名無し

スライムは核をピンポイントで攻撃するのだるいからまぁその対処は当たってるんだけどさぁ……


0225 名無し

神木の辞書に手加減の文字はないよ


0226 名無し

何も知らない早苗ちゃんの反応、新鮮でいいね


0227 名無し

ああくそっ、物足りねぇ…

神木の深層配信ですっかり目が肥えちまった……

こんなのじゃ全然楽しめねぇよ!!!


0228 名無し

この程度が神木の実力だなんて思ってほしくないなぁ…

まじで危険なのはわかるけど深層配信をテレビでやってほしい


0229 名無し

感覚麻痺してるやついっぱいおって草

世間ではそもそも普通のパンチで衝撃波起こして岩砕いたり、モンスターをテレビカメラのフレームレートが追いつかない速度で倒す時点で十分化け物だから


0330 名無し

神木の深層配信とか、大作アクション映画のCGより視覚効果やばすぎて、年寄りまじで心臓止まるやろ


0331 名無し

まだこんなもんじゃない神木の本当の実力を知っているポジションでこの番組見るの楽しすぎやろw w w


0332 名無し

早くこの番組見て実際に神木の配信に来た新参どもに古参マウントとりてぇ……


0333 名無し

下層までしか放送しないってことはただの雑魚狩りやんけ……

イレギュラーでも起こらんかなぁ……


0334 名無し

世間一般では下層のモンスターって全然雑魚じゃないどころか、一部の才能ある探索者のクランにしか倒せない強敵なんだけどなぁ……

まじで神木の放送見てると色んな意味で感覚がバグるんだよなぁ…


0335 名無し

神木様の腕に軽々しく触れるな何この女さっきから高い声出してムカつくムカつく神木様は私だけものも神木様に媚び売るな神木様の前で弱い女ぶるなきもいきもいきもいきもい神木様もなんで腕なんて触らせるの神木様の素肌に私以外の女が触れたら穢れるでしょうが神木様に触れるな近づくな話しかけるな


0336 名無し

こっっっわ


0337 名無し

なんかやばいやつ湧いてて草


0338 名無し

神木拓也ガチ恋勢w


0339 名無し

>>335

安心しろ。

テレビに出てる高学歴の美人アナウンサーを差し置いてお前みたいなやつが選ばれることだけはないからw


0400 名無し

>>339たれw


0401 名無し

>>400

あんまり神木の女ファンに喧嘩売らない方がいいぞ。

まじで頭おかしいやつ多いから。


0401 名無し

>>339

何言ってるの?神木様と私は相思相愛だよ?結ばれる運命なの。神木様には毎日私のこと見て貰ってるし、絶対に絶対に両思いだよ?あなたにはわからないでしょうけど


0402 名無し

ひぇっ


0403 名無し

だめだこれ…人の話聞かないタイプや…


0404 名無し

自分だけの世界に入ってるタイプか…


0405 名無し

救いようがねぇや^^











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