第161話


「最初はソロプレイをやってみたいと思います……時間があれば参加型をするということで…」


俺は久しぶりにぺくーすを起動し、操作を確かめる。


ぺくーすは簡単にいうと、バトルロワイヤル型のfpsだ。


プレイヤーが、武器やアイテムの落ちているマップに配置され、そこで最後の一組のパーティーになるまで競わされる。


マップは、毒ガスによってどんどん狭くなっていき、後半になるにつれて戦闘も多くなる。


最終的には、半径数十メートル程度の狭い円の中で、最後の生き残りをかけて数パーティーが戦うというのがこのゲームにおける定番だ。


コツはパーティーメンバーと連携すること。


ぺくーすは三人一組のパーティーで最後の一組をかけて戦うので、仲間と協力して隠れたり、一気に飛び出して戦ったりする連携プレイが重要になっていくのだ。


「では…やっていきます…」


操作を確認し、準備を整えた俺は、早速ランクマッチに潜っていく。


いきなり視聴者とプレイするのではなく、まずは野良でプレイをする。



“きたああああああああ”

“うおおおおおおおおおお”

“そのキャラ使うのか”

“始まったぁあああああああ”

“いけええええええええええ”

”芋って生き残ろうぜ“

”とりあえず武器拾おう“

”いいアーマーがあるといいな“

”大将のアイテム運が試される“

”あたり野良こい…!“

”神木とマッチングしろ…こいこいこいこい…!“

”おい誰かゴースティングしろw“

”神木とほぼおんなじランクだから、一緒のタイミングでランクマ潜ればワンチャンマッチングするわw“



ゲームが始まり視聴者が盛り上がり出す。


ぺくーすにはたくさんのキャラがいて、それぞれに特殊能力があるのだが、俺は一番無難なシールドを展開できるキャラクターを選んだ。


このキャラならば、ピンチの時に周囲にシールドを展開して、味方や自分を守ることができる。


シールドは攻めの時にも使えるので、攻めと守り、両方で活躍できるキャラクターだ。


「えーっと……それじゃあ、最初だからあんまり人のいないところに降りようかな…」


ゲームが始まると、プレイヤーたちは飛行機からジャンプしてマップの好きな場所へと向けて降下していく。


戦闘好きな人は、プレイヤーが多く集まる人気スポットに降りて、最初っからガンガン戦闘していく。


逆にあんまりバトルが上手くないプレイヤーは、端っこの方の人があまり降りない場所へ降下して、まずは武器を拾い、体制を整える。


俺はどちらかというと結構戦闘が好きな方なので、マップの人気スポットに降りてもよかったのだが、今回は初めてなので、すぐに死ぬことがないようにまずはマップの端っこのあまり人気がない場所に降下した。


「周りにプレイヤーはいないみたいですね……まずは武器と防具を集めたいと思います…」



”いいね“

”いいじゃんぷ“

“堅実やなぁ…”

“ゲームの中だと堅実なんやなw”

“ゲームだと控えめなかみきw”

“現実は戦闘狂だが、ゲームだと堅実な神木w”

”普通逆なんだけどなw“

“お、結構いい防具あるやん”

“武器も良さげやね”

“キャラのバランスもいいし、味方もいい感じじゃん”

”大将頑張れ!“

”すげぇ…wゲーム配信でこの同接久しぶりに見たw“

”同接25万人wゲーム配信でこの数字はイカれてるわw“



無事にプレイヤーが少ないマップの端っこに降りることに成功した俺は、まずは武器を拾い、アイテムを集めて体制を整える。


コメント欄では、ダンジョン配信の時と違い、堅実なプレイなどというやかましいことが書かれている。


俺は味方と分担して建物の中をアイテムを探して彷徨った。


プレイヤーが近くにいないことは、飛行機から降下した時点でわかっているので、ゆっくり漁ることができる。


端っこに降りる利点の一つだ。



”あれ…?“

”大将…?“

“いや…もっと球拾えよw”

“流石にその武器はおかしくね…?”

