第124話


その後、俺は中層も二時間程度で問題なく攻略し、いよいよ下層へと入ろうとしていた。


下層の入り口の前で橋本アナウンサーが、カメラの前で状況を説明している。


「さあ、いよいよここから下層へと潜っていきます。ダンジョンが上層、中層、下層という階層構造に分かれていることは先ほど説明した通りですが、これから潜っていくのは3番目の領域である下層。ここからはさらに強いモンスターが出現すると思われます」


たんたんと解説をする橋本アナウンサー。


なんだろう。


中層に入る時はもう少し、怖がるような感じで解説していたのだが、今回は随分と落ち着いている。


その目は何かを悟ったような感じがして、すっかりダンジョンにも慣れてしまったようだ。


これから下層という、一応今日の探索の中で最も危険な場所に踏み入っていくわけだが、緊張というものも見られない。


思えば、俺がダンジョンベアーを倒すのに斬撃を使ってから、橋本アナウンサーの様子がおかしくなり始めた。


どんどん、何かを察したというか、悟ったような表情になっていったのだ。


これは俺の戦いぶりを見て、この人なら大丈夫だと安心してくれたと考えていいのだろうか。


とにかく、戦いの時に隣で取り乱さないでいてくれるのはこっちとしてもありがたい。


俺はいい傾向だと思いながら、橋本アナウンサーの喋りを隣から見守る。


「それでは神木さん。よろしくお願いします」


「はい、ではこれから下層へ潜っていきましょう」


俺は橋本アナウンサーに頷きを返し、下層へと足を踏み入れる。


橋本アナウンサー、そしてテレビ局のスタッフが後ろからゆっくりとついてきた。





オガァアアアアアアアア!!!

キシェエエエエエエ!!!

ブモォオオオオオオオ!!!!!

グォオオオオオオオ!!!



「ひぃいいいい!?」


下層探索は最初のうちは順調だった。


橋本アナウンサー、テレビ局のスタッフと共に下層に潜った俺は,エンカウントする下層のモンスターたちを難なく倒していった。


ここ1ヶ月の間に深層モンスターたちとも幾度となく戦闘し、探索者としての実力も飛躍的に向上した俺にとってもはや下層のモンスターたちは相手にならなかった。


単体で出てきたオーガや、トロールなどを、苦戦することなく余裕を持って倒していく。


一応スタッフの「戦っている感が欲しい」という指示にも従って、なるべく一撃では仕留めずに、受けに回ったりもした。


戦っている感を出せたかはわからないが、スタッフの反応はなかなか好感触だった。


そして橋本アナウンサーは、相変わらず感情を失ったかのように実況に徹している。


下層のモンスターが出てきても、もう驚いたり逃げようとしたりすることもない。


完全に俺を信頼してくれているようだ。


俺は橋本アナウンサーが取り乱す心配もすることなく、モンスターとの戦闘に集中していた。


順調だ。


この分ならさほど時間をかけることなく下層を踏破して、無事に番組を終えられるかもしれない。


そんなことを考えていた矢先のことだった。



オガァアアアアアアアア!!!

キシェエエエエエエ!!!

ブモォオオオオオオオ!!!!!

グォオオオオオオオ!!!



突如として下層のモンスターの群れが前方から襲いかかってきた。


異変はあった。


無数の足跡がこちらへ向かって近づいてくるのを、俺は橋本アナウンサーやテレビスタッフたちよりも先に感知していた。


伝えた方がいいかと思ったが、俺に与えられた指示は、何も考えずにダンジョン探索に集中しろ、だった。


なので俺は彼らに何も告げずにそのまま探索を続行した。


そして程なくして俺たちの前に、下層では珍しい、モンスターの大群が現れた。


オーガが、ジャイアントスパイダーが、オークが、ダンジョンベアーが、束になってこちらへと向かって突進してくる。



「ひぃいいい!?」


ここへきて、淡々と実況するだけだった橋本アナウンサーが、まるで感情を取り戻したように悲鳴をあげた。


「ななな、なんですかこの数!?」


初めてモンスターの群れを見て動揺しているようだ。


ここまで俺のことを信用してくれてだいぶ落ち着きを見せていたが、この群れは流石に無理だと思ったのだろうか。


「ににに、逃げましょう!?流石にこの数は化けも……じゃなくて神木さんでも無理ですって!!!」


「え、ばけも…?」


今何か言いかけたような?


俺が首を傾げる中、スタッフたちも多少動揺しているようだった。


「か、神木さん…?い、いけますよね?大丈夫ですよね?」


さすがプロというべきか。


こういう時でもしっかりとカメラでモンスターの群れを撮ることは忘れずに、スタッフたちが俺に大丈夫かどうか確認をしてくる。


「もちろん大丈夫ですよ」


俺は即座に頷いて、モンスターの群れの方を見据えた。


数は全部で二十匹ほど。


下層のモンスターと、中層モンスターが混じった中規模のむれだ。


一匹一匹相手にしていては、橋本アナウンサ

ーやスタッフが危ない。


よって、ここは「戦っている感!」などを出している場合ではなさそうだ。



「ちょっとある技を使ってみようと思います」


「わ、技…?」


テレビ局のスタッフが首を傾げる中、俺はモンスターの群れに飛び込んでいき、こういう時に一番適している『技』を使用した。



「神木サー」



= = = = = = = = = =



#神木拓也テレビ出演実況スレpart55


0103 名無し

神木サーきたあああああああああああああああああああ


0104 名無し

どりゃあああああああああああああ


0105 名無し

うおおおおおおおおおおおおおおおお


0106 名無し

出たあああああああああああああああ


0107 名無し

気持ちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい


0108 名無し

微塵切りだああああああああああああ


0109 名無し

殲滅しろおおおおおおおおおおおお


0110 名無し

神木サーついに地上波デビューw w w


0111 名無し

あーあ。

滅茶苦茶やってら^^


0112 名無し

テレビの前で神木サー


0113 名無し

画質いい神木サーいいね。


0114 名無し

これ初見のやつ腰抜かすやろw w w


0115 名無し

っぱ神木といえばこれよw


0116 名無し

神木サーか。

まぁ早苗ちゃんとかスタッフもいるし、妥当やな


0117 名無し

ここまでテレビ屋の指示なのかなんなのか知らんけどだいぶセーブして戦ってたからな。ようやく本来の実力出してきたか。


0118 名無し

まさか地上波で神木サーを拝むことになるとはw w w


0119 名無し

うーんw最強w


0120 名無し

早苗ちゃん感情取り戻してら^^


0121 名無し

>>117

まだまだ手加減してるやろ。

さっさと神斬と神拳出せや


0122 名無し

>>121

下層で神斬とか神拳とかオーバーキルすぎるわw w w


0123 名無し

神斬とか神拳はマジで人外技すぎて視聴者ドン引きやろ


0124 名無し

神斬とか神拳使ったら逆にやらせ疑われるわw w w


0125 名無し

心臓弱いお年寄りも見てるんやし、神木サーぐらいでちょうどええw


0126 名無し

早苗ちゃん神木のこと一瞬化け物呼ばわりしようとしてて草


0127 名無し

楽しくなってまいりましたあああああああああああ

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