第125話


「ふぇええええええ!?!?」


神木サーによって俺は迫り来る下層のモンスターの群れを切り刻む。


背後から橋本アナウンサーの声が聞こえたような気がしたが、すぐにモンスターの肉をたつ音にかき消された。


『『『『ギャァアアアアアアア!』』』』


無数の悲鳴がダンジョンにこだます。


俺は少しずつ前進しながら、下層のモンスターたちを、神木サーの攻撃範囲へ少しずつ飲み込んでいく。


やがて周囲からモンスターたちの悲鳴が聞こえ、手応えも無くなった。


俺は動きを止めて周囲を見渡した。


「す、すごい……」


テレビ局のスタッフの誰かが背後でそう呟いた。


俺は周囲を見渡す。


無数に切り刻まれ、肉塊となったモンスターが周囲に散らばっていた。


血と肉が周囲に飛び散り、壁や地面にこびりついている。


原型を留めているモンスターは一匹たりとて存在しない。


「な、なんですかこれ…」


俺はべちゃべちゃ、という音を立てて元の場所へ戻る。


橋本アナウンサーが、俺の背後の光景に目を見開き、地面に尻餅をついてしまった。


やがてず、ず、という音と主にダンジョンがモンスターたちの肉塊を飲み込んでいく。


「ふぅ」


特に後方に被害もなくモンスターを殲滅することに成功した俺は、吐息を吐いて剣を鞘に収めた。


「い、意味がわからないです…どういうことなんですか今の…」


橋本アナウンサーが顔にだらだらと汗をかきながらそんなことを言った。


「今のはモンスターの群れ用に考えだした技です」


「は…?」


「全方位に対してとにかく無差別に攻撃をしながらちょっとずつ前に進むんです。そうすれば攻撃と防御が両立できて、モンスターの群れを簡単に殲滅できるんです」


「はぁ…?」


丁寧に説明したつもりだったが、橋本アナウンサーは全く理解できていない様子だった。


「うーん……これ以上どう説明すればいいかな…?」


俺が頭を掻く中、カメラを構えたスタッフはひたすら俺と背後のモンスターたちの肉塊を撮っていた。



= = = = = = = = = =



#神木拓也テレビ出演実況スレpart60


0948 名無し

どりゃああああああああああああああ


0949 名無し

きたあああああああああああああああ


0950 名無し

神木サー最強!神木拓也最強!


0951 名無し

えー、強すぎですw


0952 名無し

早苗ちゃん腰抜かしてら^^


0953 名無し

うーん、もう神木サーじゃ満足できない体になっちゃった;;

最低でも神木サー・改ぐらいじゃないと…


0954 名無し

っぱ、対大群はこれよな。

神木サー最強!


0955 名無し

おいなんかこの先に誰かいるみたいだぞ


0956 名無し

同じダンジョンに仮面の剣姫ちゃんがいるのか


0957 名無し

おん?お前らどうした?


0958 名無し

誰がいるって?


0959 名無し

なんかこの先に、たまたま他のダンジョン配信者が居合わせたらしい。

仮面の剣姫ってやつ。


0960 名無し

誰だよそいつ


0961 名無し

無名の名前出すな


0962 名無し

見つけた。

こいつか↓リンク


0963 名無し

登録者三十万人。

中堅か。


0964 名無し

配信見てきたわ。

同接四千人だった。


0965 名無し

>>964そこそこ人気でわろたw


0966 名無し

見てきた。

なんか仮面かぶってるおねーさんの配信だったわ。

体つきはまあまあだった。


0967 名無し

早速神木ファンが荒らしててわろたw


0968 名無し

俺も遊びに行ったろ^^


0969 名無し

このままだと神木とぶつかるな。


0970 名無し

いいやん。

神木と他の配信者の絡みとか久々だし見てみたいわ


0971 名無し

こいつ素顔絶対ブスやろ。

仮面とか被りやがって…

コスプレダンジョン配信者の真似事か?


