第143話


”いきなり五択w w w“

”開幕5分岐は草“

“初めからこれはw”

”マジかw“

“ミステリーダンジョン始まったな”

”マジかよwどうすんのこれw“

“この中の一つが正解ってこと…?”

”早速無理ゲー始まってて草“

”いきなり五択はあまりに不親切仕様すぎるだろw ww“

”こんなの数学的頭脳とか関係ないやん。運ゲーやん“

”運ゲー始まったw w w“

”ひん“

“ひひんがひん”

“帰ろっか^^”



突然現れた五択の選択肢。


チャット欄には開幕早々、帰ろう、無理ゲーなどといったコメントが並ぶ。


先ほどまでの団結力はなんだったのか。


俺は早くも諦めムードが漂い出したコメント欄から視線を外し、前方の五つの分岐を順番に見る。



「何か特殊な分岐があるようには見えないです…どれもおんなじ感じで…」



この中の人つの道が正解なのだろうか。


だとしたらどこかに目印とかがあったりしないだろうか。


そんなことを考えて、俺は五つの分岐をそれぞれ調べてみたのだが、何か特殊な点は見当たらなかった。


どれも全く同じような道に見える。


その奥は暗くて見渡せない。



“とりあえず適当に進んでみるべ”

“どれか適当に選ぼう”

“神木の運が試されるぞ”

”まぁひとまず端から試さね?“

“こうなったら当てずっぽうや”

”行き当たりばったりで行こうw“

”なんかこれまでのダンジョン探索と全く違ってこれはこれで面白いなw“



判断材料が何もないなら適当に道を選んでみようというのがチャット欄のマジョリティになった。


俺はとりあえず視聴者に従って適当に道を選ぶ。



「とりあえずわかりやすいように一番右に入ってみます」



俺は覚えやすいように一番右の道を選んで入った。


狭い中を進んでいく。


「モンスターとかの気配はなさそうです」



前方に注意を配り、気配を探るが、何か接近してくるような気配はない。


ミステリーダンジョンでは殆どモンスターとエンカウントしないという噂は事実だったようだ。



「あ、また分岐だ」



道を進んでいくと、また分岐に突き当たった。


今度は三つに道が分かれている。



”また分岐か“

“むっっっず”

“え、これもしかして全通り試さないといけないの?”

”また分岐で草“

”ギャルゲーかな?“

”分岐多すぎるやろw“

”これ今日中に踏破絶対に無理じゃね?“

”ミステリーダンジョンえっっっぐ“

”マジで今までとは別ベクトルの難しさだな”

“ある意味大将にとって一番難易度高いダンジョンかもな…”

“こんなの視聴者がいたところでどうしようもねぇw”

“もはや頭がいい悪い関係なくないか?それとも何か規則性でもあるのか?”

“もうちょい進んでみようぜ。ヒント的な何かがあるかもしれないし”



チラリとコメント欄に目を映せば、視聴者たちもどうしたらいいのかわからず困惑しているようだ。


これでは配信者としてのアドバンテージを活かせない。


ここまで手掛かりらしきものもないし、推理のしようがないのだ。


正攻法がなんなのかすらわからない。


もしかして全ての道の全ての分岐を試して、正解を探し出さなくてはいけないのか?


それとも進んでいけば何かしらの規則性が表れてくるものなのだろうか。



「と、とりあえずまた右に進んでみます…」



俺は先ほどと同じようにまた右の道へと進んだ。


進んだ先には全く同じような暗く狭い道があった。


モンスターの気配はない。


5分ほど歩くとまたしても分岐にたどり着いた。


今度は4分岐だ。



「右に行きます」


俺はまたしても右を選び、進んでいく。


その後俺は狭く暗い迷路のような道を、モンスターと戦うこともなく、ひたすら進んでいった。


いくつもの分岐に辿り着き、その度に右を選んで進んでいく。


あまりに画面が変わり映えしないため、同接の推移も正直あまり良くない。


視聴者はあれこれチャット欄で推理しているが、コメントの流れは前回の深層探索に比べて圧倒的に遅く、退屈している視聴者が多いのが良くわかった。



「あれ……これってさっき通りませんでしたっけ…?」



分岐をひたすら右を選んで進んでいくと、そのうちに俺はなんだか見覚えのある場所に辿り着いた。



「え、ここってもしかして、最初の…?」


目の前に五つの分岐がある。


どうやら俺はこのミステリーダンジョンの中を回り回って最初の場所へと戻ってきてしまったらしい。



“振り出しw w w‘

マジかw w w”

“ちょっとずつ曲がって元の道に戻ってきたのかw w w”

“だっっっっるw”

“え、マジで全通り試すのこれ…?”

