第144話


ミステリーダンジョン第一層を力技で攻略した俺は、そのまま第二層へと足を踏み入れる。



”第二層はどんなミステリーが待ってるんだ…?w“

“知恵が試されるダンジョン探索(大嘘)”

“力こそ正義を体現する存在神木拓也”

”次こそちゃんと謎解きしろw“

”マジでこれまでこのダンジョンに潜って敗走していた探索者たちはなんだったのかw“

“もう次の階層も神木サーでいいやろw”

“大将の役に立とうとチャー◯式解いて数学力上げてきたのに全部無駄になりそうなんですが……”

“っぱ神木拓也って最強なんだな”

“止まってた同接がどんどん増えてら^^やっぱりみんなが求めているのは脳筋の大将やったんやなって”

”頭脳派の神木とかつまらんわ。物理を力でねじ伏せるのが神木流やろ“

”モンスターが出てこないダンジョンの探索をここまで面白くできるのもはや才能だよw“



視聴者はまだ先ほどの俺の第一層の無理やりの突破についてコメントしているようだ。


どうやら無数に分岐の存在する迷路は、視聴者も煩わしいと思っていたらしく、俺の力技による突破はかなり好評だった。


もうこの先もずっとこれでいいやろ,というコメントもあるが、とりあえずここはミステリーダンジョンなので、俺は次の階層でも謎解きにチャレンジしてみるつもりだった。


力だけの脳筋キャラだと思われたくない。


しっかりと謎を解いて第二層を突破し、視聴者にかっこいいところを見せたい。


ダンジョン探索だけじゃない神木拓也と言わせたい。



「ん…?あれは…?」


ミステリーダンジョン第二層に足を踏み入れてから数十秒後。


前方に何かが見えてきた。


モンスターの気配は周りにはないが、俺は一応片手剣を抜いて、その障害物に近づいていく。


「扉…?」


それはさまざまな図形のような形の溝が刻まれた、扉だった。


道は狭く一方通行で、この扉をどうにかしなければ先には進めなさそうである。


俺は試しにその両開きの扉を押してみる。


当然のように開かない。


固く閉ざされたままだ。



”何これ?“

”扉…?”

“なんかの暗号?

”よくわかんね“

”なんかそれっぽくないか?“

”この図形の謎を解けってことか!?“

”ようやくミステリーっぽくなってきたな“

”さっきみたいな迷路じゃないさそうだな。正統派な謎解きって感じ“

”何これ古代のエジプトとかの文字…?“

”象形文字ってやつか…?よくわかんね“

”何を意味してるんだろ?“

“これどうするん?”

”神拳で壊そうぜw w w“

”普通に壊して先に進もうぜw w w“

”過激派おってくさ“

”とりあえず謎解きにチャレンジしようやせっかくのミステリーダンジョンなんやからwいきなり神拳はやりすぎやろw“

“まぁこの先何があるかわからないから神拳は温存して謎解きしてみるのが無難じゃないか?”



「これ、謎解きをしろってことですかね…?」


俺は片手剣で扉の前のよくわからない図形の形の溝をなぞってみる。


すると俺のなぞった後がにわかに光はじめた。


剣先の動いた奇跡がキラキラと光り、しばらくすると消えてしまった。



「なるほど……この図形の謎を解いて、この溝を何かでなぞれば扉が開くパターンか」



“せやね”

”そうっぽいな“

“いいね”

“雰囲気あっていいね。ミステリーっぽいわ”

“第一層の理不尽な迷路と違ってこっちはどうにか頑張ったらいけそうやな”

”おい数学得意な奴ら出番やぞ“

”大将頑張れ^^“

”数学得意な奴ら頑張ってくれ。俺はいじめられて不登校になったせいで高校も出てない中卒だから難しいことはわかんないや^^“

”俺も高卒だから無理“

”Fラン大学中退の俺には荷が重そうだな。学歴高いやつ任せたわ“

”なんか悲しい告白している奴らいっぱいいて草“

‘お前ら学校中退しすぎやろ…”

