第204話
「あ、出てきた!!」
「神木拓也だ!!!」
「うおおおおおおお神木拓也!!!」
「きたああああああああ」
「神木拓也おめでとう!!!」
「神木拓也最強!!!」
「ソロ踏破おめでとう!!!」
「神木拓也が出てきたぞ!!!!!」
「すげぇ神木拓也本物だ!!!」
「未攻略ダンジョンソロ踏破おめでとうございます!!!」
「歴史的快挙だぞ!!!本当におめでと
う!!!」
俺がダンジョンから地上へ帰還する頃には時刻は夕方になっていた。
ダンジョンから外に出ると、そこにはたくさんの人が詰めかけていた。
そして姿を現した俺を見るや否や、名前を連呼しながら一気にこちらに駆け寄ってきた。
その中にはマスコミ陣と思しきカメラを構えた人たちもいる。
フラッシュが焚かれ、たくさんのカメラやスマホが俺に向けられ、名前があちこちで呼ばれる。
「きゃあああああああ!!!神木拓也よ!」
「すげぇ!!!本物だ!!!」
「「「うおおおおおお神木拓也ぁああああああああああ」」」
黄色い悲鳴のような歓声と地鳴りのような声が周囲に伝播する。
ダンジョン周辺に集まった人々が一目俺のことを
見ようと、押しかけてくる。
ダンジョンの中で視聴者に知らされて知っていたこととはいえ、すごいな。
「みなさん…応援ありがとうございました!!!おかげさまで無事にソロで攻略達成することができました!!!わざわざここまできての応援本当
にありがとうございました!!」
「うおおおおおお神木拓也ぁあああああ」
「大将ぉおおおおおおおお」
「サインくれ神木拓也ぁああああああ」
「握手して神木さぁあああああん」
「神木さまぁあああああああああ」
「きゃああっ今神木拓也にちょっと触った!!!私あの神木拓也にちょっと触ったわ!!!」
「大将!俺はずっとあんたのファンだったんだ!!!頼む握手してくれえええええ!!」
「神木!!!一枚でいいから写真頼む!!!!」
(だ、誰一人として聞いてねぇ!?)
俺がわざわざここに集まって俺のことを応援してくれていた人々に対してお礼を言ったのだが、騒ぎが広がりすぎてそれどころじゃなかった。
俺の元に詰めかけてきている人々は、俺の体のあちこちを触ってきたり、握手をしようとしてきたり、うちかめで写真を撮ろうとしたりしてくる。
もはや誰もが冷静さを失い、周囲は大変な騒ぎになっていた。
「ちょ、みなさん…あの、応援は嬉しかったんですが通してもらえると…」
「「「うおおおおお神木拓也ぁあああああああああああ」」」
「神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!!」
「神木ぃいいいいいお前は日本一、いや世界一の探索者だぁあああああ」
「神木頼む握手してくれぇえええええ」
「お前ら大将の道を開けろ!!!大将!!俺が道を開けるのでついてきてください……ぐあああああっ、ちょ、踏まないで!!痛いっ!?!?」
あちこちで俺の名前が呼ばれ、神木拓也最強!が連呼される。
どうやら群衆は俺の視聴者半分、野次馬半分ぐらいによって構成されているようだった。
俺が全く前に進むことが出来ずに立ち尽くしている中、何人かが「大将のために道を開けるぞ!」
とこちらに向かってくる群衆に突っ込んで道を開けようとしてくれたのだが、多勢に無勢、力負けし、危うく人々の下敷きになりかけていた。
「だ、大丈夫か!?」
「た、大将…!」
「す、すみません…」
「た、大将が俺に触れてくれた…」
俺は道を開けようとして人々に踏まれそうになっている俺の信者と思しき男たちをとりあえず助け起こす。
俺に助けられた信者たちが、キラキラした目を向けてくるが、今は構っていられない。
一瞬この人混みの中を突破するために、今日編み出しばかりの超集中状態を使ってほとんど止まった時間の中を移動しようと思ったのだが、あれは使えば俺の歩んだ軌跡に歪みを生んでしまう。
こんな群衆の中であの技を使えば結果は火を見るより明らかだ。
(くそっ…どうしようもねぇ…)
結局俺は群衆にもみくちゃにされ、体のあちこちを触られ、無数のスマホのカメラを向けられながら、人々の間をかき分けて無理やり進んでいく。
「こらああああお前ら何してんだ!!!集まる
な!!!散った散った!!!」
「散れ!!!押さないでください!!散ってください!!!!」
やがて騒ぎを見かねた警察官たちがスピーカーで
群衆に対して散ってくれと怒鳴りだす。
ピーピーピーピー!!!
ビィイイイイイ!!!!!
