第112話
様子見をしている余裕は流石になかった。
これだけの数の深層モンスターに一度に仕掛けられれば、流石に対応するのは難しい。
奥に控えた,おそらくボスと思われる新種のモンスターのこともある。
先手を取れるのならば取っておいた方がいい。
そう考えた俺は、最初の一撃として「神斬」をボス部屋の深層モンスターたちに放った。
刹那、世界が上下二つに分かれて、蠢いていた深層モンスターたちの動きが一瞬止まったように感じた。
“うおおおおおおおおおおお”
“きたああああああああああああ”
“神斬きたあああああああああああ”
“まずは様子見として神斬を一発、と”
“どりゃああああああああああ”
“最初っから最大出力で草”
”っぱ初手は神斬よ“
”神木も本気ということか“
”え、なんですかこれ?“
”ん?画面がおかしい…バグ?電波悪い?“
“ちょっとよくわからないです“
”なんで画面が二つに割れたんですか…?カメラ壊れた?“
”新参が戸惑ってら^^“
”カメラが壊れたんじゃないよ。神木が世界を二つに切ったんだよ新参くんたち^^“
”新参たちよ。別に電波が悪いわけでも映像がおかしいわけでもカメラが壊れたわけでも目が錯覚起こしたわけでもないからな。見たままだよ“
最初の一撃から全力投球したことに、視聴者たちが盛り上がる。
「ふぅうううううう」
神斬を放った俺は、長く息を吐き出して深層モンスターたちを見据えた。
『ギシェ…ェエエエ……』
『……』
『クケケ……クゲェ……』
仕留めたのは全部で四匹。
リザードマンとデュラハン、そして格闘系のモンスター。
この三匹は,俺の神斬の挙動に反応することができず、その体は二つに引き裂かれ、地面に倒れ伏した。
デュラハンはそもそも俺をその能力の範囲に入れることすら叶わずに死んだ。
大陸服のモンスターは………まぁ今回は相性が悪かったな。
正面からの撃ち合いには強いが、不意打ちには弱いらしい。
そして意外や意外、最奥で他のモンスターに隠れてイモリながらボスっぽい雰囲気を出していたあのフードのモンスターも二つに分かれて死んでいた。
てっきり何かしらの手段を使って生き残ると思ったのだが、あまりに呆気なく死んでしまった。
まだどんな能力を持っていたのかすら判明していない。
「…まさかこれで終わりじゃないよな?」
もしこのままあのモンスターが死んでしまったのならあまりにあっけない。
だが、俺の直感が告げていた。
あの新種はおそらくこのままでは終わらない。
なんらかの手段を使って復活してくるだろう。
「その前に他のモンスターを倒しておくか」
俺は神斬を生き残った他のモンスターに視線
を移す。
生き残ったのは全部で四匹。
キングスライム。
ハーピー。
レイス。
白竜。
キングスライムは、一発の神斬では格を破壊することができず、上下に分かれた二つが再び一つになろうとしていた。
ハーピーはどうやら俺の神斬を未来視の力を使って読んだようだ。
全く無傷の状態でそこにいる。
そしてレイスは霊体なので神斬を免れたようだ。
そして白竜はというと、その巨体は二つになったものの、驚異的な再生能力ですでに失われた上半身が再生しつつある。
「案外しぶといな」
相性もあるだろうが、四匹も神斬を生き残るとは思わなかった。
ボス部屋というだけあって、一筋縄では行かなそうである。
”すげぇええええ、生き残った!!!“
”仕留められたのは四匹か“
”マジか…神斬を生き残ったのか…“
“威力最強の神斬生き残るとか、やっぱ深層モンスターって尋常じゃないな”
“まぁ相性もあるだろ。レイスは当然生き残るし、キングスライムはたまたま核に当たらなかった。ハーピーには未来視があるし、白竜の方は再生能力があるからな。他の四匹仕留められただけで上々でしょ”
”逆に初手で四匹も仕留められた。そう考えよう“
”一気に半分に減ったw w w余裕そうw“
“いけええええ大将ぉおおおお”
『ァアアアアアアア!!!』
『ヒィイイイイイ』
『グォオオオオオ!!!!』
『……』
ずる…ずる…
さてどうするかと俺が次の手を考えていると、生き残った深層モンスターたちがいよいよ俺に向かって突進してきた。
ハーピーが、レイスが、白竜が、怒り狂ったように正面から突っ込んでくる。
キングスライムはその後からゆっくりとこちらに侵攻しつつあった。
「神木サー・改」
俺はそんな彼らに容赦なく神木サー・改を発動し、迎え打つ。
ドガガガガガガガガ!!!!
無数の斬撃が放たれて、突っ込んでいた四匹を蹂躙する。
“容赦ねぇw w w”
“今度は神木サーきたああああああああ”
“うおおおおおおおおおお”
“大技連打あちぃ!!”
“神斬からの神木サーコンボきたああああ”
”最強コンボすぎて草“
”どりゃああああああああああ“
”すげええええええええええええ“
“神木マジで本気モードやん”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
『グギャアアアアアアア!?!?』
『ァアアアアアアアアア!?!??』
斬撃に削られ、切り裂かれていくモンスターたちの悲鳴がボス部屋にこだます。
俺はそのまま1分ほど神木サー・改を続けた後、動きを止めてモンスターたちの様子を確認する。
ヒィイイイイイイイ!!!!
「おっと」
ギィン!
斬ッ!!!
神木サー・改を終えた瞬間、レイスが接近してきて攻撃を仕掛けてきた。
どうやら霊体になって神木サー・改を回避し、その終わり際を狙っていたらしい。
レイスの攻撃を弾き返した俺は、実体化したその体を剣で切り裂いた。
『ヒッ……』
レイスは短い断末魔とともに地面に落ちて動かなくなる。
俺は改めて生き残りの四匹の状態を確認する。
「キングスライムは死んだか……ハーピーもいない……未来を読んでも逃げられなかったか……それから……白竜は相変わらずだな」
生き残っているのは白竜のみだった。
キングスライムは、どうやら核が破壊されて死んだらしい。
そしてハーピーも切り裂かれ、惨殺体となって地面に転がっていた。
おそらく未来視の能力は発動していたのだろうが、神木サー・改の手数の多さに逃げ場がなかったようだ。
そして唯一の生き残りである白竜は、苦しげにのたうちまわりながらも、徐々に再生を始めている。
「お前はしぶといなぁ…」
俺はそう言いながら剣を鞘に収めて、右拳を引いた。
最後の砦、白竜を神拳で仕留めようとしたのだ。
その次の瞬間…
「お…?」
感じる気配が二つに増えた。
生き残った白竜のその奥……先ほど神斬で倒したはずのあの黒いローブのモンスターが、いつの間にか立ち上がっていた。
「生き返った…?」
なんとなくそんな予感はしていたが、まさか本当に生き返るとは。
「ちょっとは楽しめそうだな」
ボス部屋の戦闘があっけなく終わってしまてはつまらない。
俺は神拳を打とうとしていた拳を一旦収めた。
『……』
黒いローブのモンスターが、持った杖を無造作に俺に向けた。
その杖の先が、怪しい光に満ち始めた。
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