第165話
パパパパパパ!!!
ドガァアアアアン!!!
背後で銃声と爆発音が鳴り響く。
どうやら建物の中に残った二人と、敵パーティーの戦闘が始まったらしい。
アサルトライフルを打つ音、グレネードが爆発する音が建物を出て大地を疾駆している俺の方まで届いてくる。
味方1:三人同時に突っ込んできました…!
味方2:交戦中です…!推されてます…!
味方からそんなチャットが飛んでくる。
いくら一方通行の建物の中で、入ってきた敵を狙い撃ちにできるとはいえ、二人対三人の戦いは人数ふりだ。
おまけにスモーク、キャラクターの能力なんかを駆使すれば,かなりダメージを軽減できる。
一度建物の中に入られてしまうと、今度は遮るもののほとんどない場所での撃ち合いになり、人数の差が露骨に戦況に影響しだすだろう。
味方1:やばいです…!
味方2:シールド削られました…下がりながら戦ってますけど…まじでやばいです!!
案の定二人はかなりきつそうだった。
アーマーが完全に削られてしまった、だいぶ後退しながらの戦いを強いられちえる、と言ったチャットが二人から届く。
自分:もうちょっと耐えてください…もうすぐです…!
俺は二人を励ましながら、大地を走る。
幸いなことに周りに他のパーティーの様子は確認できず、一人のところを狙われるということはなかった。
俺はぐるっとマップをまわり、建物の中の味方を三人で攻めている敵パーティーの背後に回り込む。
一度建物を出て遠くなっていた戦闘音がまた近くなり始めていた。
味方1:もう無理です…!
味方2:すみません…ダウンします!!!
本当に数秒の差だった。
あと少し耐えてくれれば間に合っただろう。
だが、俺が前方に、壊れたドアの奥にいる建物内の敵を捉えた瞬間に、味方二人のダウンの音が響いてきた。
“あ”
“あ”
“あ”
“まずい…”
“ひん…;;”
“あ…”
“;;”
“そんな…”
“間に合わなかった…”
“まずい…”
“ひん;;”
“ひひんがひん”
”終わった…“
”逃げべ“
”3対1だぁ…;;“
”絶望“
”終わりっ“
“おわおわり”
“やめべ”
“何やってんだよぉおおおおお”
“耐えろや”
“もうちょい耐えろや”
“あとちょっとだったのに;;”
一方通行の建物内で、アイテムによって被弾を防がれながら敵の侵入を許した二人は、なすすべなく敵に狩られてしまっていた。
キルログには、敵のダウンは表示されていない。
つまりあの建物の中に生きている敵が三人とも残っていることになる。
味方1:すみません…アーマーは削ったんですけど…
味方2:逃げてください…!見捨てでいいですよ…!
一人も敵を倒せずに二人してダウンしてしまった罪悪感からか、二人が俺に逃げることを促す。
このゲームはたとえ味方が死んで一人になったとしても順位を上げるために一人だけ逃げることが可能だ。
一人で逃げながら、なんとか交戦しないように隠れ、他のパーティー同士が潰し合うのを待つ。
そして運よく最後の二パーティーが戦っているところに、途中から参戦して勝った方のパーティーを仕留め、チャンピオンを獲得できる確率もなくはない。
そして生き残り、順位が上がれば、順位ポイントは味方にも加算されるため、俺一人でも生き延びる意味はあるのだ。
「…うーん。逃げてもなぁ」
俺は一瞬一人で逃げることも考えたが、しかしせっかく俺の作戦に乗ってくれて頑張ってくれた二人を見捨てて逃げるのは忍びない。
ここは全滅してでもいいから、3対1の戦いに身を投じた方が配信的にも面白いと判断した。
自分:このまま突っ込みます。状況を教えてください。周りの敵はどうなっていますか?
味方1:まじすか!?
味方2:い、今俺たちを殺そうとしてます…!なんとかダウンシールドで耐えてますけどもう死にそうです…!!
自分:わかりました。勝てるかわかりませんけど、戦ってみます。負けたらごめんなさい
このゲームはたとえダウンしたとしても、そのままゲームから除外されるわけではない。
アーマーが削られ,肉と呼ばれているキャラ本体のダメージもゼロになるとキャラクターはダウン状態になる。
ダウン状態になると、銃を持つことはできず、ちょっとずつ動きながらダウンシールドを展開することしかできなくなる。
完全にプレイヤーをキルするには、このダウンシールドをさらに破壊して、ダウン状態のプレイヤーに本体攻撃を行う必要がある。
どうやら敵は、倒した俺の味方二人を、完全にキルするために二人のダウンシールドに一斉掃射しているらしい。
パパパパパパ!!!
建物の中からアサルトライフルの銃声が聞こえる。
二人の報告により、建物入り口付近での待ち伏せがないことがわかっている俺は、一気に建物の中に突っ込んだ。
味方1:もう無理です…!
味方2:死にそうです…マッチングできて嬉しかったです神木さんすみません…!
ダウンシールドを展開した状態で、蜂の巣にされそうになっている二人が、そんな諦めのチャットを飛ばしてきた次の瞬間、前方に敵が見えた。
予想通り、三人とも固まっている。
我先にキルを取ろうと、ダウンシールドを展開している味方をぼっ立ちで打ちまくっている。
「おいやめろや。俺の味方を殺すな」
俺は敵が見えた瞬間、構えていがグレネードを投げた。
ドガァアアアアン!!!!!
『『『…!?』』』
グレネードが爆発し、アーマーが割れた音が響き渡る。
どうやら三人は俺の味方二人を倒したあと、自分たちのアーマーを回復することなく、キルを優先したらしい。
一人人数が欠けているのは俺がすでに味方を見捨てて逃げたと思ったのだろう。
甘えてくれてありがとう。
おかげで楽に勝てそうだ。
アーマーが一気に割れて戸惑っている三人を前方に見据えながら、俺はスナイパーライフルを構えた。
最初に倒したパーティーの一人が持っていた武器だった。
このスナイパーライフルは、一発一発の威力は強いものの、当てるのが非常に難しく、数発打ったら長いリロードが必要になるため、扱いづらい武器として嫌厭される傾向にある。
使っている人はほとんどおらず、使うとしても序盤でまだアイテムや武器が揃っていない時ぐらいだろう。
だが……俺にとってはこの武器はむしろゲーム内最強の武器だと思っている。
これさえあれば、たった一人からでも十分に盤面をひっくり返せる。
「……ッ!!!」
グッと集中する。
その途端に、一気に時間が遅くなったように感じた。
グレネードを喰らい、慌てふためいてこちらを振り返ろうとしている三人の敵プレイヤーの動きがスローモーションに感じた。
俺は三人の中のうち、厄介なスキルを持っているキャラの一人に狙いを定め、引き金を引く。
バァアアアアアアアアン!!!!
まるでグレネードでも爆発したかのような発砲音が響いた。
ザクッ!!!
『…!?』
気持ちのいいダウン音が響く。
ほとんど静止しているかのように感じる遅い時間の中で放った俺の弾丸は、完璧な偏差で敵の頭を捉えた。
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