少し遠くの方では、車のブザーの音が鳴り響いている。
おそらくこの騒ぎのせいで、道路が滞ってしまっているのだろう。
「「「「うおおおおおおお神木拓也ぁあああああああああ」」」」
「「「「きゃあああああああ神木様ぁあああああああああ」」」」
(すみませんっ…マジですみませんっ)
人々に群がられ、もみくちゃにされながら、俺はひたすらこの騒ぎのせいで迷惑を被っている人たちに対して心の中で謝罪を繰り返すのだった。
= = = = = = = = = =
ダンジョンを管理するための組織、ダンジョン庁。
その会議室に、数名の政治家や、政府高官、重役などが集まって会議を行なっていた。
議題の中心は、神木拓也という一人の高校生ダンジョン探索者についてだった。
「知らない人はいないと思うが、一応この男の経歴を説明しておく」
今や神木拓也の名前は、ダンジョン関連の公務に携わる政府職員や官僚たちの間にも広く知れ渡っていた。
ソロで深層を持つダンジョンを攻略した頃から注目されだし、今回の未攻略ダンジョンソロ踏破を配信上で成し遂げたことによって、その名前は政治家たちや官僚など国を動かしている人々の間でも噂されるようになったのだ。
今後この神木拓也という男がどう動くかによって、日本のダンジョン界隈や探索史が大きく右に左に揺れ動くことはもはや確定的となっているため、今日はそのことについて、重役たちの間で会議が執り行われている次第だった。
「どうやらこの男は、つい数年前にダンジョン配信およびダンジョン探索を開始したらしい。配信や探索などの活動を始めて2年,人目につくことはなかった。しかしある配信をきっかけにネット上で大きくその名前が知られ、拡散されることになった」
もはやダンジョン関連の省庁に努める公務員の間では常識となった神木拓也の経歴が再度スクリーンで紹介される。
突如日本のダンジョン探索界隈および配信界隈に現れ、瞬く間に人気を得るとともに、数々の難関ダンジョンを一人で踏破するという冗談のような経歴に、会議に集められた官僚や政治家、重要職員たちは思わず唸り声を上げた。
「彼は信じられないことに高校生でありながら幾つもの深層を一人で踏破してきた。そしてつい数日前に、未攻略ダンジョンのソロでの踏破に成功した。当然ながら、これは日本のダンジョン探索史にとって初めてのこととなる偉業だ」
「日本だけでなく世界初なのでは?」
「ああ……未成年が深層を持つ未攻略ダンジョンをソロで踏破した話など今までに聞いたことがない」
「本当に信じられない男だ…まるで漫画の主人公のようなやつだ…」
「配信で実際に目にするまでは信じられなかった
が……しかし彼は確かに成し遂げたのだ。誰にも出来なかった偉業を…」
「まさかこんな男が日本から出てくるなんてな…」
「桐生帝が出てきた時、彼以上の才覚はもはや日本から現れないかと思ったが…いやはや、まさかここまでの男が現れるとはな」
「桐生帝はあれはあれで素晴らしい才覚の持ち主だが……この神木拓也という男はレベルが違う。他の一線級の深層探索者たちとはまた別のステージにいることは間違いない」
「ゲームチェンジャーになるでしょうな…このままだと日本の未攻略ダンジョンが彼によって全て攻略されてしまうかもしれない…」
「それは素晴らしいことだ。国益に叶う。彼の存在自体が、我が国にとって、重要になりつつある」
「どうにかして彼をこちら側に引き込みたいものですな……民間人にしておくには惜しい…」
議題は神木拓也を今後どうしていくかというものに移っていった。
「一刻も早く彼をこちら側に招き入れなければ……これだけ全国的…いや全世界的に騒ぎになっているのだ。他の国の政府だってすでに目をつけているだろう…」
「アメリカがこの件ですでに政府官僚の数名に接触を試みているという噂もある」
「あの人材を他国に取られるわけにはいかん…」
「中東などが、破格の金で彼を買っていくかもしれない…」
「ヨーロッパのサッカー選手のようにか?あり得るな」
「彼には数千億どころではない…数兆、いや、下手したら数十兆円の経済価値がある……絶対に他国に引き渡すようなことがあってはならない…」
「どうなのでしょう、彼の性格的に、お金によって国籍を変えたり、他国の政府に従事するような存在になったりするものなのでしょうか?」
「ないだろうな。分析官による彼の精神分析の結果によると、彼の頭にまず第一にあるのは配信のことらしい……あまり富や名声には興味がなく、とにかくダンジョン配信を盛り上げ視聴者を喜ばせることだけが頭にあるようだ…」
「ある意味救いですね…とりあえず彼が簡単に金などによって他国に移り住んだり国籍を変えたりすることはなさそうだ…」
「しかし油断は大敵だ。我々も、どうにか彼が日本にこのまま止まってくれるように全力で働きかける必要があるだろう…」
「間違いない。神木拓也を損失するということは、そのまま国益の損失に等しい。それぐらいの存在なのだ、あれは」
「この認識をしっかりと政治家さんたちの間でも共有しておいて欲しいものですな」
「心配せんでも我々は馬鹿ではない。与党内でも少しでもダンジョン探索に知識あるものはわかっているさ……とにかく彼を今後最重要監視対象とし、その行動を逐一見張っておく必要がある、そのための人員を早急に確保せねば……やってくれるね?」
「ええ、もちろんです」
「迅速にことにあたらせていただきます」
「よろしい…」
かくして神木拓也はその存在自体が国益であり、絶対に手放してはならないという認識が、官僚や各省庁、与党内の間で共有されたのであった。
そしてそんな話し合いが行われていたことなど当の本人はつゆほども知らず、今日も同接のために配信活動に勤しむのだった。
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