第113話


黒のローブのモンスターが何かをしようとしていた。


その杖の先が怪しい光に満ち始める。


「攻撃か?」


何か遠距離攻撃の予備動作だろうか。


そう思い,俺は身構えるが、果たして次の瞬間、全く予想外の出来事が起こった。



ヒィイイイイイイイイ

ァアアアアアアアアア

キシェエエエエエエエエエエ

クケケケケケケケケ



「え…?」


思わず口をぽかんと開けて硬直してしまう。


倒したはずのモンスターが地面から蘇った。


レイスが、ハーピーが、リザードマンが、格闘系のモンスターが…


一度は死体となりダンジョンの地面に吸収されたはずが、黒のローブのモンスターが光る杖を振った瞬間、まるで逆再生のように地面から生えてきて完全に元通りになった。



“ファッ!?”

“嘘ぉおおおおおおお!?!?”

“生き返った!?”

“まじ!?”

“せっっっっっっっっこ”

”生き返ったぁああああああああ“

”蘇ったああああああ!?!?“

”そんなのありかよ!?“

”復活したんだが!?“

”えっっっっぐ“

“いや、それはせこくね?”



視聴者たちも、カメラが映したものが信じられないといった反応を見せている。


一度死んだモンスターの蘇生。


どうやらそれがあの黒のローブのモンスターの能力らしい。



「仕切り直しか」


白竜を残し、全て倒したはずのモンスターが簡単に復活してしまった。


俺は「ふぅ」吐息を吐き出し、気持ちを切り替える。



「蘇生の力か……厄介だな。しかも…」



他のモンスターを蘇生させる能力だけじゃない。


あのモンスターには自分自身をも蘇生させる能力がある。



「まさか不死身、じゃないよな?」


切ろうが焼こうが何度でも死から蘇り、そして他のモンスターも無限に蘇生する。


そんな力があいつにあるのだとしたら、流石にお手上げた。


流石の俺も死なないモンスターを殺すことは出来ない。



「いや…そんなことはないか…」


少し弱気になったが、しかしよくよく考えてみれば、一応このダンジョンは攻略済みダンジョンである。 


つまりあのボスモンスターを倒した人間がいるということであり、攻略は可能。


不死身というわけではないだろう。


どこかしらに弱点があるはずだ。



ヒィイイイイイイイイ

ァアアアアアアアアア

キシェエエエエエエエエエエ

クケケケケケケケケ

グォオオオオオオオオ 


咆哮と共に深層モンスターが一斉に突進してくる。


レイスの一撃が、ハーピーの先読み攻撃が、リザードマンの舌が、格闘系モンスターの衝撃波が、白竜の鉤爪が、一斉に俺に襲いかかる。



ギギギギギン!!!



俺は剣を使って全てを受け止めるが、唯一、ハーピーの攻撃を喰らってしまい、体が宙に浮く。


「っとと」


うまく着地はしたものの、ここへきて初めて攻撃を喰らってしまった。 


ダメージはさほどないものの、攻撃をもらってしまったという事実は大きい。


このまま深層モンスターに束になって攻撃を繰り返されたら、少しやばいかもしれない。



“まずいまずいまずいまずい!?”

“復活するなんて聞いてないぞ!?”

“大将;;頑張ってください;;”

