第180話
「うおっと!!!」
目の前に下り坂が現れて俺は慌てて足を止める。
「お…?もうついた…?」
思わずそう呟いて、駆け抜けてきた背後の道を振り返る。
現在俺の目の前には、次の階層へと続く下降通路がある。
上層から、中層、中層から下層へとやってきてダンジョンをそれなりの速度で攻略してきたわけだが、次の階層への通路がここにあるということはどうやら俺はいつの間にか下層を攻略し終えていたらしい。
「ここって下層でしたよね…?あれ?中層だっけ…?」
なんだか疑心暗鬼になってきた俺はコメント欄を確認する。
ここまでとにかく速さを意識してダンジョン探索をしてきたために、コメントや同接すら一度も確認していない。
俺は本当に自分が下層の最奥……詰まるところ深層の入り口まで辿り着いたのか確信が持てなくなり、視聴者に確認する。
“はっっっっっやw w w”
“えっっっっっぐw w w”
“はやすぎw w w”
“まだ一時間とちょっとしか経ってないぞw w w”
”どんだけだよw w w“
”そこ下層の終着点だぞ安心しろw w w“
”どう見ても世界新記録です本当にありがとうございましたw w w“
“やりすぎw w w”
“大将のっけから飛ばしすぎですw w w”
“速すぎて自分でもどこまで攻略したのかわからなくなってるやんw w w”
“速報!神木特急列車がトレンド入りw w w”
“トレンドが『神木 最速』『ダンジョン下層攻略RTA』『神木拓也 世界記録』ってなっててお前一色なんですがw w w”
”安心してください大将wそこ深層の入り口ですw w w“
”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“
「お…同接150万人行ってる…」
チャット欄の視聴者に確認したところ、どうやらここが下層の終着点……つまり深層の入り口で間違いなさそうだ。
どうやらあまりに早く攻略したせいで、俺の出したタイムが世界記録かもしれない疑惑が上がっているらしく、トレンドが俺関連のワードで埋め尽くされているらしい。
同接もいつの間にか120万人を突破している。
ダンジョン探索を開始した時の三十万人を見て以降、一度も同接を確認していなかったため、4倍以上に膨れ上がった同接数を見て俺は少々驚いてしまった。
「ここまでコメントとか読めなくてすみません……とにかく速さを意識して攻略しました……画面とかも揺れたと思います…見ずらい映像ですみません…」
俺はここまで、速さ優先で映像のことをあまり考えられなかったことを視聴者に詫びる。
俺としては、最低限の画質の映像が配信で流れるように攻略したつもりだったのだが、どうやら自分でも気付かぬうちにかなりの攻略スピードになっていたらしい。
確かに途中から自分が今どこにいるかは俺自身気にしなくなっていた。
とにかく目の前に立ちはだかるモンスターを倒し、群れがいれば神木サーで対応した。
そして気がつけばここにいた、という感覚だ。
記録を意識したわけではないが、この攻略スピードはもしかしたら世界記録かもしれないということで、今有識者たちが色々と調べてくれている最中らしい。
「いや…みなさん本番はここからですよ…?」
すでに俺のこの攻略タイムが世界記録だ、いや違うなどとチャット欄で議論が巻き起こり、大盛り上がりとなっているが、むしろここまでは序章に過ぎない。
今俺の目の前にある深層への入り口。
配信の見どころはむしろこれからである。
「ここからはしっかりとした映像が撮れるようになるべくゆっくり攻略していくので…」
ここまでスピードを意識して攻略したのは、メインディッシュである深層の攻略に時間を取る為である。
今日攻略するのは、これまでのダンジョンとは違う、正真正銘の未攻略の深層である。
一体どんなモンスターが出てくるのか、未知数だし、今まで誰も足を踏み入れたことのない前人未到の領域に足を踏み入れることだってあるだろう。
もしかしたら想定外に強いモンスターが出てきて苦戦することもあるかもしれない。
そのために、深層攻略に当てる時間はいくらあっても十分すぎるということはないだろう。
「というわけで早速深層に潜っていきたいと思います」
…そんなやりとりをしている間に、さらに同接が増えて現在135万人。
SNSのトレンドも俺一色になっているらしく、ネットの各地から人が流れ込んできていて、すでに配信は大盛り上がりとなっていた。
(よし…さらに見せ場作っちゃうぞ…)
俺は密かにそんなことを思いながら、いよいよ未攻略ダンジョンの深層へと足を踏み入れていった。
= = = = = = = = = =
ヒィイイイイイイイイイ!!!!
キシェェエエエエエエエエ!!!
ズル…ズル…ズル……
「ここまでは別に普通の深層だな…」
いよいよもって未攻略ダンジョンの深層に足を踏み入れた俺。
最初からいきなり見たこともないような強いモンスターと邂逅する……などということはなく、足を踏み入れた俺を出迎えたのは、深層に出現する
いつのも面子だった。
レイスが。
リザードマンが。
キングスライムが。
次から次へと俺に襲いかかってくる。
すでに攻略法を知っており、特に引き伸ばす要素もないなと思った俺は、それらの即出の深層モンスターたちを流れ作業のように倒していく。
“深層モンスターたちがまるで羽虫のようにw w w”
“あれおかしいな……ここって深層だよね…?上層じゃないよね…?w”
“マジで大将の放送見てると感覚バグるな…”
“こいつらって一応、1匹1匹が、下層探索者が束になっても敵わないような化け物たちだよね…?w”
”うーん、今日も神木拓也は最強です、とw“
”うおおおおおおお神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“
”これくらいじゃ驚かなくなってきた自分が恐ろしいわ“
”早く新種のモンスター出てこないかな“
”未攻略ダンジョンの深層にソロで潜るとかいう無謀をやってるのに心配するコメが全然ねぇw w w“
”今の所即出のモンスターしか出てきてないな“
レイスを引き付け、実体化したところを切り裂く。
リザードマンが伸ばしてきた舌を掴み、振り回し、殴打で殺す。
神木サー・改を使い、無数の斬撃でキングスライムの核を破壊する。
俺はもはやお馴染みとなっている深層モンスターたちを、どんどん倒していきながら奥へと向かって進んでいった。
視聴者が望んでいるのは、俺と新たな深層モンスターとの戦い。
そんなことは百も承知であるため、俺は新種が出てくるまではペースを緩めるつもりはなかった。
「お…?」
最後にレイスを1匹、切り裂いて倒したところで、俺は足を止めた。
前方に異質な気配を感じた。
今までに一度も感じたことがないような、明らかに特異は気配だ。
(おそらく新種だな…)
「何かいます…慎重に行きます…」
俺は新種のモンスターの気配を察知して、片手剣に握る手に力を込め、いつでもどんな攻撃にも対応できるようにしながら前方へゆっくり歩みを進
めていく。
ウゴオオオオオオオオオオ!!!!
「お…?あれは…?」
合成された機械音のような、奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
それと共に、ずんぐりとした図体をもつ中型のモンスターがあちらから歩いてくる。
ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「あれは…」
ゴーレム。
そのモンスターを見た時に真っ先に頭に浮かんだ名前がそれだった。
ずんぐりとした体。
機械の駆動音のような鳴き声。
ガシャガシャとロボットのような動き。
まさにそのモンスターの兼ね備えた特徴は、有名なモンスター、ゴーレムのそれとピッタリと一致していた。
ただし……
「面白いな…こんなのは初めてだ…」
そのゴーレムは普通じゃなかった。
ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
そのずんぐりとした胴体の先にある歪んだ景色を見て俺は目を細める。
現れたゴーレムの体は、水によって形成されていた。
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