第181話
”ファッ!?なんやあいつ!?“
”なんだこいつ!?“
”なんか変なのきたあああああああああ“
“およ?”
“おん?”
“ファッ!?”
”軟体動物…?“
”ゴーレム…?“
”水のゴーレム…?“
“何これw w w w w”
“なんやこいつw w w w w”
“液体のゴーレム?”
“なんかまたすっごいのがきたな”
”普通に雑魚そうw w w“
”そんなに強くなさそうw w w“
”俺でも倒せそうw w w“
深層に入って最初の新種モンスター。
その体がほぼ全て水で構成されているゴーレムの出現に、チャット欄がちょっと異様な雰囲気に包まれる。
深層に出現するモンスターは総じてどこか奇怪な見た目をしているが、今日新たに現れたこのモンスターもその例に漏れない。
体が水で構成されたモンスターなんて、俺は初めて見た。
『ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!』
「すげー……どうなってんだ…?」
鳴き声を上げながら近づいてくる様は、さながらゴーレムの形をした水がこちらに貼ってくるような様相を呈していた。
俺は思わずこの珍しい見た目をした新種のモンスターに見入ってしまう。
“めちゃくちゃ弱そうw w w”
“水ゴーレム可愛いなw”
”早く倒して次行こうぜ“
”なんだこいつw“
”これが深層モンスターかよ?w“
“防御力皆無やろこんなんw”
“なんかがっかりだわw”
“強そうには見えないな”
”ゴブリンよりは強そうだが、せいぜい中層モンスター程度に見えるな”
“深層モンスターだから流石に雑魚ではないんだろうが……神木なら楽勝だろうな”
”大将。そんなやつさっさと倒してもっと化け物じみたやつと戦いに行きましょう!“
チャット欄では早くもこのモンスターを舐めるようなコメントが目立っていた。
全身が水で構成されたゴーレムが、鳴き声を上げながらこちらにゆっくりと近づいてくる様を見て、「さっさと倒そう」「深層のモンスターには見えない」「俺でも倒せそう」とそんな油断したコメントがたくさん流れている。
だが、俺はその全身水のゴーレム……名付けるとしたらウォーターゴーレムか……の奇怪な見た目に見惚れながらも、しかし油断は一切していなかった。
これまで数々のモンスターと対して来たおかげで、俺は対峙したモンスターの力量をある程度把握することが出来るようになっていたが、このウォーターゴーレムから感じ取れる気配は決して雑魚のそれではなかった。
むしろ、ここまで出てきた深層モンスター……レイスや、キングスライム、そしてリザードマンを束ねたよりも遥かに強いと確信させるほどの存在感をウォーターゴーレムは持っていた。
『ウゴゴゴゴ…!』
ブヨブヨと定まらない輪郭で、こちらにゆっくりと近づいてくるウォーターゴーレム。
早く倒せ、雑魚を蹴散らせと視聴者にチャット欄で煽てられる中、俺は手始めに斬撃を一つ、ウォーターゴーレムに対して飛ばしてみた。
「ふん!」
斬ッ!!!
空気を切り裂き、斬撃が飛んだ。
『ウゴォオオ……』
俺の飛ばした斬撃は狙い違わず、ウォーターゴーレムの腕を切り落とした。
バシャァアアアア……
切り落とされたウォーターゴーレムの腕は、水になって地面に飛び散った。
だが、その直後、水はまるで意志を持っているかのようにウォーターゴーレムの元に集まり、飲み込まれていく。
そして切断面から、何事もなかったかのように新たな腕が生えてきた。
「だよな」
予想できた結果に、俺はそう呟いた。
その見た目からなんとなく『斬る』系の攻撃は効果がなさそうだと思っていたが、やはりそうだった。
俺の斬撃によって切り落とされた腕は、瞬時に再生し元通りになった。
攻撃を喰らったウォーターゴーレムにも特に苦しげな様子は見受けられない。
斬撃による攻撃でダメージを蓄積させることはどうやら出来そうもない。
”ファッ!?“
“再生した!?“
”治った!?“
”おお…!“
“やるやん”
”再生能力持ちか…“
”体が水だから切っても意味ないのか…“
”なるほどそういうタイプか…“
”まぁそうだよな“
“普通に強いやんけw”
“一瞬で治ったw w w”
“おい雑魚とか言ってたやつ出てこいよw”
“可愛いとか言ってたやつ息してるか?”
“冷静に考えて深層のモンスターなんだから、雑魚なわけないんだよなぁ…”
ウォーターゴーレムが切断された腕を簡単に再構成して見せたのを受けて、チャット欄では流れが変わりだした。
先ほどまでウォーターゴーレムを侮るような投稿が多かったが、徐々に視聴者にもこの新種の深層モンスターが雑魚ではないことが伝わってきたようだ。
気をつけろ。
何をしてくるかわからない。
深層モンスターが雑魚なわけない。
そんなコメントが増えだす。
「次は……こっちを試してみるか…」
『ウゴゴゴゴ……』
ウォーターゴーレムは、腕を完全に再構成すると、またゆっくりとこちらに向かって進み出した。
俺は少し方向性を変えて、再度攻撃を試みる。
「ふん!!!」
ドガガガガガガガガ!!!!
片手剣を鞘に収めて、右の拳を振り抜いた。
衝撃波が発生し、ダンジョンの壁や地面を削り、ウォーターゴーレムに襲いかかる。
バァアアアアアン!!!!
『ウゴ』
衝撃波は、動きののろいウォーターゴーレムの体をモロに捉えて、バラバラに分解した。
ウォーターゴーレムは、衝撃波の威力でその形を保っていられなくなり、水になって地面に散らばった。
バシャァアアアア……
目の前の地面に大きな水溜りが出来る。
”やったか?“
”終わり?“
”倒した?“
”勝った?“
”やっつけた?“
”やったのか?“
”勝ったんじゃね?“
”死んだか?“
”お亡くなり?“
“外出た瞬間……”
チャット欄で視聴者がフラグみたいなことを言う中、俺は地面に溜まった水を注意深く観察する。
油断して近づくことはしなかった。
ダンジョンの地面が、死体の回収を始めていない。
つまりウォーターゴーレムは生きている。
『ウゴ…ウゴォオオオ…』
「だよな」
あちこちに散らばった水が、先ほど同様、まるで意思を持ったかのように一点に集まった。
そして徐々に最初のウォーターゴーレムの形を再形成していく。
”うぉおおおおおおおお!?!?“
”ファーーーーー!?!?“
”まじかああああああああ!?!?“
”復活したぁあああああああ!?!?“
”生き返ったぁあああああああ!!!“
”死んでなかったぁあああああ!?!?“
”つっよ!?“
”なんだこいつ!?“
“え、どうやって倒すの…?”
“待ってこれ、無理ゲーじゃね…?”
“あれ?無理ゲー始まった…?”
“ん…?ひょっとしてこいつ、最強か…?”
『ウゴォオオオオオオオ!!!』
今や完全復活を果たしたウォーターゴーレムに、チャット欄で視聴者が完全に手のひらを返す。
先ほどまで俺でも倒せるなどと侮るコメントがあったのが、今では「こいつ最強じゃね?」「どうやって倒すの?」と絶望するコメントが流れ出した。
もはや視聴者の誰も、このウォーターゴーレムを雑魚だと侮っていなかった。
「さて…どうするか…」
俺は体を形成し終わり、再びこちらにゆっくりと進行してくるウォーターゴーレムを見据え、攻略法を考える。
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