”アイテム偏りすぎだろw“

”なんでグレネードばっかりなんだよw“

”グレネード拾いすぎw“

”グレネードおかしいやろw“

“いやいや、アイテム拾い方癖ありすぎるやろw”

”もっと回復アイテム拾えやw“

”球少なくね…?それだけで足りる…?“

”グレネード持ちすぎw“

”初心者かな…?w“



俺がいつも通りアイテムを拾っていると、チャット欄で視聴者からメチャクチャツッコミが入る。


どうも俺のアイテムの拾い方が、ぺくーすの定番と少しずれているらしい。


回復が少ない、球が少ない、グレネード持ちすぎ、と色々ツッコミが入る。


「教えてくれるのはありがたいんですけど…ちょっと一回俺の好きなようにやらせてもらってもいいですか?」


色々教えてくれるのはありがたいんだが、一応俺にも考えがある。


視聴者のアドバイスを聞くのは、一度戦い方を見てもらってからにしよう。


そのほうが、俺の欠点も視聴者に伝わるだろうし、より適切なアイテム構成がわかるはずだ。



”指示中うるせぇよw“

”神木の好きにやらせろやw“

”お前ら普段のダンジョン配信で指示厨できないからってここぞとばかりにウルセェよ“

”エペガキさぁ…“

”ガキども黙れ“

“大将に命令すんな”

“ゲーオタどもきめぇよ”

“誰に向かって指示してんだw”

”神木。お前の好きなようにプレイしろ“

”あれやれこれやれうるせぇよw“

”この配信ガキ増えたなぁ…“

“だまってみとけって”

“大将には大将の考えがあるんだろ”

“いや…それにしても偏ってね…?グレネード持ちすぎだし、武器も当てにくいやつばっかりじゃん…”

“当たれば強いけど……このランクでこんな武器構成の人見たことないんだが…”

“いや、ただ一般論を言っただけで指示厨認定は草”



「て、敵はどこかなー…」



ちょっと言い方が不味かっただろうか。


コメント欄で視聴者たちが二つの派閥に分かれて喧嘩し出した。


一方は、一般論を言っているだけだ、アドバイスしているだけだ、と主張し、もう一方は指示するな、黙ってみろ、指示厨黙れ、と俺にアドバイスする視聴者を罵っている。


どっちが悪いとも言えない状況に、俺は困ってしまう。


まずい。


このままだと配信が荒れてしまう。


とりあえず敵を探そう。


そして戦闘を見てもらおう。


そうすれば、俺に最適なアイテム構成がどんなものなのか、視聴者にも理解してもらえるはずだ。


そう思い、俺は急いで味方を扇動して、近くにいる敵を探し始める。


「いた…!敵だ…!一パーティー、この建物の中にいるみたいです…!」


味方の索敵キャラクターの索敵に、敵のパーティーが検知された。


どうやら近くのビルに一パーティー、潜んでいるらしい。


俺たちがパーティーで近づいていくと、向こうも

索敵キャラを選択していたらしく、ソナーでこちらの位置を特定してくる。


こうなってくると、奇襲は通用しない。


正面からの殴り合いになる。


「た、戦います…」


俺はグレネードを構えながら、建物の中に入っていく。



“いきなりグレネードw”

“いや、グレ構えながら建物入るやつ初めて見たw”

“普通に武器構えろよw”

”そういうゲームじゃねぇよw銃構えろよw“

”位置バレてんだぞwいきなりグレネードは無理があるわw“

“建物の中なんだからショットガンとかの近接武器使えやw w w”

“大将;;やっぱりゲームは下手くそなんですね;;”

“これで逆にゲームまでうまかったら完璧すぎるからな。なんか下手で安心するわ”

”ごちゃごちゃうるせぇな。神木気にせず好きなようにプレイしてくれ“

”神木。正直グレネードをいきなり構えるのはかなり独特だが、お前の好きなようにやれ”



グレネードを構えながら敵の潜む建物の中に入っていく俺を見て、たくさんの視聴者からツッコミ

が入る。


どうやら俺のやり方は、スタンダードではないらしい。


近接武器構えろ、いきなりグレネードは独特すぎる、とそんなコメントが書かれまくる。


(え、まじ…?このゲーム、初手グレネードが定石じゃないの…?)


