第160話


「えーっと、じゃあプレイするゲームはfpsに決まったので、次はタイトルを決めたいと思いま

す…」 


視聴者アンケートにより、俺が今日配信するゲームのジャンルはfpsに決まった。


次に決めるのはfpsのタイトルである。


現在ちょっとしたfpsブームが起きつつある日本では、いくつかの大型タイトルfpsが流行っている。


そのほかにも昔から続いている有名タイトルや、知る人ぞ知る玄人向けのものなど選択肢は様々だ。


俺は再びアンケートを作成し、視聴者に見たいfpsのタイトルを選んでもらう。



・ ぺくーす

・コット

・バロ

・ぱぶぐ

・すぷーら

・ふぉっとな

・おばうぉ



全部で7つのfpsタイトルを俺は選んで選択肢を作った。


全て、fpsに詳しいものなら聞いたことがあるような一定以上の知名度があるゲームタイトルである。


この7つの中からなら、たとえどれが選ばれたとしても、視聴者の中にある程度プレイヤーもいるだろう。


俺はまず自分一人でプレイしてみて、問題がないようなら視聴者参加型というのものをやってみるつもりだった。



「この7つのタイトルから選んでください…よろしくお願いします。では……アンケートスタート。さっきと同じで五万票集まったら投票締め切りたいと思います」



”きたああああああああ“

”うおおおおおおおおおおお“

“入れたわ”

“日本人ならすぷーらだよなぁ!?”

“ここは無難にぺくーすで”

“神木……お前が過疎のぱぶぐを救ってくれ…;;“

”おばうぉきたあああああああああ“

”神木の力でおばうぉを復権だぁあああああああああああ“

”やべえ。これわんちゃん、神木がどのタイトルをプレイするかでユーザー数とかの勢力図変わる可能性あるぞw w w“

”全力で自分の好きなタイトルに入れないとますます過疎るw w w“

”神木;;頼むお前の力でふぉっとなを救ってくれ;;“

”神木;;俺たちの青春、コットをぜひプレイしてくれ;;“

”日本人コットやってる人少なすぎる;;神木に広めてほしい;;“

”fps厨たちが集まってきてら^^“

”fps厨たち必死に投票してそうw“



投票を開始した途端にどんどん票が入り始める。


コメント欄の勢いも信じられないほどに早くなり、視聴者たちが思い思いに俺にプレイしてほしいfpsのタイトルをコメントしている。


中には、最近過疎ってきたタイトルを俺にプレイすることで救ってほしいと縋ってくる視聴者もいる。


いや、俺はあくまでダンジョン配信者であってゲーム配信者ではないのだが。


俺が今日一日プレイしたところで、ユーザー数に大きな影響が及ぶとは思えない。


…及ばないよね?



「そろそろ投票締め切りたいと思います…たくさんの投票ありがとうございます…」


票数はあっという間に五万票に達した。


気づけば同接も20万人を超えている。


なんだかいつもの配信と変わらない数の人が配信を見にきていることに俺は改めて驚く。


普通配信者というのは、特定のコンテンツに依存している場合が多い。


その人物が何をやっていたとしても一定数見る人がいる、という本物の人気配信者というのはごく僅かで、大抵が、何かしらのコンテンツに特化した配信者なのだ。


俺もてっきりそっち側かと思っていたが、まさかゲーム配信にもこんなに人が来るなんて思いもしなかった。


自分ではダンジョン配信にがっつり依存しているつもりだったのだが案外そうでもないようで、この結果はちょっと嬉しくないと言ったら嘘になるかもしれない。


もちろん、この同接は一時的なものかもしれないし、普段のダンジョン配信のおかげであることは百も承知だ。


例えばカロ藤糸屯一さんのように、ダンジョン配信だろうが、雑談配信だろうが、外配信だろうが、大食い配信だろうが、コラボ配信だろうが、何をしたとしても人を集めてしまう数名の有名大物配信者たちに、自分が肩を並べたと本気で思えるほど俺は驕ってはいない。


