第166話


「まずワンダウン」


ヘッドショットで撃ち抜かれた敵プレイヤーの一人がダウン状態となる。


残る二人が振り返って俺の存在に気づき、慌てて銃を構える。


俺はスナイパーライフルを一旦収めて、残る二人に向かってグレネードを投げまくる。


ドガァアアアアアン!!!


ドゴォオオオオオン!!!


バァアアアアアアアン!!!!


立て続けに爆発音が響いた。


狭い一方通行の通路では、逃げ場がない。


どこかに身を隠すこともできず俺がひたすら投げたグレネードは確実に敵にダメージを与えていく。


ザシュッ!!!!


爆煙の向こう側でダウン音が響いた。


また一人ダウン状態に入ったらしい。


俺はグレネードの煙でまだ視界が定まらないうちに、スナイパーライフルに弾丸を装填しておく。


もし相手が煙の向こう側でダウンしている仲間を起こす気配があったならすぐに突っ込んでいって近接戦闘を仕掛けようと思ったが、流石にそんな愚行は犯してくれそうにはなかった。



“うおおおおおおおおおお”

“すげええええええええええええ”

”もう二人倒した!!!“

”行ける!!これ行けるぞ!!!“

”残り一人!!!“

”まじかよ!?3対1だぞ!?“

”敵が甘えてくれた結果とはいえ、これは凄すぎる!!!“

”まじで勝てるぞ!!!“

”偏差うちうますぎるだろw w w“

”これまた時間遅くするやつ使ったなw w wいくらなんでもヘッドショット完璧すぎるw w w“

”あっという間に1VS1に持ち込んだ!!!“

”まじであるぞ!“

”ある“

”神木拓也最強!!!“

“突っ込んで一対一しよう!!”

“相手はアーマー削れてるから突っ込もう!!”



視聴者が興奮し、コメント欄の流れが早くなる。

3対1の状況から一気に1対1まで持っていき、勝ちが見えてきた。


あと一人、残っている敵を倒せばパーティーは壊滅し、こちらの勝ちとなる。


コメント欄には「さっさと突っ込んだ方がいい」「回復される前に突っ込め」とそんなコメントがたくさん流れるが、俺はそうするつもりはなかった。


一対一の勝負なのだ。


焦る必要はない。


残った敵はゆっくりと仕留めればいい。


俺は再びスナイパーライフルを構えて、煙が晴れるのを待つ。



味方1:あと一人です!!


味方2:頑張ってください!!!俺たち殺されないように下がっておくんで…



ダウンした味方がそんなチャットを飛ばしてきた。


ダウン状態で遅い速度にはなっているが、それでも地面を這いずって戦闘に巻き込まれないように距離をとってくれているらしい。


これで思う存分に戦うことができる。



「やっぱりな」



やがてグレネードによる煙が晴れた。


予想通り、視界が不明瞭な間に残った敵の一人は俺を迎え撃つ体制を万全に整えていた。


どうやら生き残った最後の敵は、ダウンした味方にダウンシールドを展開してもらい、その陰に隠れてグレネードの爆発を凌いだらしい。


そして味方のダウンシールドの陰に隠れながら、すでにアーマーの回復を済ませたようだ。


そして、その手にはショットガンが握られている。


完全に近接先頭に持ち込む気だった。


味方のダウンシールドの陰に隠れながら、チラチラと体を出したりしてフェイントをかけ、十分に俺が近づいてきたところをいきなり飛び出してショットガンでヘッドショットを狙う作戦だろう。



“うわ、だるいやつやん…”

“シールド裏で待機してるやんw”

“めんどくさw”

”角待ちショットガンと同じぐらいだるい“

”あれ近接戦最強だぞ“

“ゴリゴリにショットガン持っててくさ”

“突っ込まなくてよかったぁ”

“お前ら突っ込め突っ込めウルセェんだよ。突っ込んでたら死んでたじゃねぇか”

“神木嗅覚すごすぎん…?俺なら突っ込んでまんまとショットガンの餌食になってたわ”

“コメ欄エアプ多すぎだろ。ランク低い雑魚は黙ってろ”

“エアプ多すぎw w w”

“下手くそはコメントしないで黙っててね”