”薄々気づいてたけど神木の配信ってやっぱニート多いよなw“

“俺は挑戦するぞ!解けるかは知らんがw“



おそらくそうなのだろう。


この扉に描かれた図形にはおそらく何らかの

謎が隠されている。


それを解いて、答えの通りに扉の溝をなぞれば、扉が開く仕様になっていると思われる。



「そうそうこういうのですよ、こういうの」


俺が求めていたのはまさにこういう感じのミステリーだ。


理不尽な総当たり迷路ゲームなんかじゃない。


こういう頭の良さが試される系の謎なのだ。



「みんなで考えましょう。俺も考えるんで」


俺はどっかりとその場に腰を下ろして、扉の図形を眺めた。


視聴者たちも、大体が俺と一緒に謎を考えてくれるようだ。


一部、数学が苦手なものや、学校を中退したものたちが早々にギブアップ宣言をしているが……


(まあ、これだけの視聴者がいれば、誰かは解けるよな流石に)



現在同接は40万人を超えており、これだけの視聴者がいれば、誰かは謎を解くことができるはずだ。


俺がわからなくても最悪視聴者に教えて貰えばいいだろう。


そんな感じで、俺は大船に乗ったつもりで、ミステリーダンジョンの扉の謎に挑んだ。




30分後。


「すみません…あの、ギブアッです…」


そこには完全に自分の数学力に自信をなくし、へこたれている俺の姿があった。


こういうのだよこういうの、と意気揚々と謎解きをし始めたはいいものの、全然わからない。


扉に描かれた図形が何を意味しているのかさっぱりわからず、剣先で色々と溝をなぞってみたりしたのだが、光ばかりで全然扉は開かない。



(もう拳で壊しちゃおっかな…)



また上の階層で感じた時のもどかしい感じが

蘇ってきた。


衝動的に扉をぶっ壊して先に進みたくなる。



(い、いかんいかん…自制しなくては…)



俺はうちなる衝動を何とか抑えて、ひとまず視聴者の助けを借りようとみないようにしていたチャット欄を見る。



”むっっっっっず“

”なんだこれ“

”全然わかんねぇ…”

“何これ、何を表してんの…?”

“ただの落書きに見えてきた…”

“これ本当に謎解きか…?”

“何の意味もない落書きお羅列じゃね…?”

“これ本当に解けるのかよ”

“お前ら全然解っとらんやんけw”

“大将もわかってなさそう”

“これ無理だべ”

“ひん”

“やっぱり神拳で壊すべ^^”


「た、頼りねぇ……あ、いや、すみません。なんでもありません」


どうやら視聴者も全然この謎が解けていないようだった。


チャット欄には「全然わかんない」「ただの落書きなんじゃね?」と言ったコメントが流れている。


俺は自分が特別頭が悪かったわけじゃないことに安堵しながら、これだけたくさんいるのに誰一人として謎が解けていない視聴者たちに、思わず本音を漏らしてしまった。



“あ”

“あ”

“ひっっっっど”

”泣いた;;“

”ひん;;“

“ごめんよ;;”

“怒らないで;;”

”何でそんな酷いこと言うの;;“

”役立たずでごめんなさい;;“

”捨てないで;;“

”本当にごめん;;“

”頭悪くてごめん;;“

”大将;;酷いよ;;“

“ひひんがひん;;”

“生きててすみません;;”

“大将助けられなくてごめん;;”



「マジで冗談ですって…はぁ」



途端に視聴者がコメント欄で泣き出した。


普段あれだけ威勢のいいコメントをして入りうのにこちらからちょっと突くとすぐにこれだ。


本当に俺の視聴者はよくわからない。


まぁこれも一種の恒例のノリみたいなものではあるのだが……



¥5,000

大将、多分解けたかもしれないです。俺の指示通りに溝を剣でなぞってもらってもいいですか…?


「え、解けたんですか!?」


そうこうしているうちに視聴者から謎を解いたというスパチャが送られてきた。


そこには、扉の溝をなぞる指示だけが書かれてある。


「本当かな…?た、試してみますね…?こうして、こうして……こうかな…?」


俺はそのスパチャの指示通りに、扉の溝をなぞる。


すると…


パァアアアアアア!!!


ギィィイイ…


周囲が光で包まれ、扉が開いた。


どうやら正解だったようだ。


「す、すごい…!開いた!!!」


俺は思わずそう口にしていた。


まさか本当に謎を解ける視聴者が現れるとは。


チラリとチャット欄を見ると、案の定お祭り騒ぎになっている。


”うおおおおおおおおお開いたぁああああああああああ“

”すげぇええええええええええ“

“きたぁああああああああああああ”