“なんだこのダンジョン激ムズすぎるだろwどうやって踏破するんやw w w”

“これ、ソロじゃ絶対に無理じゃね…?”

“これ神木一人じゃ絶対に無理だろ。人数をかけて攻略する系のダンジョンだろどうみても”



コメント欄では、ソロで挑むダンジョンじゃない、人数かけないと無理、と視聴者が早くも匙を投げ出している。


「と、とりあえずもう一回適当に道を選んでみます。今度は本当にランダムで行きます…」



俺は何か変化が起これと心の中で祈りながら、今度は全くのランダムに道を選んで迷路のようなダンジョンのなかを進んでいく。



「あれ!?もしかしてまた!?」



しかしまたしても元の場所まで戻ってきてしまった。


知らないうちに進む道が少しずつ周り、最初の5分岐へと帰ってきてしまったようだ。


暗く狭い道では、方向感覚もよくわからな

い。


自分で前に進んでいるのか背後に進んでいるのかも、段々と不明瞭になっていくのだ。


そして、気づけば元の道に戻っている。


まずい。


正直舐めていたミステリーダンジョンが、まさかこんなに難易度の高いダンジョンだとは思わなかった。



“もうやめべ”

“無理ゲー”

“無理やん”

“何このクソゲー”

“マジで全通り試す系やん”

“ひん”

”帰るべ“

”アホくさw“

“モンスターも出ないしつまんないから帰らね?”

”このダンジョンドロップ品とかもないんやろ?マジで潜り損のクソダンジョンやんけ“

”やーめた^^“

”やーーーーーめた“

”やーーーめた、すべ^^“



もういい、やめろ、帰ろうなどというコメントがチャット欄にあふれる。


同接ももはや全く伸びなくなり、ずっと30万人のまま止まっている。



「うがああああああああああああ!!」



なんだかもどかしくなってきた俺は、その場で叫び声を上げる。



”ファッ!?“

”w w w w w“

”あーあ、大将壊れちゃった^^“

”そりゃ叫びたくもなるわ“

“心が折れたか”

“しゃーない、お前とは相性が悪かった”

”このダンジョンは神木向きじゃないな。普通に強いモンスターが出てくるダンジョンに潜ろう“

”今日はお開きや“

”こういう日もあるさ“

”帰るべ“



コメント欄では、俺がおかしくなってしまったと思っている視聴者が「もういいよ」「帰ろう」「相性が悪い」「こういう日もある」と慰めの言葉をくれる。


だが、俺は諦めるつもりは毛頭なかった。


スラリと片手剣を抜き、目の前の五分岐を睨みつける。



”え“

”お?“

”ん?“

”何を?“

”モンスター?いないんでしょ?“

”神木…?“

‘大将?”

“おい…?“

”何してる…?“

”w w w w w“

”嫌な予感がするんだが…?“



俺のまとう不穏な空気にチャット欄がざわつく中、俺はついに我慢の限界に達し、ポツリと言った。



「神木サー」



= = = = = = = = = =




ドガガガガガガガガガガ!!!


