第59話



“聞き違いかな…?”

“いやいやいやいや、大将、流石にそれは…”

“一瞬思考停止したわw”

“気のせいかな…深層って聞こえたような…”

“大将…?流石に冗談だよね…?”

“アホやw w wやっぱりこいつアホやw w w”

“何考えてんの?”

“やっぱこいつイカれてるはw w w”

“釣りでも誇張でもないマジモンの重大発表きたw w w”



「あ、よかった。配信止まったのかと思った」



一瞬コメント欄に何も流れなかったので、配信が停止してしまったのかと思った。


「大丈夫ですか?回線悪いですかね…?らぐったりしてないですか?」



“いや、大将。みんな大将が何言ってんのか一瞬理解できなくて固まっただけです”

“大将……聞き違いじゃないんすよね…?本当に深層に?それもソロで…?”

“ソロで深層とかいかれてるだろw w w世界中見渡してもどんなに強いやつでも深層に潜るときはパーティー組むわw w wマジでお前でも深層ソロは無理だからやめとけってw”

“神木。中層と下層以上に下層と深層では全然出てくるモンスターのレベルが違うぞ。頼むから深層に挑むならパーティーを組んでくれ”

“大将!流石の大将でも深層をソロはちょっと厳しいかもしれないっす!!!大将に死んでほしくないんでパーティーを組んで欲しいっす!”

“でも神木って一度深層のモンスター倒してなかったっけ”

“リトルドラゴンは確かに倒したけど……でもあのレベルのモンスターが深層にはゴロゴロしてて、なんなら束になって襲いかかってくるかもしれないって考えたら…やっぱり深層って魔境だわw w w”



「回線は悪くないみたいですね。よかった」


運悪く俺が決意表明したところで配信が止まってしまったのかと思ったが、そう言うことはないようだ。


視聴者にちゃんと俺の深層に潜る意思は伝わったらしく、皆が各々の反応を示している。


中にはソロで深層に潜るのは流石に厳しいんじゃないかと言う意見も多数あった。



「一応もう一度言っておきますね。これはみなさんの前で宣言することで自分の意思を固めることもあるので……ええと、次の週末に行うダンジョン配信で、俺はソロで深層に挑もうかと思ってます。パーティーは組みません。1人で深層を攻略するつもりです」



“やめてください。危険です大将::“

”大将の配信が生き甲斐なんだ::死なないで大将::“

”大将自暴自棄になってない…?何かあったの?”

“なんでこのタイミングで急に…?”

“高校生で下層をソロで攻略できるだけでもほぼ唯一無二なのに深層まで潜る必要はあるのでしょうか…?”

“流石に無謀すぎません?”



「ご心配ありがとうございます。でも、もう自分の中で決めたことなので。別に自暴自棄になってるとか、無茶をしているつもりはありません。自分には十分深層のモンスターと戦える実力があると判断してのことです」



まぁ実際深層に潜ったことなんてないから勝手な判断になるわけだが。


しかし、俺は一度イレギュラーによって下層で深層のモンスター、リトルドラゴンと戦っている。


竜種は深層においてもかなり強い部類に入るらしいのだが、リトルドラゴンと相対した時、確かに今までにない強者の気配こそ感じたものの、別段絶望感はなかった。


仮にリトルドラゴンの2倍の強さのモンスターが出てきたり、あるいはリトルドラゴンや同等の強さのモンスターが複数出てきたとしても………多分勝てると思う。


流石にスマホ片手にとはいかないが、視聴者からプレゼントしてもらった固定器具もあるわけだし、大丈夫なんじゃないだろうか。


視聴者は意外にもかなり心配してくれるが、俺は深層ソロ攻略をそこまで無茶無謀だと思っていない。



「というか結構意外です。みなさんかなり心配してくれるんですね」



俺の視聴者は、他の配信者の視聴者たちと比べてかなり独特なノリを持っている。


他の配信者たちの視聴者は割と、配信者全肯定型と言うかかなりファンに近い視聴者たちなのだが、俺の視聴者は結構配信主の俺に対してもズバズバ言いたいことを言ってくる。


冗談なのかなんなのかよくわからないが結構悪口とかも書かれるし、よくわからない連投がコメント欄を埋め尽くす時もあるし、何かあればすぐに視聴者同士で喧嘩し出すし、最近見始めた新参者に対してすぐに古参マウントを取り始めたりする。


そんな視聴者のことだから、俺が深層に潜ると宣言しても結構あっさりと「いけいけwお前ならいけるw」「頭おかしいと思うが頑張れ〜w」「もう好きにしろよw」みたいなある種俺の安否よりもとにかく面白いものが見れればなんでもいいみたいな反応になるかなと思ったのだが、そんなことなかった。


