第145話
ブゥウウウウウウン……
眼前に光をも飲み込む闇の奔流が体現した。
俺が放った神拳は、複雑な図形によって埋め尽くされていたミステリーダンジョンの扉にぽっかりとした穴を開ける。
“きたああああああああああ“
“神拳きたぁああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおお”
”出たぁあああああああああああああ“
“まぁ、そうなるよねw”
”知ってたw“
“うーん、神木拓也最強!w”
“だと思った”
“もう全部それでいいよw”
”これはしゃーない。大学教授にも解けない謎とか無理ゲーやもん“
”これは無理ゲー出してくるミステリーダンジョンが悪い“
“力こそ正義、はっきりわかんだね^^”
チャット欄の流れが一気に早くなる。
謎解きを放棄して、扉を壊すというなかなかの暴挙に出たのに、否定コメントは一切ない。
「これでいい」「力こそ正義」「解けない謎出してくるダンジョンが悪い」と俺を全肯定するコメントばかりがチャット欄に流れる。
やっぱりどこかおかしいよ俺の視聴者…
視聴者は配信者に似ると言われるが、やっぱり俺の視聴者はどこか俺と感覚が似ているところがあるのだろうか。
まぁともかくこれで先に進めるようになった。
「ごめんなさい…解けそうもなかったので…扉を消しました」
一応一言詫びを入れておく。
俺も本当は謎を解き明かしてこの扉を開けたかった。
でも頼りにしていた大学教授の視聴者が、早々に匙を投げてしまった。
大学の数学教授に解けない問題を、俺が解けるはずもない。
だからこれは仕方がないことだったんだ。
俺はそう自分に言い聞かせる。
「先に進みます……」
俺は神拳によって開けた穴から扉を潜って、さらに奥へと進む。
結局その後、俺はなんらかの謎が仕掛けられた五枚の扉に出会した。
そして同じ数だけ俺の神拳が炸裂した。
結局最初の扉の一枚の謎を解いただけで、俺はミステリーダンジョン第二層を踏破したのだった。
= = = = = = = = = =
「だ、第三層に入ろうと思います……準備はよろしいでしょうか…」
第二層を踏破し終えた俺は、視聴者にそう尋ねる。
チラリと背後を仰げば、神拳によって穴が開けられたミステリーダンジョンの扉が何枚も連なっているのが見える。
結局謎を解いたのは最初の扉一枚だけだった。
その他の扉は、とても俺たちに解けるような謎ではなく、例の大学教授の視聴者に助けを求めても、無理だと言われてしまった。
:時間をかければ解けるかもしれません。でも二、三日かかると思います
そう言われてしまってはどうしようもない。
現状、謎解きにおいて俺の配信の最高戦力たる大学教授にそう言われてしまったら、もう手の施しようがない。
結果的に俺は、最初の一枚以外の全ての扉を神拳で破壊して無理やり突破して、第三層の入り口へと辿り着いていた。
「こ、今度こそは謎解きにチャレンジしたいです……」
“お、おうw”
“そうだな”
”どうせオチは見えてるやろw“
”無理やろw“
“お前には無理”
“神木…このダンジョンの謎は多分お前には荷が重い……”
”どーせ無理だから最初っから神拳使うべーよ^^“
“懲りないなぁ”
“神木。気づいてないかもしれないが、俺たちはお前に賢さを求めてはいない”
“大将;;諦めないで;;“
”俺は応援してるぞ神木“
”これじゃあチャー◯式解いてた俺がバカみたいじゃん……“
“このダンジョンまじで正攻法でクリアしようと思ったら、天才数学者集団と一緒にとかじゃないと無理だよ;;”
あくまでも謎を解いてミステリーダンジョンを進んでいきたいとする俺に、視聴者たちは呆れ気味だ。
どうせ無理だから初めっから神拳使え、とか完全に馬鹿にされている。
いや、確かにここまでまだ一回も自力で謎を解けてはいない。
だが、次こそは……次の階層こそは、謎を解いてかっこいいところを見せたい。
このままじゃなんか結局いつものダンジョン探索とやってること変わらない気がするし……
「それでは第三層に入ります…」
頼むからそろそろ俺にも解けるレベルの謎が出てきてくれ。
そう心の中で祈りながら俺はミステリーダンジョン第三層へ足を踏み入れる。
= = = = = = = = = =
「今度は地面…?」
ミステリーダンジョン第三層には、迷路のような分岐も、謎の散りばめられた扉も存在しなかった。
あるのは、遠くに見える、おそらくこの階層の出口と思われる穴に向かって一直線に伸びている道のみだった。
変わったと所といえば、地面に描かれた謎の紋様である。
今俺が立っている足元から、遠くに見える出口まで、地面はびっしりと図形や紋様や、サークルのような絵で埋め尽くされていた。
「この謎を解くのか……」
見た瞬間に思った。
これ、無理だ。
俺にはとても解けそうもない。
“これは……”
“まぁ、無理、やね”
“うーん、無理ぽw”
“やーーーーーめた”
“今度は地面の謎を解くのか”
“何これ。地面の謎を解かないといけない感じ?”