轟音と震動がミステリーダンジョンを蹂躙する。


謎の迷路に時間を食われ、ついに忍耐力の限界に達した俺は、力技を使うことにした。


神木サーで分岐そのものを破壊する。


分岐は全て破壊して無くして仕舞えばいい。


そうすれば、そもそも正解の道もハズレの道もクソもない。


どうしてこんなに簡単なことに気が付かなかったのだろう。


俺はこれまでのイライラを全てぶつけるように、神木サーで四方八方に無差別に攻撃しまくり、どんどんミステリーダンジョンを掘削して無理やり前に進んで行った。



“ファーーーーーーw w w w w”

“きたぁあああああああああああああ”

“どりゃああああああああああああ”

“やると思ったぁあああああああああ”

“うおおおおおおおおおお”

“くっっっっっっっっっさw”

“わろたw w w”

“力技で解決w”

“知ってたw”

“なんとなくこうなる予感はしてたw w w”

”ですよねw w w“

”分岐は物理的に消せば問題ないよなぁ!?“

”やっぱ神木拓也のダンジョン配信はこう出なくっちゃなぁ!?“

”いつもの大将の配信っぽくなってきたw“

”いけえええええええええそのまま突き進めぇえええええええ!!!“



ドガガガガガガガガガガ!!!!!



俺だってこうしたかったわけではない。


できれば、正攻法でこのダンジョンをクリアしたかった。


でもこんなに多い分岐の中から正解の道を選ぶなんてはっきり言って無理ゲーだ。


全通りの道を試していては日が暮れてしまう。


だったら、手段はもう選んでられない。


ここはいつも通り、力技で行かせてもらうとしよう。



「ぉおおおおおおおおおお!!!」



削る、削る、削る。


ひたすら周囲に向かって攻撃を繰り出し、俺はミステリーダンジョンを削っていく。


気がつけば攻撃にも力が入り、斬撃が周囲に向かって放たれていた。


神木サーはいつの間にか神木サー・改となり、さらに速度を増してミステリーダンジョンを掘り進めていく。



”斬撃で始めたw w w“

“神木イラついてら^^”

“相当ストレスたまってたんだね^^”

”神木サー・改きたぁああああああああ“

“ミステリーダンジョンざまぁあああああああああああああ”

“煩わしいダンジョンにはお似合いの末路だねw w w”

”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“

”え、ここって何が試されるダンジョンなんでしたっけ?火力?“

“知恵が試されるダンジョンとはなんだったのか”

”力こそ正義。はっきりわかんだね^^“

”脳筋の大将、すこすこのすこ“

”気持ちぃいいいいいいいいいいい“



一体どれぐらい神木サー・改を続けただろうか。


ふと手応えがなくなったので、俺は動きを止めた。


「お、なんかゴールぽいのある」


目の前にたった一本の広い道があった。


下へと降っているところを見るに、どうやらここが海藻の出口で間違いなさそうだ。


俺は背後を振り返る。



「最初っからこうしておけばよかったかもな」



ずうっと向こうまで、俺の神木サーシリーズによって掘削された一本の道が続いていた。


どうやら入り口からここまで直線距離にしたらたったの数百メートル程度だったらしい。


最初っからこうしておけば、もっと時間と短縮できただろう。


馬鹿正直に複雑な迷路に付き合う必要などなかったのだ。



「力技ですみません……でもこうするより他になかったんです」



俺は一応コメント欄に詫びを入れる。


あまりに脳筋な方法で一階層を突破してしまったために、怒る視聴者も出ることは覚悟していたのだが、果たしてチャット欄はかつてない勢いで流れ、同接もめちゃくちゃ増えていた。



“うおおおおおおおおおおおお”

“一気に踏破したw w w”

“きたあああああああああああ”

“脳筋最強!神木拓也最強!”

“やっぱり神木拓也はこう出なくっちゃなぁ!?”

”神木、お前はそれでいい“

”これだよこれ、お前の配信に求めているものは“

”目っっっちゃ気持ちよかったw“

“このサクサク感たまんねぇ”

“あへぇ”

“どんな方法でも踏破してくれればなんでもええで?”

”脳筋すぎるが正直大好きだw w w“



感情に任せて思わず分岐を全て破壊して直進するという暴挙に出てしまったのだが、視聴者からは案外好調だった。


みんな意外と俺と感覚が近いのかもしれない。


ぴたりと止まっていた同接も動き出して現在38万人。


順調に推移し始めた。



「それじゃあ、第二層に進んでいきます。今度こそ皆さんの力を借りるかもしれないので、よろしくお願いします」



俺は第二層こそは正攻法で踏破したいなと思いながら、第一層を後にしたのだった。

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