第182話


ウォーターゴーレムに対して,斬撃も、拳による衝撃波も通用しないことがわかった。


ウォーターゴーレムの水で構成された体には、打撃や斬撃はほとんど効果がないようだ。


となると取れる手段は限られてくる。


「なんか燃えるものでもあったらなぁ…」


真っ先に思いついたのが、炎による攻撃だった。


ウォーターゴーレムの体は水でできており、炎で燃やして蒸発させれば、倒せるのではないかとそんな単純な発想が頭に浮かんだのだ。


だが、もちろん俺は何かウォーターゴーレムを燃やし尽くせるような火器を持っていない。


今回の探索には、俺は例の如く事前情報ゼロで挑んでいる。


ゆえにモンスターを倒すための道具などは一つも持ち込んでおらず、俺は自分自身だけの力で、新種の深層モンスターの攻略方法を探し出さなくてはならない。


『ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!』


そんなことを考えていたら、ウォーターゴーレムがかなり近くまで接近してきていた。


先ほどから観察しているとウォーターゴーレムの動きはとても緩慢で、速くは動けない様子である。


これは打撃も斬撃も効かない水の体を持っている

代償なのだろうか。


だとしたら一体どんな攻撃手段を持っているのだろうか。


俺が油断なく近距離のウォーターゴーレムを観察していると、不意にウォーターゴーレムが太い腕をこちらに向けた。



バシュシュシュシュ!!!!



「っ!?」



ウォーターゴーレムの腕から何かが飛び出した。


俺は慌てて身を翻し、ウォーターゴーレムが飛ばしてきた『何か』を避ける。



ドガガガガガガ!!!!



凄まじい音と主に俺の背後のダンジョンの壁が破壊され、大きく削られた。



「水…?なのか…?」



『ウゴゴゴゴ…』



どうやらウォーターゴーレムが発射したのは、少量の水滴のようだ。


小さな水の塊が、まるで弾丸のように発射され、岩をも破壊するほどの威力を叩き出す。


どうやらこれがウォーターゴーレムの攻撃手段のようだった。



“うおおおおおおお!?”

“ファッ!?”

“銃弾!?”

“水砲!?”

“つっっよ!?”

“何を飛ばした!?”

“水飛ばしたのか…”

“威力えっっっっっぐ”

”やば“

”まずい…“

”いや威力えぐいやろ…“

”まずい…“

”逃げべ“

“こいつ普通に強いな…”

”攻撃も普通につええ!?“

”つっっっよ“

”全然雑魚じゃないやん。むしろ過去最高クラスに強いやん“



チャット欄で視聴者たちが、ウォーターゴーレムの攻撃力に驚いている。


弱そう。


可愛い。


そんなナメくさった評価から一転して、過去最強あるんじゃないか、今度こそ神木やばいんじゃないかと視聴者たちは焦り始めている。



「使うか?」



今の俺に、このウォーターゴーレムに通用する攻撃があるとしたら一つだ。


神拳。


おそらくこれを使えば、ウォーターゴーレムの水の体ごと消滅させて、勝利することが出来るだろう。



「でもそれだとワンパターンだよなぁ…」



『ウゴゴゴゴ!!!』



今すぐに勝つことはできる。


しかし、俺はなんだかここで神拳を使ったら負けのような気がしてきた。


神拳は現状俺が使える最強の技で、伝家の宝刀的な必殺技だ。


流石にここで使うのにはあまりに時期尚早すぎる。


何かあるはずなのだ。


このウォーターゴーレムにも、攻略方法が。



『ウゴゴゴゴ!!!』


バシュシュシュシュ!!!!


ドガガガガガガガ!!!!!



ウォーターゴーレムが再び鳴き、水砲による攻撃を仕掛けてくる。


俺はマシンガンのように次々と発射される水弾を避けながら、確かに存在しているはずのウォーターゴーレムの攻略方法を模索する。


そしてあるひらめきが突然頭の中に思い浮かんだ。



「そういや、化学の教科書で……」



ふと頭に思い浮かんだのは、いつぞやの科学の授業中の出来事。


教科書の片隅に書かれてあった水、H2Oの特徴。


高温で蒸発したり、0度で凍ったりする水は確か………そうだ。


ものすごい圧力を加えられた場合、常温でも凝固することがあると書いてあった気がする。



「これだろ」


俺は自分の導き出したウォーターゴーレムの攻略方法に満足する。



『ウゴゴゴゴゴゴゴ!!!』



バシュシュシュシュ!!!



ドガガガガガガガガ!!!!!


ウォーターゴーレムは絶えず、水弾を発射している。


一度発射された水弾は、ダンジョンの壁を砕いた後、またウォーターゴーレムの元へと集結する。


ゆえにこれだけ水弾を放っても、ウォーターゴーレムの本体の堆積は少しも減っていない。


つまり弾が尽きることはないということであり、回避に徹していても状況は何も変わらないだろう。



「やるか…!」



やるしかない。


出来るかはわからないがものは試しだ。


そう思った俺は、たった今頭の中に思いついたウォーターゴーレムの攻略方法を実践してみることにした。



「ふん!!」



俺はまずウォーターゴーレムの正面から、拳を振り抜き、衝撃波を放った。


ドガアアアアアン!!!



衝撃波は、俺に向かって飛んできていた水弾を吹き飛ばし、ウォーターゴーレムに正面に圧力を加える。



「ふん!」



ほとんどタイムラグなく、俺はゴーレムの右へと移動し、同じように拳による衝撃波を放った。



ドガアアアアアン!!!



衝撃波を喰らったウォーターゴーレムの体が、衝撃で平たくなる。



「ふん!」



俺はさらに圧力に逃げ場をなくすため、ゴーレムの左、背後、そして上空から同じように拳による衝撃波を放った。



「ふんふんふん!!!」



ドガァアアアアン!!

ボゴォオオオオン!!

バァアアアアアアン!!



立て続けに破壊音が鳴り響き、ウォーターゴーレムの体は全方位から加えられた圧力によって収縮する。



「ふんふんふんふんふんふんふんふん!!!」



いける。


そう思った俺は、ウォーターゴーレムの正面、右、左、背後、上空から交互になども何度も衝撃波を放ち、その体に圧力を加えていく。



ドガガガガガガガガガ!!!!



ダンジョンの通路に絶え間ない轟音が鳴り響き、階層全体をグラグラと揺らす。



やがて……



『ウゴ……ゴォ……』



ピキキ……



「よし…!」



気がつけばウォーターゴーレムの体は、完全に凝固して氷になっていた。



『ゴ……ンゴゴ……』



ウォーターゴーレムが重々しい鳴き声をあげて、体を動かそうとするが、完全に凝固してしまった体に僅かにヒビが入るだけだ。



作戦は成功だった。



全ての面から圧力を加えて、水を常温で凝固させる。



唐突な思いつきによる攻略方法だったが、しっかりと通用した。


おそらくこれがウォーターゴーレムの正しい攻略方法なのだろう。

 

『ウゴ……ゴォ……』


氷になったウォーターゴーレムがなんとか腕を上げて俺に手を伸ばす。



水弾を放つモーションだが……本体が凍ってしまっているため、全くの無意味だった。



「ふん!」



俺は止めとばかりに、正面から、最後の拳による衝撃波を放つ。



バリイィィイイイイイン!!!



衝撃により、凍ったウォーターゴーレムの全身がガラスのように砕け散った。


「お……倒せたみたいだな」



そして今度こそ、完全に死滅したらしいウォーターゴーレムはダンジョンの地面に回収されて消えていった。



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