“ひん“

”どうすんのこれ…“

”流石にせこすぎるだろ…“

”何回蘇生させられるんだろ?回数制限あり?無し?“

”回数制限なかったらやばくね?“

”おい神木!モンスターを倒しててもその度に復活させられてたらキリがないぞ!あのボスっぽいやつから倒そう!!“

”大将!!あのボスっぽいやつから倒したらよくないですか!!“

”神木!!頑張って攻撃掻い潜ってあの蘇生能力もちから倒そう!!“



「そうですね……俺もそのつもりです!!」


視聴者たちがコメント欄で先にあの黒いローブのモンスターから倒したほうがいいとアドバイスをしてくる。


俺ももとよりそのつもりだ。


あのモンスターが、一体何回蘇生能力を発動させられるのか、現状ではわからない。


たった一度きりかもしれないし、5回,10回…もしくは100回、あるいは回数制限がないことも考えられる。


その場合どれだけ、周りの深層モンスターを倒したところで意味がない。


取るべき最善種はやはり、あの蘇生能力持ちのモンスターを先に倒してしまうことだろう。


「そう簡単には行かせてくれないよな」


深層モンスターたちは、まるで黒のローブのモンスターを守るようにその前に立ち塞がってくる。


黒のローブのモンスターは、深層モンスターたちの影に隠れるようにして、直接攻撃はしてこない。


どうやら攻撃手段は持っておらず、他のモンスターに戦わせて死ねば蘇生する、という戦い方をするつもりらしい。


「悪いけどそうはさせない。神拳」


俺は前方に向かって神拳を放った。 


ボッ!!!!


ギュゥウウウウン!!!!


目の前に黒い渦が発生。


蘇生能力持ちの前に立ちはだかる深層モンスターたちが、吸い込まれるようにして消失していく。


「よし」


道がひらけた。


俺は一気に地面を蹴って蘇生能力持ちまで肉薄する。



『……!?』



蘇生能力持ちが明らかに動揺したような挙動を見せる。


反応が鈍い。


やはり強力な蘇生能力を持つ代わりに直接戦闘能力は低いらしい。


一気に仕留めてしまおう。



ヒィイイイイイイ!!!



背後から先ほどの神拳を逃れたらしいレイスが攻撃を仕掛けてきた。


蘇生能力持ちが、それを見てチャンスだと思ったのか、タイミングを合わせ懐からナイフを取り出して投擲してきた。


前後からの同時攻撃。


「ふん!!!」


『ヒィッ!?』


『ッ!?』


俺は上半身を、地面につきそうなところまで逸らし、ナイフを交わし、片手剣を使ってレイスの振り下ろしを顔面に近いところで受け止めた。


グサ!!!!



『ヒィイイイイ!?』


攻撃のために実体化していたレイスに、蘇生能力持ちが投げたナイフが刺さり、レイスが悲鳴をあげる。


斬ッ!!!


直後、俺が放った斬撃がレイスを切り裂き、レイスは死に絶えた。



『……!』



蘇生能力持ちの杖の先に光が集まり始める。

どうやら死んだ深層モンスターたちを復活させるつもりらしい。


「させねぇよ?」


俺は蘇生能力持ちの杖を狙って斬撃を放った。


斬ッ!!


ドサ……


カランカラン……


『…ッ!?……ッ……』



蘇生能力持ちの杖を持つ腕が切り落とされ、杖が地面に転がった。


痛そうにブルブルと震えた蘇生能力持ちが、地面に膝をつき、俺を見上げる。


「杖がなきゃ、蘇生能力は使えないみたいだな?」


背後を仰ぐ。


死んだモンスターは生き返っていない。


この杖が、蘇生能力を発動させる上で必要なのは明白だった。


『…ッ』


黒のローブが、よろよろとした動きで杖に手を伸ばす。


ローブが剥がれ、まるでミイラのような乾いた本体が露出していた。


「はいだめ」


『……!?』


俺はなんとか杖をもう片方の手で掴もうとしていた黒ローブから、杖を奪い取った。


「これせこいから禁止な」


バキッ!!



杖を容赦なく折って、破壊する。



『ォオオオオオオ』



「お?」



黒ローブがくるしげに呻き声をあげて、地面に倒れた。


ミイラのような本体が、チリとなって消えていく。



「杖が本体だったパターンか」


どうやら本体の蘇生にもこの杖が必要だったようだ。


それが失われてしまった今、こいつは蘇生能力を完全に失い、死んでしまったらしい。



しーーーーーん……



ボス部屋に静寂が広がる。


「勝った、のか?」


終わってみれば、あっけなかった。


俺はキョロキョロと周りを見渡す。


先ほどまでの混沌が嘘のように、ボス部屋は静まり返っていた。


もう一匹のモンスターの姿も見えない。


「勝ちました」


俺はものすごい勢いで流れているコメント蘭に向かって勝利宣言をしたのだった。

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