第123話


「それではこれから中層に入っていきます…!ダンジョンは通常,上層、中層、下層に分かれていて、下へ行くほどに出てくるモンスターも強くなる……そうですよね?神木さん?」


「はい、そうです」


橋本アナウンサーの言葉を、俺は頷いて肯定する。


現在俺たちがいる場所は、上層と中層の境

目。


上層は、撮影がはじまってから一時間ぐらいで踏破した。


橋本アナウンサーやテレビ局のスタッフたちを伴っての攻略だったのでいつもより多少時間がかかったが、しかし所詮は上層。


モンスターとのエンカウントもそれほど多くなく、一時間弱の時間で攻略することが出来た。


そしてこれから一同は、中層へと潜ろうとしていた。


橋本アナウンサーが、ダンジョンの階層構造を説明する。


「ここからは、より強いモンスターたちが我々の前に現れます……か、神木さん…よろしくお願いしますね?」


橋本アナウンサーが頼みの綱を見るような目で俺を見てくる。


深層ならいざ知らず、中層ではどれほどモンスターが出てきても彼らを守れる自信があった俺は大きく頷いた。


「任せてください。何があってもあなた方の安全は保証します」


「お、お願いします…心強いです…」


橋本アナウンサーがほっとしたように胸を撫で下ろす。


そうして俺たちは、中層へと足を踏み入れて行ったのだった。



『ブモォオオオオオオオ!!!』


「ひっ!?歩く豚っ!?」


橋本アナウンサーが悲鳴をあげる。


中層に入って最初に俺たちの目の前に現れたのは、豚の頭部をもつ二足歩行のモンスター、オークだ。


体を包む分厚い脂肪を揺らしながら、こちらへと接近してくる。


「お、大きい!?か、神木さん!?勝てるんですか!?」


上層とは違い、中層のモンスターはサイズも

人間の大人を超えるものが多い。


橋本アナウンサーが半ば逃げ腰になりながら,俺に涙目で聞いてくる。


「大丈夫ですよ」


そう言い終わる頃には俺はもうすでに行動を開始していた。


ズボ…!


