第227話


「タクヤ・カミキが配信を開始しました」


「よし、すぐにモニターに移せ」


「各自配置につけ」


「「「了解!!!」」」


アメリカの某所にあるダンジョン管轄省庁。


アメリカの全てのダンジョンや探索者の管理について、多大な権限を与えられているその省庁の情報室に、アメリカの大物政治家や政府高官、たくさんの職員などが集まっていた。


情報室の巨大スクリーンに写っているのは、現在日本で行われている神木拓也の配信だった。


視聴者と魔の抜けたやり取りをしながら、ダンジョンを攻略していく様子をアメリカの要人たちは注意深く見守っていた。


「さて、いよいよだ…」


「今日、彼の真価が問われることになる」


「分析官、準備はいいな?」


「もちろんです」


情報室には、要人たちの他にもたくさんの分析官や職員が集められていた。


彼らは全て、神木拓也の実力を正確に分析し、測るために呼ばれた人々だった。


今や神木拓也という存在は日本を飛び越えて、海外の政府要人たちにまでその名を轟かせるほどの大物になっていた。


本人の知らないところで、各国政府たちは、神木拓也の配信や動向を監視し、分析し、そして自分たちの側に取り込むための計画を着々と進めていた。


もちろんアメリカ政府もその中の一つだった。


アメリカはこれまでも、たくさんの国から有望なダンジョン探索者人材を引き抜いては、アメリカ国籍を与え、国内で訓練を施し、優秀なダンジョン探索者としてアメリカ国内のダンジョン探索の進歩に貢献してもらう、というようなことを繰り返していた。


彼らのやり方は非常に狡猾であり、発展途上国などの貧しい国から高額の報償を提示して優秀な人材を引き抜いてくるのだ。


またアメリカンドリームを目指してアメリカに探索者になりにくるものもたくさんいる。


かつてアメリカが世界各地から優秀な人材を自らの大学に招いたりなどして、国力強化に繋げていたのと同様のやり方を、彼らはダンジョン探索という分野においても実行していた。


そしてそんな彼らが現在、引き抜きのための最重要ターゲットとしているのが神木拓也だった。


彼らは神木拓也をもし引き抜きアメリカ人とすることができれば、単に国益になるだけでなく、世界のダンジョン探索史を根本から変革し、リードすることができると考えていた。


神木拓也というたった一人の存在が、世界中のダンジョン探索に大いに影響を与える存在だと評価しているのだ。


「さて見せてもらおうか…タクヤ・カミキ…いや、ダンジョンサムライ。君の真価を」


政府高官たちが腕組みをし、ニヤリと頬を歪めながら、スクリーンに映し出された惚けた顔の神木拓也を鋭い瞳で睨んだ。



= = = = = = = = = =



神木拓也のダンジョン探索が始まった。


分析官たちが巨大スクリーンに映し出された神木拓也の配信画面に集中し、情報を入力している。


その背後では、政府高官たちが腕組みをして神木拓也をじっと見つめていた。


「さあ……さっさと低層でのお遊びを終わらせて深層に潜るんだ…」


「うむ…流石に早いな…」


「低層とはいえ、この攻略スピード……やはり化け物じみているな…」


上層、中層、そして下層をものすごいスピードで攻略していく神木拓也をアメリカ人たちは唸り声を漏らしながら監視する。


神木拓也は、攻略途中に配信画面をチラ見して視聴者と会話するという余裕を見せながらも、全く速度を落とすことなく深層に向かってダンジョンを進んでいっていた。


「この画面が途切れるのはなんだ?」


「おい、ちょくちょく画面が途切れているぞ?」


「回線はどうなっているんだ?」


「おい、つべの運営どもに回線を安定させるよう今すぐに電話しろ」


神木拓也の配信を見ていると、時々画面が途切れ、気がつけば神木拓也がワープしているという現象が相次いだ。


政府高官たちが苛立ち、自国に拠点を構えるサイトの運営に政府命令として神木拓也の配信回線を安定させるように指示を出そうとしたその時、分析官たちが恐る恐る口を挟んだ。


「し、失礼ながら…」


「おそらくこれは回線による不具合ではありません…」


「タクヤ・カミキの使う技が原因かと」


「どういうことだ?」


すでにこれまでの神木拓也の配信や行動などを全てインプットし、分析し、この空間において誰よりも神木拓也に詳しくなっている分析官たちが、この現象についてお偉いさん方に説明をする。


「彼は…タクヤ・カミキはほとんど時間停止能力と思しき力を持っているのです…」


「画面が途中で途切れてタクヤ・カミキがワープしたように感じるのは…」


「彼がまるで瞬間移動でもしたのかと感じさせるほどに早く動いているからです……我々やもちろんカメラも視認できないほどに…」


「わ、わけがわからん…」


「そんなことが可能なのか…?」


「一体何が起こっているんだ?」


政府高官たちは早くも困惑顔で巨大スクリーンを見た。


そこでは神木拓也が中層で30匹ほどの群れと遭遇しており、神木拓也は剣も抜かずにその群れに突っ込んでいった。


そしてそこで画面が途切れ、気がつけば神木拓也はモンスターの群れをまるでワープでもしたかの

ように背後にしていた。


その直後、驚くべきことに神木拓也の背後の空間がぐにゃりと歪んだように見えて、そこから突風が吹き荒れた。


中層のモンスターたちはバラバラになり、肉塊となってダンジョンのあちこちに散らばった。


冗談のような、信じられない光景がそこには広がっていた。


「こ、これは…?」


「なんだこの動きは…?」


「あの数を一瞬でどうやって…?」


ごくりと唾を飲む政府高官たちに、分析官たちが解説を加える。


「本人は超集中状態と呼んでいるようです」


「彼が超集中状態に入れば…」


「まるで瞬間移動したかと錯覚するぐらいに早く動くことができるようです」


「本人は止まった時間の中を自分だけが動いているようだと形容しています」


「彼がその止まった時間の中で動いた軌跡には、ああして歪みが発生するのです…」


「前回の配信でも同じような現象が確認されています」


「し、信じられん……」


政府高官たちが揃って唸り声を上げた。


まだ神木拓也の配信は始まったばかりであり、深層にすら辿り着いていないのに、彼らはすでに神木拓也の埒外さに圧倒されかけていた。

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