第146話
考えてみれば単純な話だった。
地面の謎をとき、正しい足場を踏んで罠を回避し、進んでいくのが正攻法らしいミステリーダンジョン三階層。
第二層攻略中に配信に突如現れた大学の数学教授の視聴者が匙を投げた謎を俺や他の視聴者が解けるはずもなく、謎を解いてのこの階層の攻略は無理だ。
ではこれまで通り力技に頼ろうというのが当然の思考の帰着だと思うのだが、これもなかなか難しい。
わかりやすい障害物とかがある階層でもないし、神木サーで掘削したり、神拳を撃ちまくったりするだけでは突破はできないだろう。
そこで俺は考えた。
罠はかかった先から全て避ければいいのだろうと。
「罠にかかってから罠が発動するまで、絶対にちょっとしが時間がありますよね、物理的に」
ダンジョンにセンサーのような近代的な仕掛けがあるはずもなく、罠の仕組みはもっと古典的なものだろう。
おそらく間違った足場を踏むことによって、何らかのスイッチが入り、それに呼応するようにして罠が発動する。
であれば、そこにタイムラグが発生する。
罠を踏んでから、実際に罠が発動するまでのそのタイムラグは、もしかしたら限りなくゼロに近いかもしれないが、ゼロではないのだ。
そして、ゼロでないのなら……俺にとっては十分すぎる時間と言える。
「単純すぎて意外と盲点だったというか……気づいて仕舞えばなんだか馬鹿馬鹿しくなってしまう攻略方法ですよね」
俺はそんなことを言いながら、第三層の通路をどんどん進んでいく。
チラリとチャット欄に目を映せば、なぜかフリーズして全くコメント欄が流れなくなっていた。
こういうことはたまにある。
おそらくちょっと電波が悪いのだろう。
最初の頃は配信が止まってしまったのかと焦ったこともあったが、今では配信でたまに起きるトラブルだと理解しているので、焦ることもない。
時間が経てば、またコメントは流れ出すことだろう。
カチッ!!
横壁から出てきた槍を避け、落とし穴を回避し、刃を屈んで避けた俺が自然な足取りで第三層の通路を進んでいると、足元でそんな音が鳴った気がした。
バシャァアアア!!!
「…!」
次の瞬間、突如として天井が開き、液体のようなものが一気に落ちてきた。
俺は咄嗟に地面を蹴って前方に跳躍し、液体を避ける。
ジュゥウウウウウウウ……
天井から落ちてきた液体は、ダンジョンの床を溶かし、ぽっかりとした穴を作る。
危ない。
キングスライムの体液のように、ダンジョンの岩を溶かしてしまうほどの酸性だったようだ。
「ふぅ、危なかったです」
罠を踏んでから発動までの時間は本当にほぼ同時と言って差し支えなく、回避はギリギリになってしまうのだが、しかし反応することはできている。
俺はほっと胸を撫で下ろしながら、おそらく安置である現在の足場から動かないように注意しつつ、チャット欄を確認する。
“始まっちゃった^^”
“神木無双タイム突入w w w”
“反射神経どうなってるんや……”
“未来予知してるみてーな動き”
“マジでこいつなんでもありだなw”
“みんなドン引きして一瞬コメント欄が止まったのわろたw何回目だこれw”
“こいつのことやからどーせ、あれ?ちょっと電波が悪いのかな?とか思ってるんやろなぁ…”
”おかしいなぁ…謎解きするダンジョンのはずなのにこの人全然謎解きしてないよ…?“
”ミステリーダンジョン(大嘘)やめろw w w“
“ミステリー要素どこですか?”
“うーん、神木拓也最強w”
”そうかぁw罠は反応して避ければいいのかwその発想はなかったなぁw“
”こいつ厨二病時代の妄想の俺より強くてわろたw w w“
「お、電波戻ったかな…?」
気がつけばチャット欄が動き出していた。
悪かった電波が戻ったらしい。
「皆さん、この階層の攻略方法が今完全にわかりました!」
俺は改めて実践してみて確信に至ったこの階層の攻略方法を視聴者に告げる。
「罠に反応して避ければいいです。多分これが一番手っ取り早いと思います。これなら罠を破壊する必要も、謎解きをする必要もありません」
”お、そうだな“
”せやな“
”うんうん“
”そんなことに気がついたんだ。神木くん偉いね“
”流石大将!!“
”攻略法気づけて偉い^^“
”大将頭いい“
”これは頭脳派“
”神木拓也は頭もいいんだな“
”すげーな。神木拓也強いだけじゃなくて頭もいいのか“
”いやー、大将の頭の良さには脱帽ですわ“
“これは数学得意名乗れるわ”
俺の思いついた攻略方法に視聴者もコメント欄で感心している。
やはり皆、罠に反応する方法は盲点で気が付かなかったらしい。
すごいすごいと褒めてくれる。
罠は踏まずに回避する、というのが一般的な考え方だからな。
俺も思わずその考えに囚われてしまいそうになったが、なんとか罠を踏んでから反応する方法を思いつくことができた。
これはまさに頭脳派な攻略方法と言えるだろう。
「いい傾向だな」
また探索者として一歩成長した自分を感じられた。
力で押すだけじゃなくて、時に柔軟な思考もダンジョン探索には必要になるのだ。
「さて、どんどん行きますよ」
そうして俺は、ミステリーダンジョン第三層、罠の階層を、意気揚々と進んでいくのだった。
〜あとがき〜
つい二日前に始めたサポーター限定記事についてなのですが、おかげさまでサポーター様が100名を突破しました。
本当にありがとうございます。
まさかこれほど反響があるとは思いませんでした。
今後は、本編3話先行公開に加えて、サポーター限定記事として『バズる前の神木拓也の日常』や『桐谷奏の普段の配信』などのコンテンツも公開したいと思っています。
こちら完全にサポーター向けにしか公開しない予定のエピソードですので、神木がバズる前にどんな日常を起こっていたのか(もちろん無双してます)興味のある方はぜひぜひサポーター加入をよろしくお願いします。
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