第105話


「畜生!なんだこれ!?」


「ガスマスクを装着しろ!!」


「毒ガスだっ!!!」


「ごほごほごほっ…息を止めろ!!吸い込んだら死ぬぞおおおおお」


「うぎゃああああああああああ」


怒号と悲鳴がダンジョンに響き渡る。


倒したと思ったドラゴンから毒ガスによる攻撃を喰らった隊員たちは、悲鳴をあげながらドラゴンから離れていく。


後方にいた隊員たちは、前の隊員たちの惨劇を見てすぐに呼吸をとめ、ガスマスクを装着する。


『グォオオオオオ…』


部隊が退く一方でドラゴンは、何百何千もの銃弾を撃ち込まれたにも関わらず、何事もなかったかのように地面から起き上がった。


「さ、下がれえええええ。下がれええええ」


「一時撤退!一時撤退しろぉおおおお」


「た、助けてぐれええええええ」


「み、見捨てないでぐれええええええええ」


「まかせろっ」


「負傷者を運べ!!」


隊員たちは毒ガスをまともに喰らい、動けなくなった隊員を引きずって後退する。


「だ、大丈夫か!?」


「何がどうなっている!?」


「ちくしょぉおおお。いてぇよぉおおおおおおおお」


「ぐあああああああああ」


「じょ、状況を報告しろおおお」


「は、はい…!負傷者は15名!!そのうち戦闘不能者は7名…!!!重傷です!!助かるかどうかも…」


7名の隊員が、毒ガスの攻撃をまともに食らって戦闘不能になっていた。


毒ガスを正面から浴びた彼らの皮膚はただれ、すでに息をしていない。


「す、捨ておけ…!」


「もうそいつらは放っておけ!」


「しかし……」


「死体のために残りの隊員の命を危険に晒すのか!!!」


「…っ!?」


すでに動かなくなっている7名の隊員がその場に捨ておかれた。


『グォオオオオオオオ…!!!』


「きたぞ!」


「あれだけ撃ち込んだのにまだ動けるのか…!不死身なのか、あいつは…!」


「戦闘体制!!敵が来たぞ…!!!」


まだ生きている負傷者を下がらせ、何とか戦闘体制を立て直した部隊の元へ、ドラゴンがやってきた。


先ほどの隊員たちの一斉掃射による傷はすでに完治しており、完全体の状態で再び部隊の前に顕現する。


「傷が完治しているぞ…!」


「再生能力持ちか…!!!」


「くそっ…本当に不死身なのか!?」


「狼狽えるなっ!!!どこかに核があるはずだ…!!!そこを探すんだ…!!」


「撃てえええ…!!撃ちまくれぇええ!!」


再び全隊員による一斉掃射が始まった。


『グェエエエエエエエエ!!!!』


ドラゴンは痛そうに悲鳴をあげ、ジタバタと暴れる。


『ぐああああああああ』


『ぎゃああああああ』


振り抜かれた尻尾が何名かの隊員の体を捉え、切り裂き、絶命させる。


「狼狽えるなぁあああああ!!撃てええええええええ!!撃ちまくれえええええ」


「うおおおおおおおおお」


「死ねや化け物ぉおおおおおお」


隊員たちは決死の覚悟で再生能力を持ったドラゴンに、一斉掃射を続ける。


『グォオオオ……』


やがて体の核に銃弾が命中したドラゴンが、

力尽きて倒れた。


舞台は何とかドラゴンとの戦闘に勝利した。


しかし、のちに不死竜と呼ばれることになるこのドラゴンとの戦闘で、部隊は半分近い人数を失い、撤退を余儀なくされたのだった。




【日本政府、×××ダンジョンの攻略に失敗】



翌日の新聞に、そんな見出しが踊っていた。


政府が組織したダンジョン攻略のための特殊部隊が、半分以上の隊員を失い、敗走したニュースは瞬く間に全国に広まり、政権の支持率を大幅に下げるまでの大事件となった。



政府が国の威信をかけて多大なリソースを投入し、何とかそのダンジョンを攻略したのがその事件から2年後のことだった。



全ては神木拓也がそのダンジョンにたった一人で挑む数年前の出来事である。



= = = = = = = = = =



「今の所普通の階層ですね」


深層第四層の攻略を初めて一時間ほどが経過した。


この階層に足を踏み入れてからこれまで、まだ新種のモンスターとは出会していない。


レイスや、リザードマン、キングスライムといったもはや深層でお馴染みとなったモンスターがたびたび出てくるといった程度である。


(新種のモンスター、そろそろ出てきてもいいんだがな)