”解けたぁああああああああああ“

”マジかあああああああああ“

”どりゃぁあああああああああああ“

”うおおおおおおおおおおお“

”やああああああああああああああ“


「あ、あの…ど、どうやって解けたんですか…?もしよろしければ解法を教えてくれませんか?」


俺にはさっぱりだった扉の謎をいかにして解いたのか、俺はそのスパチャを送ってきてくれた視聴者に尋ねた。


¥500

全部は解説できないですけど、図形の角数に規則性があってですね……



どうやらその視聴者は、図形の角の数に規則性を見出して、謎を解いたらしい。


難しくてちょっと何を言っているのかわからなかったが、しかしこの扉の図形はしっかり

とした数学的な謎になっていたらしい。



「す、すごいですね……もしかして◯大の学生とかですか…?」



日本最高峰の大学の名前を出して俺が尋ねると、その視聴者はあっさりと身分を明かしてきた。



¥1,000

どこかは言えないですけど、大学で数学を教えてる教授です。いつも神木さんの配信楽しく見せてもらっています


「だ、大学の教授なんですか!?す,すごい……」


まさかの大学の教授だった。


この感じ、ふかしではなく多分本当だと思う。


とんでもない人が俺の配信を見ていることが発覚し、俺は思わず絶句してしまう。



”すげぇw“

“マジかよ大学教授も見てんのかw”

”有能“

”マジですげぇ“

“有能すぎるやろ”

”これは有能神木ファンですわ“

”この人数見てたら大学教授がいてもおかしくはないか“

”すげぇw“

”おいもうこいつに全部の問題解かせようぜw“

“最強の助っ人きたぁあああああああ”

”これ、ミステリーダンジョンクリアあります“

”頼む教授!!いなくならないで!!!“


「有能」「すごい」と言ったコメントが怒涛の如く流れ、視聴者は頼むからいなくならないでくれとこの大学教授の視聴者にせがむ。


俺もこの人がいてくれれば心強いと思い、次も頼っていいかどうか聞く。


「あの…できれば次もお力を借りていいでしょうか…?」



¥500

もちろんいいですよ。解けるかわかりませんけど、精一杯頑張ります


「よっっし!」


思わずガッツポーズをとっていた。


これはもうミステリーダンジョンをクリアしたも同然だろう。


せこいと言われるかもしれないが、視聴者を頼れるのも配信者としての実力だ。


誰が何と言おうと、俺はこの俺の視聴者の教授の力を借りてミステリーダンジョンを踏破する。


異論は認めない。



(固定してっと^^)


俺はその大学教授のアカウントをしっかりと固定して全てのコメントが視聴者に見えるようにして,開いた扉の奥に進む。


「お、早速次の謎が来たな…!!!」


二十メートルほど歩いてすぐに次の扉が出現した。


またしてもその扉の表面にはさまざまな図形が描かれている。


……なんだろう。


さっきより量が多い。


大きな扉をびっしりと埋め尽くしようにして図形が描かれている。


これ……本当に解けるんだろうか。



“なんだこれw w w”

“いや多すぎw w w”

“多すぎやろw”

“ファーーーーw w w”

”難易度爆上がりやんw“

”あれ、詰んでね?w“

”もはや子供の落書き長にしか見えん“

”一抜けた。俺は絶対に無理だわwお前らで考えてくれw“

“これは絶対に無理なやつだぁ^^”

“助けて教授;;”

“教授;;お前だけが頼りだ;;”


あまりの図形の多さに早速匙を投げる視聴者たち。


俺も広い扉をびっしりと埋め尽くす図形を目にして、早々に考える意欲を削がれてしまった。



「あ、あの…教授さん…?どうです?解けそうです…?」



俺は情けなさを感じながらも、わずかな期待をこめて、教授に尋ねた。


教授からすぐに返信があった。



¥500

うーんw流石にこれはちょっと難しいかもしれないですw



ですよねー。


知ってた。


「…はぁ」


俺はため息を吐いて目の前の扉を見つめた。


仕方ない、これは仕方のないことなんだと自分に言い聞かせながら右の拳を引いた。


「神拳」





〜あとがき〜


いつもお読みくださりありがとうございます。


お知らせです。


この度、サポーター限定記事を始めることになりました。


内容は、この『売れないダンジョン配信者』を3話先行して公開するというものです。


現在すでに145話、146話、147話がサポーター限定コンテンツとして公開されています。


少しでも早く読みたいという方は是非サポーター加入の方をよろしくお願いします。


最後に、今まで限定コンテンツがないにも関わらずサポーターになってくださっていた方、本当にありがとうございます。


今後とも『売れないダンジョン配信者』をよろしくお願いします。









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