第106話


『グォオオオオオオ!!!!』


「うおっ!?」


視聴者とバカをやっていると突然ダンジョンの奥から咆哮が聞こえてきた。


巨大な何かがこちらに向かって近づいてくる。


ズンズンという重々しい足音が、階層全体に響き、地面が振動している。


「何かきます」


流石にふざけている場合ではないと、俺は気持ちを切り替えて剣を持ち直した。



“お?”

“なんかきた?”

“大物の予感”

”ようやくお出ましか“

”新種きたか…?“

”この鳴き声はもしや…?“



『グギャァアアアア!!!!』


「やっぱりそうか」


鳴き声でなんとなく察してはいたが、果たして暗闇の向こうから現れたのは竜種のモンスターだった。


見たこともないような白色のドラゴン。


これまで出会ってきたドラゴンのほとんどが暗い体色を持ち、その全身は硬い鱗で覆われていたが、今回のドラゴンはそれらとは異なっている。


図体はこれまでのドラゴンと見劣りしないが、しかし防御力はそこまで高そうには見えなかった。


「いや…油断はしない方がいいな…」


思わず安堵しそうになってしまったが、俺はそう呟いて自戒する。


弱そうに見えても、相手は深層最強格のドラゴンだ。


何か特殊な力を隠し持っているかもしれないし、油断は大敵である。



“ドラゴンきたぁああああああああ”

“うおおおおおおおおおおお”

“竜種か”

“ドラゴン来たな”

“深層が本気出してきた”

“ついにドラゴンきたああああああ”

”真っ白やん。こんなドラゴン初めて見たんだが“

”なんだこいつ!?“

“あんまり強そうじゃないな”

“鱗?みたいなのも見当たらないしそこまで強そうじゃないな”

“強そうじゃないとか言ってるやつ正気か?竜種だぞ?弱いわけないだろ”



深層最強格ドラゴンの登場に沸き立つコメント欄。


俺は咆哮を繰り返し、威嚇してくる白いドラゴンに対して、挨拶がわりに斬撃を一発放った。


「ほい」


斬ッ!!!!


『グギャァアアアア!!!!』


斬撃は拍子抜けするほど簡単に命中し、ドラゴンは悲鳴をあげる。


その体は鱗に覆われていないため、軽く振った斬撃でも本体にダメージが入ったようだった。


(あれ…?もしかしてこいつ、本当に見た目通りの強さなのか?)


俺はあっさりとダメージを刻めたことに内心拍子抜けしながらも、さらに斬撃を飛ばしていく。


斬斬斬ッ!!!!



『グギャアァアアアアアアアア!?!?』



白いドラゴンは、全ての斬撃をまともにくらい、痛そうに身を捩る。


回避行動もなく、反撃すらしてこない。


てっきり炎のブレスぐらいは打ってくると思ったのだが、それすらなく白いドラゴンは悲鳴と共に簡単に地面に倒れてしまった。



『フゥウウウウ…フシュウウウ…』


全身から血を流し、息も絶え絶えと言った様子で苦しげな呼吸を繰り返している。



“なんだこいつ”

“雑魚すぎ”

“はあ?”

“こいつ本当にドラゴンか…?”

”なんだこの雑魚ドラゴン…“

”よっっっっっっわ“

“なんだよ雑魚じゃん”

“大将!雑魚はさっさと倒しちゃいましょう!”

“さっきの格闘系のやつの方がよっぽど強かったやんけ”

”竜種のパチモン。さっさと殺そう“



コメント欄でも、あまりの弱さに拍子抜けした視聴者たちが、戸惑いを見せている。


俺はすでに戦闘不能になり、動けなくなったように見える白いドラゴンに近づいていった。



「すまんな。あんまり弱いモンスターに時間は取れない」


そしてトドメの一撃を加えようとした、その時だった。



ぶしゅぅうううううううう



「……っ!?」


一瞬、白いドラゴンの全身の気功が開いたように見えた。


そして次の瞬間、巨体の至る所から紫色のガスが噴射された。


俺は反射的に後ろに飛び退いた。



”ファッ!?“

”え!?“

”なんですと!?“

”およ…?“

”へ…?“

”ん…?“

”おん……?“



「うわ…」


見るからに毒々しいそのガスは、白いドラゴンの全身から噴射され、ゆっくりと周囲の空気を浸食する。


よく観察すると、そのガスに触れたダンジョンの壁や地面が少しずつ溶けていっていた。


「危なかった……死んだふり作戦か…」


かなり強力な毒ガスだ。


どうやらこのドラゴンは、瀕死のふりをして俺を誘き寄せ、毒ガスを喰らわせるつもりだったらしい。


やはり深層モンスター。


油断も隙もあったものじゃない。


「しかも再生能力持ちか…」


毒ガスの向こうでドラゴンはむくりと起き上がった。


俺の飛ばした斬撃によって切り裂かれた体が、修復し、元通りになっていく。


どうやら毒ガス攻撃に加えて、再生能力まで持っているらしい。


「やはり竜種は強いな」


俺はこの白いドラゴンが、これまでに出会ってきたドラゴンと負けず劣らず強いことを確信した。



”直った!?“

”再生能力持ちか“

”いや普通に強いやんけ“

”一瞬で治った。再生能力えっっっっぐ“

”お前ら手のひらくるっくるで草“

”すーーーーーぐ掌返す“

”ほらな?だから言ったろ?竜種が弱いわけないんだって“

”手のひらドリルで草なんよ“

”ほらな“

“知ってた”

“俺は警告してたぞ”

“ほらなとか知ってたとか言ってるやつのコメント遡ったら普通に勝ったな!とか言ってるの草生えるわw w w”



先ほどまでこの白いドラゴンを侮っていた視聴者たちも、途端に手のひら返しを始めている。


『グォオオオオオ!!!』


白いドラゴンが吠えた。


風が巻き起こり、毒ガスがこちらに向かって一気に飛ばされてくる。


「ふんふんふんふんふんふん!!!」


俺は自分の剣を扇風機のように高速で回し、風を起こした。


ビュォオオオオオオオオ!!!!


風が発生し、毒ガスを向こうへと飛ばしてくれる。



”新技きたああああああああああ“

”ファーーーーーーーw w w“

”神木旋風木きたぁあああああああ“

”新技でたねぇ^^“

”相変わらず力技だなぁw“

”毒ガス厄介だなと思ったけど全然そんなことなかったわw”

“今日の夜絶対この新技の名前考えるスレ立つやんw w w”



「これでよし」


毒ガスを全て吹き飛ばした俺は、剣を回転させる腕を止めた。


周囲に毒ガスは残っていない。


これで思う存分戦うことができる。


『グォオオオオオ!!!!!』


ドラゴンの方でも俺を一筋縄ではいかないと判断したのか、再度威嚇するように咆哮し、慎重に出方を伺うような動作を見せる。


「さて、やろうか」


仕切り直しだ。


このドラゴンの能力や戦い方もある程度わかったところで、俺はいよいよ本気で討伐しに行くことにした。









〜あとがき〜


新作の


『親友が突然この世界はゲームだと言い出した件〜前世の記憶を持つ主人公の親友ポジの俺、腰巾着として楽に無双〜』


が公開中です。


内容は、


•よくあるゲームキャラに転生するラノベ主人公の親友ポジにスポットを当ててみた



と言う感じです。


一風変わった無双物語として楽しめますので、ぜひよろしくお願いします。


リンク↓


https://kakuyomu.jp/works/16817330657021256327





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