一度戦ったことのあるモンスターを簡単に倒しながら進むだけでは深層配信の意味がない。


そろそろ新種のモンスター、出てこないか

な、なんてことを考えながら、俺はコメントをチラ見する。



”にょっす!“

”あ、大将こっちみた“

”やあ^^”

“神木好き♡”

“こっち見んな”

“探索に集中しろ”

“そんなに見ないで⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄テレテレ”

”んちゅっ“

”神木様がこっち見た!!!“

“余裕あるなぁ”

“※一応ここは魔境と呼ばれる深層領域です”



最近俺がコメント欄を見ると、視聴者がまるで恋人みたいな反応をするノリが流行っている。


コメントをチラ見することをコメチラ、などと呼び、俺がコメントを見るたびに「♡」の文字が必ず10個以上は目に入るようになった。


全く……なぜか俺のコミュニティの連中は次から次へとよくわからないのりを生み出していく。


多分、ノリが全くわからない初見さんが見たら彼らの行動は不可思議に映ることだろう。


まぁ本人たちが楽しそうなので咎めたりはしないが。


(しかし呑気な配信だよなぁ…)


俺はコメント欄の雰囲気を見ながらそう思った。


一応魔境と呼ばれる深層を探索して配信しているはずなのに、コメント欄にあんまり緊張感がない。


前回の初めての深層ソロ探索配信では、それなりにコメント欄にも緊張感が漂っていたと思うんだが……


どうやら先ほど俺があの大陸服の能面の格闘モンスターを倒してから、もう大丈夫だと思ったのか、コメント欄がまるで平日の下層探索配信を見ているかのような感じになり出した。


いや、俺の実力に対する信用が上がったという意味では良かったかもしれんが……これでは深層配信の醍醐味であるハラハラドキドキみたいな感じが失われてしまった感が否めない。


俺としてはもう少し、死が間近に迫るような危険な配信を演出したいんだが…


まぁ、同接が増えているので今の所問題ないっちゃ問題ないんだが…



“あ、同接みた!”

“大将今同接見たでしょ!!!”

“神木が同接確認した!!!”

“同接ちらちら…”

”探索に集中しなさい!“

”大将同接チラ見がやめられないみたいです;;“

”同接を確認する余裕もあります、と“

“数字ばっかり気にして!”



「ど、同接ぐらい確認させてよ……160万人ありがとうございます」



俺が同接を確認したことを指摘するコメントが流れる。


最近同接やコメントをチラ見しただけで謎に指摘されたりするんだよな。


別に咎めている雰囲気は感じない。


単にそのこと自体を楽しんでいる謎ののりだ。


これは視聴者との距離が近くなった証拠として喜んでいいのだろうか。


よくわからない。


ちなみに、ここまでの同接は非常に順調に推移して160万人。


本格的に200万人という前代未聞の数字が見えてきている気がする。



¥10,000

大将!なんか大変なことになっているぽいっす。これみてくだせぇ↓リンク



「あ、スパチャありがとうございます。なんですか、これ」



視聴者から一万円のスパチャと共にリンクが送られてきた。


俺は何か大変なことかと思ってそのリンクを踏んでみた。



『神木ぐぅん!!神木ぐん神木ぐん神木ぐぅうううううん!!!!』

 


「うおっ!?」


いきなり大音量で謎の音声が流れて俺は驚いてしまった。


「な、なんですかこれ!?」


意味不明な音声を聞かされた意図を視聴者に尋ねる。



”きっっっっっしょ“

”なんの音声?“

”ゾワゾワってなったわ“

”何今の“

”ホラー?“

”ああ、それね“

”今ものすごい勢いで拡散されてるぞ!“

“なんか黄金の軌跡の公式アカウントが投稿した謎音声です”

“神木拓也さん責任とってください、って文章とともに投稿された謎音声。マジでどんな意味があるんだ?”