コメント欄の雰囲気を見る限り、普通に心配してくれている。


せめてパーティーぐらいは組んでくれと言う声が多い。


普通にちょっと感動。


お前らにも人の心ってあったんだね。



「みなさんのことだから、普通に俺を煽たり、面白いものが見れればなんでもいいみたいなスタンスだと思ってました」




“俺たちをなんだと思ってるんだw w w”

“ひでぇw”

“普通に泣いた;;”

“いつも意地悪いってごめんね:;“

”いつも配信荒らしてごめん;;“

”これからはもうちょいお行儀良くするね…:;“

”いや、今回は普通に大将が心配っす;;“

”大将の配信生き甲斐なんで死なれたら困ります;;“

”死なないで大将;;“

”いや、まぁ…普段俺たちがやってること省みたらね…?“

”神木くんがいなくなったら私、誰に裸見て貰えばいいの…?死んじゃやだよ“



「おぉ…いつになくコメント欄が優しい雰囲気。いつもこんな感じでお願いしたいですね」



”^^“

”^^“

“ぽっ“

”⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄テレテレ“

”トゥンク…“

”優しい世界“

”やさしいせかい“

”やさいせいかつ“

“それは無理w”

“こんなに優しくするの今日だけなんだからねっ。勘違いしないでよねっ“

”豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆“

“豆連投きたぁああああああああああああああああああああ”

“今日だけ特別サービスですw”

“豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆”

“言われた側から豆連投始まったw”



「あーあ。せっかくいい雰囲気だったのに…」



俺がちょっと視聴者を褒めると、コメント欄がすぐにいつもの雰囲気に戻ってしまった。


最近わかったことだが俺の視聴者はツンデレだ。


褒められることが苦手らしく、俺がちょっと褒めるとすぐに配信を荒らしだしたりして誤魔化すのだ。


ちなみにこのコメント欄に溢れている豆という大量の文字は、最近の俺の配信で定番となりつつある連投荒らしだ。


なんで豆なんて文字を連投しているかはわからない。


だがこの連投豆荒らしは最近しょっちゅう俺の配信に現れては、ひたすら豆という文字だけを連投していくのだ。


明確な悪口の連投じゃない分謎のタチの悪さがあるし、目的もわからないからちょっと怖い。



”豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆“

“今日も豆連投始まったw w w”

“始まっちゃった…”

“豆連投ウゼェw”

“コメント欄が一気にカオスw w w”

“ドードー来て;;”

”ドードーさん助けて;;

‌     / ̄ ̄ \

    │ ●        │ <来たおー^^

 <三三>       │

     \__  \         



「あ、ドードーきた」



“きたぁあああああああああああああ”

“ドードーきたぁああああああ!!!”

“ドードーどりゃぁあああああああ!!!”

”豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆“

“うぉおおおおおおドードーさん!!”

“ドードーさん今日もお願いします!!”

”豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆豆

‌     / ̄ ̄ \

    │ ●        │<豆食べるおー^^

 <三三>       │

     \__  \         



“………”

“…”

“………………………”

”豆連投消えたぁあああああああ!!!“

”有能ドードー“

”豆ざまぁw“

”豆連投ざまぁああああああああああああああああああ“

“豆…どこ…?”

“豆消えたw w w”

“いつもながらこの流れなんなんだw”



「はい、ドードーさんありがとうございました…はぁ」



そしてこの豆連投が始まって必ずと言っていいほど現れるのがこのドードーのAAなのである。


‌     / ̄ ̄ \

    │ ●        │<豆食べるおー^^

 <三三>       │

     \__  \         


この「豆食べるおー^^」のドードーが配信に現れると、豆連投がピッタリと止まる。


このドードーに豆連投が退治され、視聴者がドードーに拍手喝采するまでが最近の俺の配信の定番となっているのだ。


…マジでなんなんだこのノリ。



「はい、ドードーさんが豆を全部食べてくれました…めでたしめでたし……はぁ、本当に君たちの相手するの疲れるなぁ…」



“^^”

“^^”

“ごめん;;”

“捨てないで;;”

“俺たちだけ楽しんでごめん;;”

“このノリ楽しくてやめらんねぇw w w”

“大将疲れさすの楽しいおー^^”

“大将が相手してくれて楽しいおー^^”

“他のとこじゃすぐブロックされるからこんなノリでいないよ;;俺たちには大将だけなんだ;;”



「はぁ…まぁいいや。本題に戻ります。とにかく、次の休日に俺は深層にソロで潜ります。楽しみにしておいてください」



“大将呆れてるやんw”

