第111話
「というわけで今からボス部屋に挑みたいと思います。どんなモンスターが出てくるのか、楽しみです」
俺は眼前のボス部屋を映しながら言った。
数十メートルはある両開きの巨大な扉が目の前にある。
ここがこのダンジョンの最下層であり、最も強いモンスターがいる部屋、すなわちボス部屋である。
中へ入り、ボスを討伐すれば、晴れて俺はこのダンジョンをクリアしたということになる。
視聴者によれば、このダンジョンはかつて政府主導で攻略、開発されたダンジョンであり、民間が攻略したことは一度もないらしいので、民間人の俺が一人で攻略すればそれなりの功績になる。
“そんなことよりさっきの空中ジャンプについて話せよw w w”
“空中で下に拳うって飛距離伸ばすのどう考えてもおかしいからw w wゲームキャラみたいな挙動だったぞw w w”
“いや普通にジャンプの飛距離おかしいからw w w”
“もうお前なんでもありなんだな”
“何しても驚かないと思ってたけどさっきのは普通に引いたわw w w”
“初見です。これが今流行りのAI作成動画ですか?”
”ちょっと何が起きたのか意味がわかんなかったんですけど、さっきのって現実ですか?“
”ついさっき同接ランキングから来たんですけど……なんか見てはいけないものを見てしまった気がするのですが気のせいですか?”
“初見が戸惑ってら^^”
“初見がドン引いてら^^”
“おい、新参ども、このぐらいで驚いてたら持たないぞ”
“大丈夫だよ、新規視聴者たち……一週間後には君たちも慣れてくると思うから”
コメント欄では視聴者たちがいまだに俺の先ほどのジャンプについて色々コメントしている。
俺はそんなにおかしなことをしただろうか。
逆にあんな狭い足場をわざわざ利用する意味がわからない。
絶対に一足飛びに飛び越えた方が早いに決まっている。
何かこれに関してこれ以上言及することがあるだろうか。
「あ…ひょっとして、狭い足場を使って落ちるか落ちないか、ってやった方が配信的に盛り上がったとかそういうことですか?」
“ちげーよw w w”
“なわけないだろw w w”
“何いってんだお前w w w”
“配信者脳”
“そんなわけあるかw w w”
“普通に水平に何十メートルも飛んだことに対して純粋に驚いてんだよw w w”
“だめだこいつ…早くなんとかしないと…”
“こいつの中の常識どうなってんだ?”
”神木くんさぁ…“
“天然の神木様可愛い。早く交わりたい。配信終えて地上に帰ってきて“
“逆にお前って何が出来ないの?”
「…?」
ちゃんと毒沼を正攻法で突破して、配信を盛り上げろよと怒っているのかと思ったが、違うようだ。
どうして今更ジャンプぐらいで驚くのか。
一応『このくらいのこと』は簡単に出来ると信用されていると思ったのに俺の勘違いだったのか。
「まぁとりあえず時間が押しているので、さっさとボス攻略スタートします」
あまり時間的猶予もなくなってきた。
俺はジャンプについてあれこれ言っている視聴者を一旦放置して、ボス部屋に挑む。
ゴゴゴゴゴ……
ボス部屋は、俺が近づくと、触れたりせずとも重々しい音と主に開いていった。
ボッボッボッボッボッ…
壁の松明が灯り、暗がりがだんだんと明るくなっていく。
キシェエエエエエエエ!!!
ヒイイイイイイイ…
クケケケケケケケケ
ァアアアアアアアア……
グォオオオオオオ!!!!!
「うわすげ」
俺は思わずそう呟いていた。
松明によって明るくなった広いボス部屋の中には、これまで出会ってきた深層モンスターが勢揃いしていた。
リザードマン。
レイス。
ハーピー。
デュラハン。
あの大陸服の格闘系モンスター。
そして回復力が異常に高い白竜。
ありとあらゆる深層モンスターが配置されており、戦いの時を待っているかのように躍動している。
”いや多すぎw w w“
‘ファーーーーーw w w w w”
“数おかしいだろw w w”
“オールスターやんw”
“ア○ンジャーズかな?”