“マジで意味不明だよな”

“黄金の軌跡の公式アカウント、滅多なことでは動かないのに久々に投稿したと思ったら謎の怪音声で草”



「お、黄金の軌跡…?公式アカウント…?どういうことですか?」



”黄金の軌跡は日本一の深層クランなw w w“

”黄金の軌跡知らないのマジかよw w w“

“お前まじで配信方面じゃなくて探索者方面のことも少しは興味もてよw w w”

“大将探索者に興味なさすぎでしょw w w”

”配信のことしか頭にないやんw w w“



よくわからないのだが、少し調べてみると、どうやらこの怪音声はいきなり日本一の深層クランの運営する公式アカウントになぜか”神木拓也さん責任とってください“の文章とともに投稿されたものらしい。


脈絡がよくわからない。


そもそも俺は黄金の軌跡というクランと関わったことがない。


一体どういう意味なのだろうか。



『キシェェエエエエエエエエ!!!!』



「ちょっと待って。今ちょっと手が離せないから邪魔』



『キシェッ!?』



さらに詳しい情報を調べるために検索をかけていると、リザードマンが襲いかかってきた。


俺は斬撃で簡単に仕留めて、なぜ黄金の軌跡クランが俺について言及したのか、情報を探す。



”片手間で倒したw w w“

”リザードマン可哀想w w w“

”これは同情するわw w w“

”神鬼畜最高!!“

”せめて舌攻撃ぐらいは許してやれよw“

”よかったじゃん。舌掴まれてブンブン振り回せて壊れちゃった^^されるよりかは“

”一撃で倒された方がリザードマン的に幸せだから、多少はね?“

”壊れちゃった^^確定演出かと思ったのに…“


「うーん…調べてみたんですけど、よくわかんないですね…」



黄金の軌跡の投稿の真意について調べてみたのだが、確かな情報を得ることはできなかった。


俺自身は何か身に覚えがある話ではない。


ただネットでは、あの声は『黄金の軌跡』のリーダーの桐生帝のものではないかという憶測が飛び交っていた。


(日本一のクランのリーダーがどうして俺の名前を?)


よくわからんが、この件は一旦保留にすることにした。



「とりあえず地上に戻ってから調べますね」



”そうしろ“

“マジで謎すぎる”

“もしかして黄金の軌跡の公式アカウント乗っ取られたのか?”

“ワンチャン乗っ取りかもな”

”桐生帝の声に似てるとか言われてるけど、桐生帝ってあんな感じのキャラじゃなかったやろ”

”一回テレビで映ってるのみたことあるけど、めっちゃ生気のない目してたな。人生に絶望してそうな感じやった“

”強すぎて「負けを知りてぇ…」みたいな感じのキャラって聞いた。多分誰かが公式アカウント乗っ取って悪ふざけで音声作って投稿したんやろ“

”神木の名前が使われたのは注目集めるためか“

”最近AI使えば、人の声使って好きなこと言わせられるらしいしな。多分それやろ“



コメント欄では『黄金の軌跡』のアカウントが乗っ取られたのではないかという推理もあった。


まぁ詳しいことは地上に帰ってからゆっくり調べればいいだろう。



¥30,000

大将!黄金の軌跡より、こっちの方がやばいっす↓リンク



「スーパーチャットありがとうご合います。え…こっちの方がやばいってなんです か…?」


スーパーチャットと共に、さらにやばいのがあるとメッセージが送られてきた。


俺は日本一の深層探索者クラン以上の大物が俺について言及したのかとリンクを踏み掛ける。



(ん…?ちょっと待てよ…)



しかし何だかアカウント名に見覚えがある気がして、俺は一瞬の判断で、配信に乗らない裏画面に切り替えた。


そしてリンクを踏んで動画を再生してみる。



『ぽぽぽぽぽ!!神木様っ!!!みてみて!!ぽぽぽぽぽ』



「……」



見覚えのある体つきの女性が深層第二層で出てきた女の巨人のような鳴き声で裸踊りをしていたので、俺は動画をそっ閉じした。


こいつまじで何してくれてんの?


俺が咄嗟の判断で裏画面にしなかったら自分の体が全国に配信されてたんだぞ。


3万円投げてすることがこれか?



”なんか聞こえたぞw w w“

”おいなんだったんだよ“

“俺たちにも見せろや”

“大将ー?何も見えないよー?^^”

“俺たちにも見せて”

“なんで隠すの“

”大将。俺たちの間に隠し事はなしですよね?“


「はい、先に進みます」


俺は何もみなかったことにして探索を再開するのだった。





〜あとがき〜


新作の


『親友が突然この世界はゲームだと言い出した件〜前世の記憶を持つ主人公の親友ポジの俺、腰巾着として楽に無双〜』


が公開中です。


内容は、


•よくあるゲームキャラに転生するラノベ主人公の親友ポジにスポットを当ててみた



と言う感じです。


一風変わった無双物語として楽しめますので、ぜひよろしくお願いします。


リンク↓


https://kakuyomu.jp/works/16817330657021256327


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