“いいかげんニッコニコ生放送のノリつーべに持ち込むのやめなよー”

“いつもごめんね大将;;”

“いつも相手にしてくれてありがとう大将;;”

”というかなんで今急に深層に潜るの?もうちょい後でも良くない?“

”なんで急に深層潜ることにしたんですか?展開早くないですか“

”下層のモンスターじゃ物足りなくなったんですか?“

“冗談抜きでマジで危険だと思うんでやめて欲しいんですけど”



「なんでこのタイミングで深層探索を決めたかというと……まぁ昨日のコラボでちょっとだけ感化されたと言いますか…探索者として短い期間で成長していた桐谷を見て、俺も頑張らなきゃなって……結構そういうくだらない理由です」



”きっさんかよ“

”まさかのきっさんの影響w w w“

”確かに昨日のきっさんは強くなってたw“

”神木が人の影響受けるなんて珍しいな“

”きっさんたしかに強くなってたけど、神木の足元にも及ばなくね?“

”きっさんも確かに強いけど、神木とは格が違う“

”きっさんとか今後何年経っても神木に追いつくことはないやろ“



「追いつくとか追いつかないとかそういうことじゃなくて、俺も見習わなきゃなってことです。思えばもう一年以上は下層を探索し続けているので、いいかげん先に進まないとなって思ったんですよ」



“そうだった…こいつバズる前から下層ソロで潜ってるんだった…”

“俺たちにとってはここ一か月ぐらいのことだけど、神木にとっては下層って結構長いのか…”

“まさかの下層探索に飽きたのが理由w w w”

“そうか…下層のモンスターじゃものたりなくなっちゃったか…”

“まぁ確かにもう下層のモンスター瞬殺だもんな”

“群れで出てきてもかミキサーあるし……下層で危なくなることないもんな…”

“気持ちは分からんくもないが…でもやっぱり深層は危なくね…?”



「みなさんは下層探索でいいって言うんですけど、飽きてる視聴者も中にはいると思います。俺が下層をソロで攻略している様子はもう十分とってきたし…アーカイブもたくさんあるし……これ以上繰り返しても面白みがないと思うんです」



“そんなことないと思うけどなぁ…”

”そうかぁ?“

”いや、普通にお前が下層で無双してるの面白いぞ“

”お前が無双してるの、めっちゃ気持ちいいけどな。密かに自己投影してるw“

”下層のモンスター圧倒的なパワー差で蹂躙してるの、楽しいけどなぁ…“

”無双厨は黙っててもろて“



「ダンジョン配信の本来の面白さって、視聴者にいつ死ぬか、どんなモンスターが飛び出すか分からないハラハラドキドキの冒険を届けることだと思ってます。でも、俺の実力的に、もう下層ではそう言う配信はできない。だから俺自身も、より面白い配信をするために深層に潜ろうと思うわけですよ」



”マジか…“

“そこまで言うならもう止めない”

“なんか大将ならやってくれそう…”

“マジで高校生が深層をソロで攻略したら世界に名の轟くレベルの偉業だけど……やっぱり危険はあるよなぁ神木でも…”

“意思は硬いみたいですね…”

“頑張れ大将;;”

“応援します”



「今日お知らせしたかったのはそう言うことです。繰り返しになりますが、次の週末のダンジョン配信、深層をソロで攻略します。みなさんぜひ見にきてください」



どうやら視聴者に俺の意思の固さは伝わったようだ。


危ないと止めていた視聴者も、そこまで言うなら応援する、という空気になり出した。



¥10,000

“おい、神木。深層はマジで危険だぞ。頼むから最初はパーティーでも組んで潜ってくれ。五年前の獅子王武尊のトラウマをもう思い出したくないんだ。マジでこれ見て考え直せリンク↓



「ん?なんですかこれ。動画のリンク?獅子王武尊の最期……」



そんな時、視聴者から10000円のスパチャと共に動画のURLが送られてきた。



”あ“

”あ“

”まずい“

”ひん“

”武尊;;懐かしい…”

“いたなそんなやつ…”

“マジで強かったよなあいつ…”

“懐かしい…よく見てたわ…”

“獅子王武尊はマジで逸材だった…”

“めっちゃ期待されてたよな…”

“考えたら獅子王武尊ってちょっと神木に似てるよな…まぁあいつは大学生だったから神木の方が若いんだけど…”


「誰ですか獅子王武尊って…」


なんかコメント欄が一気に暗い雰囲気に包まれた。


俺は疑問に思いつつ、せっかく10000円もスパチャしてまで送られてきた視聴者の動画のリンクを踏んで確認してみるのだった。

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