“奥に見えてるの出口か…?普通に進んじゃダメなのか?”
“扉がないんなら謎を解くまでもなく普通に進めるやろ”
”一本道…?何この階層“
“流石にただ歩くだけの階層とかないよな…?なんか仕掛けがあったり…?”
視聴者の中には、扉のような障害物も、分岐もないんだったら、奥に見えている出口を目指してそのまま進めばいいじゃないかというものも一定数いる。
だが、流石にこの未攻略ダンジョンである、ミステリーダンジョンがそんなヌルゲーなはずない。
俺は試しに、片手剣で近くの地面を叩いてみる。
バコッ!!!!!
「おっと」
俺がちょっと地面を剣先で突いた瞬間、その地面がいきなり扉のように開いて、落とし穴が出現した。
やっぱりだ。
この階層には罠や仕掛けがある。
おそらくだが、地面も紋様や図形、サークルの謎を解き明かして、足場を選んで進まないと、奥には辿り着けないのだろう。
“あっぶね!”
“あっぶな”
”そういう感じか“
”やっぱ罠あるよな“
”そりゃそうよ“
”ただ歩くだけとかそんなわけはない“
”まぁ何もないわけがないよな“
”お前らちょっとは考えてコメントしろよ……“
”普通に歩けば良くね?とか言ってた奴らw“
”この配信エアプ多すぎるやろw“
”仮にも未攻略ダンジョンがそんなヌルゲーなはずないんだよなぁ“
「うーん、どうしよう……」
俺は立ち往生し、どうしていいか困ってしまう。
謎は……どうやら解けそうもない。
第二層の扉の謎よりもどう見ても難易度が上がっている。
となると、また力技に頼らざるを得ないのだが……
「わかりやすい障害物とかがあればむしろ楽なんだけど…」
扉や分岐などは、破壊しながら進むことができた。
けれど、どこにどういう形で仕込まれているか割らない罠や仕掛けは、そう簡単に破壊できない。
この階層では力技もそう簡単に通用しそうには見えなかった。
”これどうすんの…?“
”まさか……詰み?“
”え、終わり…?“
”とうとう大将の脳筋技も通用しなくなった……?“
“神拳が使えない…だと?”
“罠だっっっる”
“結構だるいなこれ”
“何気にここまでで一番難易度高くて草”
“力技一本ではやっぱり無理だったか、ミステリーダンジョン…”
“やっぱこのダンジョン、大将とは相性が悪いよ…”
“やーーーーーめた、すべ^^”
“流石に今度こそ敗走か?”
”諦めべ^^“
「今度は力技も使えない」「諦めよう」「相性が悪い」
そんなコメントがチャット欄に流れる中、俺は片手剣を鞘にしまい、ふぅっと息を吐いた。
たった今、この階層の攻略を思いついた。
ある意味この方法は盲点だったかもしれない。
けれど、この方法があれば、謎を解く必要も力技に頼り必要もない。
深呼吸をして神経を研ぎ澄ませた後、俺は、第三層の通路に一歩目を踏み出した。
”おいおい!?”
“神木!?”
“何してる!?”
“危ねぇぞ!?”
“大将!?”
’気でも触れたのか…!?“
”え、マジで何してんの!?“
どこに罠や仕掛けがあるかわからない第三層の通路を普通に歩き始めた俺に,視聴者が困惑する。
俺は極限まで神経を研ぎ澄ませて、周りに気を配る。
ヒュッ!!!
乾いた音が鳴った。
突如として、左右の壁に穴があき、そこから槍が飛び出してきた。
俺はその槍に反応し、身をかがめ、回避する。
バコッ!!!
間髪入れずに、今度は地面に穴が空いて、落とし穴が出現した。
これにも俺は反応し、体が穴に落ちる前に、地面の淵を掴む。
「よっと」
片腕だけの力で体を持ち上げて跳躍した俺は、地面に着地する。
シャキン!!
「ほい」
直後、首のあった位置を、円形の刃が通り過ぎていったが、俺はしゃがんで寸前で回避する。
”ふぉおおおおおおお!?!?“
”えぇえええええええええ!?!?“
”ファーーーーーーーw w w“
”何ぃいいいいいい!?!?“
”いやいやいやいやいや!?“
“あっぶね!?”
“キンタマひゅんってなったわ!!”
“死にたいの!?馬鹿なの!?”
“危なすぎるだろw w w”
“マジで何考えてんだ!?w w w”
”罠の数えぐいだろw w w“
”よく反応したなw俺なら5回は死んでるw“
‘まだ生きてんの奇跡だろw w w”
「危なすぎる」「まだ生きているのが奇跡だ」「キンタマがひゅんってなった」と視聴者たちが次々に襲いかかってくる罠に驚きを見せる中、俺は完全にこの階層の攻略手段を掴んだという確信とともに言った。
「わかりました。この階層の攻略方法が。要は単純で……普通に歩きながら罠に反応すればいいんですよ」
そう言った途端に、なぜかチャット欄がフリーズし、コメントが流れなくなった。
〜あとがき〜
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