0972 名無し

>>971

調べたけど、普通に働きながら配信してるらしい。

素顔バレしたら職場でやばいことになるから隠してるんだとか


0973 名無し

ちゃんと働いてんのかw

じゃあここにいる大半のやつより偉いな



= = = = = = = = = = 


「何やら後ろが騒がしいわね」


スラリと背の高い、カメラを構えた女探索者が背後を仰ぎながらそう呟いた。


女の手にしているウェブカメラには、配信画面が表示されていた。


女はダンジョン配信者だった。


名前は仮面の剣姫。


いつも仮面をかぶって顔の上半分を隠し、素顔を秘匿していることからそう呼ばれている。



“なんか今テレビの企画で神木拓也がこのダンジョンに潜っているらしい”

“もしかして今テレビでやってる神木拓也のダンジョン配信と同じダンジョンなんじゃね?”

“仮面ちゃん神木拓也が背後からくるかもよ”

“マジか。そんなことあるのか”

“仮面ちゃん急がないと背後から神木拓也くるよ”

“お、すげ……同接増え始めた”

“やあ”

“やあ”

”もうそろ大将がお邪魔するよ〜^^“

”あにー?やってるー?^^“

“おい、道あけろ。神木拓也様のお通りだ”

“うわ…なんか神木拓也の視聴者きた…”



仮面の剣姫は配信者としては中堅、探索者としては上級だった。


主な主戦場は下層。


女性で下層まで潜れる探索者はそれなりに希少であるため、素顔を隠している状態でも視聴者はそこそこ集めていた。


平均同接4,000人。


彼女は社会人をしながらダンジョン配信を行っていることを公言しており、仕事の合間を縫って一月に二回から三回程度、ダンジョン配信をするのみだったが、それでも配信から得られる収入は、社会人として働いてもらえる給料の倍以上あった。


今日も今日とて彼女は、貴重な休日を潰してダンジョン配信を行なっている。


上層、中層を難なく踏破し、主戦場の下層で探索をしていたところ、突然コメント欄がざわつき始めた。


神木拓也がくるぞ。


神木拓也が通るから道を開けろ。


明らかにいつもの常連とは違う視聴者のコメントが散見され、同接もにわかに上昇し始めた。


立ち止まってしばらくコメント欄の様子を見るに、どうやら今話題の高校生ダンジョン配信者、神木拓也がテレビの企画でこのダンジョンに潜っており、カメラに撮られた状態でこちらに接近しつつあるらしい。



「……っ」



まずい、と仮面の剣姫は思った。


彼女が仮面をかぶって配信をしているのには理由がある。


それは素顔がバレて仕舞えば、社会人としての生活に支障をきたしてしまうことは目に見えているからだ。


そして、それよりも何よりも…



(か、神木くんに会うわけにはいかない…)


とあるのっぴきならない事情があり、彼女は今ここで神木拓也に鉢合わせるわけには絶対に行かなかった。


(ど、どうしよう…引き返したら、絶対に出会っちゃうし…)



“あれ?仮面ちゃん?”

“おーい?”

“どうしたー?”

“なんでこの女喋んねーの?”

“やあ”

“神木拓也がもうすぐくるぞ”

“大将が通るから道あけてくんね?”

“なんだこの配信”

“おい仮面かぶってないで素顔見せろよ”

“配信止まってる?”

”仮面ちゃん?おーい“



急に喋らなくなった仮面の剣姫にチャット欄がざわつくなか、当の本人はどうやってこの局面を切り抜けたら良いか、必死に知恵を絞っていた。


そして……



「…!」



”お、急に動き出した“

”走り出した…?“

”急にどうした?“

”仮面ちゃん…?“

”どうしたの?何かあったの?“

”逃げてら^^“

“テレビに映るのそんなに嫌?”

“この気に自分のチャンネル宣伝してみたらー?バズるかもよ?”

“めっちゃ走るやん”

“そんなに急いで大丈夫か?”



(とにかく距離を取らなきゃ…そしてどこかに隠れないと…)



彼女が考えだしたのは、どこか隠れる場所を探すという方法だった。


神木拓也とテレビ局のスタッフたちがここを訪れる前に、どこか身を隠せる場所を探し、

そこでやり過ごす。


のっぴきならない事情により、彼女はどうしてもテレビに映るわけにも、神木拓也に会うわけにもいかなかった。


(お願い…モンスター出てこないで…)


モンスターに足止めされてその間に神木拓也がここへくるなんてことだけにはなりたくない。


そう思った彼女は、モンスターが出てこないようひたすら心の中で祈りながら、ダンジョン下層を奥へと向けて疾駆した。


そして、そんな彼女の前に……




『グギャァアアアアア!!!!!』




「え……」


絶望が体現した。

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