しかし、彼らのような『本物の人気配信者』に自分がまた一歩近づけたような気がして、俺はちょっと嬉しかった。


もし今回のゲーム配信の手応えが良ければ、これからもいろんなことにチャレンジしたい。


そしていろんなジャンルの視聴者に俺のことを知ってもらい、最終的にその視聴者を束ねて、俺のダンジョン配信に誘導したい。


そうすれば、あらゆるジャンルのあらゆる人たちに、俺のダンジョン配信を見てもらえることになり、より俺はダンジョン配信者として有名になれる。


何をやっても人を集められるし、ダンジョン配信をやれば、さらに大勢の視聴者がみにくる。


俺の理想の配信者形態は、大体そんな感じだ。


「えーっと、投票の結果は…」


などと言っているうちに投票の結果が出た。


先ほどの投票と違い、だいぶ票は散っていた。


過半数を獲得したタイトルは存在しない。


しかし、結果として、30%という一番多くの得票率で選ばれたのは今日本で一番流行っているfpsタイトル『ぺくーす』だった。



「結果は30%の得票率でぺくーすに決定しました」



“きたあああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおおお”

“どりゃあああああああああああ”

“ぺくーすきたああああああああ”

“ぺくーすだぁああああああああ”

“よっしゃああああああああああ”

“まじかああああああ”

“はぁ!?萎えるわ”

”うわ、マジかよ“

“俺の青春、コットが;;”

“ふぉっとな復権チャンスだったのに;;”

“ぱぶぐを救って欲しかった;;”

“俺のおばうぉ……まぁ流石に時代遅れすぎるか…;;”

“バロ2番目か……わんちゃんあると思ったけどやっぱり日本だとぺくーすが強いよな…”

“一番無難なのに決まったな”

“ぺくーすやるぐらいなら元ネタのぱぶぐやろうよ;;”

“まぁ普段見たりやったりしてるやつも多いだろうしぺくーすでいいやろ”

“ぺくーすやったぜ。アカウント持ってるから参加型してほしい”



俺としても予想していた一番無難な結果になった。


だが、コメント欄は結構荒れていた。


fpsプレイヤーというのは他のゲームのユーザーに比べて熱いところがある。


悪くいえば、ちょっと素行不良が目立つとも言われている。


自分の推しているタイトルが選ばれなかったユーザーが、萎えた、まじかよ、などと書き込み、逆に選ばれたぺくーすに投票したユーザーが他の選ばれなかったタイトルを煽るようなコメントを書いたりしている。



「喧嘩やめてください。荒れるようなら、もう今後はゲーム配信は無しです」



俺は悪さをする子供からおもちゃを取り上げる母親のような気持ちでそんなことを言った。



“やめて;;”

“それはやだ;;”

“なんでそんな酷いこと言うの;;”

“ごめんなさい;;”

”ごめん;;“

”喧嘩しないから許して;;“

”殴らないで;;“

”本当にごめんなさい;;“

”許して;;“

“これからもゲーム配信してほしい;;”

“喧嘩やめるからそんなこと言わないで;;”

“ひん;;”

“酷いよ…;;”



途端に喧嘩がやんで、コメント欄で泣きだす視聴者たち。


うーん、なんだこの一体感。


さっきまで喧嘩をしていた連中とはとても思えない。


恒例の流れとはいえ、この団結力には毎回驚かされる。


というか”殴らないで;;“ってなんだよ。


殴ってないだろうが。


「それじゃあ、ぺくーすやっていきたいと思います…後半は参加型とかも考えているので、よろしくお願いします…」



ともあれ喧嘩が終わったところで俺はぺくーすを起動する。


一応俺も多少はゲームをプレイする。


ぺくーすは最近流行っているのもあって、既にインストール済みだ。


実際に自分でプレイしたことも何度かある。


だが、おかしなことが起きて、数日プレイした後にやめてしまったのだ。


そのおかしなことというのが、なぜか俺のアカウントがチート検知されてしまい、プレイができなくなってしまったのだ。


誓っていうが俺は一切チートを使っていない。


それなのに、何を勘違いされたのか、運営に作ったばかりのアカウントをBANされてしまったのだ。


結局そのBANは数日後に解除された。


BANの理由は一切わからなかったが、解除されたということはやはり勘違いだったのだろう。


俺は原因として、おそらく俺が対戦したプレイヤーが、倒された腹いせに俺のアカウントを通報しまくったんだろうと考えている。


それぐらいしかBAN理由に心当たりがない。


ともあれそういう経緯で、俺はぺくーすから離れていたのだ。


けれど、アカウントは未だ残っており、ぺくーすが投票で選ばれたことで、俺はインストールする手間を省いて、すぐにゲームをプレイすることができる。



「それではやっていきます」



参加型楽しみ。


頑張れ。


神木がどれぐらいゲームのセンスがあるのか楽しみ。


ランク高いからわからないことあったら教えるぞ。


コーチング必要なら言ってね。



そんなコメントが並ぶチャット欄を眺めながら、俺はいよいよぺくーすを起動し、ゲーム配信の準備を整えるのだった。

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