おかしいことをしているつもりはなかった俺は、

視聴者たちの反応に首を傾げる。


グレネードは非常に威力が高く、固まった敵に一気にダメージを与えることができる。


奇襲や先制攻撃にはもってこいだと思ったんだが、どうやら違ったらしい。


普段配信などで他のプレイヤーのプレイを見ることがないため、よくわからない。


(まぁ、とりあえず俺のやりたいようにやってみよう…)


いまさら視聴者の指示を受けたところで付け焼き刃にしかならない。


俺はいつも自分がやっているやり方で戦ってみることにした。


建物の中をどんどん上がっていく。


おそらく敵は屋上で待ち構えているはずだ。


俺たちが屋上へ来たところを三人で迎え撃つつもりなのだろう。


「つっこみます…!」


クリアリングしながら建物の内部を上がっていった俺はとうとう屋上のドアの前まで辿り着いた。


ドアは壊されており、そのさきに入ってこいと言わんばかりだ。


間違いなく、屋上に入ってすぐの場所の死角に銃を構えて待ち構えていることだろう。


「ふん…!」


そのことがわかっている俺は、まず最初に扉の近くにグレネードを投げた。


ドガァアアアアン!!!


グレネードが爆発し、煙で一瞬視界が濁る。


「今だ…!」


その瞬間、俺は一気に屋上へ突っ込んだ。


(いた…!敵が三人…!)


やはりというか、敵のパーティー三人が屋上で待ち伏せをしていた。


いきなりグレネードを投げ込まれ、その後に突っ込んできた俺にかなり動揺しているようだった。


俺は三人の位置を特定したところで、グッと、意識を集中させる。


手強いモンスターとダンジョンで戦う時のあの要領だ。


グッと集中すると、まるで時間が遅く流れているように感じる。


敵のキャラクターが武器を構える動作や、俺の後に続いて味方が屋上へ入ってくる動きが、非常に遅く感じられた。


(えーっと、そうだ…まずはもう一発グレネードを構えて…)


これをやる理由は、こうでもしないとキャラクター操作がおぼつかないからだ。


プレイ時間が長く、ランクが高いプレイヤーはまるで自分の手足の如くキャラクターを操作できるだろう。


いわゆるキャラコンが上手い、というやつだ。


しかし俺はまだまだプレイ時間的には初心者と呼

ばれる部類であり、キャラコンが上手くない。


なので、こうしてグッと集中して体感時間を遅らせ、思考する時間を作る。


そうすることにより、キャラコンの遅さを最大限にカバーして、戦闘に臨むことができるのだ。


(構えたグレネードを…大体この辺に投げればマックスダメージか…?)


体感時間を遅らせ、キャラコンの下手さをカバーした俺は、グレネードを再度構えるコマンドを入力し、敵の動きを見る。


三人の敵は、ようやく武器を構えて、俺に狙いを定めている段階だった。


俺は遅くなった時間の中で、敵の次の動きを見極め、的確にグレネードを投げる。


ドガァアアアアアン!!!


集中するのをやめて、一気に時間の流れを戻す。


投げたグレネードが的確に、敵一人の至近距離で爆発し、大ダメージを負わせる。


俺はすかさず武器を取り出した。


そしてグレネードにより大ダメージを負いアーマーと呼ばれる防具の吹き飛んで丸裸になった敵一人を、再び体感時間を遅らせてよく狙い、いっぱつのヘッドショットで仕留める。


バン!!


ズシュ…!


「はい、ワンダウン」


敵がダウンした時の効果音が、イヤホンから響く。


まずは一人、ダメージを全く受けることなく敵を撃破した。



【あとがき】


サポーター限定記事で


バズる前の神木拓也 第1話〜第13話が


公開中です。






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