”なんだこれw勢揃いやんw w w“
“えっっっっっっぐ”
“最後の最後で無理ゲーきたあああああああ”
“やばすぎw w w”
“深層モンスターの見本市”
“大将逃げてえええええええ”
視聴者たちはボス部屋で待ち構えていた深層モンスターの群れに驚いている。
俺もまさかこんな数のモンスターが出てくるのは予想外だった。
ボス部屋にはボスモンスターのみが出てくるものとばかり思っていた。
「何か奥にいるな」
一瞬、このダンジョンのボスは、この深層モンスターの群れ自体なのかと思ったがどうやら違うようだ。
今にも俺に襲いかかってこようとしている深層モンスターたちの背後……最も奥に、見たこともないようなモンスターがいた。
異様は気配を放つそいつは、黒いローブを身に纏っており、手には魔法使いのような杖を持っていた。
「おそらくあいつが…」
それなりに強者の気配を発しているあのモンスターが、おそらくこのダンジョンのボスなのだろうと俺は思った。
キシェエエエエエエエ!!!
ヒイイイイイイイ…
クケケケケケケケケ
ァアアアアアアアア……
グォオオオオオオ!!!!!
”どうすんのこれ?w w w w w“
“流石に無理があるわw w w”
“○鬼のラストみたい”
“次回!神木拓也、死す!!デュエルスタンバイ!!!……いや嘘です死なないで大将”
“大将;;逃げて;;”
“最後の最後で無理ゲーきたな。どうすんのこれ”
“いや、普通に神斬と神拳連打でいいやろw w w”
“確かに神拳連打で勝てそうw w w”
“やばいと思ったけど確かにw w w神拳連打ほんま卑怯w w w”
“まぁ神木のことだからなんとかするだろ”
“全ぶ見たことあるモンスターだと思ったけど、一番奥に何かいるな”
“一番奥にいるやつ、あれ新種?”
“あいつがボスモンスターなのか?”
“楽しくなってきたああああああああああ”
“行けぇええ神木ぃいいいいいいい!!!”
チラリとコメント欄を見ると、視聴者は大方があまりの数の多さに無理ゲーだと騒いでいた。
この数の深層モンスターは流石に荷が重いと思っているらしい。
逃げろと悲鳴をあえている視聴者もいれば、冷静に一番奥に見たことのないモンスターが混じっていることを指摘しているコメントもある。
比較的古参の視聴者は、俺ならば大丈夫だと安心して見てくれているようで、やばいと騒いでいるのはおそらく最近俺の配信を見始めた新参の人たちだろう。
「ま、やりますか」
なんにせよ、ここまでいたのだから逃げるという選択肢はない。
どんなに数が多かろうが、全てのモンスターを倒し、俺はこのダンジョンを攻略する。
深層に足を踏み入れた時から覚悟はできている。
キシェエエエエエエエ!!!
ヒイイイイイイイ…
クケケケケケケケケ
ァアアアアアアアア……
グォオオオオオオ!!!!!
モンスターたちが咆哮し、俺に注目する。
ボス部屋に殺気が立ち込め、何かきっかけがあれば、すぐにでも乱戦が始まりそうだ。
「ふぅうううう…」
最初の一髪が肝心だ。
俺は長く息を吐き出し、体を脱力させてから、一気に力を腕に込めた。
「神斬」
次の瞬間、ボス部屋が二つに割れた。
“初手神斬きたああああああああ”
“うぉおおおおおおおお神斬きたああああああああああ”
”いきなり神斬きたああああああああ“
”(⌒,_ゝ⌒)ボス部屋は初手神斬や!!!“
”どりゃああああああああああ“
”神木も本気ということです、か“
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