第109話


「ふしゅうううううう…」


振り抜いた拳をゆっくりと戻す。


長くゆっくりと息を吐き、俺は戦闘勝利の余韻に浸る。


驚異的な回復力を持った白いドラゴンは、俺の目の前から跡形もなく消失していた。


回復能力をそもそも発動させずに瞬時に葬る俺の作戦は見事にうまくいった。


神斬を使う時のパワーを拳に乗せて放ったところ、白竜の巨体は消し飛んだ。


俺の前方のダンジョンの通路は、まるで何かそこにあった巨体な球体がなくなったかのようにぽっかりと空いて広くなっている。


「倒しました」


噛み締めるようにそう言いながら、俺はコメント欄に目をうつす。



”……“

”………“

”………………………………“

”……“

”…………………“

”……………………………“

”……………“

”…“



「あれ?」


コメント欄が沈黙していた。


チャットを確認するためだけの端末をじっと見つめるが、まるで時が止まってしまったかのようにいつまで経ってもコメントが流れない。


チャット欄がフリーズしてしまったのかとスクロールして更新してみるが、どうやらフリーズしてしまったわけではないようだ。


電波が悪いのだろうか。


前にもこんなことがあったような気がするのだが。



”何も見てない何も見てない何も見てない何も見てない…“

”人間じゃない人間じゃない人間じゃない人間じゃない“

“やばすぎ…マジでなんなんだこいつ…”

“もう意味わかんないよ;;”

“物理法則どこ;;”

“笑うことしか出来ねぇ”

“こいつまーたチャット欄止めてら^^”

“開いた口が塞がりません。助けてください”

“それ出来るんだったらもう神木に勝てるモンスターいなくね?”

“人間兵器”

“化け物”

“怪物“

”新人類“

“あーあ、壊れちゃった^^“



「あのー、大丈夫ですか?配信流れてます?ぷつぷつになってません?おーい……あ、よかった。大丈夫そうだ」


俺が機材をポンポンと叩いていると、やがて息を吹き返したようにコメントが流れだした。


ちょっと電波が悪かったのだろうか。


俺は配信が切れていなかったことに安堵しながら、視聴者のコメント、反応を確認する。



「…?あれ?」


思わず首を傾げてしまった。


コメント欄がいつもに比べておとなしい。


いつもなら、モンスターを倒した直後……特に新種の深層モンスターを倒した直後は怒涛のようにコメント欄が流れるはずなのだが、今回はあまり流れが速くない。


なんとなく何かにドン引きしているようなコメント欄の雰囲気だ。


(あまり戦いが派手じゃなかったからか

な?)


視聴者の反応が芳しくないのは、もしかしたら白竜との戦いが地味すぎたことが原因かもしれない。


あの大陸服を着た格闘系のモンスターとの戦いは、正面からの力のぶつけ合いで、視聴者も興奮していた。


だが、今回は終わってみれば結局のところ、正面からの削り合いなどではなく、一撃で決着がついてしまった。


それが視聴者にとってはあまりエンターテイメントではなかったということなのだろうか。


(まぁ同接増えているし、いいか)


気づけば同接は198万人。


200万人まで目前である。


多少視聴者の反応が悪くても、同接は順調に推移しているのでまぁ問題ないだろう。



「白竜討伐完了です……みなさん、チャンネル登録お願いします」


俺は白竜討伐報告をし、チャンネル登録を促した。


そして目の前にぽっかりと空いた穴をひょいと飛び越えて、ダンジョンのさらに奥へと進んでいく。



= = = = = = = = = = 


「な、なんだ今のはあああああ!?!?」


鬼頭玄武は思わず端末を放り出して大声を上げた。


いつも通り彼は神木拓也の配信に齧り付いていたわけだが、またしても彼の常識の範疇を越える出来ごとが起こってしまった。


神木拓也が現在潜っているのは、未だ民間人が踏破したことのない深層ダンジョンだった。


かつて様々な民間の深層クランが挑み、敗れ、最後には政府の特殊部隊が攻略に乗り出し、一度は敗走しながらも一年の時をかけてなんとか攻略したという経緯の攻略済みダンジョンである。


いつもながらたった一人でそのダンジョンに挑んだ神木拓也に、玄武は無謀だと思いつつも、神木拓也ならやってくれるという期待があった。


そして、実際の神木は、彼の期待を、想像を、はるか飛び越えていくようなダンジョン攻略を見せていた。


未来視の力を持ち、ソロの冒険者に対して無

類の強さを誇るハーピーを難なく倒し。


続いて出てきた超巨大モンスター、八十尺様を一撃の元に切り伏せ。


デュラハンのデバフを喰らいながら、それをものともせずに蹂躙し。


挙げ句の果てにかつて最強の武闘派探索者を殺したと言われているキョンシーに真正面か

らパワー勝負を挑んで勝ってしまった。


玄武は何か夢でも見ているような気分だったが、全て現実に起こったことだ。


神木拓也は、一昔前の深層探索者が束になっても敵わなかったようなモンスターたちを、たった一人でバッタバッタと薙ぎ倒しながら進んでいた。


『グォオオオオオ』


「流石に無理だろう!神木拓也でもこれは流石に無理だろう!!!」


白竜が神木拓也の前に姿を現した時、玄武はないないと首を振った。


かつて政府が派遣した特殊部隊を敗走させた白竜。


その以上な回復力から、不死竜と呼ばれることもあるそのドラゴンを、ソロの探索者が倒すことは常識では不可能だ。


「こいつを倒すには……一気に吹き飛ばせるほどの爆薬でもない限り無理だ…」


小耳に挟んだ噂だが、政府はこの不死竜を、大量の麻酔銃と爆薬によって攻略したらしい。


一回めの攻略で、どんなに銃弾やロケットを打ち込んでも、決して死なず、無限に再生することを知ったからだった。


そして当然ながら、神木は不死竜を眠らせられるほどの麻酔銃も、一気に吹き飛ばせるほどの爆薬も持っていなかった。


だから不死竜の討伐は不可能だった。


不可能のはずだった。 


…なのに。


「なん……だと…?」


神木拓也が拳を振り抜いた瞬間、一瞬画面に黒い球体が出現したように見えた。


光さえ飲み込んでしましまいそうなその球体は、白竜の全身を包み、跡形もなく消失させた。


まるで白竜の存在自体が幻影であったかのよ

うに、後には何も残らなかったのである。


「つ、強すぎる…誰が…どんなモンスターがこいつに勝てるというんだ…」


鬼頭玄武は乾いた笑いを漏らした。


「神木拓也最強…神木拓也最強…神木拓也最強……」


虚な瞳でそんなことをぶつぶつと呟く。


「インターネット、解約しようかしら…」


その横では彼の妻が、どんどん様子がおかしくなっていく自らの夫に、呆れたような視線を送っているのだった。



= = = = = = = = = =



「か、神木きゅん…しゅごしゅぎ……」


ビクンビクンッ


「あの、桐生様…?流石にそろそろ…」


「最高だぁ…最高しゅぎる…神木拓也しか勝たぁん……」


「…この人はもうダメそうですね。クラン抜けようかしら…」


 





〜あとがき〜


新作の


『親友が突然この世界はゲームだと言い出した件〜前世の記憶を持つ主人公の親友ポジの俺、腰巾着として楽に無双〜』


が公開中です。


内容は、


•よくあるゲームキャラに転生するラノベ主人公の親友ポジにスポットを当ててみた



と言う感じです。


一風変わった無双物語として楽しめますので、ぜひよろしくお願いします。


リンク↓


https://kakuyomu.jp/works/16817330657021256327


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