第224話


「お、もう下層も終わりか」


いつも以上に気合を入れて攻略に臨んだ結果だろうか。


想定より早く俺は下層の終わり……つまり深層の入り口へと辿り着いていた。


チラリと端末の時計に目を移したところ、ここまでに一時間もかかっていない。


なかなかの速さじゃないだろうか。



“はっっっっっっやw”

“速すぎw w w”

“えっっっぐいw“

”流石に速すぎるだろw“

”まだ配信始まって一時間も経ってねぇぞw“

”もう深層かよw“

”物理的に不可能だろw“

“おかしくね…?流石に”

“いくらなんでも速すぎるw”

”いつも以上に攻略スピードがイカれてるw“

“神止何回も使ったおかげか、マジでめっちゃ早く感じたw”

”余裕で世界記録だろこれw“

”今思ったんだがずっと神止使ったら実質こいつ1秒以内に深層まで踏破できるやろw“

“神止のおかげでマジで攻略タイムが縮まってきてるなw”

“流石に神止ずっと使うとか不可能なハズ……無理だよな?”

“ずっと神止とかできたら無敵だろw精神と時の部屋かな?”

“ずっと神止は流石にチートすぎるから無理であってほしいけど……まさか神木ならいける?”

“流石にクールタイムあるやろ……その変動なん神木”



道中、神止を何回も使用したことでいつも深層に辿り着くまでの時間がグッと短縮されたような気がする。


チャット欄でもそのことに関する言及があり、皆俺が神止を一体どのぐらいの時間や頻度で使えるのかに興味があるようだ。



「えーっと……ここまでかなり急いできましたけどついてこれてるでしょうか?大丈夫でしょうか……皆さん超集中状態……神止がどれぐらいの長さで発動できるのか気になっているみたいですけど……すみません。現時点では俺自身にもわかりません」



俺は神止がまだ自分でもどれぐらい使えるのかわからないことを正直に告白する。



”マジかw w w“

”本人でもわからないのかw w w“

”可能性は無限大“

”流石に永続は不可能だよな?”

“クールタイムとか制限時間とかないなら流石に最強すぎるw”

”物理法則壊れちゃうよ;;“

“もうめちゃくちゃw”

”俺はもう考えることをやめてるよ^^神木ならなんでもできるって解釈することにした^^“

”神木を理解するコツ→深く考えすぎないこと“

”でもこんだけ序盤から使いまくってもなんの問題も無さそうだし……無理したら結構長い間使えそうやなw“

”使いすぎると鼻血とかでそうw“

”お前に言っても意味ないんだろうけど無理はすんなよ“

“どっかの漫画のキャラみたいにどんどん止められる時間の秒数が増えていきそうw”

“現在進行形で神木は進化し続けているってことか”



「その辺の限界についてもいずれわかると思います……これ、使った後の周囲に対する影響がデカすぎてダンジョンにがいで使えないので……機会があれば試そうとも思っています」



前回の未攻略ダンジョンソロ踏破配信で生み出されたこの技。


新技だけに俺もまだ限界を試せていない。


一体どこあで超集中状態を維持できるのか。


連続使用は可能なのか。


その辺の限界を本人の俺ですらまだ把握できていない。


今ここで試してみたい気持ちは確かにあるのだが、それで体力を消耗してしまったりしたら今日の配信に支障が出る。


俺はとりあえず今日のダンジョン探索を終えて余裕がありそうならその辺の限界にも挑戦してみたいとそんなことを思った。



「もし今日の配信を終えて体力や時間に余裕があれば、検証とかもしたいと思ってます……それじゃあ、深層に潜りたいと思います」



“よっしゃあああああああああ”

“行くかぁあああああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおおおお”

“きたあああああああああああ”

“本編スタート”

”本番始まった“

”メインディッシュきた“

“クリアするぞぉおおおおおおお”

“頑張れ神木ぃいいいいいいいい”

”伝説見してくれぇええええええええ“

“やるぞぉおおおおおおおおおおお”


気づけば同接も197万人と200万人に届きそうな勢いだ。

俺は一旦気を引き締めなおし、頬をパシパシと叩いて気合を入れてから深層に踏み込んでいった。



「それでは深層に入っていきたいと思います……」



= = = = = = = = = =



深層に足を踏み入れてしばらくは何もない静かな時間が続いた。


「モンスター出てきませんね」



新種のモンスターは愚か、いつものメンツ……キングスライムやリザードマンやレイスといったお馴染みの顔ぶれすらなかなか姿を現さない。


暗く、少しジメジメとした通路を、俺は片手剣を手に注意深く進んでいく。



”なんも出てこないな…“

”何もこない“

”キングスライムですら出てこない…“

“ここまで1匹もエンカウントなし”

“逆に不気味”

“なんか怖いな”

“いきなり出てくるのはやめてね”

“いきなりくる系マジでやめて”

”レイスとかリザードマンすら出てこないな“

”おーい、どしたー?深層ー?^^“

”こんなもんか深層ー?^^“

”神木が強すぎてモンスター逃げちゃったかー?^^“

“ビビってんのか深層モンスター?^^”

“お前ら煽るのやめろやw w w”

“煽るのやめてね^^”

“フラグになりそうだから煽るのやめてください”



「お…?」


しばらく全くモンスターが出てこない不気味な探索が続いたあと、不意に俺は前方に気配を感じ取った。


「何かいるな」


モンスターの気配がする。


だが、妙なことに気配はあるのにそこにモンスターの姿はなかった。


レイスのように霊体化しているのだろうか。


俺は警戒し、足を止める。



「ん?もしかしてあれか…?」



通路のど真ん中にある大きな岩。


どうやらそこからモンスターの気配は出ているようだ。



「ちょっと怪しいので試してみますね」



俺は手近にあった石ころを拾い上げ、通路のど真ん中にある岩にぶつけてみた。



コツン……


ピキキキキ……

ピキキキ……



『ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!』



「お、そういうことか」



岩のかげにモンスターが隠れていたりするのだろうかと考えたが、どうやら”岩“自体がモンスターだったようだ。



『ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!』



一見なんの変哲もない岩に見えたものが、みるみるうちに手足を得て、二足歩行のゴーレムのようなモンスターの形を取ったのだった。

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