第147話
ミステリーダンジョン第三層、罠の階層を俺は悠々と進んでいく。
足元には無数の図形や、サークルや、紋様が描かれており、それらはおそらく罠の位置と安全な足場の場所を表す謎となっている。
そんな謎を一切解かずに、俺は奥に見える第三層の出口を目指して直進する。
足元ではカチりカチりと罠を踏んだことを知らせる音が連続してなり、ほとんどタイムラグなしで、様々な罠が俺に向かって襲いかかってくる。
とにかく第三層の罠の種類は多彩だった。
カチり…
また足元で罠を踏んだ音がした。
バタン!!!
ゴロゴロゴロゴロ……
次の瞬間、突如として頭上の天井が開き、丸い大岩が落ちてきた。
俺は咄嗟に前方に飛ぶ。
ダンジョンの通路を埋め尽くすような丸い大岩
は、転がりながら俺を押し潰さんと迫ってくる。
俺は前方に向かって走った。
カチリ…
カチリカチリ……
足元で連続して罠を踏んだ音がする。
ジャキキキン!!!
足元から無数の剣が生えてくる。
俺は反応し、前方に跳躍することでなんとか回避した。
“あっぶねぇ!?”
“ファーーーーーーw w w”
“ギリギリすぎるw”
“すっっっっっご”
“今のよく反応できたなw”
“マジでキンタマヒュンってなるんやが”
“神木…お前の配信心臓に悪すぎるよ…”
“スリル満点どころの騒ぎじゃねぇw
流石にこの状況で配信画面を確認する余裕はない。
出来れば視聴者とコミュニケーションをとりながら配信したいところだが、今は見逃してほしい。
俺はなるべく俺に次々と襲いかかってくる罠が見えるように配慮しながら、大岩に潰されないように前方に向かって走る。
バキキ!!!
通路を埋めるような丸い大岩は、地面から生えた刃をへし折り、どんどん近づいてくる。
先にこの大岩を処理しておこうかと背後を仰いだところで、今度は前方から水が迫ってきた。
ゴォオオオオオオ…!!
大量の水が濁流となってこちらに迫ってくる。
背後には岩、前方には水。
逃げ場がない。
どちらかを処理しなくてはいけない。
”やべぇええええええええ!?!?“
”今度は水責めかよ!!!“
”えぐいえぐいえぐいえぐい“
”どうすんのこれ!?“
“水はどうしようもないから岩を壊そう!!”
“岩壊して引き返すしかなくね!?”
“神木逃げろぉおおおおおおお”
”マジでどうしようもないから一旦引き返せ神木!!!“
”大将泳げる…?金槌じゃないよな…?“
”というか水に濡れたら配信機材が;;“
”下手したら配信強制終了ルートなんだがw w w“
”神木の配信見れないのはマジで困るから逃げてくれ;;“
「神斬」
一瞬引き返すことも考えたが面倒だ。
俺は神斬を前方から迫ってくる濁流に対して……縦に使った。
次の瞬間、世界が縦に二つに分かれた。
こちらに迫っていた水の濁流が、まるで俺の通る道を開けるように二つに分かれた。
「今だ…!!!」
俺は地面を蹴って、その水の道が閉じてしまわないうちに、一気に前方へと飛んだ。
カチカチカチカチカチカチ!!!
水の重さによって罠が次々と発動し、壁から、地面から、天井から、槍や、斧や、刃が生えてきて襲いかかってくるが、俺の移動速度のほうが上だった。
水平に跳躍する俺の通った後の空間を、たくさんの槍や斧や刃が空振りする。
そしてその背後からは止まる気配のない大岩が、発動後の罠を破壊してこちらに迫ってくる。
「見えた…!出口だ!」
水平方向に跳躍した俺は、途中で水が吹き出している壁の穴を通り過ぎた。
そしてそのまま第三層の出口へと辿り着く。
ゴロゴロゴロゴロ……
もう罠はない。
俺が現在立っているところは完全なる安置だ。
「神拳」
ブゥウウウウウウン……
俺は最後に、こちらに向かって迫ってきていた大
岩に対して神拳を使った。
黒の奔流が大岩を飲み込み、空間ごと消失した。
ザァアアアアアア……
たった今踏破した第三層の通路の全てを、水の濁流が押し流し、向こう側へと運んでいく。
「ふぅ…」
俺は額の汗を拭った。
なかなかにギリギリでそして楽しい階層だった。
「正攻法じゃなかったですけど、これはこれで楽しかったです…どうですか、ちゃんと写ってましたか?水で濡れて機材が壊れなきゃいいけど…」
“ファーーーーーーw w w”
“もうめちゃくちゃw w w”
“カオスすぎるやろw w w”
”マジでなんかのゲームみたいやったおw“
”某配管工のゲームみたいで草“
“マジでゲーム画面見てるのかと思ったわw”
“お前の挙動マジで人間じゃねぇってw”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
“無理ゲーのRTA見てる感覚。とても現実とは思えない”
“イカれてる”
“もうなんでもあり”
最新の注意を払ったため、機材に水はついていないはずだが、俺は念の為、カメラなどの機材が無事であることを確認する。
機材についたちょっとした水滴を拭き取ったりしながら、俺はチャット欄を見た。
怒涛のように流れるコメント。
どうやらスリリングな第三層の攻略を、視聴者は大いに楽しんでくれたらしい。
一時は伸び悩んでいた同接も、ここへきて80万人まで増えていた。
ここまでモンスターと一度も戦っていないというのに、この分だと100万人の大台に乗せられそうだ。
「それでは第四層に潜っていきたいと思います」
機材についた水滴を完全に拭き終わった俺は、そんな宣言と共に第三層を後にして、第四層へと足を踏み入れた。
〜あとがき〜
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