“指示厨どもまじでうるせぇよ。黙って配信見とけや”



敵が取ろうとしている戦法はある意味一対一の近接戦の際の定石のような形だった。


そしてこの状況では周りに何も隠れるものがない俺の方が不利だ。


おまけに俺には近接戦最強の武器、ショットガンがない。


あるのはスナイパーライフルとアサルトライフルのみだ。



「これでいくか」


この場合、まだアサルトライフルの方がマシなので普通はそちらを選択するのだが、俺はあえて武器にスナイパーライフルを選んだ。


一発で仕留める。


そんな自信が俺にはあった。



「突っ込みます」


俺はダウン状態の味方が戦火に巻き込まれないぐらい十分に遠かったのを見てから、一気に突っ込んでいく。



チラッ……チラッ…チラッ…



「……ッ!」



案の定、敵プレイヤーは、ダウンシールドの裏に隠れながら、頭だけをチラチラと覗かせてフェイントをかけてくる。


俺の誤発や、避ける動作の誘発を狙っているのだろう。


これでフェイントに引っかかり、銃を売ってしまったり、避ける動作をしてしまった場合、その動作の終わりを確実にショットガンで狙われる。


かといって何も考えずに突っ込めば、フェイントだと思った頭出しが実は本命で、普通にショットガンで撃たれる可能性がある。


フェイントか、それとも本命か。


見極めるのが非常に難しい場面なのだが……俺に関してはそこまで困難ということでもなかった。



「……ッ!!!」



グッと集中する。


時間が一気に引き伸ばされて遅くなったように感じ、敵の動きが緩慢になる。


俺は遅くなった時間の中で敵の動きをつぶさに観察する。


敵プレイヤーは何度もダウンシールドの上から頭を出して、俺がフェイントに引っ掛かるのを待っている。


だがスローモーションの時間の中にいる俺にとって、敵の動きがフェイントか、それとも本命かを見分けることなど造作もなかった。


敵はチラ、チラと頭を三度出してフェイントをかけてくるがいずれも本命ではなかった。


全ての動きを見切っている俺は、そのまま突っ込んでいく。



(……くる!)



遅い時間の中で、敵が四度目の頭出しをしてきた。


今度はフェイントじゃなかった。


正真正銘、ショットガンを撃つための本命だ。


ここまで3回の頭出しに俺が動作の上では全く反応しなかったのを見て、俺が何も考えずに突っ込んできていると思ったらしい。


敵プレイヤーが味方のダウンシールドの上から頭出しをしてショットガンを構えた。


スローな世界にいる俺にとっては非常に緩慢で見え透いた動きだった。


俺は余裕を持って手元のキーボードで、ジャンプのコマンドを打ち込む。



ダァアアアアン!!!!



俺の頭を狙った散弾型のショットガンが発砲された。


だが、ショットガンの散弾は俺の頭を捉えることはなく、すでに跳躍している俺のキャラクターの下を虚しくかすめていった。



『……!?』



ピンポイントで避けられた敵が明らかに動揺する。


地面から跳躍し、ショットガンの弾を避けた俺は、壁キックのコマンドを打ち込み、水平方向の飛距離を伸ばす。


そして味方のダウンシールドの陰に隠れてしゃがんでいる敵プレイヤーの頭上を一気に飛び越えた。



『……!?』



敵プレイヤーが慌てて反応し、背後を振り向こうとする。


だが、180度の回転の操作には、マウスのスライドの幅をかなり使うため、若干のタイムラグがあった。



『……』



振り返った敵が見たものは、多分スナイパーライフルを構えた俺の姿だっただろう。


これだけの至近距離。


もはや時間を遅くする必要すらない。


俺は敵が振り返った瞬間、スナイパーライフルの引き金を引いた。



バァアアアアアアアアアアン!!!!



すさまじい銃声が鳴り、このゲームにおいてダメージの最も高い弾であるスナイパー弾が発射された。


ザシュッ!!!


ヘッドショット。


イヤホン越しに、気持ちのいいダウン音が聞こえてきた。



【お知らせ】


『バズる前の神木拓也』のエピソード第1話〜第16話がサポーター限定記事にて公開中です。






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