第110話


「お、200万人…」


白竜を倒した俺は、深層第四層を奥へと進んでいく。


その途中、ついに同接が200万人を突破した。


前回の深層配信の記録を大幅に塗り替えたことになる。


ダンジョン攻略までに超えればいいかなと思っていたが、まさか攻略前に達成できるとは思わなかった。


「200万人ありがとうございます」


俺は見にきてくれた視聴者たちにお礼を言う。



¥10,000

200万人おめでとう



¥30,000

大将200万人おめでとうございます



¥50,000

200万人おめでとう!

神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!



「スーパーチャットありがとうございます」

視聴者たちがスパチャで素直に祝ってくれる。


”初見です。同接すごいですね“

”なんか人がいっぱい集まってるから来た“

”すごっ!?何このダンジョン配信!?“

“めっちゃ人いる…誰ですかこの人。芸能人…?”

”深層ソロ配信って流石に釣りタイトルですよね?深層にソロで潜るなんて危険すぎません?“

”チャンネル登録しましたー“

”今日から見始めたんですけど、ファンになってもいいでしょうか?“



コメント欄には初見の視聴者のコメントも目立つ。


今日しっかりこのダンジョンをクリアして、一人でも多くの人間を固定視聴者に変えたい。


「第五層、潜っていきます」


俺はそんなことを思いながら、第四層を踏破し、第五層へと足を踏み入れた。



「お、これは…」


深層第五層はこれまでと明らかに構造が異なっていた。


この感じ、見覚えがある。


これはおそらく…



“ボス部屋きたあああああああ”

“ついにボス部屋か”

“ボス部屋、やね”

“ついにここまできたあああああああ”

“うおおおおおおおおおお”

“攻略まで後一歩”

“大将後少しです!頑張って!”

“偉業達成まで後少し”

“このダンジョン、民間だけでクリアされたことないんだろ?大将がソロでクリアしたら相当やばくね?”

”まーた、俺たちは伝説の生き証人になっちまうのか…“



「ボス部屋、みたいですね」


俺はちょっと感慨深くそう呟いた。


ダンジョンに潜り始めて六時間以上が経過。


ようやく俺はボス部屋へと辿り着いたようだ。


いよいよクリアが目前に迫ってきてコメント欄の流れが一気に早くなる。


後一歩、もう少しで偉業達成。


そんな視聴者たちの励ましのコメントが目立つ。


「前と同じ……ギミックというか、ちょっとした仕掛けがありますね」


俺は周囲を見渡しながらそう言った。


深層第五層全体を見渡してみると、まず前方五十メートル付近ぐらいにあるのが、おそらくボス部屋だと思われる扉である。


そしてその周りは大きく陥没しており、紫色の毒々しい液体が溜まっていた。


長い橋でも架けない限り向こうには渡れないような仕組みになっており、所々に、人一人がようやく立っていられるほどの細長い岩が点在しているのが見える。


「これは……近くの細い岩に飛び移りって、落ちないようにしながら行けってことですかね…?」


俺は今回のボス部屋前のギミックをそう解釈した。


陥没した地面に溜まっている液体は見るからに猛毒であり、落ちたら確実にやばい。


要はところどころにある細い岩に,ジャンプして飛び移っていき、落ちないようにしながらボス部屋へとたどり着けということか。



“むっっっっっっっず”

“落ちたら終わりやん”

“岩ほっっっっっそ”

“むずくね?”

“簡単にはボス部屋に入らせてもらえないってことか”

“落ちたら明らかにやばい色してる”

“岩細すぎてピンポイントでジャンプしないとやばいやん”

“だるいなぁ”

“これ何かどう腕もないとむずくね?”

”手ぶらで挑戦すんの危険すぎる“



視聴者たちは、足場となるはずの点在する岩のあまりの細さに危険だと言っているが、しかし別段正攻法で行く必要はないだろう。


俺は近くにあった手頃な石を拾って、紫色の液体に投げ込んでみる。



ジュウウウウウウウ…


「やっぱり落ちたらダメだよな」


岩はものすごい勢いで溶けていった。


キングスライムよりも溶かす力は強そうだ。


人体などひとたまりもないだろう。



”えっっっっっぐ“

”溶岩かな?“

”ちょっとでも触れたら終わり“

”溶けてら^^“

”やっぱそうだよなぁ“

”大将;;ここまでいたのにどうするんですか;;“

“神木。別に次でもいいぞ。今回こういうギミックがあるってわかったから、次は準備してこればよくね?”

“神木さん、別に今日じゃなくていいよ”

”ここまできたらクリア見たいけど、こういうのがある以上仕方がない。次準備してこればいい“



一歩間違えば溶けて死ぬ。


そんなボス部屋前のギミックに視聴者たちは、攻略は次回でもいいと言ってくる。


だが、俺には視聴者たちが何をそんなに危険がっているのかが正直わからなかった。


「いや……別にわざわざあんな細い岩に飛び乗って渡る必要はないですよね?」



”は?“

”え?“

”ん?“

”お?“

”はい…?“

”え……?“



「では、いきます」


俺は第五層の入り口ギリギリまで下がり、助走をつける。


”いやいやいやいやいや!?“

“無理無理無理無理”

‘大将何してんの!?“

“何メートルあると思ってんだ!?流石に無理だろ!?”

“馬鹿なのかな!?”

“届くわけないだろ!?”



「ーーーッ!」


そして地面を蹴って一気に駆け出した。


陥没し、毒の沼となっている縁に到達したところで思いっきり地面を蹴る。



ドガアアアアアン!!!


地面が砕け、俺の体は宙に浮いた。


そのまま眼下に見える毒の沼、そして細い足場を全て飛び越えて……向こう岸へと一気に向かっていく。



「あ、やべ…!」


このまま垂直に五十メートル以上飛んで向こう岸に着地できるかと思ったのだが、ちょっとだけ飛距離が足りなかった。



「ふん!!!」



俺は咄嗟に自分の真下に拳を放ち、衝撃波で体を浮かせて飛距離を若干伸ばす。


そして…


「ほい!」


両腕をあげて、体操選手のようになんとか縁ギリギリに着地したのだった。



“はあああああああああ!?!?”

“えっっっっっっっっっっぐ”

“ファーーーーーーw w w w w”

“やばすぎw w w w w”

“えぐすぎw w w w w w w w”

“なんじゃそりゃあああああああああ”

“どりゃああああああああああああ”

“うおおおおおおおおお”

“きたああああああああああ”

“空中二段ジャンプで飛距離伸ばしてら^^



俺が毒の沼を一足飛びに飛び越えたことに、視聴者たちが驚き、コメント欄はかつてないほどに早く流れるのだった。

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