『ブモォ……ォオオ……』


瞬時にオークへと肉薄し、その急所を剣でひと突きにする。


核を破壊されたオークが大きく目を見開き、俺が剣を引き抜くと、その体は地面に倒れ伏した。


しばらく倒れたままビクビクと痙攣していたが、やがてダンジョンの床に吸収されていく。


「す、すごい……」


腰が引けていた橋本アナウンサーが一転、大きく目を見開く。


「い、一撃で仕留めたんですか…?」


信じられないものを見るような目で、俺と地面に吸収されていくオークの死体を交互に見る。


俺はダンジョンや探索者、モンスターに関して全く知識がない視聴者層に向けて丁寧に解説する。


「大体のモンスターには体のどこかに弱点があって……核って呼ばれてるんですけど……そこに強いダメージを与えると、ああやって一撃で倒すことができるんです」


「な、なるほど……急所を狙ったわけですね…!?」


「そういうことです」


「す、すごい……」


橋本アナウンサーが本当に感心したかのよう

な表情をする。


一応こうして力を見せておくことで少しは信用して貰えたと思う。


ダンジョンに初めて潜る人間にとってやはりモンスターは圧倒的な恐怖の対象で、高校生の俺が本当に一人で対処できるのかどうか不安だろうからな。


「先に進みましょう。安全は保証するので」俺は橋本アナウンサーにそう言って、さらに

ダンジョンの先へと進んでいく…



『グォオオオオオオオ!!!』


「ひぃいいいい!?!?」


橋本アナウンサーがの引き攣った悲鳴がダン

ジョンに響き渡る。


俺はほとんど仕事を放棄して逃げ出しそうになっている橋本アナウンサーの前に入り、モンスターから庇う。


「で、でかいっ…さっきよりも!?」


「大丈夫です。確かにでかいですが、俺一人で十分なので」


「ほ、本当ですか!?ち、地上のクマの2倍はありますよ…!?」


オークの次に俺たちの前に現れたモンスターは、ダンジョンベアーだった。


低い咆哮とともに走って俺たちの方へ接近してくる。


人の頭を丸々飲み込めそうな大きな口からは、長い牙がいくつものぞいており、よだれが滴っている。


橋本アナウンサーは、地上のクマよりも一回り大きいダンジョンベアーに、ほとんど実況の仕事を放棄して逃げ出しそうになっていた。


そしてそんな恐怖する橋本アナウンサーの姿を、テレビ局のスタッフたちはしめたとばかりにダンジョンベアーも映り込む画角で撮りまくっている。


視聴率のためとはいえ、なかなかに鬼畜な所業だ。

「こ、こっちにくる!?ははは、早く倒してくださいっ!?」


橋本アナウンサーが悲鳴をあげて頭を抱える。


地面に伏せて自分の首を守るように両手を添えた。


講習とかで見るような、熊から身を守る姿勢だ。


「…」


やれやれ。


まだ俺は信用がないようだ。


まあ仕方ないか。


この人はダンジョンやモンスターに関して全くと言っていいほど知識がない。


彼女にとって初見のダンジョンベアーはちょっと刺激が強すぎたらしい。


「ふん」


斬ッ!!!


俺は斬撃を放った。


『グ……ォオ……?』


こちらに向かって突っ込んでいていたダンジョンベアーが動きを止める。


そのふとい首に線が入り、血が流れる。


やがてズルッと首から上にかけての部位がスライドして地面に落ちた。


ぶしゃあああと鮮血が飛び散り、死体が地に倒れる。


その後は、これまでと同様、死体がダンジョンによって回収されていく。


「へ……」


身を伏せながらその光景を見ていた橋本アナウンサーがぽかんと口を開ける。


なにがおきたのか理解が追いつかないといった表情で、ダンジョンベアーの死体と俺を交互に見ていた。


「い、いいい、今何を…?」


「もう大丈夫です、倒しました」


「い、いやいやいや、おかしいですってっ!!!!」


橋本アナウンサーが勢いよくたちあがり、ぶんぶんと首を振った。


「け、剣の長さと、きょ、距離が……あってないですって!!!何したんですか今!?」


「斬撃を飛ばしました」


「は…?」


「斬撃を飛ばしました」


「…ざ、斬撃…?」


「はい」


「な、何それ……え?」


橋本アナウンサーが、ぽかんと口を開ける。


「斬撃は斬撃です」


俺はこれ以上説明のしようがないため、そう繰り返す。


「ど、どうやって…?」


「どうやってと言われても……こう、手を早く動かすんです」


「手を…?」


「剣を手に持って……思いっきりびゅっと……」


「びゅっ…?」


「はい。ひゅんっ!!!って、風を切るイメージですね」


「風を切るイメージ……」


俺の言葉を反芻した橋本アナウンサーが、何かを悟ったような目になった。


「世界って、広いんですね…」


「…?」


橋本アナウンサーの目からハイライトが消えた。


= = = = = = = = = =


#神木拓也テレビ出演実況スレpart45


0789 名無し


0790 名無し

これは草


0791 名無し

世界って広いんですね、でわろたw


0792 名無し

色々察してて草


0793 名無し

早苗ちゃん、ようこそ、こっち側へ^^


0794 名無し

あーあ。

早苗ちゃん壊れちゃった^^


0795 名無し

また一人神木の犠牲者が…


0796 名無し

神木がまた人の常識破壊してら^^


0797 名無し

流石です大将^^


0798 名無し

早苗ちゃん目から色が消えてて草


0799 名無し

早苗ちゃんまだまだこんなもんじゃないから今のうちに慣らしておきなさい


0800 名無し

一人の女の常識が壊れて神木の世界観に染まっていく過程を見るの楽しすぎて草


0801 名無し

神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!


0802 名無し

この女1ヶ月後ぐらいには神木の配信の常連になってそう


0803 名無し

チャンネルが成長し、探索者としての実力も日に日に伸びているのになぜか説明能力だけが一向に停滞している男


0804 名無し

大将相変わらず最強なんだけど説明能力が;;


0805 名無し

びゅっ、だのひゅっ、だの…w w w


0806 名無し

びゅっって発音する時の早苗ちゃんの口元エロすぎ……


0807 名無し

ふぅ


0808 名無し

>>807はっっっっやw


0809 名無し

>>807 はやすぎw w w


0810 名無し

>>807 ○漏とかいうレベルじゃなくてわろたw w w

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